美術館寸評 2010年

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◎=絶賛 ○=よい
2010
タイトル 場所・会場 日付 内容・感想
森村泰昌・なにものかへのレクイエム 東京都写真美術館 2010/04/02 ◎ 美術家自身が、歴史的人物に扮したり、歴史的場面に入り込んだりしながら、20世紀と言う時代を再確認しようとする試み。真剣なのかふざけているのか分からない感じが、かなり面白い。 前半の部(2F)は、20世紀の歴史上の人物に成り切ったシリーズ。チェ・ゲバラ、毛沢東、三島由紀夫などの写真作品に加えて、ヒトラーやレーニンなどに扮した映像作品も上映されており、それらには何やら意味深長な台詞や字幕が付いていたりする。 後半の部(3F)では、まずピカソやダリ、ウォーホルなど20世紀の芸術家に扮したシリーズが並び、続いて20世紀の報道写真に入り込んだシリーズを経て、約20分の長編映像「海の幸・戦場の頂上の旗」で締め括られる。これは、ステージ上のピアニストのイメージが、硫黄島の山頂に旗を立てる兵士たちへと推移してゆくもので、ストーリー性は無いままに不可思議なイメージが変遷する、何とも不思議な体験。 ホームページ
美しき挑発 レンピッカ展 Bunkamuraザ・ミュージアム 2010/04/02 ◎ この人の絵は、アストル・ピアソラのCD(milan盤)のジャケット()でよく見ていたが、この展覧会のポスターを見かけて初めて、タマラ・ド・レンピッカと言う女性画家の作品だったことを知った次第。 まるでプラスチック製のように滑らかな光沢を持った、しかし不思議になまめかしい人物像が描かれている。洒脱で都会的なイメージでありながら、どこか物憂い表情の女性たちが、いかにも都会的。当時は時代の最先端と目されていたようだが、今見ても洗練された美的感覚に思える。 派手でスキャンダラスな人生を送った人だそうで、自身を華々しく売り込むべく気取ったポーズで佇んだ写真なども展示されていた。芸術家らしく気難しそうな感じでもある。 予想した程には混雑していなかったので、じっくり見られた。多くの作品に解説パネルが付いていたのがありがたい。 ホームページ
木村忠太の世界展 高崎市美術館 2010/03/20 ◎ 当美術館に昨年寄贈された「原一雄コレクション」を中心に、 木村忠太(1917-1987)の作品を60点ほど展示。 一応は題材のある具象画ではあるが、 書きなぐったような鮮やかな色彩の面と線から構成される画面は、 殆ど抽象画のようにしか見えないもの。 しかし、何が描かれているか一見分からないにせよ、 色の調和が何故か美しく感じられ、見ていて不思議と心地よい。 これが、画家自身の言う「魂の印象派」と言うことなのかも知れない。 最上階では常設展示「高崎市美術館名品展」として、 具象画と抽象画の間を行き交うような作品群を展示、 それぞれの画家の典型と言うべき傑作が揃っていたようで、 これだけでもかなりの見応えあり。 ホームページ
色彩の詩人 脇田和 川越市立美術館 2010/03/14 脇田和(1908-2005)の作品、デッサンや版画なども含め、計60点ほどの展示。 独特の淡い色調で、鳥や花や人物などが、画面に配置されている。 像は、ある程度は形をなしているものもある、 大抵はかなり抽象化されたイメージになっていて、特定の何かを示してはいない。 どちらかと言えば、画面全体から滲み出る穏やかな雰囲気を楽しむ絵だと思うが、 正直言ってあまり好きな画風ではなかった。 常設展示は、川越市出身の画家2名。 相原求一朗(1918-1999)は、国内外の風景を描いたデッサン数十点と、 それに基づく油彩画が並置され、画家の舞台裏を見せてもらったような楽しさ。 別室では、北海道の山を描いた連作「北の十名山」も展示され、 何れもずっしりと重みのある壮観と言う感じの絵。 小村雪岱(1887-1940)は、挿絵の下絵図が数シリーズと、 完成された多色木版画を展示。 題材は浮世絵的な古風な物語だが、繊細で風流で、近代的に洗練されたデザイン感覚。 ホームページ
有元利夫展 小川美術館 2010/02/25 ◎ 毎年恒例の小川美術館での有元利夫展。 今年は大規模な有元展が国内を巡回中のため、 いつもと趣向が異なり、油彩作品はなく、 素描作品を中心に展示。 素描と言っても、彩色が少ないだけで、 有元さんらしいわざと古びた感じには仕上がっているものが多い。 また、立体(木工や鋳造の作品)も多く展示され、 いつもはガラスケースの中にある作品を、間近で見られたのがよかった。 他に、版画作品や、未完成作品らしきものも展示中。 この日は結構多くの人が訪れていたが、 それでも静かで落ち着いた雰囲気なのが有り難い。 ホームページ
荒木経惟・舟越桂「至上ノ愛像」 高橋コレクション日比谷 2010/02/12 ○ 舟越桂と荒木経惟の作品を組み合わせた、小さな展覧会。 舟越作品を生で見るのは久し振り。 こんもりと山のような丸い肩に家が二軒建っている『言葉を聞く山』と、 近年の両性具有スフィンクス系作品の2点を展示。 前者はずっと側で見ていたい気分にさせられるのに対し、 後者は表情も含めて何だか怖い感じ。 荒木作品は、全てモノクロ写真。 「母子像」12点は、乳幼児と母親のポートレートで、写真が巨大なだけに かなり生々しいもの。 他に、映画『東京日和』でも有名な「センチメンタルな旅・冬の旅」の 柳川の船上の写真には、何と言えない詩情と切なさが漂っていた。 ホームページ
ベルナール・ビュフェ展+藤田嗣治−東京・ニューヨーク・パリ 目黒区美術館 2010/02/12 ◎ ベルナール・ビュフェ美術館(静岡県長泉町)の収蔵作品による展覧会。 主に初期の作品で構成され、主題毎に分類されていて、 何れの空間にもビュフェらしい鋭利な感じの緊張感が漲っている。 最初期の作品にはビュフェらしからぬベタ塗り系の作風のものもあり、 また人のいない風景画は珍しい気がする。 最後の部屋には、ジャン・ジオノ(『木を植えた人』の作者)の作品に寄せた 連作版画が揃っていた。 同時開催の藤田嗣治展は、全て当美術館の収蔵品による展示。 様々な主題や技法の作品が集めてあったが、最大の見ものは手紙類の展示だろう。 葉書や便箋の一枚一枚に、情景や戯画が細密かつ丁寧に描かれていて、 手紙文の極めて細かく美しい文字を見ると、藤田の几帳面な性格がよく分かる。 他に、絵皿や木の玩具、細工された小机などは珍しいもの。 ホームページ
相笠昌義展―日常生活― 損保ジャパン東郷青児美術館 2010/01/24 ◎ 都会の風景の中に佇む人々の群像が、現代的な孤独感を感じさせる作品群。 交差点、街路、公園、動物園など、多くの人々が集まる場所の中に、 実際に沢山の人がいて、その一人一人があくまでも孤立して存在する。 その時点では同じ時間と場所を共有していながら、 相互に関係を持たない人々の様子から、都会の孤独感が漂っている感じ。 色彩も、鮮やかな色彩の場面でありながら、どこか灰色に曇っていて、 それが空虚感を強めていた。 特に、何も掲げられていない室内で壁際を見つめる人々が描かれた「みる人」や、 駅のホームに点々と佇む人々が描かれた「駅にて」は、極めて印象的。 群集の片隅にしばしば、画帳を携えた画家ご本人が登場していて、その遊び心が面白い。 ホームページ

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(紺野裕幸)

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