◎=絶賛 ○=よい
2007 |
タイトル |
場所・会場 |
日付 |
内容・感想 |
浜口陽三名品展 光の果物たち |
ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション |
2007/12/09 |
◎
銅版画家、浜口陽三の個人美術館。
カラーメゾチントと言う技法による、細密極まりない静物画が主で、
レモン、ぶどう、さくらんぼ、西瓜などが、淡い色彩で暗闇の中に浮かび上がる、
独特の雰囲気を湛えている。
現在は「浜口陽三名品展・光の果物たち」と題して、代表作を40点ほど紹介。
他に併設展として、川瀬巴水、伊藤深水など昭和初期の木版画が展示されていた。
小さな美術館で、展示室は1階と地下に一部屋ずつあるだけだが、
元々小さい作品が多いこともあって展示点数は意外に多く、見応えがあり。
ごく間近でじっくり見せてもらえるのもよい。
彩色も暗闇も、色の面に濃淡の揺らぎがあり、近くで見れば見るほど
それが心地良く感じられ、何とも言えない穏やかな情感に満ちている。
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シュルレアリスムと美術―イメージとリアリティーをめぐって |
横浜美術館 |
2007/12/01 |
○
シュルレアリスム運動の大きな流れの中で、美術の世界に何が起こったのか。
代表者と目される美術家たちは勿論のこと、先駆けの時代から、後世への影響まで、
シュルレアリスム運動の全貌を俯瞰しようとする展示。
マグリット、キリコ、アルプなど個々の作品としてはよいものが集まっていた一方で、
何でここにあるのかあまり関係なさそうに思える作品も少なくなく、
対象となる時代や傾向の範囲を拡げ過ぎて全体にやや散漫な感じ。
常設展示は夏に来た時とすっかり同じ内容(但し順路がすっかり逆)。
アートギャラリーでは、美術館ボランティアが出逢った「若きアーティスト」展
と題して、全く作風の異なる3人の若手作家の作品を並べて展示。
特に日根野裕美の空虚感漂う儚げな少女象は印象的。
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ひめゆり平和祈念資料館 |
沖縄県糸満市 |
2007/10/26 |
◎
映画『ひめゆり』(→2007/06/02)
を観て以来の念願の場所。
「ひめゆりの塔」は米軍のガス弾攻撃によって
多くの学徒が殺された「伊原第三外科壕」の場所にあり、
「ひめゆり平和祈念資料館」はここに隣接。
当時の世界情勢や、日本の情勢、その中で沖縄がどのように位置付けされていたのか、
その中で学徒たちがどのように翻弄されて行ったのかなど、明快に説明される。
残念ながら遺品など当時のものは多く残っていないが、写真や映像、
再現された当時の壕の様子、生還者の証言ビデオなどによって、
当時の様子が生々しい程に伝わって来る。
幸運にもこの日、元学徒である前野喜代さん(映画でも語っている方)のお話を
(途中からだが)直接聞くことができ、戦争を知らない人たちに向けた
切実な語りかけに、どうしようもないほど胸を打たた。
何があろうと絶対にこんなことを繰り返してはならない。
一方で、完全に観光地化された周囲の様子には甚だ違和感あり。
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福原信三と美術と資生堂展 |
世田谷美術館 |
2007/09/24 |
○
美術と深く関わってきた、資生堂という企業の営みを振り返る企画展。
資生堂ギャラリーで展示された画家たちの作品、
写真家でもあった初代社長・福原信三の写真作品、
パッケージやボトルのデザイン、ポスターやコマーシャル、
支援してきた美術家たちの作品など、
その時代時代の「美」に携わってきた企業ならではの、多彩な展示内容。
何よりも、これだけ多くの資料を、よい状態で保存し続けて来た
企業の姿勢に驚かされる。
美しい香水のガラス壜のコレクションや、
専属の広告デザイナー山名文夫による装飾的な広告など、
見とれるようなものも多数。
収蔵品展は、「夢からの贈り物」と題して、ルオー、長谷川潔、駒井哲郎などの
銅版画を特集。特に、ルオーの「サーカス」の試し刷りのシリーズでは、
あの重く暗い作品の制作途中に、パステル調と思えるような色彩の段階があるのが、
何とも不思議で面白い。
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三沢厚彦「アニマルズPLUS」展 |
高崎市美術館 |
2007/09/09 |
○
木彫の動物の展覧会。
館内に入ると、いきなり巨大な象やキリンなどが出迎えるのだが、
身長の倍くらいはありそうか感じで、さすがに迫力あり。
作品には、このような巨大なものもあれば、犬や猫など普通(?)の大きさのもの、
更に小さな蛙なども。
一見リアルな像のようでいて、顔つきは全然リアルさを狙っていなくて、
どれも目付きが悪い感じになっている。
鳥やモモンガが宙に吊ってあったり、ヤモリが壁に貼り付いていたり、
展示方法が凝っていて、ある展示室では何十匹もの犬や猫が一斉に
自分の方を睨み付けるかのように配置してあって、一瞬ぎょっとさせられた。
小さな美術館で展示品の数は多くないが、誰でも楽しめる内容。
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北見隆展 |
高崎シティギャラリー |
2007/09/09 |
◎
主に本の装丁や挿画やポスターなどを手掛けている人。
絵や版画、額縁の中にモノを貼り付けた半立体の作品、彫刻や彫塑の立体作品など、
色々な傾向の作品が数多く展示されていた。
どれも、どこか不思議な感じが漂いながらも、難解ではなく、空想的で、
意味深長な感じもあって、何となく楽しい気分にさせてくれるものばかり。
古典的な印象なのに(わざと画面を古風に仕立ててあったり、
廃材を貼り付けてあったりするせいもある)、
内容はどれも斬新だったりシュールだったり。
私にはかなり好きな作風です、立ち去るのが惜しい気分。
通りがかりにたまたま訪れたのだったが、予想外の大収穫。
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解き放たれたイメージ「サーカス展」 |
損保ジャパン東郷青児美術館 |
2007/09/01 |
○
サーカスを題材にした20世紀美術を集めた展覧会。
クレー、レジェ、ピカソから始まって、ビュフェ、ルオー、シャガール、マティス、
更には安井曽太郎など邦人作家の絵画や版画、加えて写真や立体など、
非常に多面的な展示内容。
特に、私の好きなルオーやビュフェは、良いものを揃えていた。
作品の中で表現されているサーカスは(ルオーやビュフェやピカソは勿論、
それ以外も)、どちらかと言えば華やかさや楽しさよりも、
むしろ旅芸人の悲哀のような趣が滲み出ているものが多く、
それが私にはよかった。
常設展示は、グランマ・モーゼスと東郷青児の作品が数点ずつ。
他にお馴染みゴッホ、セザンヌ、ゴーギャンの3点セットは相変わらず特別室に安置。
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ル・コルビュジエ展 |
森美術館 |
2007/08/19 |
◎
近代建築界の巨匠、ル・コルビュジエの大規模な回顧展。
構想図や設計図、写真や映像、模型、絵画、家具の実物、
更には建築物の内部の再現など、あらゆる手段を駆使して、
この人の仕事の全貌を紹介する。
家具から都市構想まで、彼の仕事は極めて広範囲に渡り、
特に都市計画や自動車デザインなど今見ても近未来的に思えるものがあり、
いかに彼の思想が時代を先取りしていたかがよく分かると共に、
当時これが受け入れられなかったのは無理もない気がした。
建築にせよ都市計画にせよ、数多くの構想にも関わらず、
実際に実現したものがあまりにも少ないのは残念だが、
会場では実在しないそれらの完成型をCGによるリアルな映像で見せてくれた。
生涯に渡って描き続けた絵画もかなりの量が展示されていたが、
ピカソ風とかレジェ風と言った感じの作品が多く、あまり個性は感じられず。
彼がデザインした椅子に座ったり、設計した集合住宅に入ったり、
晩年を過ごした狭い小屋に入ったり、
実際に体験できるものが多かったのも嬉しい。
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NHK日曜美術館30年展 |
静岡県立美術館 |
2007/08/12 |
○
NHK教育TV「日曜美術館」が番組で採り上げた絵画や彫刻などを、
番組の抜粋(パネルと映像)を併用して展示。
TVで観ている時とは異なって、実際に作品の現物をすぐ横で見られるのは、
非常に貴重な体験と言える。
番組で採り上げた作品の多用さに呼応して、色々な傾向や種類の作品が集めてある。
私にとっての収穫は、
田中一村(事実上この番組が世に知らしめた人)の作品2点(生で見たのは初)と、
敬愛する遠藤周作さんがルオー作品の魅力について語る映像。
常設展示として日本画特集があり、更にロダン館なる別棟にてロダン作品を集中展示。
天窓から外光が差し込む立体的な構成の空間に、
非常に沢山の大きなブロンズ像が点在している風景は、なかなかの壮観。
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石田徹也「悲しみのキャンバス」展 |
静岡県立美術館 |
2007/08/12 |
◎
現代社会の歪みや悲しみを代弁するかのような意味深長な場面を、
まるで現実のような超現実の場面の中に描き出す、
石田徹也(1973-2005)の集大成的な展覧会。
出身県である静岡の県民ギャラリーでの無料展示と言う位置付け。
膨大な数の作品が、かなりの高密度で展示され、
中には画集に未掲載の作品も多く含まれていた。
サイズは色々だが概ね大きなものが多く、しかも細密で生々しく、
次々と見て行くうちに頭がクラクラしそうな感じがして来た。
若くして亡くなってしまったことを極めて残念に思いつつも、
これだけの作品を描いてしまったのだから、
もう「成し遂げられた」とも思えなくもない。
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森村泰昌「美の教室、静聴せよ」展 |
横浜美術館 |
2007/08/04 |
◎
名画の中の人物にご自身が扮する作風で有名な、森村泰昌の大規模な展覧会。
展示は「1時間目」から「6時間目」までの教室に分けられていて、
貸与されたガイドレシーバーから聞こえる氏の講義に従って、
順番に教室を巡って行く仕組み。
フェルメール、ゴッホ、レンブラント、モナリザ、フリーダ・カーロ、ゴヤと、
笑ってしまうようなものからシリアスなものまで、とにかく楽しませながら、
しっかりと氏の芸術観を伝えいる。
絵の中の人物に成り切るために作られた装置や道具なども公開されていて、
種明かし的な面白さも味わえた。
最後の「放課後」は、絶叫する三島由紀夫に扮した氏の映像だが、
ラストシーンはまるで巧みな映画のよう。
最後に卒業試験があり、私は80点だったが卒業証を頂戴した。
常設展示も、写真や現代アートから日本画まで、質量共にかなりの見応えあり。
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モディリアーニと妻ジャンヌの物語展 |
Bunkamuraザ・ミュージアム |
2007/06/02 |
◎
モディリアーニと妻ジャンヌ、二人の画家の作品を紹介しながら、
二人の生涯を明らかにしてゆく。
モディリアーニが亡くなった直後に妻のジャンヌが自殺したことは有名だが、
ジャンヌも画家であった事実はあまり知られていないようで、
私自身も勿論知らなかった。今回の展示作品の半分強はジャンヌの作品で、
夫の影響も受けながらも、しかし確かに自身の作風を確立している、
若くして才能ある画家であったことが、はっきりと分かる。
勿論、モディリアーニの作品も魅力的なものが揃っていて、
特にジャンヌを描いた数点の中で「ジャンヌ・エビュテルヌの肖像」と題された
温かな色彩の肖像画には、絵から浮かび上がるえもいわれぬ幸福感に、
観ていて目頭が熱くなった。
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サン=テグジュペリの星の王子さま展 |
松屋銀座 |
2007/05/02 |
『星の王子さま』を中心に、サン=テグジュペリの人間像を紹介しようとする展覧会。
何と言っても見どころは、サン=テグジュペリ直筆の手紙やデッサン等。
特に手紙の中には、やがて「王子さま」へと結実する思われるイラストが
いくつも含まれている(手紙の翻訳が添えられていないのが残念)。
展示総数は決して多くないが、『星の王子さま』の習作の絵も含めて、
本人の肉筆を生で見られたことだけでも貴重な機会。
しかし、これらの資料展示は全体のほんの一部に過ぎず、
他は、『星の王子さま』の解説や、舞台や朗読による『星の王子さま』の紹介、
最初の訳者である内藤濯氏の紹介などで、
これらは単なる展示点数の水増しにしか思えない。特に、
オブジェや演出装置の類は、本や作者の意図からかけ離れているように思う。
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シュルレアリスム展 謎をめぐる不思議な旅 |
埼玉県立近代美術館 |
2007/03/17 |
○
シュルレアリスム運動の全貌を、4つの観点からなる展示構成によって紹介。
シュルレアリスムと言うと、これまで私は「デペイズマン」の作品ばかり
思い浮かべていたのだが、実際にはそれはほんの一部に過ぎず、
もっと広範囲で多様な運動なのであった。
展示作品も、マグリット、ダリ、エルンスト、ミロ、デルヴォー、アルプなど
それなりに馴染みのあるものから、今回初めて目にした名前まで沢山。
不安な社会情勢の中で、根源的な「現実」に立ち向かおうとした、
思想的で知的な運動の本質が徐々に分かって来た。
学芸員によるギャラリートークでは、
この運動が、内容的には文学・絵画・写真・映画などの分野に、
空間的には世界中の地域に、広い拡がりと影響力を持っていたことを知った。
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有元利夫展 |
小川美術館 |
2007/03/10 |
◎
彌生画廊・小川美術館には初めての訪問。
館内の大小5つの空間に、有元さんの絵画作品がゆったりと配置され、
合間に彫刻や陶芸の作品や、残された画材なども展示。
現代的でありながら古風でもあり、淋しそうでありながら楽しそうでもある、
えも言われぬ情感を湛えた作品群を、のんびりと心ゆくまで楽しませてもらった。
有名な傑作の数々は勿論のこと、過去の有元展では観た覚えのない作品も
いくつか含まれていた。
絵の中の静かな世界と同様に、美術館の中も非常に静かで落ち着いた雰囲気。
館内では、有元さん自身の作曲による『RONDO』のハープによる演奏が
ひっそりと流れていた。このCDもここで購入可能。
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巴里憧憬―エコール・ド・パリと日本の画家たち |
埼玉県立近代美術館 |
2007/01/13 |
◎
1920年から1940年にかけての「エコール・ド・パリ」の時代を、
様々な想いでパリに集った「異邦人」画家、
特に日本人の画家たち、と言う観点から紹介。
第1部では、モディリアーニ、キスリング、シャガール等の人気画家たちの作品を展示。
作品数は多くないが、国内にある選りすぐりの作品が集められていて、見応えあり。
メインの第2部では、日本人画家たちの作品を、その渡欧の立場によって分類して展示。
当時、非常に多くの日本人画家がパリに渡っていたこと、
それぞれの立場の中でそれぞれのパリを見つめながら苦難の中を闘っていたことが、
有名・無名の沢山の作品の中から実感的に伝わって来る。
展示の構成がよく練られていて、その濃密な時代の中で
奮闘していた画家たちの姿が偲ばれて、非常に感動的。
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スーパーエッシャー展 |
Bunkamuraザ・ミュージアム |
2007/01/06 |
だまし絵で有名なオランダの版画家エッシャーの展覧会。
とにかく物凄い混雑。結局入場から2時間半が過ぎて閉館時間になっても、
ついに最後までたどり着けず、何だかひどく疲れた。
その元凶は間違いなく、貸し出されている任天堂DS使用のガイドレシーバー。
絵自体よりも端末に見入っている人々の姿はいささか異様で、
しかも液晶画面の明かりは目障り。
試みとしては面白いが、よい結果を生み出しているとは到底思えない。
展示内容自体は、作品を系統立てて紹介していて、展示点数も多く充実。
有名なだまし絵の作品群を生み出すに至るまでの、過程や背景を知ることができた。
作品の性質から言って感動と言うのはないが、
作品の精緻さや独創性には感嘆させられる。
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