寸評 2010年

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◎=絶賛 ○=よい
2010
タイトル 著者 出版社 価格 読了日 感想
パレード 吉田修一 幻冬舎 借533 2010/04/11 ◎ 都会の2LDKのマンションでルームシェアリングする、男二人+女二人。それぞれの恋人や親の名前まで知っている程に親しいようでありながら、互いの核心部分には触れぬように付かず離れずの距離感を保ちつつ、そこにぬるま湯のような居心地のよさを感じている。しかし、成り行きで更に一人の若者が居候するようになり、それと前後して近所で不審な女性暴行事件が連発した頃から、それまで保たれていた微妙な均衡が揺らぎ始める。 互いの内面に深く踏み入ることをあえて避けることで、表向きには仲良く平穏さを維持している、現代的かつ都会的な人間関係を、生々しく見せ付けて来る。どこか病んでいるのは、彼ら自身と言うよりも、彼らのような人々たちを生み出している世の中そのものなのだろう。そして自分自身も、紛れもなくその一員なのだろう。全く予想外の最後の展開には、寒々しい空恐ろしさを感じた。
太宰治おぼえがき 山岸外史 審美社 借? 2010/03/23 ○ 太宰治の親友であった著者が、 前著『人間太宰治』に収め切れなかった記事をまとめると共に、 太宰と左翼運動についての評論を加えた本。 太宰の死後十数年を経てから書かれていることもあり、親友であった太宰のことを、 評論家としての立場からやや分析的に回想している。 前半は、太宰との交友を記録している。親しかった人の記憶だけに、 太宰の人となりが目に浮かぶよう。 手紙、電報、酒、犬、雪、遊んだ土地など主題毎に、 思い出すがままに書かれている感じ。 特に太宰の犬に対する極度の恐怖心は、弟子の堤重久氏の証言とも重なっていて、 傍から見れば面白いもの。 後半は「太宰治と共産党」と題して、太宰が左翼思想に対する理解を持っていながら、 ある種の引け目をずっと抱えていたことを、 初期から晩年までの作品を例示しながら明らかにしてゆく。自身が共産党に入党し 離脱した経験を持っている人だけに、力の入った評論となっている。
恋と革命 評伝・太宰治 堤重久 講談社 借390 2010/03/16 ○ 太宰治の一番弟子であり、三鷹時代の太宰と行動を共にしていた著者による、 太宰の評伝。『斜陽』のテーマでもある「恋と革命」をキーワードに、 太宰の創作の背景を年代順に辿ってゆく。 太宰の根底にあった要素として、実母からの愛情の欠落に起因する母性への思慕と、 生家からの蔑視を撥ね返して見返してやりたいと言う思い、この二つを掲げている。 この観点で太宰の生き方を振り返って見れば、確かに説得力のある見解だと思う。 年代記については、(長篠康一郎氏の研究成果より前なので) 基本的に小説中での描写に準じている。但し著者は、同じ出来事であっても 「作品によって描写が支離滅裂」であることに気付いていて、 それが事実を隠したかった故であり、 それだけ太宰にとって重要な出来事であったことを、直感的に見抜いていた。
追悼 長篠康一郎 太宰文学研究会編 彩流社 借2,000 2010/03/03 太宰治の実証的研究に生涯を捧げ、2007年に亡くなった、長篠康一郎氏の追悼文集。 15人の人が、氏との関わりや思い出を語っている。 氏は、サラリーマンとしての仕事をしながら、太宰本人や 関わりのあった女性たちのことを丹念に調べ上げ、 それまでの通説を次々と覆し続けた。 こうした市井の研究者が、太宰研究に劇的な進展をもたらしたことは、驚くべきこと。 しかしその結果、封鎖的な文壇からは執拗な攻撃を受けることになり、 研究会を何度も中断せざるを得なくなってしまい、 それでも太宰の真実を明らかにすべく、氏は闘い続けて来たのであった。 晩年はパーキンソン病を患い、意思の疎通にさえも不自由していたとのことで、 無念だったことと思う。
太宰治文学アルバム―女性篇― 長篠康一郎 広論社 借2,400 2010/03/03 ○ 同著者による「太宰治文学アルバム」の続編。 重要なのは後半で、太宰を支えた女性たち、すなわち 田部あつみ、小山初代、石原美知子、太田静子、山崎富栄について、 個々に資料を掲載する。 これまで他で見たことのない写真も数多く含まれ、 例えば13歳と16歳の田部あつみ(まさにモダン・ガールそのもの)や、 晩年(昭和19年)の小山初代、4歳になった太宰の長男・正樹など、初見のものばかり。 これだけの資料を発掘・蒐集した著者の、執念と言うべき探究心には、ひたすら敬服。 没後に栄誉高まる太宰の陰で、不遇に扱われて来た女性たちそれぞれに、 正当な光を当てようとした著者だからこそ、成し得た資料集。 前半は、前作と同じく作品と場所によって構成。
太宰治文学アルバム 長篠康一郎 広論社 借2,000 2010/03/01 ○ 太宰治の写真資料に、解説を添えた資料集。 写真は、作品とそれにまつわる場所によって分類されている。 掲載されている写真の中には、三鷹の太宰邸や、「斜陽」執筆の場である起雲閣別館、 昭和三十年代の天下茶屋など、もはや現存しないものも多数あり、歴史的にも貴重。 他の著作と同様に、ここでも著者は、太宰の小説作品を そのまま事実と見做して年譜を書いている文学研究者たちを強く批判している。 この本は、そのことを実証してきた氏の成果の一つと言えるだろう。 太宰の作品の引用や要約が地の文と見分けづらいことや、 写真と文章が必ずしも関連していないなどの難点はあるが、 資料集としての価値は大きい。
矢来町半世紀―太宰さん三島さんのこと、その他 野平健一 新潮社 借1,800 2010/02/28 矢来町とは新潮社の住所(新宿区)のこと。 新潮社の編集者を長年務め、特に太宰治を担当していた著者が、 さまざまな機会に発表した文章を集めたもの。 著者は、最晩年の太宰から非常に信頼され、仕事部屋(山崎富栄宅) への出入りを許されていた数少ない人の一人で、 実際に『如是我聞』の口述筆記を務めてもいた。 著者が身近で見た太宰や山崎についての証言は、貴重な記録である。 他に作家では、三島由紀夫や田中英光について触れている。 その他の文章は、旅行記や、ジャーナリスト感や、知人や関係者に寄せた追悼文など、 いろいろ寄せ集めの感じで、発表時期的にも内容的にもバラバラなこともあり、 まとまりのある内容ではない。
太宰治との七年間 堤重久 筑摩書房 借550 2010/02/25 ◎ 太宰治の一番弟子であった著者による回想録。 太宰に心酔し、戦前の三鷹の太宰邸に週に何度も通い詰めていた著者が、 太宰との交友の様子や、交わした対話の数々を明らかにしてくれる。 また、津軽に疎開中の太宰が著者に宛てた手紙の数々も紹介される。 そこから浮かび上がるのは、芸術家としての高き誇りを持ちながら、 陽気で冗談好きで、しかし極めて気難しくもあった、太宰の人となりである。 また、遠慮のない言葉の数々から、どれだけ太宰が著者に全き信頼を寄せていたかも よく分かる。 また、著者自身が、師と仰ぐ太宰によって大きく人生を動かされていることも分かる。 戦後、太宰からの切望に応じて、はるばる京都から三鷹に駆けつけた著者は、 太宰の仕事部屋(すなわち山崎富栄宅)に十日ほど滞在している。 その時に感じた、太宰や美知子夫人や山崎富栄さんらの切羽詰った異様は雰囲気を、 著者はありのままに書いている。 そして、その半年後、ついに太宰は山崎と共にこの世を去ることになった訳であった。
太宰治 武蔵野心中 長篠康一郎 広論社 借1,000 2010/02/17 ◎ 著者の旧著『山崎富栄の生涯』(→2010/02/07) から15年を経て、その後の研究結果を盛り込んで改訂した本。 最晩年の太宰に尽くし、一緒に死んだ山崎富栄について、 彼女が遺した日記と照合しながら、最晩年の太宰の周辺の状況を明らかにしてゆく。 内容的には旧著と被っているが、旧著でやや冗長だった部分が改められ、 文献としての質は向上している。 著者の他の著作と同様に、意図的にあるいは意図せずして、 山崎を悪者扱いしようとする文壇の風潮が、強く批判されている。 著者の指摘する通り、事実から冷静に判断するならば、太宰本人は勿論、 山崎も、美知子夫人も、太田静子も、 それぞれに皆苦しい立場に追い詰められていたのは確かで、 起こるべくして起こった心中だったようにさえ思えて来る。 著者が繰り返し説く、 「小説に書かれた作中人物が、そのまま作者太宰治と言う訳ではない。当り前のことなのだが、太宰治の場合は、その当り前のことが当り前でなくなってしまうのである。」、 このことはしっかり認識しておくべきだと、改めて思った。 太宰治 武蔵野心中/長篠康一郎/広論社/¥1,000
太宰治 水上心中 長篠康一郎 広論社 借1,000 2010/02/13 ◎ 太宰治の水上(谷川温泉)での心中未遂事件と、 武蔵野病院(精神科)への強制入院事件について、綿密に検証した本。 川端康成との関係が水上に向かった理由となったこと、 滞在した「川久保」が谷川本館の前身に当たること、 実際には小説通りの心中の状況は有り得ないこと、 公表されているパビナール中毒の度合いが現実的でないこと、 太宰は肺病治療のつもりで武蔵野病院への入院を承諾したこと、 初代と別れた原因が小館善四郎とのあやまちの件だけが原因ではないこと など、画期的な調査結果が書かれている。 太宰の一般的な評伝や年譜の記載内容が、歪曲されていたり、 小説に書かれた出来事の受け売りであったり、事実と大きく異なっていることを、 著者は強い論調で批判する。 しかも、著者は実際にそれをきちんと証明して見せているので、大いに説得力がある。 巻末には、七里ヶ浜心中の後に太宰が収容された療養施設「恵風園」の 当時の院長へのインタビューを付録。 議論はやや発散気味ですが、太宰についていかに不正確な情報がまかり通っているか、 よく分かる。
太宰治 七里ヶ浜心中 長篠康一郎 広論社 借1,000 2010/02/11 ◎ 学生時代の津島修治(太宰治)と心中して絶命した田部あつみ(本名シメ子)の生涯と、 心中事件を起こすにに至った背景について、調査結果がまとめられている。 前半では、太宰の小説作品をそのまま事実だと安直に捉える研究者に対し、 それがいかに間違っているかを、丹念に検証してゆく。 著者は、実際に現場に何度も足を運び、関係者と会い、 通説の一つ一つについて検証を行っている。 この本の眼目は後半、田部あつみの生涯の章であろう。 広島で生まれ育ち、モダンな空気を身に付け、女優を志願した彼女が、 高面順三と知り合い、やがて共に意気揚々と上京し、しかし経済的に困窮して、 銀座のカフェー・ホリウッドに勤め、そこに太宰が通い、 やがて二人は七里ヶ浜・不動崎畳岩での死出の旅に出る。こ れらの出来事が、左翼系やプロレタリア系などの劇団の活動や、 社会不況などの時代背景の中で、生き生きと再現されてゆく。 どこまでが事実でどこまでがフィクションなのか区別できないきらいは多少あるものの、 あつみの生きた姿をここまで詳らかにしたことは、画期的な仕事であろう。 今では有名な彼女の肖像写真(和服で斜め横顔)も、著者が初めて世に出したもののよう。 太宰は生家から勘当され、あつみも経済的に行き詰まり、 両者共にかなり追い詰めれた上で、心中に至ったことが分かって来る。 そして、彼女だけが死んでしまったことの負い目を、 太宰は一生抱えて生きていたのであった。
山崎富栄の生涯 太宰治・その死と真実 長篠康一郎 大光社 借590 2010/02/07 ◎ 山崎富栄の生涯を正確に伝えようとする、実証的な評伝。 太宰治は山崎富栄という無智な女に殺された、と言う他殺説(無理心中説)に対して、 著者は、綿密な取材調査と資料研究によって、その根拠の無さを丁寧に証明している。 これは刊行当時(昭和42年)の文壇の大御所たちに反旗を翻す行為であったようで、 一大決断を以って真実を明らかにしようとした著者の姿勢には、頭が下がる思いがする。 また、山崎が遺した日記と、関係者による証言によって、 最晩年の太宰と山崎の日々の状況が、克明に詳らかにされている。 ここから浮かび上がる、太宰、美知子夫人、太田静子、そして山崎の危うい関係は、 凄まじいまでの緊張感を孕んでいて、追い詰められた太宰の心境が 生々しく伝わって来るよう。そんな中で、命懸けで支える山崎の献身があったことは、 太宰にとってせめてもの救いだった気さえする。 第二部として、巻末には太宰・山崎を含む関連人物の詳細な年譜が付されている。 また、口絵に百点を越える写真が収録され、加えて本文中にも 多数の写真や図版が掲載され、資料集としても決定版と言うべき圧倒的な充実度。
玉川上水情死行 太宰治の死につきそった女 梶原悌子 作品社 借1,600 2010/02/06 ◎ 戦後の鎌倉で山崎富栄と美容室を共同経営していた池上静子の姪であり、 生前の山崎を姉と慕っていた著者による、山崎富栄の評伝。 生前の山崎と親しく面識があった人だけに、知的で上品で美しく機敏な人だった 彼女の生きた姿をしっかりと伝えてくれている。 また、彼女と交わした会話の記憶は、極めて貴重な記録と言える。 更に、念入りな調査と研究によって、太宰と山崎が過ごした最晩年の日々の状況が、 生々しいほどに刻々と伝わって来る。 太宰は、まさに四面楚歌の八方塞の状況にあって、 どうしようもなく追い詰められていたのであった。 こうなると、もう他の選択肢はなかったのかも知れないと、 納得させられる気さえした。 彼女の死後、一部の心無い作家たちが流布させた「太宰を殺した悪女」と言う中傷が、 完全に事実無根であることを、この本ははっきりと証明している。
恋の蛍 山崎富栄と太宰治 松本侑子 光文社 借1,800 2010/02/03 ○ 太宰治と心中した山崎富栄についての評伝小説。 綿密な取材や資料研究に基づいて、小説としての創作を交えながら、 理知的で有能だった彼女の真の姿を明らかにしようとしている。 彼女が、時代を先取りした教養高い職業人であったことや、 戦死した夫との短い結婚生活のこと、 持てる全てを最晩年の太宰に捧げていたことなど、知らなかったことばかり。 また、夫であった奥名修一についても、かなり詳しく調査されている。 ただ、小説部分では、事実と創作とが渾然一体となっていて識別しづらく、 内容的にもいささか通俗的に感じられるのが、惜しいところ。
巡礼 橋本治 新潮社 借1,400 2010/01/23 ○ 自宅の周りに廃品やらゴミやら何やらを堆く積み上げた「ゴミ屋敷」。 この家の主である嫌われ者の独居老人が、どうしてこのような行為に及んだのか、 時を遡って、彼の人生の栄枯盛衰と悲哀が辿られる。 商業高校を出て荒物問屋の住み込み従業員となった男は、戦後の動乱期を勤勉に働き、 やがて晴れて実家の瓦屋を継いだものの、結婚生活に失敗したあたりから 運勢が傾き始め、時代の移り変わりの中で、少しずつ大切なものを失って、 現在の状況に至っているのであった。 一見もう見放すしかないような人であっても、 その背景にはさまざまな幸や不幸があって、 つまりその人なりに過ごしてきた人生がある。 そして、そのことはなかなか他人には理解されない。 そんなことを、改めて思った次第。 ただ、どちらかと言うと叙述的な著者の文体は、私にはやや馴染みづらい感あり。
横道世之介 吉田修一 毎日新聞社 借1,600 2010/01/16 ◎ 1980年代後半、九州から上京して東京で大学生活を始めた青年の一年間の日々が、 爽快に綴られる。 当初は何もかもが目新しく、呆然とするばかりの主人公が、 持ち前の大胆さと楽天性で、友人たちや恋人にも恵まれ、 いつしか彼なりの方法で東京生活を自分のものにしてゆく。 そして、そんな彼の生きた姿は、それから20年以上の歳月を経た現在でも、 彼の知人たちの脳裏に鮮やかに刻み込まれているのであった。 主人公たちは私とほぼ同世代なので、場面場面に組み込まれた'80年代っぽい雰囲気に、 何とも言えない懐かしさを感じた。 また、地方から都会に出て学生生活を始めた主人公に、当時の自分の姿をどうしても思い出してしまう。 彼の運命は、実際にあったある事件を想起させるものだが、 彼が底抜けの善人であることをよく分かっているからこそ納得性のある出来事であり、 だからこそあまりにも切ないもの。 小説を読みながら嗚咽状態に陥ってしまったのは久し振り。
夜をゆく飛行機 角田光代 中央公論新社 590 2010/01/12 ◎ 東京郊外で小さな酒屋を営む両親と、四人姉妹。 この家族の転換期を、高校生の娘の視点から描いた物語。 過去を水に流して結婚した長女、フリーターで変人系の二女、 大学を留年中の気取り屋の三女、大学受験を控えた高校生の四女。 ある時、二女がこっそり書いた小説が新人賞を受賞するが、実はこの小説には、 自らの家族のことがほぼありのままに書かれていた。 これをきっかけに、家族のそれぞれが少しずつ変わってしまい、 主人公である四女はどこか取り残されたようなもどかしさを覚える。 語り手が高校生の四女であるため、また下町らしい商店街が舞台であるため、 一見ほのぼのとしたホームドラマのような雰囲気にも感じられる。 しかし実際には、家族それぞれには内面的に劇的な転換が起こっており、 結果としてこの家族はもう以前の姿ではなくなっている。 だからこそ、二女の小説の存在理由が改めて浮かび上がって来る。 決して明るい物語ではなく、角田さんらしい鋭利な内面描写も多いが、 どこか切なく温かい読後感に満たされた。
眼の奥の森 目取真俊 影書房 借1,800 2010/10/09 ◎ 終戦間近に沖縄本島の近くの島で起こった、複数の米兵による村の少女の強姦事件と、 その報復として村の青年が米兵を銛で刺した事件。この一連の出来事について、 当事者たちや、その家族や友人、仲介した区長、通訳した日系人など、 接点を持った人々それぞれの立場から、多角的に振り返る。 当時の生々しい記憶から、現在に至るまで続く悔恨まで、この一つの事件が、 それぞれの人生を決定的に捻じ曲げてしまったことが明らかにされて行く。 恐らく当時の沖縄では、このような事件が無数に起こっていたものと思われ、 その一つ一つの陰にこうした深い悲しみがあって、 しかも今なお状況が変わっていないことを思うと、 沖縄の負わされた苦難の重みについて再確認せざるを得ない。 現実の場面と脳裏のイメージとが交錯する著者の文体は、 最初はやや取っ付きづらいところがあるが、 当事者たちの思考の混乱と苦痛の大きさをうまく表しているようにも感じられる。 究極的には、これは叶えられることのなかった、途方もなく悲しい 純愛の物語であり、それぞれに海を見つめながら呟いた二人の言葉の交感には、 そして最後の老兵の祈るような願いには、あまりにも切なくて泣かされた。

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(紺野裕幸)

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