映画寸評 2010年

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◎=絶賛 ○=よい
2010
タイトル データ 鑑賞日 感想
クロッシング (CROSSING) 2008韓国 (監)キム・テギュン (出)チャ・インピョ、シン・ミョンチョル、ソ・ヨンファ、チョン・インギ、チュ・ダヨン 2010/04/18 ユーロスペース ◎ 北朝鮮の貧しい炭坑夫は、栄養失調による結核で衰弱しつつある妻の薬を手に入れるべく、幼い息子を残して、中国へと密入国するが、しかし祖国へと帰る術を失ってしまう。一方、父を追って中国に渡ろうとした息子は、不運にも国境で捕らえられ、強制収容所に入れられてしまうのであった。 北朝鮮の食糧難や低水準医療の状況が、この普通の家族の身近な危機として、生々しく伝わって来た。しかも、これは昔の事ではなく、現代の話なのである。文字通りの生き別れにされたこの家族の、あまりにも救いのない結末には、げっそりと気が沈んでしまいまった。「脱北」に成功しても、失敗しても、何れにせよ苦しみから逃れることは出来ないとしたら、どうしたらよいのか分からない。 ホームページ
オーケストラ! (Le Concert) 2009フランス (監)ラデュ・ミヘイレアニュ (出)アレクセイ・グシュコフ、メラニー・ロラン、フランソワ・ベルレアン、ミュウ=ミュウ 2010/04/18 Bunkamuraル・シネマ ◎ 旧ソ連時代に政治的理由で解散させられ、今や落ちぶれた労働者となっているオーケストラの楽員が、名門オーケストラに成りすまして、パリ公演を敢行しようと画策する物語。 単なるコメディかと思いきや(勿論コメディとしても念入りに面白いが)、30年前の共産主義時代の弾圧による悲劇が次第に明らかになって来て、今に至るまで引き続く歴史的な悲劇について教えてくれる社会派の映画にもなっていた。 全ての想いが重なり合った渾身のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲では、どうしようもない程の猛烈な感動に襲われた。ブランクの長い寄せ集め楽団が、しかもリハーサル無しで、急にあんな演奏レベルに到達する筈がないのだが、そんな細かいことはこの圧倒的感動によって押し流されてしまいった。ブラヴォー!! ホームページ
のだめカンタービレ 最終楽章 後編 2010日本 (監)川村泰祐 (出)上野樹里、玉木宏、瑛太、水川あさみ、小出恵介、ウエンツ瑛士、ベッキー、山田優、なだぎ武、福士誠治、吉瀬美智子、伊武雅刀、竹中直人 2010/04/17 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ○ 新進気鋭の唯我独尊系の指揮者と、天賦の才能を持つ変態系のピアニストが、留学先のヨーロッパで繰り広げる恋と音楽の騒動。前編 (→2009/12/19) から数ヶ月、待望の後編がようやく公開になった。 まあ話自体はバカバカしい限りなのだが、音楽の扱いは真剣そのもので、かなり感動的でもあり、しかも音楽学生やオーケストラの内情を垣間見られる面白さもある。 今回の後編は、ドタバタコメディ色がやや薄まり、音楽家の卵たちの苦悩と成長に物語の重きが置かれていたのが、ちょっと意外。二人が原点に返って息を合わせたモーツァルトの演奏には、感極まって泣かされてしまった。意外な程にあっさりした終わり方も良かったが、でもこれで終わりかと思うと、何だか名残惜しい。 ホームページ
ソラニン 2010日本 (監)三木孝浩 (出)宮崎あおい、高良健吾、桐谷健太、近藤洋一(サンボマスター)、伊藤歩、ARATA、永山絢斗、岩田さゆり、美保純、財津和夫 2010/04/17 熊谷シネティアラ21 ○ 社会人になって数年、仕事には今ひとつ身が入らないまま、バンド練習を中途半端に続けている、大学の軽音楽部の仲間たち。煮え切らない気持ちで過ごしていた彼らだが、リーダーの恋人が失職したのを契機に、真剣にバンド活動に取り組むことにする。しかし、渾身の新曲の売り込みにも反応は芳しくなく、そんな中、しばらく行方をくらましていたリーダーに思わぬ出来事が起こるのであった。 生き甲斐であった筈のバンド活動には勿論、仕事にも、そして恋にも、正面から向かい合わず、どうにかなるだろうと何となく思っている。モラトリアム的な彼らの姿を見て、甘ったれているなあと思いつつ、気持ちは凄く分かる気がした。 宮崎あおいの、決して下手ではないが上手いとも言えない歌に、ちょっと泣かされてしまった。拙いからこそ、むしろ強く、深い想いが切々とした伝わって来た気がする。 ホームページ
ばかもの 2010日本 (監)金子修介 (出)成宮寛貴、内田有紀 2010/04/10 第24回高崎映画祭 ○ 高崎映画祭の特別上映「まちと映画」での鑑賞。 大学生の男が、年上の女性に誘惑され、翻弄され、棄てられ、自暴自棄に陥り、ようやく正気を取り戻しつつあった10年後、女性と再会してしまう物語。 壮絶なストーリーであった。彼らの生き方に共感するかどうかは別として、主演の成宮寛貴・内田有紀の成り切り度合いは凄まじく、他の登場人物たちも含めて、心の痛みが突き刺さって来るよう。 終了後、金子修介監督の舞台挨拶があり、ほぼ全部の場面が高崎市内で撮影されたそうで、撮影の裏話などを大いに語ってくれた。 秋にロードショウ予定とのことで、まだ劇場公開まで間があるこの映画を、このような形で見られたのは、映画祭ならではの喜び。 ホームページ
虹の街 2010日本 (監)藤橋誠 (出)立川祐希、木暮あかり、瀬戸悠介、鈴木康佑 2010/04/10 第24回高崎映画祭 ○ 高崎映画祭の特別上映「まちと映画」での鑑賞。 前橋市の中学校で、男子3人しか部員がいない廃部寸前の放送部に何故か女の子が入部して来て、お調子者の男子生徒の出任せ発言のせいで、部員たちは「思い出」をテーマに街の人々へのインタビューを敢行する羽目になる。カメラを携えて街に繰り出した彼らは、自分たちの知らないこの街の昔の姿について、興味を募らせてゆく。 群馬県前橋市による地域発信映画だが、『ソースが恋。』と同様に、単なるご当地映画では全くない。やはり昔の前橋を知る人々へのインタビューが物語に組み込まれていて、この街の移り変わって来た様子が伝わるようになっていた。 終了後、藤橋誠監督の舞台挨拶に加えて、主題歌を歌う高橋李枝さん(高崎出身・在住のシンガーソングライター)のミニ・ライヴがあり(これも良かった)、非常に得した気分。 ホームページ
ソースが恋。 2008日本 (監)藤橋誠 (出)加藤俊雄、山屋冴佳、濱本暢博、二渡美紅 2010/04/10 第24回高崎映画祭 ○ 高崎映画祭の特別上映「まちと映画」での鑑賞。 焼きそば店を営む父と、亡き母に代わって店を手伝う高校生の娘。ある日、都会に出たまま十年も音信不通だった息子が、突然ふらり帰って来るが、身勝手な兄を妹は許すことが出来ない。苦慮した父は、二人を家族の思い出の場所へと連れ出すのであった。 群馬県太田市の地域発信映画で、一応は太田名物の焼きそば屋が舞台になってはいるものの、観光案内的な要素は皆無で、きちんとした筋書きのある劇映画になっている。普通の人々が織りなす、叙情的で切ない物語は、私の最も好きな傾向。 太田に住む人々へのインタビュー映像が、物語の中にうまく組み込まれていて、それが地域のリアルな今を感じさせてくれると共に、人々の地域への愛着が伝わって来て、更に感動的。 登場人物の大半は、オーディションで選ばれた地元の人で、従って演技的には素人っぽいところがあったものの、むしろ初々しさが魅力になっていた。 ホームページ
ランニング・オン・エンプティ 2009日本 (監)佐向大 (出)小林且弥、みひろ 2010/04/03 第24回高崎映画祭 ○ 高崎映画祭の「若手監督たちの現在」特集での鑑賞。 男がろくに働こうとしないことに業を煮やした恋人の女は、借金の身代わりに女自身が監禁される誘拐事件の自演を思い付く。しかし、当の男は大して焦る気配を見せず、事態が長引くにつれて、むしろ女や協力した友人たちの方がドタバタし始めるのであった。 コメディのようでいながら、結構シリアスな話でもある。小悪魔的な女に翻弄される男たちの話としては喜劇的だが、兄弟の葛藤、親子の葛藤、そして正直者が馬鹿を見る世の中の不条理など、悲劇的な側面がむしろ印象に残った。 不必要に状況や背景を説明し過ぎないところがよい。 ホームページ
君と歩こう 2009日本 (監)石井裕也 (出)目黒真希、森岡龍、吉谷彩子 2010/04/03 第24回高崎映画祭 ○ 高崎映画祭の「若手監督たちの現在」特集での鑑賞。 孤児となった高校3年の男子生徒と、無鉄砲な34歳の女性教師が、駆け落ちして東京で暮らし始める。しかし、当人たちの意気込みが空回りしながら、彼は知り合った子供からプロ野球選手と勘違いされたり、彼女はアルバイト先の同僚に駆け落ち指南をする羽目になったりと、色々な騒動に巻き込まれてゆく。 二人の関係はあくまでも教師と生徒のまま、一線を越えることがないので、爽やかなコメディとして楽しめた。二人の何とも言えないぎこちなさが微笑ましい。 こんな生活が長続きする筈がなく、実際あっけなく終わってしまうのだが、最後のシーンにはしんみりと、ほのぼのとした気分にさせられる。 ホームページ
息もできない (Breathless) 2008韓国 (監)ヤン・イクチュン (出)ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク、ユン・スンフン、キム・ヒス、パク・チョンスン 2010/04/02 シネマライズ ◎ 借金の取り立てを生業とするチンピラ男と、勝気な女子高生。 共に不幸な家庭(父親)環境を持つ故に、どこか心惹かれ合った二人は、恋愛とも違った同志のような感情で、行動を共にするようになる。互いに自身を見つめ直し、ついに彼はヤクザな稼業から足を洗うことを決意し、ようやく家族が新しい姿へと生まれ変わる兆しが見えた頃、思わぬ悲劇が起こるのであった。 「家族」と言う、逃れたくても逃れられない束縛の中で、もがき苦しんで自暴自棄に陥りそうな二人の姿には、個人的に物凄く共感させられた。また、暴力が暴力を生んで巡り巡ることの悲劇を、無情なラストシーンが思い知らせてくれる。 ホームページ
あついぞ!熊谷 (熊谷PR映画) 2010日本 (監)たかひろや 2010/03/31 熊谷シネティアラ21 ○ 熊谷市のPR映画として制作された20分の短篇映画が、市内の劇場2館で無料上映。 脱走した飼い犬を追い掛けて、多くの人を巻き込みながら、市内のあちこちを巡って行く、と言う物語に仕立てられている。 地元のPRになっているかどうかは微妙な気もする、ほんのり温かい気分になれる、 楽しい映画であった。 単に犬の捜索だったのに、徐々に大袈裟な事態になってゆくのが(ちょっと往年のインド映画のようで)面白い。 監督は熊谷市出身のたかひろや氏。 観光宣伝的には一切せず、むしろ人々の「あつさ」に主眼が置かれているのが、いかにもこの監督らしい切り口だったと思う。 ホームページ
渇き (THIRST) 2009韓国 (監)パク・チャヌク (出)ソン・ガンホ、キム・オクピン、シン・ハギュン、キム・ヘスク、パク・イヌァン、オ・ダルス、ソン・ヨンチャン 2010/03/27 ヒューマントラストシネマ有楽町 ウィルスの人体実験を買って出た神父は、一命は取り留めたものの、他人の血を摂取しないと生きていけない体になってしまう。一方、夫や義母から奴隷のように扱われ続けてきた女は、神父に救いを求めるようになる。やがて二人は、禁じられた一線を越えて関係を持ってしまい、ついに女の夫の殺害を企てるが、これをきっかけに二人は狂気の運命へと飲み込まれてゆく。 一言で言えば変な映画で。バンパイアもの即ち荒唐無稽な話なので、私にはちょっと入り込めないところがあった。 パク・チャヌク監督の他の作品と同様に、残虐な場面やグロテスクな場面が頻発しますが、それが奇妙な滑稽さを持っている。特に、流血の量は過去最高レベルで、しかしそれ自体が物語の目的になっているので、陰惨な感じは希薄。 ソン・ガンホは見違えるようにスリムで、韓流スターのように格好良い。キム・オクビンは、なまめかしく妖しく、狂気そのものを体現していた。 ホームページ
アイガー北壁 (NORDWAND) 2008ドイツ=オーストリア=スイス (監)フィリップ・シュテルツル (出)ベンノ・フュルマン、ヨハンナ・ヴォカレク、フロリアン・ルーカス、ウルリッヒ・トゥクール、エルウィン・スタインハウアー 2010/03/27 ヒューマントラストシネマ有楽町 ◎ ナチス政権下、前人未踏の難関であるスイスのアイガー北壁の登攀に挑んだ、二人のドイツ人の若者の悲劇を描く。 当初は順調に進んで行った彼らだが、後から追ってきたオーストリア隊の二人と合流した辺りから、負傷や悪天候などの不運に見舞われてしまい、やむなく途中下山と決意した彼らを、更なる困難が待ち受けていた。一方で山麓のホテルでは、彼らを取材する記者たちや見物客たちが集まっていて、その中には登山家の恋人であった女性もいたのであった。 登山場面の迫力と緊張感は、凄まじかった。危険極まりないシーンの数々は、あまりにもリアルで、どうやって撮影したのか不思議なくらい。 極限状況下でも、これだけのことを成し遂げたのは、彼らの間に、文字通りの固い絆が結ばれていたからなのだろう。吹雪の絶壁で苦闘する登山家と、ホテルから望遠鏡で彼らを見物する記者や観光客と、その対比が痛烈。あまりにも無情な終末が、悲しくも深い余韻を残す。 ホームページ
ずっとあなたを愛してる (Il y a longtemps que je t'aime) 2008フランス (監)フィリップ・クローデル (出)クリスティン・スコット・トーマス、エルザ・ジルベルスタイン、セルジュ・アザナヴィシウス、ロラン・グレヴィル、フレデリック・ピエロ 2010/03/20 シネマテークたかさき ◎ 実子を殺めた罪による15年間の刑期を終えて出獄した姉と、 彼女の身元を引き受けた妹とその家族とが、徐々に絆を結んでゆく物語。 フランス映画らしい内面の奥行きがあって、極めて高水準の作品。 本質的には互いの心の内に入り込めない、究極の孤独感に覆われたストーリーだが、 それでも赦しあるいは救いのようなものが感じられるラストシーンは見事で、 グッと来た。 俳優たちが素晴らしく、姉役の打ち解けない沈んだ表情は勿論だが、 妹役の戸惑いと気遣いの表情も真に迫っていた。更に、幼い姪たちが可愛かった。 ちなみに妹役のエルザ・ジルベルスタインの出演作 『カストラート』(→1995/07/16) 『ミナ』 『モディリアーニ』(→2005/08/19) は、何れも私にとって忘れ難い作品ばかり。 ホームページ
スイートリトルライズ (SWEET LITTLE LIES) 2010日本 (監)矢崎仁司 (出)中谷美紀、大森南朋、池脇千鶴、小林十市、大島優子、安藤サクラ、黒川芽以、風見章子 2010/03/14 MOVIXさいたま ◎ 結婚して3年になるDINKSの夫婦が、一緒に居ながらも拭えない寂しさから、 それぞれに「秘密」を持ってしまう、全然「スイート」ではない物語。 独身の私には、この一見円満な夫婦の背後の現実の姿が生々し過ぎて、 何だか悲しくもあった。しかし、「人は守りたいものに嘘を付く」と言う 主人公の台詞は、何とも意味深長で、私の脳裏でじわじわと後を引いている。 説明し過ぎない演出も、説明し過ぎない音楽も、まさに好適。同監督の 『ストロベリーショートケイクス』(→2006/09/24) に勝るとも劣らない、繊細さと、切実さと、心の痛みがある映画。 ホームページ
花と兵隊 2009日本 (監)松林要樹 2010/03/06 シネマテークたかさき ◎ 第二次大戦中にタイ〜ビルマに派兵され、敗戦後そのまま現地に居残ることを選んだ、 「未帰還兵」を取材したドキュメンタリー映画。 監督は、かなりの時間を掛けて、元兵士たちと根気よく向かい合い、 少しずつ信頼関係を築き上げ、生真面目に彼らの発言を引き出している。 軍隊の浅ましき実相に絶望し、自らの意思でそこから離脱し、 職能によって現地の人々に受け容れられ、そこで妻を娶り、 徐々にその土地に根付いて行った彼ら。 その重い語り口の中から、銃や爆弾とも違った、 戦争の生身の狂気がじわじわと浮かび上がって来る。 祖国を懐かしく思わない訳ではなく、帰る機会がなかった訳でもなく、 しかし帰ろうとはしなかった、そんな彼らの複雑な心境が伝わって来る。 一方で、彼らが妻を大切に愛おしむ姿には、救いが感じられた。 ホームページ
カラヴァッジョ 天才画家の光と影 (Caravaggio) 2007イタリア=フランス=スペイン=ドイツ (監)アンジェロ・ロンゴーニ (出)アレッシオ・ボーニ、クレール・ケーム、ジョルディ・モリャ、パオロ・ブリグリア、ベンヤミン・サドラー 2010/02/25 銀座テアトルシネマ ○ バロック時代のイタリアで、天才の名を欲しいままにし、高い地位を得ながら、 激情型の性格故についに殺人を犯し、逃亡生活の内に野垂れ死んだ、 文字通り劇的に生きた画家の半生が描かれる。 現存するいくつもの作品の制作場面を、 実際の生身の人間の生き様と絡めながら見せられたのが良かった。16〜17世紀の場の雰囲気もよく表されていた。 ただ、叙事的と言うか、生涯のエピソードを足早に辿る感じで、少々慌ただい展開に 感じられたのが惜しいところ。もっとも、実際の画家の短い生涯そのものが、 こうしてめくるめく流転したのであろうが。 また、使われる音楽の大半がその時代らしくないものだったのが少々残念。 ホームページ
パレード 2010日本 (監)行定勲 (出)藤原竜也、香里奈、貫地谷しほり、林遣都、小出恵介 2010/02/21 MOVIXさいたま ◎ ルームシェアしながら、付かず離れずの微妙な関係を維持している、男二人+女二人。 しかし、成り行きで若者がもう一人居候するようになった頃、 近所で不審な暴行事件が頻発する。 隣人どころか、同居人のことさえも、深く知らない、知ろうとしない、 あるいは知っても知らなかったことにする、それでこそ全てが上手く行く。 そんな現代的な人間関係を、まるで身近な生活風景として見せ付けられる。 自分自身はそこまで歪んではいないと思うものの、本質的には他人事でなかった。 ラストシーンでは、背筋が凍るような衝撃のあまり、暫し呆然とさせられた。 脚本は勿論、目の行き届いた演出も、決して過剰にならない音楽も万全で、 改めて行定監督の才能の凄さに畏れを感じる。 ホームページ
人間失格 (The Fallen Angel) 2010日本 (監)荒戸源次郎 (出)生田斗真、伊勢谷友介、寺島しのぶ、石原さとみ、小池栄子 2010/02/20 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 太宰治の最晩年の傑作の映画化だが、残念ながら少々期待外れ。 ただでさえ濃密極まりない原作のエピソードをふんだんに盛り込んだ上に、 更に太宰本人のエピソードまであれこれ盛り込んでいるため、 一つ一つの場面が慌しく過ぎ去ってしまい、何だか表層的になってしまった。 原作の文章から漂うあの壮絶な戦慄が、全然伝わって来ない。 主演俳優も、よくやってはいたが、どうも雰囲気が軽過ぎる気がした。 別に重苦しくして欲しかった訳ではないが、もう少し深みは欲しかった。 監督の前作『赤目四十八瀧心中未遂』 (→2003/04/21) のような重厚な空気を期待していが、甚だ物足りなかった。 ホームページ
インビクタス/負けざる者たち (Invictus) 2009アメリカ (監)クリント・イーストウッド (出)モーガン・フリーマン、マット・デイモン、トニー・キゴロギ、パトリック・モフォケン、マット・スターン 2010/02/14 熊谷シネティアラ21 ◎ 27年の獄中生活を経て、南アフリカ共和国で初の黒人大統領となった ネルソン・マンデラ氏は、国民をひとつにまとめる看板役として、 あえて白人中心のラグビー・チームを起用した。 彼の理念に心酔した主将は、決意も新たに試合に臨み、ついに来た ラグビー・ワールドカップの本番で、予想外の快進撃を繰り広げるのあった。 大統領やその家族、選手たちやその家族の物語に、 警備員たちの物語をも並行させたのが上手いと思う。 更に、最後に登場する子供もさり気なくよい。 これだけ多くの物語が重畳しているのに、全体として盛り込み過ぎの感は全くなく、 むしろ満たされた気分にさせられてしまうのが凄いところ。 ラグビーについて、私は恥ずかしながらルールすら全然分からないのだが、 それでも全く支障なく物語に没頭し、感極まると言う感じで泣かされた。 ホームページ
戦場でワルツを (Waltz with Bashir) 2008イスラエル=フランス=ドイツ (監)アリ・フォルマン 2010/02/11 シネマテークたかさき ◎ イスラエルの、アニメーションによるノンフィクション映画。 兵士だった二十数年前のある時期の記憶が失われていることに気付いた監督は、 その時何があったのか、当時の仲間や関係者を訪ね歩く。 次第に分かって来たのは、あまりにも衝撃的ゆえに 自身の記憶が封印されてしまったらしいこと、そしてその時期に 彼はパレスチナ難民の大虐殺事件に立ち会っていたことだった。 徐々に明らかにされる戦時下の出来事は、実写以上に鮮烈で生々しいもの。 そして驚愕のラストシーンには絶句させられる。 当時のイスラエルの状況について私は殆ど知識がなかったが、 やはりここでも理不尽な残虐行為が公然と行われていたのであった。 監督は、自身の心の闇によくぞ目を向けたと思う。 過去と現在を等質に表現するこの実写的アニメーションの手法が、見事に奏功していた。 ホームページ
アンナと過ごした4日間 (Cztery noce z Anna) 2008フランス=ポーランド (監)イエジ・スコリモフスキ (出)アルトゥル・ステランコ、キンガ・プレイス、イエジー・フェドロヴィチ、 バルバラ・コウォジェイスカ 2010/02/11 シネマテークたかさき 近所に住む独身女性の部屋に、彼女の就寝時を狙って窓から忍び込み、 しかし何も手出しする訳でなく、ただ彼女の傍にいる時間を楽しんでいた男の物語。 かなり変わった映画だったが、正直あまり良さが分からなかった。 彼と彼女の接点となったある事件のことは出て来るものの、 彼がそこまで彼女を偏愛するように至った経過が分からないため、 紛れもない犯罪行為に走った彼の心境には共感しづらかった。 しかし、ついに念願叶ったあのわずかなひと時で、彼は赦されたのだと思う。 また、冷酷とも言えるあの結末は、それで良かったのだも思う。 ホームページ
梅むら夫婦 2010日本 (監)茂木薫 2010/02/06 ワーナー・マイカル・シネマズ羽生 ◎ 一人娘を事故で喪ったショックで店を畳んだ老夫婦が、 ついに立ち直って新たにフライ店を始めるまでの日々を追った、 1時間程の短いドキュメンタリー映画。非常に良かった。 大袈裟に悲しみを煽るようなことをせず、夫婦との対話を淡々と映し出している。 撮影者である監督との間には、着実に信頼関係が生まれていて、 夫婦は安心してカメラの前で気持ちを素直に表しているので、 身近な人の話のように切実に感じられた。 舞台は私の地元に近い、埼玉県行田市。このような地味なドキュメンタリー映画を、 チェーンのシネコンが採り上げてくれたことに、感謝したい気分。 この日は初日で、舞台挨拶あり。監督の茂木薫さんは、行田市出身の若い女性で、 年に一本程度のペースで、地元を主題にしたドキュメンタリーを撮っているそうで、 次回作の主題は行田市の伝統産業である「足袋」とのこと。 ホームページ
おとうと 2010日本 (監)山田洋次 (出)吉永小百合、笑福亭鶴瓶、蒼井優、加瀬亮、小林稔侍 2010/01/31 熊谷シネティアラ21 ◎ 中年を過ぎても定職にも就かず、家族の厄介者扱いだった弟。 長らく音信不通だった彼は、よりによって姪の結婚式の場に突然現れ、 泥酔して式を無茶苦茶にしてしまう。 度重なる不祥事に呆れ果てた姉は、弟に絶縁を言い渡し、ようやく ほとぼりも冷めてきた頃、警察を通じて弟の消息が姉に伝えられるのであった。 どこまでも駄目男である弟と、真面目に堅実に生きている姉の、 切っても切れない縁の深さと、情の深さが、しみじみと感動的。 これに、娘の結婚を巡るエピソードが重なることによって、切なさを増している。 映画として目新しい局面は無いにせよ、ちょっと笑わせる場面を散りばめつつも、 情緒的な感性に訴える物語をそつなく仕上げる、山田監督の手腕は確か。 意外な人がチョイ役で登場するのも、面白いところ。 ホームページ
真幸くあらば 2009日本 (監)御徒町凧 (出)尾野真千子、久保田将至、ミッキー・カーチス、テリー伊藤、佐野史郎 2010/01/24 シネマ・アンジェリカ ○ 強盗殺人事件によって、婚約者を喪うと同時に、 婚約者の裏切りをも知ることになった女は、 犯人の死刑を見届けるべく、裁判に通い、更には刑務所に面会に訪れる。 単純ならざる関係の中で向かい合った両人は、 やがて互いに相手を不可欠な存在と思うようになり、 急速に想いをエスカレートさせてゆくのであった。 異常な状況下で孤立した二人が互いに思い詰めてゆく気持ちや、 面会室のガラス越しで指一本触れられないもどかしさは、切実に伝わってきた。 ただ、その後の二人の異様な行為は私には「究極の純愛」とは思えず、 絶望的なラストシーンは、あのようになって欲しくなかった。 個人的には、後味の良くない印象。 ホームページ
すべては海になる 2009日本 (監)山田あかね (出)佐藤江梨子、柳楽優弥、要潤、吉高由里子、渡辺真起子、白井晃、松重豊 2010/01/24 新宿バルト9 ◎ 書店に勤める読書好きの女性と、その書店で万引きした中年女性の息子、 それぞれ悩みを抱える二人の、友情以上・恋愛未満の微妙な関係の物語。 二人の物語に、書店で大ヒット中の小説の秘密にまつわるエピソードが 密に絡めてあって、ついでに昨今の出版業界の安易なベストセラー戦略を 皮肉っていたりもしていて、よく練られたストーリーだと思う。 彼らの、家族不和や恋愛感情など自分の意志ばかりではどうにもならない悩みには、 かなり気持ちが入り込んだ。 決して明るくもなく爽やかでもない話で、最後にはほんのり救われた気分になった。 やや幼稚な所もあるが、素直で真っ直ぐな気持ちを呼び覚ましてくれる物語で、 私にはかなり良かった。 ホームページ
サヨナライツカ 2009日本 (監)イ・ジェハン (出)中山美穂、西島秀俊、石田ゆり子、加藤雅也、マギー 2010/01/23 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 愛すべき婚約者がいるのに、 出張先のバンコクで現地滞在の女性と関係を持ってしまった男が、 それから数十年を経て、意外な状況下で彼女と再会する物語。 個人的に、すぐにベタベタくっつくような話が大嫌いなせいもあるが、 この男の心境は私には理解し難く、まるで共感できなかった。 数十年後の結末も、いささか安っぽい展開で、いかにも大増産時代の 韓国メロドラマの焼き直しの感じ。 また、大いに盛り上げようと煽る音楽が、大袈裟過ぎてかえって逆効果に感じられた。 そんな中では、妻の、穏やかな表向きの背後にある情念の深さには、凄みが感じられ、 この人には共感できた。 しかし全体としては、残念ながらちょっと期待外れ。 ホームページ
今度は愛妻家 2010日本 (監)行定勲 (出)豊川悦司、薬師丸ひろ子、水川あさみ、濱田岳、城田優、石橋蓮司 2010/01/16 熊谷シネティアラ21 ◎ アラフォーで子供のいない、写真家の夫と、元教師の妻。 朗らかな笑顔で世話を焼く妻だが、邪険な態度であしらい続ける夫に、 ついに耐えかねて離婚話を切り出す。 離婚記念にとせがまれて妻の写真を撮る夫は、一年前に二人で行った沖縄旅行を 思い出すのであった。そして、物語は全く予想外の展開を(何度も)見せる。 久し振りの行定勲監督作品だが、期待通りに良かった。 とにかく中盤からのストーリーの意外性に驚かされたが、 そのこと自体が、気付いた時にはもう間に合わない、 悔やんでも悔やみ切れない後悔の念の深さを表していて、切なさ倍増。 行定監督らしい、過不足ない目の行き届いた感情描写が、私の好みに合っている。 ホームページ
キャピタリズム マネーは踊る (Capitalism: A Love Story) 2009アメリカ (監)マイケル・ムーア 2010/01/10 TOHOシネマズみゆき座 ◎ アメリカ社会の極端な貧富の二極化を、行き過ぎた資本主義の産物として 痛烈に断罪。面白く、痛快で、真摯で、共感的で、しかも説得力があると思う。 監督の今まで作品と同様に、中流あるいはそれ以下の一般市民の視点から、 おかしいと思うことを、おかしいときっぱりと言っていて、そのことが凄い。 しかも、映画監督としての立場をフルに駆使して、様々な立場の人々に取材し、 有益な発言を引き出している。 市民が立ち上がりつつある機運と、その象徴としての新大統領の誕生を、 希望的に位置付けているが、どうかこの希望が持続するよう、 ぬか喜びにならぬよう、願わずにいられない。 ホームページ
海角七号 君想う、国境の南 (海角七號) 2008台湾 (監)ウェイ・ダーション (出)ファン・イーチェン、田中千絵、中孝介、シノ・リン、レイチェル・リャン 2010/01/10 シネスイッチ銀座 ○ 台湾の海辺の小さな町で行われる中孝介コンサートで、 前座を務めることになった地元の素人バンドと、 彼らの面倒を見る羽目になった日本人留学生の女性との、本番までの紆余曲折の物語。 意外なことに、表題にもなっている日本統治下での悲恋のことは、 実際には殆ど出て来ないので、そのエピソードで泣くつもりでいたら肩透かし。 また、現在の二人の恋物語も、ちょっと唐突な展開に思える。 更に、本人役で登場する中孝介の歌の出番は、もう少し多くあってもよかった。 しかし、この寄せ集めバンドが、曲がりなりにも成し遂げた 本番のステージの高揚感には、合奏モノに弱い私はちょっと泣かされてしまった。 ホームページ
誰がため (Flammen og Citronen) 2008デンマーク=チェコ=ドイツ (監)オーレ・クリスチャン・マセン (出)トゥーレ・リントハート、マッツ・ミケルセン、スティーネ・スティーンゲーゼ、ピーター・ミュウギン、クリスチャン・ベルケル、ハンス・ツィッシュラー 2010/01/10 シネマライズ ◎ 第二次大戦中のデンマークで、ナチスへの地下レジスタンス活動に身を捧げた、 実在の二人の若者の物語。 彼らは組織の命令に従って、危険な任務を遂行して行くが、 やがて組織の正義を疑わざるを得ない事態に陥ってしまう。 彼らは、組織の甘言を振り切り、自身の信念に従って独自行動に進むのであった。 射殺場面(しかも大勢の銃撃戦ではなく特定人物の暗殺)が続くためもあるが、 ナチス占領下の異様に張り詰めた空気が、強烈な緊張感として伝わって来る。そんな 中で、誰を信じてよいのか分からない状態に追い込まれた二人の苦悩が生々しく、 悲惨な結末も含めて、かなり気分が落ち込んだ。 ただ、この二人が最後まで互いを信じていたことだけが救い。 ホームページ

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(紺野裕幸)

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