美術館寸評 2009年

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◎=絶賛 ○=よい
2009
タイトル 場所・会場 日付 内容・感想
ロシアの夢 1917-1937 埼玉県立近代美術館 2009/12/06 ロシア革命に同調した芸術家たちによる、プロパガンダ美術の展覧会。 作品は、ポスターや書籍などのグラフィック・デザインから、建築、舞台美術、 陶磁器などの生活用品にまで及ぶ。 作品の一点一点に、成立背景や意味を解説したパネルが添えられていて、 理解の助けになった。 展示は、革命の進展に従った年代順に、4つの部分から構成。 何れも、その時その時の政治や思想を知らしめる役割を担った作品であるため、 過剰の演出と、押し付けがましさがある。 その強制感されたような重苦しさは、 当時のロシア音楽とも共通しているような気がした。 正直に言って、展示内容そのものはあまり面白いものではなかったが、 その時代のロシアを包み込んでいた雰囲気は濃密に伝わって来た。 ホームページ
オブジェの方へ−変貌する「本」の世界− うらわ美術館 2009/11/28 ○ 「本」をテーマにした現代アートの展覧会。 同じ本の主題と言っても、その扱い方は千差万別で、 本なるものの意味から想起された作品もあれば、 本と言う形から発想された作品もあり、 更には本そのものを素材にして作った作品もあった。 特に本を素材にした作品には印象的なものが多く、 本の全ページを袋とじ状に折ったオブジェや、 文庫本を彫刻刀で削った像、本を原型を留めたまま焼いた残骸などは、 発想の面白さを感じた。 何れも抽象美術と言うよりは具象美術と言うべきもので、親しみ易い。 展示品はすべて、この美術館のコレクションとのこと。 時間帯のせいか観客は少なく、ゆったり見られたのはありがたかった。 ホームページ
太宰治の肖像 三鷹市芸術文化センター 2009/11/23 ○ 太宰治生誕100年を記念して、太宰が作家生活の大半を過ごした 三鷹市で行われている資料展。 特に太宰の肖像写真に焦点を当てた展示内容。 とりわけ田村茂が撮影した晩年の太宰の写真の全27枚は見もので、 有名な写真の他に、実はよく似たようなポーズで何枚も撮られていたものなど、 その存在さえ初めて知った次第。他にも、初めて見た写真もいくつかあった。 太宰の生涯についても概観され、特に三鷹市の歴史の中において見た、 太宰の過ごした時代についての説明は、非常に興味深いものがある。 展示点数は決して多くはなかったが、三鷹市ならではの意欲的な展示の試みが なされていたと思う。 ホームページ
魔法の美術館 高崎市美術館 2009/11/22 ○ 「光」をテーマにした現代アートの展覧会。 全てが電気や機械の仕掛けによる作品で、人の動きに応じて映像が変化するもの、 人が触ることによって音や光が出るもの、人の影に反応するものなど、 観客参加型の作品が多い。 また、点滅や回転によって目の錯覚を引き起こすような、 動的な作品にも面白いものが続々とあった。 美術と言うよりも遊具と言う感じで、鑑賞と言うよりも参加と言う感じで、 子供でも大人でも大いに楽しめる内容。 ホームページ
雪月花―静寂なる調べ 高崎市タワー美術館 2009/10/25 ○ 箱根・芦ノ湖成川美術館が所蔵する現代の日本画から、 四季の風景を描いた作品、計37点を展示。 桜や海や紅葉や冬景色など題材は典型的なものだが、 作者毎に作風は様々に異なり、概ね現代的な表現なので、 日本画の割にはよそよそしさがなく楽しめる。 とりわけサイズの大きい作品は、圧倒的な迫力あり。 特に、牛尾武「室戸旭日」や、木村圭吾「金青の海面」「満月祭宴」などでは、 絵の前にじっと座っていると、風景に吸い込まれるような気分になってしまう。 高山辰雄「月」の出品が取り止めになっていたのは残念。 想像以上に見応えのある、しかも何となく穏やかな気分になれる展覧会。 ホームページ
加守田章二展・有元利夫版画展 小川美術館 2009/10/06 ○ 加守田章二の陶芸作品と、有元利夫の版画を組み合わせた展覧会。 加守田の作品を見るのは多分初めてだが、作風の統一感はなく、 むしろ個々に個性的な作品群。 素朴なようでいて、装飾的でもあり、こんなのが自分の家にあったらいいなあ、 と思わせるものが沢山。 有元の版画は、集中的に見られる貴重な機会。 比較的大きなものから微細なものまで各種が並べられ、 私には初めて見る作品も多くあった。 連作版画ではその全点が揃っていて、外装(外箱)も含めて 全体として見られたのがよかった。 静かな静かな環境で、何度でも行ったり戻ったり、 ゆっくりじっくり見られるのがありがたい。 ホームページ
ベルギー幻想美術館 Bunkamuraザ・ミュージアム 2009/09/22 ◎ 19世紀末から20世紀にかけてのベルギー幻想美術を集めた展覧会。 姫路市立美術館のコレクションによる展示で、私はこの美術館を3月に訪れたので、 お気に入りの作品にまた会える期待感もあったが、果たして、 ドゥグーヴ=ド=ヌンクの「夜の中庭あるいは陰謀」や、 デルヴォーの「海は近い」など、 2度目(実は2000年の埼玉県立近代美術館での展示も含めれば3度目)に観ることが 出来たのは嬉しかった。 作品は作家別に分類され、特にロップス、アンソール、マグリット、 デルヴォーの作品は充実。個人的には、 デルヴォー作品のひんやりとした空気感や、 マグリット作品の不可思議な絵と表題は、何度観ても飽きない感じ。 また、アンソールやデルヴォーは連作の版画作品も揃って展示され、 一つ一つに説明が付されていたため、一連の物語として観られたのがよかった。 ホームページ
クリムト、シーレ ウィーン世紀末展 日本橋タカシマヤ 2009/09/20 ○ 1900年前後のウィーンで展開されていた新しい美術運動の作品を集めた展覧会。 目玉であるグスタフ・クリムトは、点数は少なかったものの、 記念碑的作品「パラス・アテナ」など、何とも妖しい感じを漂わす作品が並んでいた。 また、弟のエルンスト・クリムトによる作品もあり、 特に壮麗な「宝石商」は極めて美しいもの。 エゴン・シーレは、まとまった量の作品が揃っていた。 やつれたような退廃的な感じが漂う作品は、クリムト兄弟とはまるで対照的で、 しかしどちらもいかにも世紀末的でもある。 他にも様々な傾向の絵画が並び、当時の新しい美術運動の雰囲気が 分かるようになっていた。 他分野との相互作用も盛んで、特に作曲家シェーンベルクが 絵画作品も手掛けていたのは意外。 ホームページ
線の迷宮<ラビリンス>・番外編 目黒区美術館 2009/09/05 ◎ 1970年代の日本の「版画集」、すなわち 連作として制作された作品群に焦点を当てた展覧会。 銅版画、木版画、リトグラフや写真製版を採り入れた作品など、 技法的にも様々で、割合的には細密なモノクロの作品が多いが、 一方でポップアート的に色鮮やかな作品もある。 全体に、前衛的な作品が多かったように思う。 版画集の装丁であるカヴァーや外箱なども展示され、 版画集なるものがどんな状態のものなのか初めて知ることが出来た。 更に、版画技法の説明や、版画に使われる紙の実物など、 版画そのものの全貌を分かり易く伝えようとしていた。 連作作品をずらり並べて展示していて、 しかも壁面に展示し切れない作品は棚の引き出しで見られるようにしてあり、 作品点数は極めて多かった。 更にこの日は町田市立国際版画美術館の学芸員によるスライド・トークも拝聴できて、 満足至極。 ホームページ
銀座界隈隈ガヤガヤ青春ショー ギンザ・グラフック・ギャラリー 2009/09/05 ○ 灘本唯人、宇野亜喜良、和田誠、横尾忠則。 1960年代に銀座界隈で青春を過ごしたこの4人が、当時の代表作を展示している。 作品は、ポスターや雑誌などのためのイラストレーションや グラフィックデザインが中心。一時の商業メディアに、 これ程までに意欲的に実験的な取り組みがなされていたことに驚かされた。 4人それぞれが制作した本展のポスターを除いて、新作は含まれないが、 今見ても奇抜で斬新に思えるものが多い。 私の生まれた頃でもある、この時代らしい雰囲気の中に身を置くことができて、 満ち足りた気分。 ホームページ
ブラティスラヴァ世界絵本原画展 うらわ美術館 2009/08/25 ○ スロヴァキア共和国で隔年に行われている絵本原画展の 、受賞作や、出展した日本人作家の作品を集めた展覧会。 非常に多くの作家の作品が展示されていて、更に 実際に絵本になった現物も置かれていた。 様々な技法の絵画やコラージュ作品、CG作品まで作風は多種多様。 叙情的なものもあれば、前衛アートのようなものもあり、 それぞれが強い個性を発揮させつつ、物語の場面としての役割も果たしている。 絵本は、自由に触って見られるようになっていて、 これも美術館としては画期的なことだと思った。 あまりにも見応えがあって、じっくり見ている内に、 あっと言う間に閉館時間が迫ってしまい、最後の方は急ぎ足で見る羽目に なってしまったのが心残り。 ホームページ
草間彌生展 高橋コレクション日比谷 2009/07/19 ○ 個人の現代美術コレクターによる期間限定のコレクション展示空間で、 オープニング記念展として草間彌生の作品が展示されている。 建物の外観から既に赤い水玉模様になっていて、 ガラス越しに黄色い網目模様のヴィーナス像が見えていた。 天井の配管がむき出しのやや殺風景な空間に、充分なスペースを取って作品が点在。 展示作品は、油彩、水彩、版画、立体作品など各種で、 初期から最近のものまで網羅的に揃えられている。 水玉模様、網目模様、突起物などが、うごめく生き物のように感じられる 草間さんの世界は、やはり強烈。展示点数は必ずしも多くない(計28点)が、 一つ一つを間近でじっくり見られるので、かなり満足。 ホームページ
奇想の王国 だまし絵展 Bunkamuraザ・ミュージアム 2009/07/19 ○ 「だまし絵」と言う観点で、古今東西の美術作品を集めた面白い企画。 絵の中に絵があるような細密描写の作品から始まって、 果物や野菜を組み合わせて顔を作ったもの、エッシャーの不思議絵や、 シュルレアリスムの作品、そして趣向を凝らした現代作品まで、 様々な観点のものが並んでいた。 更に、歌川国芳ら日本の浮世絵師たちによるだまし絵も多く展示され、 この時代に日本にも斬新な遊び心が満ちていたことに驚かされた。 個々の作品も選りすぐりと言う感じで、 例えばマグリットの作品だけ見ても傑作がずらり。 じっくり見入るような作品が多く、それぞれが面白く、しかも作品点数が非常に多く、 かなりの充実感があった。 ホームページ
ベルギー近代絵画のあゆみ 山梨県立美術館 2009/06/21 ベルギー王立美術館コレクションによる、15〜20世紀のベルギー絵画の特集。 バルビゾン派、印象派、新印象派、フォーヴと言った美術の潮流と、 フランス絵画との相互関係に注目して、展示が構成されていた。 個人的には、エミール・クラウスの海辺やアンリ・ル・シダネルの庭の幻想的な情景、 点描風の技法で描かれた一連の作品が印象的だった。 一方で、期待していた20世紀の絵画が殆ど含まれなかった (例えばデルヴォーやマグリットなどは一切なし)のは残念。 時間切れで、常設展示を観られなかったのが、やや心残り。 ホームページ
生誕100年 太宰治展 山梨県立文学館 2009/06/21 ◎ 太宰が住んだ町・甲府で開催されている太宰治展。 非常に力の入った展示内容で、過去何度かの太宰展の中でも、圧倒的な充実度。 太宰本人については勿論のこと、特に今回は、妻・美知子さんやその家族、 井伏鱒二や壇一雄などの同僚作家に関して、詳しい展示がなされていて、 私にとって今まで知らなかったことも非常に多かった。例えば、 『晩年』刊行に至るまでに、壇一雄の渾身の尽力があったこと。 『富嶽百景』冒頭の「富士の頂角」云々が、新婦・美知子さんの亡き父・石原初太郎さんの著作からの引用であったこと。 石原家の亡き長男・左源太さんと同年齢・同大学なのが、太宰が気に入られた一因であったこと。 『津軽』執筆に悩む太宰に、井伏鱒二の「ぼくだったら旅行するように書く」と言うさり気ない提案が奏功したこと。 田村茂による三鷹での有名な一連の写真が、一日の間に撮られていたこと。 御坂峠文学碑の直筆文字は、別の著作の原稿からの切り貼りであったこと。 美知子さんの資料整理と調査が、現在の太宰研究の確固たる基礎をなしていること。 等々である。 また、新聞にも載っていた17歳の時の写真を含め、新発見の写真も数点展示。 直筆の書簡や原稿、甲府市内の太宰ゆかりの場所の案内などを含め、 質・量ともに大満足。 ホームページ
ICCオープン・スペース2009 東京オペラシティ 2009/06/10 ○ NTTインターコミュニケーション・センターでの常設展示(無料)で、 コンピュータやネットワークを駆使した最先端の芸術表現を、 気軽に楽しむことができる企画。 観衆自身が参加するタイプの展示が多く、自分で操作して動かすもの、 自分自身が映像に写し込まれるもの、 自分の動きや位置によって状態に変化が起こるものなど、 自分が作品の一部になったような感覚を楽しめる。 また、都市や地球規模のセンサー情報によって刻々と変化し続けているような、 社会性のある作品もあり。 私にとって強烈に印象的だったのは「無響室」の体験。 完全な無音と言う状態が、本当に苦しい程の圧迫感を与えるものだとは、 自分で実感してみて初めて分かった。 ホームページ
さだまさし博覧会 池袋東武イベント広場 2009/06/10 さだまさしさんの新CDの発売記念として行われている、ミニ・イベント。 最初期から近年まで、歴代のコンサートポスター、写真、コンサートプログラムや ファンクラブ会報、色紙、数々の受賞記念品などに加えて、ギター、ヴァイオリン、 ステージ衣装、更には直筆の歌詞や楽譜などが、所狭しと並んでいて、 ファンには嬉しいものばかり。 個人的には、最も好きな歌の一つである「向い風」の直筆歌詞(昔のさださんの 丸っこい筆跡が懐かしい)や、 石井高さん製作によるヴァイオリン「ラ・ジュリアーナ」(ヘッドの天使が美しい) の現物を見られたのが嬉しかった。 ホームページ
日本の美術館名品展 東京都美術館 2009/06/10 ◎ 日本全国の公立美術館が誇る傑作を一堂に集めた企画。 北海道から九州まで全国津々浦々の美術館の選りすぐりの作品を、 ここで一挙に見られてしまう。 各館の自信作が集まっているだけあって、一点一点、 とにかく凄いものばかりが並んでいて、しかも200点を越える作品数で、 見応えも十二分。日本には、公立美術館だけでも、 質量共にこれ程までに充実したコレクションが存在していることを、 改めて感じ入った。 しかも単なる寄せ集めの展示にならないよう、近現代の西洋絵画・彫刻、 日本人による近現代の洋画・彫刻、日本画、版画と、区画毎に分類され、 それぞれ年代別に並んでいるので、一貫した美術史の流れの中で 作品を楽しむことができる。 加えて、一点一点の作品に、所蔵する美術館から寄せられたメッセージが 添えられていて、それぞれの作品に対する思い入れに満ちた文章が、 感動を更に増幅する。 ホームページ
ルーヴル美術館展 新国立美術館 2009/05/31 都内で同時に行われている二つのルーヴル展、 こちらは古代エジプト・ギリシャ・オリエントなどの出土品と、 15〜18世紀の西洋絵画からなる展示。 「美の宮殿の子どもたち」と題されている通り、 美術として表現されて来た子供の姿と言う観点で作品が選ばれていた。 ただ、あまりにもかけ離れた時代(数千年も)のものが並んでいるので、 全体としてはまとまりのない内容に思え、この構成案にはやや無理があったと思う。 ただ、個々の展示には面白いものもあり、子供について 時代や地域ごとに異なる習慣や風俗が、展示品から垣間見えるのが興味深い。 展示点数もかなり多く見応えはあったが、 かなりの混雑であまりじっくりは見ていられない状況。 ホームページ
万華鏡の視覚 森美術館 2009/05/15 ○ いろいろな傾向の現代アートを集めた展覧会。 表題は、「万華鏡」そのものの意味ではなく、 視覚と聴覚の組み合わせや、動と静の組み合わせなど、感覚の組み合わせによって 生じる面白さ、と言うような意味で使われている。 普通の絵画作品はほぼ皆無で、立体作品、動く映像の作品、音響作品、 空間全体が作品と化したもの、電気仕掛けの巨大な装置など、 美術館と言うよりは遊園地のよう。 じっと見ているよりも、鑑賞者が動き回りながら能動的に参加する ような楽しみがある。「美術」の堅苦しさはなく、むしろ娯楽性を感じさせる内容。 一点一点に解説が添えられているので、一見何が何だか分からないような 作品であっても、楽しむべきポイントを教えてもらた。 しかし逆に言えば、解説なしで純粋に楽しめたかどうか疑問に思われる作品もあった。 広い空間を占める作品が多いため、会場の広さの割に展示点数は多くなく、 量的には程良い感じ。 ホームページ
ジム・ランビー:アンノウン・プレジャーズ 原美術館 2009/05/04 ◎ イギリスの美術家、ジム・ランビー(1964-)の展示。 まず、館内のありとあらゆる床面が、うねるような白黒の縞模様で埋め尽くされている。 最初は強烈なコントラストに目が回るような感覚だったが、 やがて縞模様が何かの流れのように感じられてきて、 何だか心地良い感じになってしまい、ここに寝そべってみたい気さえした。 この床のあちこちに、レコードジャケットをコンクリートで固めた箱が転がっている。 作家自身はこの縞からレコードの溝を想起させられた由。 部屋や空間によって、切って塗って積み重ねた椅子や、開かず閉じずのドア、 モノクロ写真と油彩の花によるコラージュ作品、 手鏡やマットレスによるオブジェなどを配置。 どれも特別の美術品と言う感じがしないのに、非日常的でもあるのが面白い。 常設展示として、2階には奈良美智の個人部屋、宮島達男の7セグLEDの回廊、 須田悦弘の椿の花、3階にはレイノーのタイル張り部屋があり、 屋外にも多様な現代彫刻が点在。 現代アートの面白さを満喫させてくれる、何とも面白い美術館。 ホームページ
「バッハの素顔」展 相田みつを美術館第2ホール 2009/05/04 J.S.バッハの肖像を集めた企画展示。 有名な3種類の肖像画(の複製)や、後世に作られた肖像画(の複製)、 骨格から復元された頭部彫像(の複製)、 そして最新技術により復元された頭部のCG画像と胸像などが並べられている他、 バッハの生涯についてのパネル展示など。 加えて、当時の鍵盤楽器(クラヴィコード、ヴァージナル、フレミッシュおよび ジャーマン・スタイルのチェンバロ、何れも久保田彰工房による復元楽器)も。 展示点数が少ないことに加え、展示品の全てが複製品だったこともあり、 ちょっと拍子抜けの感あり。 もっとも、J.S.バッハ本人に関して、これ以上の時代資料が何も残っていないので、 仕方ないことか。 ホームページ
のだめカンタービレ♪ワールド 丸ビルホール 2009/04/30 「のだめカンタービレ」の世界を紹介する展覧会。 登場人物やストーリーを紹介するパネル展示や、取材写真、原画、 各国語に翻訳された本など、楽しい展示が並んでいた。 特に、再現された「のだめ部屋」の散らかり具合には、思わずニヤニヤさせられてしまう。 ただ、原作漫画に関する展示が大半なので、TVドラマ版しか知らない私には、 やや物足りない感あり。しかし逆に、登場人物たちが原作で 元々どう描かれていたのかを知ることができただけでも収穫だったとも言える (TVドラマの配役は、何と見事にはまっていたことか)。 また、直筆の原画の、スピード感がありながら的確極まりない筆致にも感服させらた (漫画家の腕の凄さを実感)。 ホームページ
マーク・ロスコ 瞑想する絵画 川村記念美術館 2009/04/30 ◎ アメリカの抽象画家マーク・ロスコ(1903-1970)の「シーグラム壁画」連作の 15点を一堂に集めた、空前絶後の企画展示。 鉄錆のような赤茶色の面の中に、門あるいは窓を思わせる紅色の四角形が滲み出した、 巨大な画面。これが、体育館ほどの広さがある空間の前後左右の、 見上げるような高さの位置に、ずらりと並べられている。 深い悲しみに包まれながらも、落ち着きが感じられる、 何とも言えない空間が出来上がっていた。 ロスコ作品は他にも、黒い面に黒い枠が描かれた深遠な作品や、 最晩年の作品、スケッチや書簡などが揃い、極めて充実した展示内容。 これだけの規模で展示されるのは最初で最後と思われ、まさしく貴重な機会。 大勢の人が居るのに、恐ろしい程に静まり返っていたのも印象的。 常設展示も、印象派から前衛美術まで非常に見応えがあり、 特に充実しているのがアメリカの抽象美術で、 正直言って楽しむべきポイントが分からないものも多かったが、 多種多様の作品が並んでいて面白かった。 中世の城館を思わせる美術館の建物や、 まるで公園のように池や自然散策路もある庭園も含めて、実に素晴らしい場所。 ホームページ
空襲と文学・神戸 神戸文学館 2009/03/26 神戸に関わる作家や文学作品について展示する、 元は関西学院のチャペルだった1904年建立のレンガ造りの美しい建物。 明治・大正・戦前・戦中・戦後・震災後の年代順に、神戸に住み、 あるいは訪れた文学者や、神戸の風景を描いた文学作品についての資料が並ぶ。 少年時代を神戸で過ごした遠藤周作については、評論の自筆原稿などを展示。 期待していた須賀敦子さんに関する展示が一切なかったのは残念。 表題の企画展示では、終戦までの半年間に何度も空襲に見舞われ、 甚大な被害を被った神戸について、当時の記録や写真をパネル展示すると共に、 空襲を描いた文学作品を紹介する。 焼夷弾の現物も展示され、米軍がいかに効率的に日本家屋を焼く尽くすかについて 研究していたことなど、非常に重みのある展示内容。 ホームページ
古地図に描かれた世界・アジアと日本 神戸市立博物館 2009/03/26 ◎ 16世紀から18世紀にかけて当時のヨーロッパで刊行された世界地図を、 特に日本の描かれ方に着目して展示・解説する。 極東に在ると言う謎の国だった日本が、一つの丸い島から徐々に変形されて 識別されてゆく様子が、非常に面白かった。 日本がこのような形として認識されたのは、まだつい最近のことと知った。 特に興味深かったのは、地図上で日本がまた形作られていなかったような時代に、 「琉球」だけはいち早く識別されていたこ。 確かに沖縄が早くから東西の交易の拠点であったことがよく分かった。 古地図の一点一点がかなり面白く、しかも興味を誘う解説が付されているので、 ついつい閉館時間ギリギリまでじっくり見入ってしまった。 博物館は、神戸市の旧居留地にある、1935年建立の重厚な白亜の建築物。 ホームページ
石川大浪と歌川国芳展 神戸市立博物館 2009/03/26 ◎ 幕末期に西洋文化の影響を強く受けながら自身の画風に融合させて行った 二人の画家の作品を紹介。 石川大浪は。蘭学者との共同作業の中から、西洋の実写的な絵画技法を身に付けた人。 水墨画でありながら、描写はすっかり西洋画のようで、 しかも欧文のサインが入っていたりして、 時代の先端を必死で取り込もうとした様子が伝わって来る。 歌川国芳は、浮世絵師でありながら解剖学や遠近法などを画面に取り込んでしまった人。 とりわけ、洋書の挿絵を換骨奪胎して日本の物語の場面に仕立ててしまうとは、 何と斬新な発想の持ち主だったことか。 二人の姿を通して、押し寄せる西洋文化の波に大きく揺り動かされていた 当時の日本の姿が伝わって来る。 ホームページ
写実と幻想 ベルギー近代の美術 姫路市立美術館 2009/03/25 ◎ 19〜20世紀のベルギー美術を展示。 写実主義と表現主義から、象徴主義、シュルレアリスムへと、 脈々と続く美術表現の系譜を辿れる。 埼玉県立近代美術館でのベルギー美術展(2000年)の時に貸し出されていた作品にも 多く再会。とりわけ、 ドゥグーヴ=ド=ヌンクの「夜の中庭あるいは陰謀」の青く不穏な暗闇には、 今回も強く引き込まれた。 また、デルヴォーやマグリットの作品群の充実度はかなりのもの。 更に、現代の作品も多く展示され、特にポール・ピューリの旋回するコラージュ作品や チラチラと微動するオブジェには、奇妙な不安感のようなものを掻き立てられた。 展示点数は100点以上にのぼり、しかもほぼ成立年代順の作品分類が分かり易く、 かなりの見応えがあった。 ホームページ
城崎文芸館 兵庫県豊岡市 2009/03/24 城崎温泉街を舞台に『城の崎にて』を書いた志賀直哉をはじめとした白樺派の人々や、 この地を訪れた古今の文士たちに関する資料を展示。 この街の情緒が文士たちを誘うのか、採り上げられる文士の数は意外にも多いが、 資料自体には正直それほど見るべきものはない。 二階の一室には城崎温泉に関する歴史資料が展示され、 昔の写真や、内湯をめぐる訴訟事件の資料など、こちらはかなり興味深かった。 入口手前には手湯・足湯の設備があるが、現在は休止中。 なお、温泉街から山に向かって2km程先に、『城の崎にて』に登場する 「桑の木」があるが、今冬の雪で倒れたそうで切り株しか残っていない。 何れにせよ現地は、瀕死の療養者が散策するには随分遠い所。 ホームページ
中村ちとせ 銅版画展 高崎市・ギャラリーART G 2009/03/20 ○ 「旅を愛する銅版画家」中村ちとせ(1958-)の展覧会。 落ち着いた上品な色合いの具象版画。 やや模式化した動物や植物などの姿と、装飾的な模様と、 面をいくつかの部分に区切って構成された作品が多かった。 空想的で、どこかメルヘン風でもある。 手のひらサイズのものから、それなりに大きなものまで、大きさはいろいろ。 銅版画と言っても、どちらかと言えば細密系ではなく、大らかに色の面が作られていた。 どの作品も、見ていて落ち着いた心地よい気分にさせてくれるもので、自分の部屋にあったらよいなあ、とさえ思ってしまった。 ホームページ
やなぎみわ マイ・グランドマザーズ 東京都写真美術館 2009/03/14 現代美術家・やなぎみわの作品展。「マイ・グランドマザーズ」と題した、 「自身の半世紀後の姿」を想像して若い女性が老婆に扮した 大きな写真シリーズが展示されている。空想のような妄想のような、 グロテスクで不気味で、何とも不可思議な世界が展開。 写真は、どれも巨大で、しかも不自然に色鮮やかなので、違和感は更に強まる。 一点一点に短い文章が添えられ、場面の説明になっているようなものもあれば、 詩のようなものもあり、それが何とも意味深長に思える。 展示点数は全26点(と動画1点)と多くはないが、これ以上沢山あったら 目が回ってしまいそうで、これで充分かも。 ホームページ
有元利夫展 小川美術館 2009/02/26 ◎ 私の最も好きな画家である有元利夫さん(1946-1985)、その命日に合わせて 毎年行われている彌生画廊・小川美術館での展覧会。 画家本人の作曲による「ロンド」が静かに流れる空間に、静かな印象の有元作品が ずらり並んでいる。大きなものから小さなものまで、絵画に加えて 立体作品も多少展示されていた。 今回は、「花降る日」「厳格なカノン」「一人の夜」「ロンド」など 個人的にお気に入りの作品も揃っていて、まさに至福の気分にさせてくれる空間。 勿論監視の人はいるが、作品をじっくり間近で見せてもらえるのが 本当に嬉しく、有り難い。 ホームページ
20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代 Bunkamuraザ・ミュージアム 2009/02/26 ○ ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館のコレクションから、 20世紀前半の絵画作品を展示。 表題になっているクレーやピカソの作品の他、マティス、シャガール、マグリット、 ミロなどの有名どころや、ドイツの重要な画家たちも含めて、 多種多様な作品が集まっていた。 表現主義、キュビスム、シュルレアリスム、抽象絵画への流れ、と言うように 系統立てて構成されていたものの、全体として見るとやや寄せ集め的な印象。 しかし、個々の作品の質は高かったように思われ、見応えがある内容ではあった。 いつでも込んでいるこの美術館にしては、この日は割に空いていて、 ゆっくり見られたのがよかった。 ホームページ
氾濫するイメージ うらわ美術館 2009/01/25 ◎ 「反芸術以後の印刷メディアと美術 1960's-70's」と題して、1970年前後の 日本の前衛美術の動きを、特に出版物やポスターなどに着目して集めた展覧会。 採り上げられた美術家は、赤瀬川原平、粟津潔、宇野亜喜良、木村恒久、 タイガー立石、つげ義春、中村宏、横尾忠則の計8人。 それぞれの作家毎に展示の区画を分けることで、各自の作風や特徴がよく分かるように 構成されていた。美術の枠を越えて、演劇や文学や音楽から、商業美術、 更には漫画などの大衆娯楽に至るまで、さまざまな文化と密接に絡み合いながら、 時代を動かそうとしていた当時の前衛旗手たちの意欲が、生々しく伝わって来た。 反体制的で、挑発的で、過激で、皮肉で、実験的で、扇動的で、 目くるめく変わっていたあの時代の濃密な空気が、会場内に満ちている。 ちょうど自分の生まれた頃はこんな風だったのだなと、改めて感じられた。 ホームページ
作家王国 下山直紀・柳澤裕貴 ―ココではないドコカ― 高崎市美術館 2009/01/10 ◎ 群馬県ゆかりの美術家を紹介するシリーズ企画「作家王国」、 今回は下山直紀(彫刻)と柳澤裕貴(絵画)の二人で、 両者共に現代性がありながら親しみ易さがあって極めてよかった。 下山直紀(1972-)の作品は、木彫に彩色された動物像で、 一見リアルなようでいて、置かれた環境によって変形させられていたり、 植物と一体化していたり、どこか開放されない悲しみのようなものが感じられる。 それぞれの作品には、意味深長な長い表題が付けられていた。 柳澤裕貴(1962-)の作品は、公園や街路を歩く母娘の姿を、 光と影のモノトーンで描き出したアクリル画。 構図自体は完全に写実的でありながら、浮かび上がる情景は幻想的。 極端な明暗のコントラストにも関わらず、優しさや温かみが滲み出る。 場面はどれも、県内の実在の場所とのこと。 ホームページ

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(紺野裕幸)

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