◎=絶賛 ○=よい
2000 |
タイトル |
著者 |
出版社 |
価格 |
読了日 |
感想 |
理由 |
宮部みゆき |
朝日新聞社 |
借1,800 |
2000/12/19 |
○
超高級高層マンションで起きた、一家四人の殺人事件。
しかし、殺されていたのは住んでいる筈の家族ではなかった。
事件の裏にある現代の社会の歪み。
直木賞作品で、確かに読み始めたら止められない面白さだが、
傑作と言う点では前に読んだ『火車』や『蒲生邸事件』の方が上だと思う。
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新聞の虚報・誤報 |
池田龍夫 |
創樹社 |
借1,800 |
2000/12/17 |
新聞が過去に犯した虚報や誤報について、数々の実例を元に検証する。
虚報・誤報を生む背景、あるいは誤りと判明した後の対応などの
「構造的問題点」について、率直的かつ建設的な見解が述べられる。
著者は毎日新聞の元記者。
それにしても本当にとんでもないことが繰り返されてきたものだ。
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イグアナくんのおじゃまな毎日 |
佐藤多佳子 |
中央公論新社 |
648 |
2000/12/15 |
○
誕生日プレゼントとして押しつけられた、巨大なイグアナ。
気持悪いし世話は大変だし、家の中はもう無茶苦茶。
なのに、いつの間にやら憎めない存在になってしまった。
のんびりした挿絵もぴったり。
読後感もすっきり爽快な傑作。
|
地下鉄(メトロ)に乗って |
浅田次郎 |
講談社 |
552 |
2000/12/13 |
○
最近読んだ『蒲生邸事件』と同様の時間旅行もの。
地下鉄の出口を出ると、そこは数十年前の風景だった。
若き日の父との出会いは、家族について見つめ直す契機となるものの、
物語はやがて意外な結幕へと至る。
|
白仏 |
辻仁成 |
文藝春秋 |
借1,238 |
2000/12/10 |
◎
九州の僻地。刀鍛冶の家に生まれ、銃砲屋として身を立てた男の、壮絶な生涯。
兄の死、初恋の女性の死、幼馴染の死、そして戦争。
死と魂の行方について思いを巡らす中で、男はやがて特異な仏像の建立の意を固める。
著者の祖父をモデルにしたと言う、重厚な小説。
なお、白仏の実物の写真を
ここ
で見られる。
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津軽・斜陽の家 |
鎌田慧 |
祥伝社 |
借1,700 |
2000/12/08 |
太宰治を生んだ「地主貴族」津島家の栄華と没落を、
津軽の風土や時代情勢などから辿ってゆく。
津島家の使用人の「待遇は悪くなかった」証言など興味深いものがある。
斜陽館が売却されたのは、奇しくも太宰の入水の直後だったとは。
類書に『津島家の人々』あり。
|
蒲生邸事件 |
宮部みゆき |
文藝春秋 |
829 |
2000/11/25 |
◎
予備校受験の前夜、ホテル火災から救出された先は、
時代を遡った二・二六事件の前夜、戒厳令下の東京だった。
そこで起こりつつある大将の死という事件に、
彼は必然的に関わってゆく。
どうにもならない歴史の流れの中で、
我々には何が出来て、何を受け入れなければならないのか。
久しぶりに小説でボロボロ泣いてしまった。
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『古楽器』よ、さらば! |
鈴木秀美 |
音楽之友社 |
2,100 |
2000/11/19 |
○
古楽チェロ奏者がさまざまな機会に書いた文章を集成。
オリジナル楽器を使うことの意味から、
ガット弦やエンドピンなどの具体的な事柄、エッセイなど、
寄せ集め的な印象は否めないが、
氏の追求する音楽への姿勢は強い説得力を持っている。
今の普通のクラシック演奏が、いかに普通でない(と言うより異常な)のか、
つくづく思い知らされる。
|
遥かなる三浦綾子 |
近藤多美子 |
講談社出版サービスセンター |
3,800 |
2000/11/08 |
○
旭川在住の写真家による、晩年の三浦綾子さんの写真集。
1990年代の三浦夫妻の実にいい表情の写真に、
旭川の四季の風景を挿し挟んでいる。
自費出版本だが、八重洲ブックセンターで入手できた。
著者のウェブサイトはここ。
|
純愛時代 |
大平健 |
岩波書店 |
660 |
2000/11/07 |
純粋性が少しでも損なわれると一切が崩壊してしまう現代的恋愛像の特徴を、
精神科を訪れた何人もの患者の例を基に分析。
患者側の言い分にも少なからず共感してしまう私自身も、
ある意味で病的なのかも。
|
草原の記 |
司馬遼太郎 |
新潮社 |
400 |
2000/11/05 |
モンゴル民族の数千年にわたる歴史と、
その根底にある遊牧民としての生活のあり方。
話の時間・空間が随時に移動するのでいささか読みづらいが、
最後に詳述される一人のモンゴル女性のエピソードは感動的。
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チェンバロ・フォルテピアノ |
渡邊順生 |
東京書籍 |
6,800 |
2000/10/31 |
◎
チェンバロ、クラヴコード、フォルテピアノなどの
いわゆる初期鍵盤楽器について、
原理や構造、歴史や地域差、作曲家との関わり、演奏様式など、
あらゆる情報を盛り込んだ大作。
写真や図も極めて豊富で、用語解説も充実、
至れり尽くせりの中から、音楽と社会との関わりの歴史さえ浮かび上がって来る。
しかも演奏家としての当事者の立場から語られており、
800頁を超える文面でも一切退屈させない。
著者のウェブサイトはここ。
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アラスカ物語 |
新田次郎 |
新潮社 |
借950 |
2000/10/26 |
○
水夫としてアラスカに渡り、そこに永住しエスキモーとなった日本人、
フランク安田の壮絶な生涯を、
気温や臭いまでが伝わって来そうな臨場感のある筆致で描く。
本当にこのような人物が実在したこと、
しかもそれがそう遠い昔のことではないことは、信じ難いほど。
|
古楽は私たちに何を聴かせるのか |
寺西肇 |
東京書籍 |
2,300 |
2000/10/05 |
○
古楽演奏に携わる人々とのインタヴュー集。
レオンハルト、ヘレヴェッヘから、
鈴木雅明、つのだたかしなど多数の演奏家、
更には礒山雅教授など豪華な面々が登場。
共通して見えてくるのは、追求し続ける態度、挑戦し続ける姿勢。
進化しつつある古楽をリアルタイムで体験できる、
この時代に生きていることを幸せに思う。
|
火車 |
宮部みゆき |
新潮社 |
743 |
2000/09/30 |
◎
跡形もなく失踪した婚約者、その過去を辿る中から浮かび上がったのは、
借金からの壮絶な逃亡生活だった。
ローン地獄、自己破産、家庭崩壊…、
カード社会の便利さと隣合わせの危険性をえぐり出す、
強烈な緊迫感のミステリー。
|
改訂版 エディションと音楽家 |
ウォルター・エマリ/東川清一訳 |
アカデミア・ミュージック |
900 |
2000/09/29 |
○
楽譜の「校訂」という観点から音楽を鳥瞰。
校訂に対する誤解、望ましい校訂とは如何なるものか、
誤った校訂がもたらした憂うべき事態など、
J.S.バッハの楽譜を例に分かりやすく解説する。
原典版(Urtext)とあってさえ油断できないとは、驚き。
|
山月記・李陵 他九篇 |
中島敦 |
岩波書店 |
650 |
2000/09/19 |
山月記はかつて教科書で読んだもので、一見古風な文体が懐かしい。
その他の中国古典ものも格調高い。
他に、口語文の小説も書いていたとは知らなかった。
著者が亡くなったのは、今の私と同じ歳。
|
うるさい日本の私 |
中島義道 |
新潮社 |
438 |
2000/09/11 |
至る所で無神経かつ無意味に撒き散らされる機械的な音声の氾濫に、
この国の現状を憂う。
私も、無遠慮極まりない音の洪水に異常性を常々感じているので、
著者の糾弾口調には拍手を送りたい気分。
しかし、著者の導く結論は例によってとかく極端に走るため、
逆に説得力を失っているのも確か。
|
『星の王子さま』のひと |
山崎庸一郎 |
新潮社 |
514 |
2000/09/01 |
○
ほとんどの著作の翻訳を手掛ける著者が描き出す、
サン=テグジュペリの生涯と作品。
根底にある少年時代への郷愁や母親への思慕など
さすがにサン=テグジュペリの本質をしっかりと捉えており、
文庫版ながら他の評伝に比べても充実の内容。
著者には『星の王子さま』の新訳を期待したい。
|
楽しい終末 |
池澤夏樹 |
文藝春秋 |
520 |
2000/08/27 |
○
核、環境汚染、ウィルス、天災、人災、滅びた種…。
我々の置かれている状況や進みつつある方向を見据え、
人類の終末について考える、痛快なエッセイ。
確かに、我々に「明るい未来」なんてものは到底あり得ないようだ。
|
SLY |
吉本ばなな |
幻冬舎 |
533 |
2000/08/23 |
生も死も呑み込んだ圧倒的な自然と、
その中にあって人間の営みの痕跡を色濃く宿す遺跡の数々。
吉本さんが実際に旅したエジプトへの、旅行記のような小説。
写真による旅行日記も巻末に付録。
|
200CD バッハ 名曲・名盤を聴く |
大角欣矢・加藤浩子編 |
立風書房 |
1,900 |
2000/08/20 |
◎
さまざまな視点から選んだJ.S.バッハのCDを紹介。
取り上げるCDの点数はかなり多く、しかも情報は新しく、
紹介文は率直で読み応えがある。
同シリーズの『200CD 古楽への招待』同様、コストパフォーマンスのよい本。
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ハネムーン |
吉本ばなな |
中央公論新社 |
476 |
2000/08/16 |
互いの淋しさを重ねるように時間を重ね合わせて生きてきた男女の物語。
吉本さんらしい透明感はあるものの、
何か訴えてくる切実感が薄い気もしたのは、
吉本さんの作風の変化のせいか、私の心境の変化のせいか。
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不当逮捕 |
本田靖春 |
岩波書店 |
1,100 |
2000/08/14 |
精鋭の新聞記者・立松が、報道記事をめぐって政治家から名誉毀損で
逮捕されたその裏には、検察内部の派閥間の権力争いがあった。
時代背景に弱い私には分かりづらい箇所も多かったが、
為政者たちのドロドロした内側と、その後の立松の不遇が印象的。
|
新約聖書はなぜギリシア語で書かれたのか |
加藤隆 |
大修館書店 |
借2,400 |
2000/08/13 |
○
新約聖書が成立した歴史的・社会的背景についての概要を解説。
とりわけ、使徒の権威性に対するマルコ福音書の立場などは興味深い。
ただ、同氏の『「新約聖書」の誕生』
と内容的に重なっている感あり。
|
兵役を拒否した日本人 |
稲垣真美 |
岩波書店 |
借320 |
2000/08/11 |
○
戦争中、信仰に基づいて兵役を拒否した、キリスト教団「灯台社」の人々。
教義の如何はともかく、あの時代に、迫害を恐れず信念を貫いた人々には、
畏敬の念を覚える。
|
二百年 |
大庭みな子 |
講談社 |
借1,600 |
2000/08/06 |
時代の主流から外れた生き方をした伝説の曾祖父。
祖父母、父母、そして娘、孫へ、
大きく変わる時代や環境の中で、脈脈と受け継がれてゆく特質というべきもの。
|
言葉の降る森 |
舟越桂 |
角川書店 |
借2200 |
2000/07/26 |
○
彫刻作品のカラー写真やドローイングなど多数の図版に、
彫刻への思想や家族のこと、旅先での記憶などのエッセイを添えた画文集。
氏の、独特の眼差しの人物像には、非常に惹かれるものがある。
|
私戦 |
本田靖春 |
潮出版者 |
借980 |
2000/07/25 |
○
金嬉老事件(1968年)の真相を、証言や裁判記録などに基づいて、
第三者の視点から公正かつ詳細に明らかにする。
露わになるのは、在日韓国人の命懸けの悲痛な訴えを
「ライフル魔」の名の裏に隠蔽してしまった、
警察や国やマスコミの姑息な体質。
それが、事件以後数十年を経た今でも全く変わっていないのが
何とも口惜しい。
|
建築を語る |
安藤忠雄 |
東京大学出版会 |
2,800 |
2000/07/12 |
○
大学院生への講義録。
出会った建築物や建築家、都市全体としての計画性、現代美術との関わり合い、
各々の文化の中での建築、取り組んできた建築など、縦横無尽に語る中で、
建築の背景にある深い思想までも明らかにすると共に、
若い頃の様々な体験や思索の重要性を説く。
豊富な図版と脚注。
|
死ぬという大切な仕事 |
三浦光世 |
光文社 |
1,300 |
2000/06/28 |
○
三浦綾子さんの夫・光世さんによる回想録。
光世さんにはこれからも、綾子さんの書き残したことを
少しづつでも書き続けて欲しいと、ファンなら誰しも願っていると思う。
|
聖書の音楽家バッハ |
杉山好 |
音楽之友社 |
2,800 |
2000/06/27 |
キリスト教的な(十字架の神学の)立場から見た、バッハ作品、特にマタイ受難曲。
歌詞や数象徴の話題が中心。
深読みし過ぎと言うより、牽強附会のような気も。
巻末にマタイ受難曲の新訳(口語訳)を付録。
|
バッハへの旅 |
加藤浩子、若月伸一 |
東京書籍 |
3,000 |
2000/06/22 |
○
バッハに関わる街を文と写真で辿る。
ほぼ全ページにそれぞれの街の写真や時代資料などが満載で、
しかもバッハの住んでいた街だけでなく
旅や仕事で出かけた街なども網羅しており、
極めて充実した内容。
いつかこれらの街に行ってみたいものだ。
|
トリエステの坂道 |
須賀敦子 |
みすず書房 |
1,800 |
2000/06/17 |
◎
1999年に(更に言えばここ数年間に)出会った文芸書でベスト1と思う、極上のエッセイ集。
文庫版を人にあげてしまったので、
改めて単行本を購入して読み直した。
「果物籠」の上品な表紙カヴァーや、本全体としてよく練られた構成など、
文庫版よりもこの単行本の方が断然お薦め。
なお、最終章「ふるえる手」で引用される
カラヴァッジョ
の絵を以下で見られる。
「聖マタイの召し出し」
「果物籠」
|
しゃべれども しゃべれども |
佐藤多佳子 |
新潮社 |
590 |
2000/06/11 |
◎
ちょっと泣けてちょっと元気になれる傑作、待望の文庫化。
内容については1998/05/23を参照。
自信なく懸命に生きている登場人物の一人一人が、何と愛しく思えることか。
文芸書では、私にとって1998年で最大の収穫。
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胸の香り |
宮本輝 |
文藝春秋 |
借1,200 |
2000/06/05 |
親子や男女の秘めた愛憎を描いた短篇集。
重苦しい筈の物語も淡々と書かれていて、
さらりと読める代わりに印象は薄いかも知れない。
不倫系の話が多い気も。
|
マシアス・ギリの失脚 |
池澤夏樹 |
新潮社 |
781 |
2000/06/04 |
○
南洋の島の大統領ギリ。
日本からの慰霊団を乗せたバスの突然の失踪を機に、
独裁者の支配力に翳が見えはじめる。
押し寄せる「国際化」の波、島を支配する呪術的な霊的世界、
挟み込まれる謎のバスレポート、一気に読ませる600頁超。
|
宋姉妹 |
伊藤純・伊藤真 |
角川書店 |
476 |
2000/05/27 |
○
孔祥煕・孫文・蒋介石、それぞれへと嫁ぎ、
激動の時代の中、やがて国家の行く末を大きく動かした三姉妹。
三人の生き方や葛藤を軸に見た、中国の近代史。
映画『宋家の三姉妹』の物語を更に詳しく知ることができた。
|
ノーザンライツ |
星野道夫 |
新潮社 |
667 |
2000/05/25 |
○
アラスカに移り住み、その歴史と必然的に関わって来た二人の飛行士、
シリアとジニー。彼女らを通じて語られる、アラスカの近代史。
核実験計画、国立公園化など、押し寄せる時代の波の中で、
変化を余儀なくされ、あるいは守り抜かれてゆく、自然と人間生活。
なんと美しい文章そして写真なのだろう。
|
図説 太宰治 |
日本近代文学館編 |
筑摩書房 |
1,200 |
2000/05/20 |
◎
多数の写真や資料で辿る、太宰治の生涯。
最近発見されたものも含めて、収録資料の点数はかなり多く、
並の文学アルバム本を凌駕する充実ぶり。
当時を感じさせる新聞などの時代資料を併録しているのもよい。
太宰ファン必携。
|
われ生きたり |
金嬉老 |
新潮社 |
1,500 |
2000/05/16 |
○
朝鮮人差別に苦しめられ、ついに寸又峡で籠城事件(1968)を起こすに至った
背景や心境、その後の裁判や刑務所内の様子などを告白。
何よりも目につくのは、警察・検察・刑務所やその背後にある政府の、
腐り切った内情。
それと対照的な母や元妻の真直な愛情が、せめてもの救い。
民族問題や国家権力について考えさせられる、重い一冊。
|
イニュイック[生命] |
星野道夫 |
新潮社 |
438 |
2000/05/14 |
○
アラスカの自然や人を愛し続けた写真家による写真とエッセイ。
命は何処から来て何処へ行きたいのだろう。
生命の循環ということについて、アラスカの自然を通じて
自らの手足と知覚で実感した人ならではの、深い文章。
|
さきたまの文人たち |
松本鶴雄 |
さきたま出版会 |
2,000 |
2000/05/10 |
埼玉に関わる数百人にもおよぶ有名無名の文学者たちを紹介。
よくぞここまで調べあげたものだ。
埼玉は意外にも文化密度の濃い地域であったことを知って、嬉しく思う。
|
山の音 |
川端康成 |
岩波書店 |
660 |
2000/05/06 |
平然と浮気する息子と、出戻る娘。
それになす術もない初老の父は、息子の嫁の清純さに救いを見る。
一見静かな家族の生活の底にドロドロと横たわる醜さを、
あまりに淡々と描き出す。
|
永遠に |
後山一朗 |
北海道新聞社 |
2,800 |
2000/04/29 |
○
25年もの間、作家・三浦綾子さんを撮り続けてきた写真家による、追悼アルバム。
最晩年、病の床の痛々しい写真には、本当に胸が痛む。
つくづく思うのは、三浦文学は綾子さんと夫・光世さんとの
二人三脚で出来上がったもの、ということ。
|
ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)(下) |
R.P.ファインマン/大貫昌子訳 |
岩波書店 |
1,1000×2 |
2000/04/29 |
高名な原子物理学者が、自身の好奇心にみちた生涯のエピソードを語る。
時にはドラムに熱中したり、絵描きになったり、
お役所仕事を気嫌いしたりと、まるで市井の視線を持ちながら、
しかし科学者としての姿勢の真剣さは並でない。
何と人生を楽しんだ人なのだろう。
|
誰も言わなかった「大演奏家バッハ」鑑賞法 |
金澤正剛編 |
講談社 |
1,800 |
2000/04/23 |
主に演奏家の人たちが、それぞれのバッハ体験やバッハ観を語る。
バッハを専門としない人ほど、とかくバッハを神格化する傾向にあるようだ。
表題が大袈裟過ぎる気はするが、巻末にはCD案内などもあるため、
入門者用としては悪くない一冊。
|
真昼のプリニウス |
池澤夏樹 |
中央公論新社 |
533 |
2000/04/22 |
○
物語や神話でなく、自分自身で体験し感覚し認識すること。
事実そのものを捉えるべく、
若き女性火山学者は、浅間山の噴火口へと向かってゆく。
情報に溺れる現代人への警鐘を突き付ける一篇。
奇しくも北海道での火山噴火の折、江戸時代の浅間噴火の挿話は迫真。
|
明日をうたう |
三浦綾子 |
角川書店 |
1,300 |
2000/04/14 |
○
三浦綾子さんが亡くなって半年。
これが最後の著作と思うと勿体無くて、なかなか読み始める気になれなかった。
自伝『命ある限り』の続編だが、
未完で終わった経緯については、夫・光世さんがあとがきに記している。
光世さんが取り組んでいるという更なる続編を、心待ちにしている。
|
バビロンに行きて歌え |
池澤夏樹 |
新潮社 |
438 |
2000/04/12 |
◎
パスポートも持たず言葉も分からぬまま、東京に密入国したアラブ兵。
様々な人々や異文化との関わりの中で、やがて彼は歌を歌うようになり、
その歌声は人々の心に確かな足跡を残してゆく。
東京が彼を変えると同時に、彼にとっての東京が変わってゆく。
エピソード毎にがらりと変わる情景も新鮮な、感動作。
|
エチオピアからの手紙 |
南木佳士 |
文藝春秋 |
552 |
2000/04/09 |
○
南木さんの最初の著作集が文庫化。
デビュー作の「破水」など、現在の南木さんとは
文体の雰囲気がかなり違うものもあるが、
医師として死と生を見つめる真摯な視線は今と変わらない。
|
黒い潮 |
津村節子 |
河出書房新社 |
借1,500 |
2000/03/30 |
○
江戸時代。家の貧しさ故に遊廓に売られ、
やがて放火の罪で流刑地・八丈島に流された女の、壮絶な生涯。
時代資料に基づく、当時の町や島の様子や風俗についての描写が、
詳細かつ非常にリアル。
主人公の生きる悲しみが切実に伝わる。
|
鍋の中 |
村田喜代子 |
文藝春秋 |
借980 |
2000/03/29 |
○
夏休みを田舎の祖母の元で過ごすいとこ達の心の動きを綴った表題作の他、
バイクやトイレ掃除などに熱中する少年を描いた作品など、小説4篇を収録。
前に読んだ「蕨野行」の印象とは全然違っていたが、
一つ一つの物語がそれぞれ極めて印象的。
|
星の王子さま オリジナル版 |
サン=テグジュペリ/内藤濯訳 |
岩波書店 |
1,000 |
2000/03/20 |
◎
挿絵の色調などをあるべき姿に復元したオリジナル版。
従来版を持っているにも関わらず買ってしまった。
横書きになって挿絵の配置も修正され、更には訳文も一部修正されている。
この際、訳文全体も新訳にすればよかった気もするが、
旧来の内藤訳も確かに魅力的なので致し方ないか。
コンパクトな装丁は愛蔵版としてふさわしい。
|
小説 太宰治 |
檀一雄 |
岩波書店 |
900 |
2000/03/19 |
○
太宰と交友深かった作家による、太宰との交友の断片。
劇的な出会いから太宰の死の頃まで、両者のつき合いは健全とは程遠いが、
親交の深さあってこその数々の挿話がある。
不用意に感情移入せず、むしろ全体として冷静な視線は、やはり作家ならでは。
|
由熙(ユヒ)/ナビ・タリョン |
李良枝(イ ヤンジ) |
講談社 |
1,200 |
2000/03/18 |
日本人にも韓国人にもなり切れない在日朝鮮人としての苦悩、
両親の離婚争議の泥沼、慕う兄たちの急死。
著者自身の苦悩を色濃く反映した小説4篇。
身の置場を見出せないことの苦しさ悲しさが切実。
著者は、南木佳士さんと同時に芥川賞を受賞、しかし若くして亡くなった人。
|
パラサイト・シングルの時代 |
山田昌弘 |
筑摩書房 |
660 |
2000/03/12 |
親と同居する独身者の急増が、社会や経済に重大な影響を及ぼしている、という論考。
やや強引な議論も散見されるが、
このような視点から現代社会を捉えること自体は実に新鮮。
私自身もまさにパラサイト・シングルであるため、
客観的に自分を分析されているような感覚。
|
『新約聖書』の誕生 |
加藤隆 |
講談社 |
1,700 |
2000/03/05 |
○
イエスの死から『新約聖書』なる文書が成立までの約300年間の歴史を、
「権威性」を軸に辿る。
ユダヤ教との葛藤、使徒性の問題、口承と文書の権威、
異邦人の増加、度重なる異端の台頭など、
ユダヤ教の一派であったイエス集団が
正統派として巧みに勢力を拡大してゆく様は興味深い。
|
ある家族の会話 |
ナタリア・ギンズブルグ/須賀敦子訳 |
白水社 |
950 |
2000/02/27 |
須賀敦子さんによる、イタリア現代小説の翻訳。
淡々と綴られる、作者の家族への追憶。
家族に交わされた会話の数々をひたすら丹念に拾い集める中から、
家族それぞれの個性、更には時代の風景までが浮かび上がる。
ただ、登場人物が数多く、私の中で混乱しがちだった。
|
臆病な医者 |
南木佳士 |
朝日新聞社 |
1,400 |
2000/02/20 |
○
医師として人の死をあまりに多く見過ぎた作者が、
様々な機会に綴ったエッセイなどを集めたもの。
まとまりはなく重複するエピソードも少なくないが、
掌篇小説や書評も含めた多様な文章を通じて、
南木さんの作品群の背景がよく分かる。
|
ふつうの医者たち |
南木佳士 |
文藝春秋 |
1,143 |
2000/02/16 |
○
小説を書く医者・南木さんと、さまざまな分野で活動する5人の医者との対談録。
海外協力、地域医療、専門研究など、一口に医者と言っても向かう方向は多種多様。
医者の視点からの死生観を問うのが、南木さんらしい。
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原始キリスト教史の一断面 |
田川建三 |
勁草書房 |
4,400 |
2000/02/13 |
◎
以前図書館で借りて、改めて購入した一冊。
内容については1999/06/06を参照。
田川氏は、専門的な議論の中でも、決して読者を煙に巻くようなことはしない。
このような素晴らしい本が、
初版以来30年以上も経て今でも現役で入手できることを、大変ありがたく思う。
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夫の始末 |
田中澄江 |
講談社 |
借1,700 |
2000/02/06 |
がむしゃらに、殆ど傍若無人に生きてきた八十余年を振り返り、
思い付くままに綴った連作自伝。
私には必ずしも共感できない部分が多いのは、世代が違い過ぎるせいか。
(追記)奇しくも読後間もない3月1日、田中氏は逝去された。合掌。
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風の盆恋歌 |
高橋治 |
新潮社 |
借1,000 |
2000/02/05 |
学生時代に互いの想いを知りながら、やがて別々の家庭を持った男女が、
30年以上の時を経て、富山の「風の盆」の祭で落ち合う。
最初はミステリアスな雰囲気に引き込まれたが、結局は型通りの不倫モノ。
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津島家の人びと |
秋山耿太郎・福島義雄 |
筑摩書房 |
900 |
2000/02/04 |
○
太宰治を生んだ津島家、その一族の栄枯盛衰を綿密な調査で追跡。
一族のルーツから、大地主にのし上がり、やがて没落してゆくまで、
津島家とその縁故の人々について、新聞記者らしい簡明な文体で物語る。
とりわけ太宰の父源右衛門と長兄文治に関する記述は詳細。
太宰への新たな視点を提供する。
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ドリアン・グレイの画像 |
オスカー・ワイルド/西村孝次訳 |
岩波書店 |
借570 |
2000/01/30 |
美貌の青年ドリアンとしての表の顔と、
肖像画に転嫁された醜い裏の顔、
異常な二重生活に訪れる悲劇と破綻。
年相応に風貌も変わりゆく、その当り前のことが、
実はありがたいことなのかも知れない。
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古楽の旗手たち |
佐々木節夫 |
音楽之友社 |
2,400 |
2000/01/30 |
一昨年に亡くなった音楽評論家による音楽家讃。
現在と違って古楽が全く市民権を得ていなかった頃から
古楽運動を応援し続けた氏の、強い信念と熱意に満ちている。
実を言えば氏の訳文や解説文は必ずしも好みではなかったのだが、
今更ながら認識を改めた次第。
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バッハ 生涯と作品 |
ヴェルナー・フェーリクス/杉山好訳 |
講談社 |
1,300 |
2000/01/23 |
読み物風にまとめた、バッハの生涯と作品の概要。
バッハの偉大さへの賛美の色あいが強く、
フォルケルの現代的焼き直しと言った印象。
同種の好著の多い中、あまりまとまりがなく中途半端な内容に思えた。
原書の写真の大半を割愛したのも惜しい。
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確率の世界 |
ダレル・ハフ/国沢清典訳 |
講談社 |
820 |
2000/01/22 |
確率論的な物事の考え方を、日常生活の中でどのように応用できるか、
面白い実例を多く引いて解説する。
やや煩雑な議論も少なくないが、内容から言って止むを得ないか。
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されど予備校 |
牧野剛 |
風媒社 |
1,900 |
2000/01/19 |
○
著者は河合塾の人気講師で、前作『予備校にあう』の続編。
予備校・名古屋、という一歩外した視点からこそ見えてくる、
現代日本の社会・政治・教育・文化の様相。
とりわけ三大予備校談義を通じた教育問題への提言は真剣で深い。
私は今でも予備校を最上の教育機関と思っているし、
河合塾で一年を過ごせたことを嬉しく誇りに思う。
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イエスという男 逆説的反抗者の生と死 |
田川建三 |
三一書房 |
2,800 |
2000/01/13 |
◎
これも以前図書館で借りて、今回購入した一冊。
内容については1998/12/13を参照。
時の権力によって殺されなければならなかったイエスの激しい言動。
イエスの生の質に肉薄せんとする田川氏の鮮烈な筆致。
綿密な資料批判の中から浮かび上がるイエスという人の凄まじい生き様が、
改めて現代の我々に多くを問い掛けて迫る。
世紀の名著。
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書物としての新約聖書 |
田川建三 |
勁草書房 |
8,000 |
2000/01/03 |
◎
内容については1998/12/07を参照。
以前図書館で借りて読んだが、凄い本だったので、改めて購入して読み直した。
信者でない私にとって興味深くも謎めいた本である新約聖書を、
これほどまでに納得できる形で提示してくれた本はない。
日本の文化の深層にまで深く切り込む口調も痛快。
世紀の名著。
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