映画寸評 2007年

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2007年 私的ベスト3: 絶対の愛サイドカーに犬ひめゆり (次点) それでもボクはやってないリトル・ミス・サンシャイン


◎=絶賛 ○=よい
2007
タイトル データ 鑑賞日 感想
Little DJ 小さな恋の物語 2007日本 (監)永田琴 (出)神木隆之介、福田麻由子、広末涼子、西田尚美、石黒賢、原田芳雄 2007/12/28 シネマテークたかさき ◎ 函館の病院で、昼休みの放送としてDJを担当することになった長期入院中の少年と、 同じく入院中で放送を楽しみにしている一つ年上の少女、 それに入院患者やスタッフや家族たちの織り成す、叙情的な物語。 プロ野球解説の物真似が得意だった少年は、入院先の病院で、 ふとしたきっかけから館内放送でDJを担当することに。 賛否両論だった患者やスタッフたちも、徐々に放送で元気付けられるようになり、 それに応じて彼自身もDJに喜びを感じるようになる。 しかし、残念ながら彼の病気には悪化の兆しが現れていた。 私も深夜ラジオが好きでよく聴いていたし、主人公たちとほぼ同年代 と言うこともあり、ちょっとした場面でさえも過剰なまでに感動させられてしまった。 更に、その回想を縁取っている現代の場面が感動を増強する。 ホームページ
PEACE BED アメリカVSジョン・レノン (THE US VS JOHN LENNON) 2006アメリカ (監)デヴィッド・リーフ&ジョン・シャインフェルド (出)オノ・ヨーコ、ジョン・ウィーナー 2007/12/19 熊谷シネティアラ21 ○ ジョン・レノン&オノ・ヨーコ夫妻の平和・反戦活動と、 彼らを監視し抑圧したアメリカ政府との攻防についてのドキュメンタリー。 彼らがこれ程までに積極的に、しかも自分たちの置かれた立場と影響力を活用して 発言や行動をしていたとは知らなかった。 やや神格化され過ぎの感もあるが、このように果敢に闘い続けたからこそ、 没後数十年を経た今でも人気が持続しているのだろう。 一方、アメリカと言う国がやっていたことは、卑劣そのもの、 どこが「自由」の国なのだろうか。 使われている彼らの音楽はどこかで聞いたことのあるものが多く、 それらがしかるべき場面で訳詩を伴って流れてくると、 それぞれの曲も持つ意味がよく分かる気がした。 ホームページ
カンナさん大成功です! (200 POUNDS BEAUTY) 2006韓国 (監)キム・ヨンファ (出)キム・アジュン、チュ・ジンモ、イ・ハヌィ 2007/12/15 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 才能はあるものの容姿には恵まれない裏方歌手の女性が、 全身の整形手術によって絶世の美女に変身し、 歌手として華々しくデビューするまでの物語。 コメディっぽい雰囲気なのは最初の方だけで、 全体的には主人公の女性の悲哀に焦点が置かれている。 整形に対して肯定派にせよ否定派にせよ、 この主人公の思い悩む姿を目の当たりにすれば、 誰でも同情あるいは共感の念を禁じ得ないだろう。 生まれ変わった筈の女性がかつての自分への嫉妬の念を抱いて揺れ動くあたりは 『絶対の愛』(→2007/03/10) に似ているが、今回はあれほどの狂気が漂っていない分だけ、 むしろ主人公の悲しみが身近に感じられた。 人間の本質と内面と外見との関係について、 否応なしにいろいろ考えさせられてしまう。 ホームページ
君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956 (Szabadsag, szerelem / 愛、自由) 2006ハンガリー (監)クリスティナ・ゴダ (出)イヴァーン・フェニェー、カタ・ドボー、シャーンドル・チャーニ、カーロイ・ゲステシ、イルディコー・バーンシャーギ 2007/12/09 シネカノン有楽町2丁目 ◎ 1956年のハンガリー動乱に翻弄された、水球のオリンピック選手と、 革命を率いる女学生の悲劇の物語。 ソ連抑圧下のハンガリーで、自由と独立を求めた学生たちは、 大衆を巻き込んで徐々に勢力を増し、ついに武装蜂起する。 冷やかし半分だった水球選手の男も、女学生の真剣さに感化され、 ついに選手団を脱退して運動に参加。 多くの犠牲の末に、ついに戦闘は終結。 それを見届けた選手団はメルボルン五輪へと出発するが、 束の間の平和は間もなく打ち砕かれてしまう。 ソ連選手に快勝を重ねて湧き上がる水球の場面と、 ソ連軍に蹂躙される悲惨な祖国の場面との交代が、 強烈なコントラストをなして心に突き刺さる。 日本にはない、闘って勝ち取った「自由」の重みを感じる。 ホームページ
ある愛の風景 (Brodre / Brothers) 2004デンマーク (監)スサンネ・ビア (出)コニー・ニールセン、ウルリッヒ・トムセン、ニコライ・リー・コス 2007/12/09 シネカノン有楽町2丁目 ◎ 国連軍の兵士である夫が、派遣先のアフガニスタンで撃墜死した、 との通知を受け取り、茫然自失の妻。 一方で義弟は、兄の死をきっかけに自堕落な生活を改め、 義姉や姪たちの生活の支えになろうとしていた。 そんな中で、実は捕虜として生き残っていた夫が突然の帰還を果たすが、 彼は戦場での悲惨な記憶を抱え込んだまま、家族に暴言や暴行を繰り返す。 夫も妻も娘たちも義弟も、どうにかしたいと思っているのに、 どうしてよいのか分からないまま、事態は悪化するばかりで、 それぞれが必死であることが分かるだけに、見ていて本当に辛いものがあった。 真剣なラストシーンの先に再生への希望が見えるのがよいです。 ホームページ
約束 (OVER THE BORDER) 2006韓国 (監)アン・パンソク (出)チャ・スンウォン、チョ・イジン、シム・ヘジン、ソン・ジェホ、ユ・ヘジン 2007/12/01 新宿ガーデンシネマ ◎ 脱北した恋人たちを見舞う非情な運命の物語。 北朝鮮で将来を約束し合った二人。韓国での再会を約束して、まず彼が亡命するが、 彼女を呼び寄せる手筈が整わない内に、彼女が北で結婚したとの話が伝わって来る。 失意の彼は南の女性と結婚してしまうのだが、間もなく彼女が亡命して来ていて、 しかも結婚していなかったことが判明する。 それぞれ誰にも悪気などないのに、運命の悪戯が招いたこのどうにもならない 三角関係に、見ている自分自身も誰に味方してよいのか分からなくなってしまって、 本当に気が揉めて揉めて仕方なかった。そして迎える結末の奥深さよ。 ホームページ
ノートに眠った願いごと (秋へ、Trace of love) 2006韓国 (監)キム・デスン (出)ユ・ジテ、キム・ジス、オム・ジウォン 2007/12/01 シネマート新宿 ◎ 亡くした恋人を巡る、切なく悲しく、そして美しい物語。 デパート崩落事故で婚約者を失った男。十年を経ても立ち直れない彼は、 彼女が遺した手帳に記されていた新婚旅行の旅程表に従って一人旅してゆくが、 訪れる先で何故かいつも同じ女性を見かける。 やがて両者は、それぞれが旅する理由である悲しみを共有することになるのだった。 何よりも、海、砂丘、山岳、庭園、古刹、紅葉の道など、 行き先の風景が非常に美しい。そんな美しさの中だからこそ、 決して消し去ることのできない心の傷を抱えてしまった人々の やり場のない苦悩と後悔が、際立って深く感じられた。 ホームページ
図鑑に載ってない虫 (THE INSECTS UNLISTED IN THE ENCYCLOPEDIA) 2007日本 (監)三木聡 (出)伊勢谷友介、松尾スズキ、菊地凛子 2007/11/24 シネマテークたかさき 数十秒に一度はくだらな過ぎるギャグが振る舞われ、しかもことごとく脱力系。 このバカバカしさは、半端でない。 これだけ徹底的にやられると、呆れを通り越して、完全に脱帽の域。 ここまでお馬鹿な映画を、私はかつて見たことがなかった。 ストーリー自体は、一度死んで間もなく生き返る(ので臨死体験ができる)と言う 「死にモドキ」なる妙薬を求めてさまよう、奇人集団の旅の珍道中なのだが、 かなり荒唐無稽かつ支離滅裂。むしろ、話の筋なんてどうでもよいと思わせる。 新たなる未体験ゾーンに我々を誘ってくれる凄い映画ではあった。 ホームページ
ミッドナイトイーグル (MIDNIGHT EAGLE) 2007日本 (監)成島出 (出)大沢たかお、竹内結子、玉木宏、吉田栄作、袴田吉彦、大森南朋、石黒賢、藤竜也 2007/11/24 熊谷シネティアラ21 ○ 長野の雪山に墜落したステルス爆撃機、これに積まれた核爆弾による大規模テロを企む 「工作員」に対して、現地に向かったカメラマンやジャーナリストとその家族たち、 秘密裏に遣わされた自衛隊員、国家機密に揺れる政府中枢部、 それぞれの緊迫した攻防が展開される。 話は甚だ大袈裟で、格好よくまとめ過ぎていて、 しかも一種の美化が行われているきらいはある。 しかし、登場人物それぞれの負った任務と、真っ直ぐな想いの故に生じる深い苦悩に、 じわじわと泣かされてしまった。 極寒の雪山、雑多な編集室、静かなアパート、厳粛な政府官房など、 全く異なる場所が切り替わるコントラストが鮮やかで、物語を劇的に盛り上げていた。 ホームページ
愛は迷走中―Call For Love (愛情呼叫転移) 2007日本 (監)ジャン・ジエンアー (出)シュウ・チェン、ファン・ビンビン、ホアン・ションイー、伊能静、チン・ハイルー 2007/11/23 熊谷文化創造館さくらめいと ○ 「第6回彩の国さいたま中国映画祭」作品。 退屈だからと言う程度の理由で離婚した男が、 ボタンを押すだけで美女に会えると言う不思議な電話を手に入れ、 様々な女性と会うと言うコメディ。 会った女性は揃ってどこか変人ばかりで、それに振り回される男の姿が滑稽で、 笑いを誘う。 そんなこと続く中で、男はようやく自分の足元を見つめ直してゆくのだった。 良くも悪しくも、いかにも中国コメディ映画と言う感じで、即ち 女性は美女揃いの一方で、男はどうも冴えない風貌で、 コメディとしての弾けっぷりがちょっと足りない感じ。 とは言え、現代中国の市民生活の様子を垣間見られるのが良い。 ホームページ
公園 (The Park) 2007中国 (監)イン・リーチュアン (出)リー・ジア、ワン・ダーシュン、ワン・シェビン、シィー・タオ 2007/11/23 熊谷文化創造館さくらめいと ◎ 「第6回彩の国さいたま中国映画祭」作品。 年頃を過ぎた一人娘のよい結婚相手を見付けるため、 公園で繰り広げられている親同士の「見合い」の場に足を運ぶ老いた父親と、 仕事に追われながらも気ままに暮らしたい娘との関係が、淡々と描かれる。 結婚する気のない子供と、気を揉み干渉する親、この状況に、 どうしても自分自身を重ねて見てしまい、他人事とは思えず。 特に娘の気持ちにはよく分かる所もあって、一方で父親の考えも理解できるので、 何だか切実に身につまされた。 画面の切り取り方に監督のセンスの良さを感じる。娘役や父親役の俳優も好印象。 ホームページ
拍手する時に去れ (Murder, Take One) 2005韓国 (監)チャン・ジン (出)チャ・スンウォン、シン・ハギュン、シン・グ、キム・ジス 2007/11/18 イオンシネマ太田 ◎ 「韓流シネマ・フェスティバル2007」作品。 ホテルで発見された若い女性の刺殺死体。 この事件の真相を追うカリスマ検事と、 二転三転する容疑者たち、更に彼らを取り囲む様々な人々との、 約48時間の攻防がスリリングに展開される。 最初の容疑者は容疑を否認するものの、検事は彼を疑って執拗に追及、 しかしTV局の横槍が入った挙句、捜査は思わぬ方向に向かう。 事件そのものの謎解きも勿論だが、 捜査過程そのものをTVショウとして公開しているという枠組み自体も、 凝っている上に皮肉が効いている。 全く先の読めないストーリー展開に加え、 スタイリッシュな映像や煽るような音楽の効果も相俟って、 最初から最後の最後まで絶え間なく引き付けられ通し。 ホームページ
女教授 (Bewitching Attraction) 2006韓国 (監)イ・ハ (出)ムン・ソリ、チ・ジニ 2007/11/18 イオンシネマ太田 「韓流シネマ・フェスティバル2007」作品。 環境運動に関わる謎めいた女性教授と、彼女と関係する男たちの過去と現在の話。 正直言って何を言いたいのやらさっぱり分からず、退屈至極で、完全に期待外れ。 しかも、「爆笑」の売り文句にも関わらず、全然コメディにもなっていなくて、 私を含め周囲の誰一人笑ってなどいなかった。 そもそも、主人公の身勝手な人間性には嫌悪感すら覚える。 ムン・ソリにしてもチ・ジニにしても、何でこんな映画に出てしまったのか。 ホームページ
レストレス〜中天〜 (The Restless) 2006韓国 (監)チョ・ドンオ (出)チョン・ウソン、キム・テヒ 2007/11/18 イオンシネマ太田 ○ 「韓流シネマ・フェスティバル2007」作品。 ド派手なCGとワイヤーアクションによる、幻想の中世チャンバラ劇。 死んだ人が天国に行く前に一時的に身を置く「中天」に、 まだ死んでいないのに入ってしまった男。 彼は、かつて救うことが出来ずに死なせてしまった恋人に再会するが、 彼女には現世の記憶がない。 それでも彼は、彼女への愛を貫くべく、彼女に降りかかる異形の者たちと 対峙する。 ストーリー自体はともかく(と言いつつ本筋でない所でちょっと泣けた)、 壮大な建物の連なる街並みや、自在に宙を舞うアクションシーンは見もの。 ただ、戦闘場面でのCGはちょっと派手にやり過ぎの気も少々。 ホームページ
北京の恋―四郎探母 (秋雨) 2004中国 (監)スン・ティエ (出)チン・トン、前田知恵、ピー・イエンチュン、チャン・ハン 2007/11/17 銀座シネパトス ○ 京劇を学ぶために北京に来た日本人の若い女性と、 彼女を受け入れた京劇師匠の一家との、数奇な運命の物語。 彼らは徐々に互いに理解を深め合ってゆくが、 ある日届いた女の子の祖父からの便りには、 長老にとって驚愕に値する過去の事実が綴られていた。 戦争中に日本兵が行った蛮行を体験した世代と、 それを直接には知らない若者たち。 許せない思いと、許さなければと言う思い。 綺麗事はともかく、自分が当事者となると そう簡単に片付けられる問題ではないだろう。 話がちょっと都合良過ぎる所があるが、 過去をしっかり認識しつつ未来に向けてしっかり歩き出そう、 と言うメッセージはしっかりと伝わって来た。 ホームページ
クワイエットルームにようこそ (Welcome to The Quiet Room) 2007日本 (監)松尾スズキ (出)内田有紀、宮藤官九郎、蒼井優、りょう、中村優子、塚本晋也、妻夫木聡、大竹しのぶ 2007/11/16 熊谷シネティアラ21 ◎ 目が覚めたら精神病院の隔離室に収容されていた、自爆気質のライター稼業の女性。 彼女と患者や医療者たちが、病棟と言う閉じた空間の中で、 珍妙な人間模様を繰り広げる、 シュールでコミカルでハイテンションでシニカルな物語。 登場人物は揃ってちょっとヘンなのだが、皆それぞれの事情を抱えている事が 分かって来て、追い詰められた挙げ句のこの状況と思うと、 どうしても憎めないところがあり、何だか次第に、 自分もあの場の一員にふさわしい気さえして来る。 ドタバタ喜劇のようでいながら、意外にも結構深い所を突いていて、 ちょっとしんみり感動的だったりもして、しかも最後は実に爽快。 ホームページ
愛なんていらない (Love Me Not) 2006韓国 (監)イ・チョルハ (出)ムン・グニョン、キム・ジュヒョク 2007/11/11 イオンシネマ太田 ◎ 「韓流シネマ・フェスティバル2007」作品。 相続遺産を目当てに、一人遺された娘と、彼女の兄を騙る男と、 彼女を取り巻く人々の間で、虚実と真実が交錯し、 信頼と裏切りが予想外の展開を見せる、重くシリアスな物語。 両親を亡くした資産家の娘が受け継いだ莫大な相続財産を目当てに、 彼女の行方不明の兄になりすまして、ヤクザの男が屋敷に入り込み、 「妹」にうまく取り入ることに成功するが、屋敷の使用人たちとの確執は高まる一方。 しかも、彼を兄を慕う妹の姿に、いつしか彼の冷酷な心が揺らいでしまう。 何も信じない、何も愛さない、そうしなければ生きて来れなかった孤独な彼らが、 ドロドロの人間関係の絶望の中で、危なげなからも、信じて、愛してゆく。 その重みが、ずっしりと胸に迫る。 ホームページ
ウォンタクの天使 (Holy Daddy) 2006韓国 (監)クォン・ソングック (出)イ・ミヌ、ハ・ハ 2007/11/11 イオンシネマ太田 ○ 「韓流シネマ・フェスティバル2007」作品。 不本意ながら急逝した父親が、短い間ながら他人の体を借りて現世に戻り、 家族への見えないメッセージを伝えようとする物語。 刑期を終えて明日は出獄と言うのに、うっかり急逝してしまった中年男。 一人息子との再会だけが楽しみだった彼は、天国行きを猶予し、 息子の同級生の姿になって息子の高校に入り込む。 素性を明かす訳にはいかない彼は、体を張って息子の非行を食い止めようとする。 設定自体が現実には有り得ない話で、しかも当初はおバカ系コメディのような 展開だったが、終盤に至って、この設定でなければ有り得ないであろう、 猛烈な感動が押し寄せた。 主人公を天国に連れ出す役だった「天使」にも、 これまた泣かせる物語が用意されていて、感動を増強する。 ホームページ
卑劣な街 (A Dirty Carnival) 2006韓国 (監)ユ・ハ (出)チョ・インソン、ナムグン・ミン、イ・ボヨン 2007/11/11 イオンシネマ太田 ◎ 「韓流シネマ・フェスティバル2007」作品。 小さな組を仕切るヤクザの男の悲哀を描いた傑作。 ヤクザの大組織の中で、下っ端の仕事しか回されないことに業を煮やした主人公は、 スポンサーとの裏取引による大勝負に打って出る。 一方で彼は、久し振りの同窓会で、映画監督になった男や、初恋の女性と再会。 色々なことが好転して来たかのように思えたものの、 しかし彼の幸運はそう長くは続かなかった。 信頼と裏切り、地位闘争、兄弟や家族、旧友や初恋の人など、 主人公に関わる様々な伏線が複雑に絡み合っているが、 全体として何ら破綻することなく巧みに物語が成り立っているのが見事。 暴力シーンでの凄まじい激しさとは対照的に、 主人公が恋人の前で見せるウブな顔付きがまたよろしい。 ホームページ
サッド ヴァケイション (sad vacation) 2007日本 (監)青山真治 (出)浅野忠信、石田えり、宮崎あおい、板谷由夏、中村嘉葎雄、オダギリジョー、光石研 2007/11/10 シネマテークたかさき ◎ 幼い頃自分を捨てて出て行った母親に偶然再会した息子が、母親への復讐を企む。 息子は、母親の営む運送会社に入り込み、 一見過去を水に流したかのような素振りを見せながら、 じりじりと復讐の機会を狙う。そして、ついに復讐を遂行したつもりだったのに、 母親はそれらを全て呑み込んでしまうどころか、 むしろ息子は母親に丸め込まれてしまっていたことに。 結局、男たちは皆、ただ女の掌の上で踊らされていたに過ぎないのであった。 一言で言うなら「女は強し」でしょうか。 石田えりの不敵な笑みには、空恐ろしささえ漂っていた。 青山監督の旧作の続編になっているらしいが、前作を未見の私でも十二分に満足。 ホームページ
オリヲン座からの招待状 2007日本 (監)三枝健起 (出)宮沢りえ、加瀬亮、宇崎竜童、田口トモロヲ、樋口可南子、中原ひとみ、原田芳雄 2007/11/04 熊谷シネティアラ21 ○ 昭和三十年代の京都で、急死した先代の後を継いで、 先代の妻と共に映画館を切り盛りする若者の物語。 映画の斜陽の時代が来つつある中で、あらぬ噂を立てられたりして、 苦難の歳月を乗り越えた今、ついに閉館の日がやって来る。 古い映画の場面が沢山挿入されていて、ちょっと 『ニュー・シネマ・パラダイス』のような雰囲気もあるが、 全体的に大袈裟な所が全くなく、穏やかに淡々と進むのがよい。 音楽も、余計な所がなくて大変よろしい。 但し、内容的にはどう見てもシネコン系の作品ではない。 地元シネコンでやってくれるのは有り難いことだが。 ホームページ
ALWAYS 続・三丁目の夕日 2007日本 (監)山崎貴 (出)吉岡秀隆、堤真一、小雪、堀北真希、もたいまさこ、三浦友和、薬師丸ひろ子 2007/11/04 熊谷シネティアラ21 ◎ 続編でこける映画はあまりにも多いが、これは例外の一つ。 時代も登場人物も前作と同じ、物語も前作の続きだがが、 無理なく続編として仕上がっていた。 全く嫌味のないCGで再現された昭和三十年代の街路の情景は、当時を知らない私にも、 えもいわれぬ懐かしさを感じさせてくれる。 今回の物語の中心はどちらかと言えば、自動車修理工場の一家よりも、 小説家の一家の方にある。ささやかな人々の善意に、何度も泣かされてしまった。 その一方で、映画の中の世界と現実とのあまりの落差に、何だか悲しくなる。 夢や希望に溢れ、お金よりも大事なものがあると信じていた筈の、あの時代。 それから約半世紀が過ぎた今、 どうしてこんな風にギスギスした世の中になってしまったのか。 ホームページ
象の背中 2007日本 (監)井坂聡 (出)役所広司、今井美樹、塩谷瞬、南沢奈央、井川遥 2007/11/02 太田イオンシネマ 末期の肺癌で余命半年を告知されたサラリーマンの最後の日々の物語。 延命治療を拒否した彼は、痛みに苦しめられながらも、仕事を整理し、 会っておくべき人に会い、家族の将来の手筈を整え、 そして海辺のホスピスで最期を迎える。 主演の二人の好演のためもあって、ちょっと目が潤んでしまう所もあったものの、 期待していた程には感動しなかったのは、多分独り者の私には、 守るべき家族という実感がないためか。 全体に、あまりにも綺麗にまとめられ過ぎている印象。 ひとつの理想像が描かれている以上、当然と言えば当然だが、 ちょっと都合が良すぎる気もした。 ホームページ
レター 僕を忘れないで (The Letter) 2004タイ (監)パウーン.チャンタラシリ (出)エーン・トンプラソム、アタポーン・ティマゴーン 2007/10/20 K's cinema ◎ 韓国催涙映画『手紙』 (→2002/12/07)のタイでのリメイク版で、 オリジナル版に比肩する完成度の傑作。 都会で暮らすプログラマの女性と、田舎で暮らす植物研究員の男性が、 運命の偶然に引き合わされ、めでたく結ばれるが、 まもなく男性を不治の病が襲う。一言で言ってしまえば病魔もののストーリーだが、 それに手紙と言う媒体が絡むことによって、感動と催涙度が格段に増強される。 更にこのタイ版では、タイの都会暮らしと田舎暮らしの両方の情景が織り込まれていて、それがまた良い。主演女優のキリリとした表情も凄く綺麗。 映像も音楽も美しく洗練されている。 ホームページ
サイボーグでも大丈夫 (I'm a Cyborg, but That's OK) 2006韓国 (監)パク・チャヌク (出)チョン・ジフン、イム・スジョン、チェ・ヒジン、イ・ヨンニョ、ソン・ヨンスン 2007/10/20 新宿武蔵野館 かなり風変わりな、と言うよりぶっ飛んだ映画で、個人的には全然よろしくなかった。 誇張、と言うより歪曲化された精神病院が舞台。 自分がサイボーグであると思い込んでいる女と、 正気と狂気が自分でも区別できない男との、奇妙な恋の物語が展開される。 登場人物たちが揃って実際には有り得ないほどに変で、 空想と妄想と現実が当たり前のように入り混じり、受け手の共感を拒絶するかのよう。 そもそもストーリー自体が、一応主人公の家族の宿命的な悲劇を浮かび上がらせてはいるものの、全体としては訳の分からない一歩手前のようなもので、 ちょっと付いて行けない感じ。 ホームページ
白い馬の季節 (季風中的馬/Season of the Horse) 2005中国 (監)ニンツァイ (出)ニンツァイ、ナーレンホア、チャン・ランティエン 2007/10/20 岩波ホール ○ モンゴルで遊牧生活を断念せざるを得なくなった、ある家族の悲劇。 遊牧生活への牧歌的な幻想を打ち砕くような、あまりにも厳しい現実が描かれていた。 干魃で牧草は生えず、国の土地だからと地域制限され、羊は餓死し、 子供は学校にも行けず、こんな現実生活の前では、 遊牧民族たる誇りももはや意味を持たない。 こうして遊牧民は、国からも時代からも見捨てられてゆく。 町と田舎との対比に於いて、社会批判的な色合いも込められてはいるが、 結局のところこの家族の末路を見てしまっては、 うらぶれた悲しみばかりが印象に残ってしまう。 ホームページ
エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜 (LA VIE EN ROSE) 2007フランス=チェコ=イギリス (監)オリヴィエ・ダアン (出)マリオン・コティヤール、ジェラール・ドパルデュー 2007/10/13 熊谷シネティアラ21 ○ フランスの高名なシャンソン歌手の波乱の生涯を描いた伝記映画。 何と言っても、主演女優は見事でした。歌の場面は(吹き替えもある筈なのに) 全く違和感がなく、本人が歌っているようにしか見えない程。 また、一人の女優がカバーする年齢の広さも驚異的で、 彼女の壮絶そのものの人生が、しっかりと体現されていて、 映画としての完成度は高いものだと思う。 ただ、泥酔や麻薬や身勝手さなど、ちょっとドロドロし過ぎている所が、 私にはどうも苦手系。こうした人生の積み重ねが彼女の音楽を支える底力になっている ことは分かっていながらも、どうしても受け入れ難いものがあった。 ホームページ
夕凪の街 桜の国 2007日本 (監)佐々部清 (出) 田中麗奈、麻生久美子、吉沢悠、中越典子、伊崎充則、金井勇太、藤村志保、堺正章 2007/10/12 深谷シネマ ○ ヒロシマで被爆したある家族の姿を、戦後(夕凪の街)と現在(桜の国)と、 二つの時代のつながりの視点から描いた物語。 佐々部監督の作品は、真面目ではあるものの、私にはどうも感覚的に合わない所が あり、今回も、映像の撮り方や物語の進め方に、今ひとつしっくり来ない場面が散見。 しかし今回は、その難点を上回る程に、二つの時代を横断する物語自体に 大きな魅力があり、更に麻生久美子を筆頭とした俳優たちの好演も相俟って、 かなりの感動に襲われた。 少なくとも過去に見た佐々部監督作品の中では、断トツの出来だと思う。 ホームページ
ミルコのひかり (Rosso Come Il Cielo) 2005イタリア (監)クリスティアーノ・ボルトーネ (出)ルカ・カプリオッティ、シモーネ・グッリー、アンドレア・グッソーニ、ミケレ・イオリオ 2007/10/08 シネアミューズ ○ 不慮の事故で視力を失った少年が、盲学校の友達と一緒に、 彼らならではの表現方法を見出してゆく物語。 当初は単に本人が楽しんでやっていた遊び事が、友達を動かし、先生を動かし、 学校を動かし、ついに国をも動かしてゆく、これは紛れもない美談。 しかしそんな大袈裟なことは関係なく、傍から見れば苦境にある筈の子供たちが、 生き生きと動いているのがよろしい。 正直言って話の展開は途中で想像できてしまったが、 それでもクライマックスと言うべきささやかな発表会の場面では、 嬉し涙が出てしまった。 しかも、これが実在の人物の話と知ると、更に感動も高まる。 ホームページ
サルバドールの朝 (SALVADOR) 2006スペイン (監)マヌエル・ウエルガ (出)ダニエル・ブリュール、トリスタン・ウヨア、レオナルド・スパラグリア 2007/10/08 シャンテシネ ○ 舞台は1970年代の独裁政権下のスペイン。過激派の若者が、権力側に捕らえられ、 死刑の判決を下され、ついに処刑されるまでの状況を、刻々と追ってゆく。 主人公の末期の苦悩と懊悩が、俳優の好演のためもあって、 ひしひしと切実に伝わって来る。 特に最後の数時間、恩赦への一縷の希望に願いを託す本人や周辺の人たちと共に、 自分も祈るような気持ちになっていた。 ただ、彼らが本当は何を目指していて、何をしようとしていたのか、 映画の中で分かるようにして欲しかった。この時代のスペイン事情を知らない 不勉強な私には、これだけでは彼らが単なる強盗団と変わりないように思えてしまう。 ホームページ
未来予想図〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜 2007日本 (監)蝶野博 (出)松下奈緒、竹財輝之助、原田泰造、西田尚美 2007/10/07 熊谷シネティアラ21 学生時代に出会った二人が、ずっと一緒にいられると互いに思っていたのに、 就職してからの慌ただしさの中で、すれ違い、別れ、後悔し…、と言う物語。 話自体はなかなか切なくて、共感を覚える所も多く、 主題歌と重なり合った美しいラストシーンの映像には、 どうしても涙が抑えられなかった。 しかし、意外にもここはまだラストではなくて、 更に後日談のようなものが延々続いていて、これはまさしく蛇足。 その後の未来なんて、見た人それぞれの脳裏にある「予想図」で充分なのに、 余計なものを付け足したものだと思いながら、 それまでの感動がすっかり冷めてしまった。少々残念。 ホームページ
サウスバウンド 2007日本 (監)森田芳光 (出)豊川悦司、天海祐希、田辺修斗、松本梨菜、北川景子、松山ケンイチ 2007/10/06 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ○ 元過激派の闘士だった父と、彼の信奉者である母、 そんな両親の正義感に戸惑う子供たち。 この一家が、東京で一騒動起こした後、都会暮らしを捨てて西表島に引っ越したのに、 そこでもまた一騒動起こしてしまう話。 なかなか痛快だし、感動的だったりもするし、共感する所も多い。 正しい(と自分で思う)ことを正しいと言い、 間違っている(と自分で思う)ことを間違っていると言う、 その当たり前のことの難しさ大切さを感じた。 ただ、映画としては全体にもうちょっと大袈裟にやって欲しかった気が。 父も母も、雰囲気が生真面目すぎて、やっている事の極端さと釣り合っていない 感があり、もっと豪快にはじけて欲しかった。 ホームページ
クローズド・ノート 2007日本 (監)行定勲 (出)沢尻エリカ、伊勢谷友介、竹内結子、板谷由夏、田中哲司、サエコ、永作博美 2007/09/30 熊谷シネティアラ21 ◎ 引越先の部屋に置き忘れられていた一冊の日記、その中に綴られていた恋と、 それをつい読んでしまった主人公自身の恋、 二つの平行する物語が意外な交点を結ぶまで。 誠実に一生懸命に生きているつもりなのに、叶えられない思いを抱え込んでいる 登場人物たちの姿に、じわじわと泣かされ通し。 ちょっとクサいけれども心に沁みる台詞も沢山あり、 物語に絡めてある絵画や音楽も美しかった。 個人的には、(たまたま『めがね』に続いてまた)マンドリンが登場する場面があり、 私自身も学生時代にマンドリン合奏をやっていたので、懐かしく嬉しかった。 この映画、本題と関係ない所で騒然となっているが、 幸い私はそれと無関係に純粋に映画を楽しんで、充分に満足した。 ホームページ
めがね 2007日本 (監)荻上直子 (出)小林聡美、市川実日子、加瀬亮、光石研、もたいまさこ 2007/09/22 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 舞台は特定はされていないものの、紛れもなく沖縄方面の離島の、小さなコテージ。 そこに集う「たそがれる」人々と、当初はその気ではなかったのにいつの間にか 同化していた主人公を巡る寓話。 あの時と場所に漂う、気の抜けた(と言うより間の抜けた)空気感は、何なのだろう。 地に足が着いていない感じの人々ばかり登場するが、 それが空々しく思えないのが不思議。 あそこに行けば、あの場所で、あの人たちが待っている。そう思うだけで、 心に安堵感が湧いてくるような気さえする。 しかもそんな中にあって、 小林聡美・もたいまさこ両人の凛とした佇まいが光っている。 好き嫌いが分かれそうな作品だが、私にはたまらなくよかった。 ホームページ
夜の上海 (The Longest Night in Shanghai) 2007日本=中国 (監)チャン・イーパイ (出)本木雅弘、ヴィッキー・チャオ、西田尚美、塚本高史、ディラン・クォ 2007/09/22 コロナシネマ太田 ○ 日本人のメイクアップ師の男と、中国人のタクシー運転手の女とが、 言葉が通じないまま一緒に過ごしすことになった、上海での一昼夜の出来事。 男はマネージャーでもある恋人との関係がうまく行っていなくて、 一方で女は片想いの男が急に結婚することになり落ち込み中で、 他の登場人物たちもそれぞれ、思うように行かない恋の悩みを抱えている。 それらが、紆余曲折の末に落ち着くべき所に落ち着く予感なのがよい。 都会的な風景と一昔前の街並みとが混在する風景は、 うっかりすると香港ラブコメ映画かと思っていまうよう。 ほっとした気分にさせられる佳作。 ホームページ
私のちいさなピアニスト (For Horowitz) 2006韓国 (監)クォン・ヒョンジン (出)オム・ジョンファ、シン・ウィジェ、パク・ヨンウ 2007/09/16 シネカノン有楽町 ◎ ピアニストへの夢を諦め、小さなピアノ教室を営む女性。たまたま悪戯をしに来た 近所の孤児が、実は天才的な音楽の才能を持っていることを偶然発見した彼女は、 この子の生活の面倒を見つつ、ピアノの手ほどきを始める。 彼はメキメキと上達する一方で、彼女は自分が果たせなかった夢を 彼に押し付けることになってゆく。 音楽モノ+子供モノということで、いかにも泣かせ系で、 しかも話は予想通りの展開だが、それなのに期待に違わずしっかり泣かせてくれる。 二人の関係は勿論のこと、子供の祖母である憎まれ婆さんや、 階下のピザ屋のお調子者の店長など、脇役も泣かせる。 先生役の女優も、悪ガキ役の子役も、部分的にせよ本人がピアノをきちんと 弾いているように見えて、見事なもの。 ホームページ
ヒロシマナガサキ (WHITE LIGHT/BLACK RAIN) 2007アメリカ (監)スティーヴン・オカザキ 2007/09/16 岩波ホール ○ ヒロシマとナガサキでの被爆者へのインタビュー、 投下した側の米兵へのインタビュー、歴史映像を、 総合的にバランスよくまとめたドキュメンタリー映画。 映画から得られる情報としては、(この作品をわざわざここに観に来ているような 人にとっては)必ずしも多くないが、やはり体験したご本人たちの証言は、 しっかりと聞いておくべきもの。 また、生々しい歴史映像は、否応なしに「繰り返してはならない」ことを 肝に命じさせる。 インタビューが細切れの断片にされているため、話をじっくりと聞けないのが 惜しい所。 しかし、映画の中でも描写されている通り、あまりにも無関心・無知な人が多い現在、 広く多くの人に観て欲しい作品だと思う。 ホームページ
黄色い涙 2007日本 (監)犬童一心 (出)二宮和也、相葉雅紀、大野智、櫻井翔、松本潤、香椎由宇 2007/09/15 熊谷シネティアラ21 ○ 昭和30年代の東京郊外を舞台にした、若き芸術家の卵たちの青春の物語。 売れない漫画家のアパートに転がり込んだ、同じく売れない小説家・画家・歌手の、 夢と挫折と妥協が、叙情的に描かれる。 立場は違っても、こんな若者たちの心模様には、 誰しも少なからず昔の自分に思い当たる所があるのではないか。 そして、今や夢破れてもしっかりと生きている彼らの姿に、 少しの淋しさと大きな安堵感を覚えるのではないか。 あの時代らしい空気感(と言っても私は体験していない)が、 たっぷりと詰め込まれているのが良く、全体に淡々と仕上げてあるのも良いが、 コメディっぽいさを入れる必要はなかった気がした。 ホームページ
赤い文化住宅の初子 2007日本 (監)タナダユキ (出)東亜優、塩谷瞬、佐野和真 2007/09/09 シネマテークたかさき ○ 父親が失踪し、母親が病死し、兄と共に細々と暮らす女子中学生の日々が 淡々と描かれた、独特の「見逃せない感じ」を持った作品。 好きな男の子と同じ高校に行きたかったのに、貧しさ故に断念せざるを得ず、 何とか就職して落ち着いたのも束の間、 行方不明だった父が浮浪者の身なりで戻って来て、などと何と災難続きか。 彼女の貧しさのリアルな切実さ、頼る所がどこにもない心細さ、 見えない先行きへの不安感は、見ていて痛々しい程で、 それでも恋人との約束に未来への希望の全てを託そうとする主人公の健気な姿には 救いがあり、この約束が守られて欲しいと願わずにはいられなかった。 ホームページ
恋するマドリ 2007日本 (監)大九明子 (出)新垣結衣、松田龍平、菊地凛子 2007/09/01 シネクイント ○ 主人公は、初めて一人暮らしすることになった女の子。 引越先のアパートの階上の男性と、引越元の古い家に転居した女性、 偶然この二人とそれぞれ別々に知り合った主人公は、 実はこの二人が互いに恋仲であったことを知るが、そう分かっていても、 主人公はこの男性に恋心を抱いてしまう。 三角関係と言うよりは、主人公の報われない悲恋物語。 ただ、ストーリーは全体にやや都合が良過ぎる感があり、 また空港突入の場面で突然コメディになってしまうのはよろしくない。 主人公と女性が家具デザインに関わっていると言う設定なので、 椅子や家具などのインテリアが、よい雰囲気を醸し出していた。 ホームページ
シッコ (SiCKO) 2007アメリカ (監)マイケル・ムーア 2007/09/01 新宿ジョイシネマ ◎ 米国の医療保険制度を直撃し、政府とその取り巻き企業の利益のために 死に体と化している医療の実態を痛烈に摘発する、ドキュメンタリー。 しかも監督は、単に批判するだけでなく、 今回も実際に思い切った行動を起こしてしまう所が凄い。 最後に語られる自国民への希望的提言は、感動的でさえあった。 カナダ、イギリス、フランス、そしてキューバなど、 完成された医療保険制度を確立した国々と、 金持ちだけが恩恵に与る一方で多くの人々が見棄てられているアメリカ。 残念ながら日本は、どちらかと言えばアメリカの方に近い(近付いている)のは確か。 つまりこの映画の世界は他人事ではない。 ホームページ
ツォツィ (TSOTSI) 2005イギリス=南アフリカ (監)ギャヴィン・フッド (出)プレスリー・チュエニヤハエ、テリー・ペート 2007/08/26 シネマテークたかさき ○ 南アフリカの貧民街で、強盗や恐喝を生業とする青年が、 たまたま強奪した車の中にいた乳児を見捨てられず、 彼の内にあった一寸の良心を取り戻してゆく物語。 今はまさに冷血非道な悪人である彼だが、そこまで彼が堕落した背景には、 彼自身の悲しい生い立ちの記憶があったことが、次第に明らかにされてゆく。 その複雑に屈折した思いがあったからこそ、無垢な幼児を目の前にして思わず、 彼自身にとっても意外な行動を取ってしまったのだろう。 最後に両手を挙げた彼の背中に、確かに存在する救いへの長い長い道程の 第一歩を感じられて、結構ジーンと来てしまった。 ホームページ
遠くの空に消えた (INTO THE FARAWAY SKY) 2007日本 (監)行定勲 (出)出]神木隆之介、大後寿々花、ささの友間 2007/08/24 イオンシネマ太田 空港建設の是非を巡って揺れる田舎の町で、 推進側と反対側の双方の息子が意気投合して、小さな企てを図る物語。 行定勲監督の作品とは相性がよい筈の私だが、残念ながらこれは失敗作だと思う。 やりたかったことは分かる気がするが、それがことごとく空回りしている。 どこでもない場所を舞台にした寓話のような感じに仕立てようとしたと思わるが、 舞台はどう見ても具体的な北海道で、 しかも話がわざとらしくて夢物語になっていない。 また、圧倒される心積もりで臨んだクライマックスの風景も、 小さくまとまりすぎていてすっかり拍子抜け。 それでも、「現在」と言う枠組みを加えることで、最後にはちょっと感動があったのが救いか。 ホームページ
陸(おか)に上った軍艦 2007日本 (監)山本保博 (出)新藤兼人、蟹江一平、滝藤賢一、大地泰仁、池内万作 2007/08/17 ユーロスペース ◎ 映画監督の新藤兼人が、戦時中にご自身が体験した軍隊内部の有様を、 一人称で描き出した映画。 敗戦色が濃厚になってきた戦争末期に、30歳を過ぎてから召集された新藤さんは、 単なる下っ端の兵隊として、 一回り以上も年下の上官から侮辱的な待遇を受け続けることになる。 同僚たちの大半が激戦地に遣わされ結果的に戦死して行くのに対し、 新藤さんを含む数人は結局一度も戦場に出ることなく、宝塚の兵舎で敗戦を迎える。 新藤さんの脚本・監修による再現劇を、新藤さんご自身へのインタビューとを 交代させる方法を採っているのが、非常に奏功していると思う。 悲劇性を強調せず、むしろ軍隊の理不尽さやくだらなさや馬鹿馬鹿しさを、 あくまでもご自身が感じたままに語っているからこそ、リアリティと説得力が生じている。 ホームページ
TOKKO 特攻 2007アメリカ=日本 (監)リサ・モリモト 2007/08/17 シネ・アミューズ ◎ 日系アメリカ人の監督が、自分の叔父(故人)が元特攻兵だったことを知って、 当時の兵士たちの心境を聞き出すべく、存命の元特攻兵を訪ね歩いた、 必見のドキュメンタリー映画。 監督は、日系人と言う微妙な立場を強みとして、 なかなか聞き出しづらいような元特攻兵の本音を、うまく引き出している。 一方で、敵対した側の米軍艦の元兵士の話も聞き出していて、 物事を両面から見ながら客観的位置を保ちながら、 結果的に公正で中立的な立場が保たれていると思う。 何よりも異常な体験を潜り抜けたご本人たちの (しかも歳月を経て冷静に整理された)語りには、さり気ない一言さえも重みがある。 ホームページ
モン族の少女 パオの物語 (PAO'S STORY) 2006ベトナム (監)ゴー・クアン・ハーイ (出)ドー・ティ・ハーイ・イエン、ニュー・クイン、ホァ・トゥイ 2007/08/17 シアター・イメージフォーラム ○ 深みのあるストーリーと、洗練された映像と音楽による、意外な程に高水準の映画。 舞台はベトナムの山奥の農村。産みの母と育ての母、二人の母を持つ娘が、 恋人を持ったことをきっかけに、それぞれの母の秘密を知ってゆく物語。 決して単純ではない意外性のあるストーリーで、 特に後半の展開は予想外の連続、しかも叙情的なイメージとは裏腹に、 登場人物それぞれの抱える苦悩はあまりにも重い。 一時は絶望さえした彼女が、すべてを知って、すべてを受け入れた後で、 すべてを許して歩き出すのが素晴らしい。 映像的にも、民族衣装や田園や市場の風景が、極めて鮮やかに映し出されている。 ホームページ
幸せの絆 (暖春 / Warm Spring) 2003中国 (監)ウーラン・ターナ (出)チャン・イェン、ティエン・チェンレン、ハオ・ヤン、ユー・ウェイジエ 2007/08/17 銀座シネパトス ○ 中国の田舎の貧しい村で、肉親を失った孤児の女の子と、 彼女を引き取った老人との、心の結び付きの物語。 畑の中に倒れているところを発見された孤児の少女を、見るに見かねた老人は、 家に引き取ることに。折から子供が出来ないことを悩んでいた息子夫婦にとって、 この子の存在は目障りそのもの。しかしまた棄てられたくない女の子は、 必死で老人や夫婦のために尽くすのだった。 子役の少女の迫真の演技には、否応なしに涙を誘われ、 「大催涙弾映画」の宣伝文句も確かに嘘ではない。 時を経て訪れるラストシーンも美しく、 血の繋がりよりも強い繋がりの形成を、確かに感じられた。 何ら奇を衒うことのない、善良でストレートな感動作。 ホームページ
天然コケッコー 2007日本 (監)山下敦弘 (出)夏帆、岡田将生、夏川結衣、佐藤浩市 2007/08/12 シネ・アミューズ ◎ 島根のド田舎の、全校生徒6人しかいない小中学校に、 東京からカッコイイ中学生の男の子が転校して来て、 同学年の女の子がドキドキしてしまう物語。 子供たちは皆まっすぐで純粋で、ちょっとした出来事が当人たちには凄く重大で、 だからこそ一日一日に大切な重みがあって、 この子たちにとってここでの日々の記憶はずっと心の拠り所になることだろう。 そして過ぎ去った後になって、そのことを懐かしく振り返るだろう。 何だか切なくて、楽しくて、そして羨ましくて仕方なかった。 終わり方もたまらなくよくて、何とも言えない幸福感に心が満たされた。 この監督の緩いテンポ感が、最大限に活かされている。大満足。 ホームページ
私たちの幸せな時間 (OUR HAPPY TIME) 2006韓国 (監)ソン・ヘソン (出)カン・ドンウォン、イ・ナヨン 2007/07/29 シネアミューズ ◎ 貧しさ故に人を殺めた死刑囚の男が、嫌々ながら慰問に訪れた元歌手の女に、徐々に心を開いてゆくと共に、彼女も彼によって過去の心の傷から解かれてゆく物語。 それぞれが抱えた重い過去を踏まえて、二人の心の揺らぎと変化が丁寧に描かれるので、共感度は高く、 何度も出てくる「赦し」(「許し」とは違う気がする)と言う言葉の重みが胸に迫った。 あの最後の写真によるラストシーンの見事さは比類がない。 カン・ドンウォンは、決して悪人でない不運な男の心模様の変化をよく表していて、 対するイ・ナヨンも、前半で自棄気味な女に成りきっていたからこそ、 後半で築かれる二人の関係が切実に伝わって来た。 脇役の刑務所職員もまた泣かせる。 ホームページ
えんどうの花 2006日本 (監)本永良夫 (出)池田卓 2007/07/29 ポレポレ東中野 石垣島出身の「新民謡」作曲家・宮良長包の生涯と作品を紹介する伝記映画。 作曲家役を西表島出身の若手歌手・池田卓が演じていて、沖縄音楽ファンにとっては、待望の東京公開だったが、残念ながら映画としての出来は今ひとつ。 話の筋(脚本)がいかにも出来過ぎで、どうにもわざとらしくて、演技がどうのこうの言う以前の水準。 但し、実際の作曲作品をしっかりと、たっぷり聞くことができたのはよかった。いっそのこと、再現場面など排して、演奏場面と時代資料だけで構成すればよかったと思う。 何れにせよ、沖縄文化を愛し、沖縄音楽の普及と追求に多大な功績を残した偉人である事はよく分かった。 ホームページ
殯の森(もがりのもり) (THE MOURNING FOREST) 2007日本=フランス (監)河瀬直美 (出)うだしげき、尾野真千子、渡辺真起子 2007/07/22 シネマテークたかさき ○ 山奥の老人グループホームで、痴呆を患った老父と、 若い介護士の女性との間に築かれる、微妙な心の結び付きの物語。 深い森の奥で道に迷った二人の道行きには、 この監督らしい、精神破綻ギリギリの緊張感が漲っている。 「こうしなければいけない、なんてことはない」(本当は劇中では関西弁) と言う台詞は、観ている我々にもやさしく語りかけているようだ。 そして、長い長い彷徨の果てに訪れる、長い長いラストシーンでは、 何とも言えない救済感に満たされた。 傑作とはまでは思わないものの、ずっしりと深く心に残る重みはあった。 ホームページ
街のあかり (Laitakaupungin valot / Lights in the Dusk) 2006フィンランド (監)アキ・カウリスマキ (出)ヤンネ・フーティアイネン、マリア・ヤルヴェンヘルミ、イルッカ・コイヴラ、マリア・ヘイスカネン 2007/07/11 ユーロスペース ○ 夢はあっても現実生活はさえない男が、言い寄ってきた女にコロリと騙されて、 窃盗の罪を被せられ投獄され、やっと出所して復讐しようとして また痛め付けられる、という何とも災難な物語。 とにかく気の毒なほどに不運な人なのだが、それなのに 見ていて絶望的な気分には全然ならず、むしろ妙に楽しいような嬉しいような 気分になってしまうのは、彼自身に何も悪気がないせいか。 そして訪れるラストシーンは絶妙と言う他ない。 慰められたような励まされたような、不思議な余韻が残った。 何となく無愛想な街路の風景が北欧っぽさを感じさせ、 挿入される様々な音楽に漂う哀愁もまたよろしく、 ホッと心が温まるような作品。 ホームページ
コマンダンテ (COMANDANTE) 2003アメリカ=スペイン (監)オリバー・ストーン (出)フィデル・カストロ 2007/07/11 ユーロスペース ◎ キューバの最高指導者、フィデル・カストロ氏へのインタビューから構成された ドキュメンタリー。 聞き手であるオリヴァー・ストーン監督は、 時には厚かましいほどにずけずけと突っ込んだ問い掛けをしていて、 しかもカストロ氏本人も率直に実によくしゃべる人なので、 結果的に彼の素顔と人間的魅力が大いに引き出されていたと思う。 カストロ氏の信念の強さと知性と統率力は勿論だが、 熱く語りつつも芯のぶれない冷静さはさすがで、 これだからこそ長年に渡って国民を引き付け続けているのだろう。 背景に流れる音楽の陽気な力強さにも、キューバの国民性を感じることができた。 ホームページ
ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ 2007日本 (監)前田哲 (出)松山ケンイチ、高畑充希、西山茉希、永作博美、山崎努、池内博之 2007/07/08 熊谷シネティアラ21 ○ 沖縄美ら海水族館で、奇病のために尾びれを切除したイルカが もう一度のびのびと泳げるようにと、人工尾びれの開発に挑んだ、 獣医や飼育係と技術者の実話(に基づく物語)。 何よりも、イルカも人間も一切が(CGなしの)実写なのが凄い。 実際に池内博之や松山ケンイチの指示にイルカが従っているようで、 本当によくやったものだと思う。 ただ、獣医の恋愛談などを組み合わせて物語を膨らませようとした分だけ、 物語の本筋の比重が低くなってしまったのが惜しいところ。 世界初の人工尾びれのために工夫を重ねるブリヂストンの技術者と 水族館の職員の熱意、それだけに絞っても充分に感動的だったと思う。 ホームページ
キサラギ 2007日本 (監)佐藤祐市 (出)小栗旬、ユースケ・サンタマリア、小出恵介、塚地武雅、香川照之 2007/06/30 シネクイント ◎ 自殺した(ことになっている)アイドル歌手の一周忌に集まった、 熱烈なファン自認する5人の男。 最初は互いのお宝自慢などしていた彼らだが、 自殺ではなく他殺だとする推論が出たあたりから風向きが変わってきて、 先の読めない展開が二転三転しながら、 彼女の死の真相が少しずつ明らかになってゆく。 彼ら一人一人の持っているちょっとしたエピソードが、 パズルのように組み合わさって謎が氷解してゆくストーリーは、実に見事。 しかも舞台は一室の中に限定されていて、 更には時系列を崩さず進展するのも凄いところ。 対象がチープな二流アイドルと言う設定も上手い。 爆笑場面も沢山散りばめてあるのに、最後は妙に感動的だったりもする。 超満員の人気も納得の面白さ。 ホームページ
雲南の少女 ルオマの初恋 (諾瑪的十七歳/When Ruoma Was Seventeen) 2002中国 (監)チアン・チアルイ (出)リー・ミン、ヤン・チーカン 2007/06/30 東京都写真美術館ホール ○ 中国・雲南の山奥の農村で、町に出てトウモロコシを売っている少女。 都会から来ていたカメラマンの男は、彼女を使って 外国人観光客相手に写真を撮らせる仕事を始め、結構な稼ぎを上げるようになるが、 彼女の心は徐々に男に惹かれてゆく。しかしやがて、 彼の元に都会から恋人が訪ねて来る。 牧歌的な雲南の風景は実に美しく、特に水を張った棚田の風景は、 日本と棚田に比べて規模が巨大なためもあって、圧倒的。 また、女性たちの民族衣装が、彩り鮮やかで実に綺麗で、 しかもこんな豪華な衣装を農作業も含めて日常的に纏っていることも驚かされる。 しかし、結局は田舎娘と都会の青年との隔たりを埋めようがなかったことに、 中国の田舎と都会との格差の現実も感じられる。 ホームページ
ルワンダの涙 (SHOOTING DOGS) 2006イギリス=ドイツ (監)マイケル・ケイトン=ジョーンズ (出)ジョン・ハート、ヒュー・ダンシー、クレア=ホープ・アシティ、ドミニク・ホルヴィッツ 2007/06/29 深谷シネマ ◎ 1994年のルワンダでの民族間での大虐殺を、 渦中にあった宣教師と教師(すなわち白人)の側から描いた物語。 大統領機の撃墜事件をきっかけに始まった、フツ族によるツチ族の大量虐殺。 教会付けの学校には、多くのツチ族の人々が避難して来るが、 駐留する国連軍は内政不干渉の厳命故に自衛の他に何もできず、 それに業を煮やす宣教師にも若い教師にもなす術がない。 そしてついに国連軍は、避難民を見棄てて撤退してしまうのだった。 命じられたことを遂行する他にない国連軍のキャプテンも、 結局は逃げてしまった若い教師も、誰が責められよう。 不特定の多数に対して殺し合わなければならない程の憎しみとは、一体何だろう。 どうしたら、環境に流されることなく、冷静に本質を見続けていられるだろう。 ホームページ
サイドカーに犬 2007日本 (監)根岸吉太郎 (出)竹内結子、松本花奈、古田新太、谷山毅、鈴木砂羽、ミムラ 2007/06/25 アミューズCQN ◎ 母親が家出して数日後、代わりに家にやってきたのは父親の愛人らしき女性。 この人と一緒に過ごすことになった小学生の女の子の、刺激的なひと夏の思い出。 もじもじと内気な女の子と、サバサバと豪快な女性、 対照的なこの二人に芽生える奇妙な友情が、何だか羨ましくて仕方なかった。 特に、二人で出かけた海辺の町への小旅行のことは、この女の子にとっては勿論、 見ていた我々にとっても一生忘れられない思い出となりそうだ。 しかも、そんな日々があっけなく終わってしまう潔さの故に、 心地よい余韻がずっと長く心に残っている。 舞台である1980年代っぽさの雰囲気も懐かしく、 その思い出を縁取る現代の場面もよい感じ。 主演の竹内結子の弾けっぷりは半端でなく、実にカッコよくて、 代役は考えられない程。対する女の子も、生真面目な感じを実に上手く出している。 もう一度観たい大傑作。 ホームページ
Watch with me 〜卒業写真〜 2007日本 (監)瀬木直貴 (出)津田寛治、羽田美智子、中野大地、高木古都 2007/06/25 新宿バルト9 ◎ 末期癌を患い郷里の久留米に帰って来た報道写真家と、職を辞して彼に付き添う妻。 最後に故郷の写真集を作ろうと、カメラを携えて故郷を回る彼の最後の日々に、 彼の少年時代の初恋の記憶が重なってゆく。 人生の最後をどのように生きるのか。終末医療を巡るテーマは重く、 本人の苦しみは勿論、見守る人たちの苦悩が生々しく描き出されていて、 見ていてつらかった。しかし、それでも懸命に彼を支えようとする仲間たちの姿に、 大いに泣かされた。 加えて、エンディングのハイファイ・セット「卒業写真」 (これは私にとって最強の催涙音楽)で、更に涙を絞り取られてしまった。 彼は何と幸せな最後の時を過ごせたのだろう。 彼女は何と大切なものを受け取ったのだろう。真面目でストレートな感動作。 ホームページ
きみにしか聞こえない 2007日本 (監)荻島達也 (出)成海璃子、小出恵介、片瀬那奈、八千草薫 2007/06/24 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ○ 誰とも打ち解けることができない横浜の女子高生が、 公園で拾ったおもちゃの携帯電話をきっかけに、長野に住む見知らぬ若い男と、 テレパシー(?)のような心の声での通話をするようになる。 最初は半信半疑だった二人は、次第に互いに心を支え合うようになり、 ついに会う決心をするが、約束のその日のその時、思わぬ事件が起こってしまう。 現実には絶対に有り得ない話ではあるが、二人の間に1時間の時差(?)があるところが、 物語のラストで泣かせる要因になっていて、更に混信(?)でつながってしまう 年上の女性の存在が、また泣かせると共に、将来への救いにもなっている。 長野の丘の美しい風景も心に残る。 ホームページ
日本の青空 2007日本 (監)大澤豊 (出)高橋和也、藤田美紀、加藤剛、田丸麻紀、 2007/06/17 熊谷会館 終戦直後、新憲法が制定されるまでの紆余曲折を、 有力な草案を作成した鈴木安蔵の研究グループの動きを中心に、詳らかにしてゆく。 民間人である鈴木グループが練りに練って作成した憲法案は、 そのままGHQ草案の土台となり、 政府が提出した旧態依然の翼賛的草案を打ち負かして、 最終的に日本国憲法の骨格となった。 旧憲法との継承関係や、天皇条項への苦慮、平和条項への思い入れなども含めて、 成立過程を全然知らなかった私には大変ためになるもの。 しかし映画作品として見るならば、ストーリーがいかにもわざとらしく、 特に(当時のことを取材する雑誌記者の)現代の設定は いかにも取って付けたような感じで、残念ながら上出来とは思えない。 ホームページ
明日、君がいない (2:37) 2006オーストラリア (監)ムラーリ・K・タルリ (出)テレサ・パルマー、ジョエル・マッケンジー、クレメンティーヌ・メラー、チャールズ・ベアード、サム・ハリス、フランク・スウィート 2007/06/13 シネ・アミューズ ○ オーストラリアの高校で、自殺した一人の生徒を巡っての、 サスペンスのようでもありドキュメンタリーのようでもある、衝撃的な物語。 6人の生徒たち一人一人のエピソードが、少しずつ接点を持って重なってゆき、 徐々に煮詰まった所で、ついに悲劇の結末が明らかになる、と言う構成は実に巧妙。 一人一人の心はこんなにも歪んでいて、しかも一人一人に悪気などなくて、 一人一人が必死で自分を守ろうとしているのに、 しかし結果的に一人一人が絶望的に傷つけられている。 実際ここまでひどいことになっているのかどうか分からないが、 この映画が突き付ける重い問い掛けに対して、どう答えてよいのか、私には分からない。 ホームページ
ロストロポーヴィチ 人生の祭典 (Rostropovich & Vishnevskaya) 2006ロシア (監)アレクサンドル・ソクーロフ (出)ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ、ガリーナ・ヴィシネフスカヤ、小澤征爾、クシシュトフ・ペンデレツキ 2007/06/13 シアター・イメージフォーラム 旧ソ連出身の大物チェリストと、その妻のソプラノ歌手についてのドキュメンタリー。 主に本人たちへのインタビューとリハーサル風景から構成。 細かいカットに区切られた場面が次々と入れ替わる中で、 徐々に彼らの物語が浮かび上がらせようとしているが、 話の流れはもとより、音楽さえも断続的になってしまい、 この演出が成功しているとは思えず。 特に、二つの音楽を無理矢理つなぎ合わせた試みには全く賛同できない。 また、インタビューの意図が不明で、この偉大なる人物の 人間的な魅力を何も引き出せていない。 ただ、奇しくもこの映画が公開されて間もない4月27日にロストロポーヴィチ氏が 逝去され、結果的には追悼上映としての意味はあった。 ホームページ
パッチギ! LOVE&PEACE 2007日本 (監)井筒和幸 (出)井坂俊哉、西島秀俊、中村ゆり、藤井隆 2007/06/03 熊谷シネティアラ21 ○ 一時代前の在日韓国人の人々が被った理不尽な苦難と、 逆境の中での奮闘ぶりを描こうとした、力強い物語。 全体としては、あの時代の熱い空気感は確かに伝わって来たが、 意気込みが空回りしている感じで、残念ながら甚だ期待外れ。 日本人が、(唯一の良心である「ノーベル賞」を例外として)揃って悪者扱いで あの激動の時代の中で、皆が共に闘いながら時代を押し進めてきた感じが全くなく、 何だか気分が入り込めずに終わってしまった。 大掛かりな暴行シーンや激戦シーンも、ただ大袈裟なばかりで必然性に乏しく、 欲張って色々詰め込み過ぎたのかも知れない。 ホームページ
そのときは彼によろしく 2007日本 (監)平川雄一朗 (出)長澤まさみ、山田孝之、塚本高史、国仲涼子、和久井映見、小日向文世 2007/06/03 熊谷シネティアラ21 ○ 子供の頃に親友だった男の子二人と女の子。やがて離れ離れになって十数年後、 男の一人の消息を知った女の子は、彼のもとをふらり訪ねて来るが、 実は彼女は病魔に蝕まれていた。と言う風にひたすら悲しい物語のようだが、 最後は意外な方向へと運命が導かれてゆく。 泣いてくれと言わんばかりの、いかにも出来過ぎの難病系ストーリーは、 韓国メロドラマと張り合えそうな程だが、私はまんまと泣かされてしまった。 特に電車での別れの場面は、しかも二度も出てくるだけに、 どうしようもなく涙が出た。 しかし、この傾向の映画にはちょっと食傷気味なのも確か。 ホームページ
ひめゆり 2006日本 (監)柴田昌平 (出)ひめゆり学徒の生存者22名 2007/06/02 ポレポレ東中野 ◎ 大戦末期の沖縄で、救護のために前線へと駆り出された女学生たち。 ほんの数ヶ月の間に大半の人が亡くなった中で、 僅かに生き残った人々へのインタビューから構成されたドキュメンタリー。 何よりも、当事者本人がその現場にいて語っているだけに、 あまりのリアルさに聞いてていて息が苦しい程。 目の前で友を失う辛さ、見捨てて逃げざるを得なかった友への罪悪感、 銃砲飛び交う極限状況の阿鼻叫喚、米軍の包囲下での理不尽な「解散命令」の実態、 そして当時の自分たちの考えていた事、等々、 生身の戦争の最前線のかくも壮絶で凄惨な実態を、 あまりにも分かっていなかったことに愕然。 一部にせよ、ご本人たちがご存命の内にこのような記録を残せたことの 意義は計り知れない。間違いなく歴史に残すべき作品。 ホームページ
パラダイス・ナウ (Paradise now) 2005フランス=ドイツ=オランダ=パレスチナ (監)ハニ・アブ・アサド (出)カイス・ネシフ、アリ・スリマン、ルブナ・アザバル 2007/06/02 アップリンク・ファクトリー ○ イスラエルの占領地で、中古車の修理工場で働く、親友の二人。 理不尽な客の要求に憤慨したりしながらも、何とか働いていたが、 ある日突然、秘密組織から二人に自爆攻撃の命が下され、 二人は意を決して、体に爆薬を巻き付けて、テルアビブへと潜入する。 当然ながら、彼ら一人一人に家族や友人や恋人があり、 日々の仕事や生活があるのに、 それでも他に方法が考えられないほど彼らが追い詰められていて、 そうは言ってもやはり単純に割り切れる筈もなく怯えや恐れがある、 そんな彼らの苦しい心境がリアルに伝わって来た。 彼らをあそこまで追い込んでいるものは何か、 そのことときちんと向かい合わない限り真の解決は有り得ないのだ。 ホームページ
俺は、君のためにこそ死ににいく 2006日本 (監)新城卓 (出)徳重聡、窪塚洋介、筒井道隆、岸恵子 2007/05/27 熊谷シネティアラ21 大戦末期、鹿児島・知覧から飛び立って行った若き特攻兵たちと、 彼らが母のように慕った食堂のおかみさんとの物語。 同じテーマを扱った『月光の夏』(大傑作)や『ホタル』に比べると かなり見劣りはするものの、思ったほどは悪くはなかった。 予想に反して、英霊美化的な色合いは薄く、 戦争の悲劇や愚かしさにきちんと焦点が当てられていて、 当時の兵士たちの生きた姿がきちんと描かれており、 作戦自体が無目的化していた内部の実態もきちんと語られている。 ただ、最後に付けられた戦後の物語は、蛇足そのもの。 生き残った人々の苦悩を描きたかったことは分かるが、 ここに到ってついに英霊礼賛的な馬脚が露になってしまった感あり。 ホームページ
しゃべれども しゃべれども 2007日本 (監)平山秀幸 (出)国分太一、香里奈、森永悠希、八千草薫、伊東四朗 2007/05/26 ワーナーマイカルシネマズ熊谷 ◎ 落語家の卵がひょんなことから、しゃべることが苦手な人を相手に 落語教室を開く羽目に。生徒は、関西弁をからかわれる少年、 無愛想故に恋人に振られる美女、それに解説がしどろもどろな元野球選手。 それぞれ癖ありで素直になれない面々を前にしながら、 教えている落語家自身も実は人に言えた義理ではない状況。 人と話すのがどうしても苦手で、それ故に人と向かい合うのが苦痛で、 そう言う自分が嫌で嫌で、それを自分で分かっているから一層気疲れしてしまう、 そんな彼らの気持ちは非常によく分かり、だからこそ、 ささやかな晴れ舞台で演じられる渾身の落語を聞きながら、 泣けて泣けて仕方なかった。しかも、原作 (→2000/06/11) とちょっと話を変えてあるところが見事に奏功。 最後には実に爽やかな温かな心地にさせてくれる大傑作。 ホームページ
典子は、今 1981日本 (監)松山善三 (出)辻典子、渡辺美佐子、長門裕之 2007/05/13 クレアこうのす ○ サリドマイド薬害被害者である(旧姓)辻典子さんの実話に基づく物語。 ドキュメンタリーではなく歴とした劇映画で、 大物俳優さんたちの間で典子さんは一女優として堂々と主演を務めている。 勿論、この問題を広く知らしめる役割の映画でもあるが、それ以上にこれは 一人の女性が自立してゆく過程を描いた青春映画と言える。 傍から見れば絶望的なほど大変な状況にあっても、 健気に真っ直ぐとひたすら前進してゆく典子さんの姿に、爽やかな感動が湧き上がる。 映画の後に、主人公である白井のり子さん本人の講演会を聴講。 小柄で、明朗で快活な印象の人。内容的によくまとめられた講演で、 あっと言う間の一時間強。 ホームページ
初雪の恋 ヴァージン・スノー 2007日本=韓国 (監)ハン・サンヒ (出)イ・ジュンギ、宮崎あおい 2007/05/12 太田イオンシネマ ○ 京都の女の子とソウルからの留学生の男の子が、互いに好き合いながらも、 悲しい別れを余儀なくされ、何年もの時を経た初雪の日に ようやく奇跡の再会を果たす、美しい恋愛物語。 俳優も舞台も半分は日本で半分は韓国だが、内容的には完全に典型的な韓国映画で、 しかしレベル的には数ある韓国B級メロドラマと同列。 泣かせる場面を散りばめてはあるが、展開がいかにも出来すぎていて安っぽく、 どうも気分が入り込めなかった。 ただ、日本と韓国とのちょっとした文化や風習の違いを うまく物語に組み込んであったのはよいところ。 ホームページ
眉山 2007日本 (監)犬童一心 (出)松嶋菜々子、大沢たかお、宮本信子 2007/05/12 熊谷シネティアラ21 ◎ 気高く頑固な母親、しかしその身勝手さがずっと嫌で仕方ない娘が、 会った事のない父と若き日の母との物語を知って、ついに母の本当の心にたどり着く。 さだまさしの原作とは話の流れを大幅に変えてあり、 それが見事に映画的な効果を醸し出していて、 しかも原作の味わいを損ねていないどころか、むしろ原作を越える感動も。 何と言っても圧巻は、クライマックスの阿波踊りの場面。 大勢の踊り手たちのエネルギーと重厚な音楽が押し寄せる中で、 ついに訪れる遠い再会の場面には、 どうしようもないほど涙が出て出て仕方なかった。 肉親だからこそ、伝わらない想いと、伝えたい想い。 この複雑さ中で、この母と娘は何と幸せな最後の時を過ごせたことだろう。 ホームページ
バベル (BABEL) 2006アメリカ (監)アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ (出)ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、役所広司、菊地凛子 2007/05/05 熊谷シネティアラ21 モロッコの砂漠地帯の遊牧民家族の兄弟。 兄弟が遊び半分に発砲したライフルが命中してしまった、アメリカ人夫婦の妻。 アメリカ人夫婦の子供を預かっているメイドの、メキシコへの往復旅行。 かつてそのライフルをモロッコ人に贈与した日本人の男と、その娘の聾唖の女子高生。 これらの4つの地域での人々の物語が、互いに何らかの結び付きを持って つながっている、と言う構成。 しかし、それぞれの物語の結び付きの理由に必然性が殆ど感じられず、 特に日本編はまさにとって付けたような結び付き。 また「バベル」なる表題にも関わらず、 言語の違いによる意思疎通の齟齬には重きが置かれず。 正直言って前評判ほどの作品とは思えない。 ホームページ
神童 2006日本 (監)萩生田宏治 (出)成海璃子、松山ケンイチ、手塚理美、甲本雅裕、西島秀俊、貫地谷しほり 2007/05/05 シネマテークたかさき ◎ 言葉よりも前にピアノを覚えた程の文字通りの神童だが、 母親や友人との人間関係を上手く築けず孤独を抱える中学生の少女。 ピアノは好きだが才能に乏しく、落ちこぼれ気味の音大受験生。 二人は付かず離れずの微妙な友情の中で、 それぞれの音楽を重ね合わせる悦びを見出してゆく。 クライマックスのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番では、 それは有り得ない展開だろうと思いつつも、 込み上げる感動が目頭に到達した。 そして最後に二人がたどり着いた、穏やかな連弾の場面も、爽やかな後味。 ピアノ演奏場面が不自然に見えない主演の二人も好演。 映画館の近所の市街地を含め、高崎市内で多くが撮影された作品。 ホームページ
鰐 (Crocodile) 1996韓国 (監)キム・ギドク (出)チョ・ジェヒョン、ウ・ユンギュン、チョン・ムソン、アン・ジェフン 2007/05/02 ユーロスペース ◎ キム・ギドク監督の第一作。 大きな川の橋の下で路上生活するヤクザ男と、同じく路上生活者の老人と少年。 ある日、ヤクザ男は橋から入水自殺を図った女を救い出し、 快復した彼女を慰み者として弄ぶが、いつしか彼女に愛情を覚えるようになり、 バラバラの4人の中に奇妙な連帯関係が芽生える。 しかし、彼女を自殺に追い込んだ相手の正体をたまたま知ったヤクザ男は、 彼女に代わって自らその相手に復讐を試みるのだった。 ストーリーの雰囲気は勿論、 水・鏡・針と言ったキム・ギドク監督のキーワードは既に登場しているが、 意外にも暴力的な描写は過激ではない。 破滅的で美しい純愛物語。 ホームページ
あしたの私のつくり方 2007日本 (監)市川準 (出)成海璃子、前田敦子、高岡蒼甫、石原真理子、石原良純 2007/05/02 アミューズCQN ○ 中学生の女の子が、いじめに遭い転校して行ったかつての同級生に宛てて、 匿名の応援メールを送り続ける中で、自分自身の心の居所を探してゆく物語。 家で、学校で、メールの中で、それぞれ別々の「自分」の役割を演じ分けること、 それは中学生でなくても大人でも誰でもそうなのに、 それに嘘の自分を感じて真っ直ぐに思い悩んでしまう主人公たちの純粋さを見ながら、 今の自分が失ってしまったものを感じた。 携帯メールという現代的なアイテムをうまく物語に取り込んであったとは思うが、 最後のTV電話はちょっと不自然かつ不必要な気がした。 ホームページ
恋しくて 2007日本 (監)中江裕司 (出)石田法嗣、東里翔斗、宜保秀明、大嶺健一、山入端佳美、与世山澄子、平良とみ 2007/05/02 銀座テアトルシネマ ○ 石垣島出身のバンド・BEGINの3人の物語を基にした音楽もの青春映画。 先輩の一声の勢いで結成することになった高校生バンドが、 文化祭デビューから島での活動を経て、ついに東京のバンド大会で優勝するまでの物語 に、ささやかな恋愛物語が絡んでくる。 なかなか楽しく、それなりに感動的ではあったが、 正直言って期待した程でもなかった。 と言うのも、実際のBEGINの結成から「恋しくて」誕生に至るいきさつが、 映画では別物と言ってよいほど変えられてしまっていて、 しかも話にちょっと無理があるように感じたため。 私には素の彼らの物語の方がずっと感動的に思える。 そうは言っても、バンドに熱中する高校生たちの姿には胸が熱くなった、 石垣島の風景を見ているだけで幸せな気分にはなれた。 ホームページ
松ヶ根乱射事件 (THE MATSUGANE POTSHOT AFFAIR) 2006日本 (監)山下敦弘 (出)新井浩文、山中崇、木村祐一、川越美和、三浦友和 2007/04/29 シネマテークたかさき ○ 一昔前の何ということもない田舎町で、警察官を務める若い男の身の回りで起こる、 珍妙な出来事を巡る、。何とも風変わりな、ニヒルな笑いを秘めた物語。 双子の弟が起こしたひき逃げ事件、 ふらりと町にやってきたいかにも胡散臭そうな男女、 だらしない父親の起こした知人の娘の妊娠騒動、 等々ちょっとした事件が少しずつ絡み合って、 そのしわ寄せが主人公の男をじわじわと追い詰めてゆく。 登場人物たちが、どこにでもいそうでいながら、皆どこか変で、 しかし思い当たる節がある感じでもある。 『リアリズムの宿』で免疫が出来ていたせいもあり、 この監督の感覚にはすんなりと入り込めた。 大袈裟過ぎる表題と物語の内容とのギャップも面白い。 ホームページ
東京タワー オカンとボクと、時々、オトン 2007日本 (監)松岡錠司 (出)オダギリジョー、樹木希林、内田也哉子、松たか子、小林薫 2007/04/14 熊谷シネティアラ21 ○ 上京して自堕落な生活を送る息子が、九州の寒村で一人暮らす病身の母親を 東京に呼び寄せる。 それから数年間の、母と息子(と時々父親)との、濃密で幸せな最後のひと時の物語。 いかにもお涙頂戴系の話とは分かってはいても、 狙い通りにしっかり泣かされてしまった。 悲しい物語ではあるのだが、最後には何とも暖かい気分にさせられる。 出演者は豪華極まりなく、主演陣は勿論のこと、 ほんの一瞬しか出て来ない人まで凄い顔ぶれ。 私は、東京タワーに行ったことがないので、これを機会に登ってみたくなった。 ホームページ
14歳 2007日本 (監)廣末哲万 (出)廣末哲万、並木愛枝、藤井かほり、渡辺真起子、石川真希、香川照之 2007/04/08 第21回高崎映画祭 ○ さまざまな歪みを抱えた14歳の生徒たちと、彼らと対峙することになった、 かつては同じような14歳だったこともある大人たちとの、 齟齬と衝突とが生々しく描かれる。 実際ここまで極端なことになっているのかどうか分からないが、 ドキュメンタリーのような描き方がなされているので、 かなりの現実感があり、最初から最後まで息の詰まるような緊張感が続くので、 あまり重さと真剣さに、見終わってどっと疲れを感じた。 安易な結論を導き出さないことで、 観た人それぞれに自分自身の姿勢を問い質しているようだ。 高崎映画祭のクロージング上映作品で、まだ劇場公開前の新作。 ホームページ
あるいは裏切りという名の犬 (36 Quai des Orfevres) 2004フランス (監)オリヴィエ・マルシャル (出)ダニエル・オートゥイユ、ジェラール・ドパルデュー、アンドレ・デュソリエ 2007/04/07 第21回高崎映画祭 ○ パリの警察内部の権力闘争の結果、策略によって投獄された実直な刑事が、 やがて自分を陥れた権力志向の刑事に復讐しようとする物語。 犯人vs刑事ではなく、刑事vs刑事なのが面白い所で、 形勢は二転三転しながら、先の読めない緊迫感のある展開が続く。 銃撃シーンが非常に多く、その中であまりにも多くの人が殺されてしまうのが 難点だが、激しさよりもむしろ静かな悲しみの印象が残る映画。 洗練された感覚の、ひんやりとした重みがあり、 結末も含めて安易な勧善懲悪でないところが、 紛れもなくフランス映画ではあった。 ホームページ
メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬 (The Three Burials of Melquiades Estrada) 2005アメリカ=フランス (監)トミー・リー・ジョーンズ (出)トミー・リー・ジョーンズ、バリー・ペッパー、ドワイト・ヨーカム、ジャニュアリー・ジョーンズ 2007/04/07 第21回高崎映画祭 ◎ アメリカとメキシコの国境地帯。一人のメキシコ人が、 アメリカの国境警備隊員の誤射によって殺さた。 事件がうやむやに揉み消さたことに激怒した男の親友は、 撃った張本人を拉致して、遺体と共に馬に乗せ、遥かメキシコへの旅に出る。 目指す先にある男の郷里は、谷間の美しい町で、男の妻子が暮らしている筈だった。 メキシコの高地を馬の隊列がゆく風景自体が見もので、 結構シリアスでグロテスクな物語なのに、 何となくとぼけた味わいが醸し出されている。 親友の遺志を守ろうとする友情の厚さは勿論のこと、 隊員との間の憎しみを通じて生まれる奇妙な連帯感には、 他に類を見ないような何とも不思議な感動に満たされた。 ホームページ
ひいろ 2007 (監)コ江長政 (出)小崎さよ、南田洋子、麻丘めぐみ、ルー大柴、金子昇、桜金造 2007/04/06 シネマート六本木 ○ タイトルは陶芸の「火色」のこと。 上海で学生生活を楽しむ娘が、父が実は 中国残留孤児(つまり日本人)であったことを知り、 まだ存命かも知れないもう一人の祖母を捜しに、 半年の留学ビザで日本にやって来る。 日本での暮らしには徐々に慣れてきたものの、祖母の手掛りは全く掴めない中で、 彼女の人捜しをドキュメンタリーにするTV番組の話が舞い込むのだった。 正直言って少々出来すぎた話ではあるし、 映像感覚的なセンスの良さもあまり感じられない。 それにも関わらず、大いに感動させられてしまったのは、この物語が、 登場人物たちの良心を、愚直なまでに真っ直ぐに描いているからだと思う。 ホームページ
檸檬のころ 2007日本 (監)岩田ユキ (出)榮倉奈々、谷村美月、柄本佑、石田法嗣、林直次郎、浜崎貴司 2007/04/06 シネアミューズ ○ 栃木の田舎の高校3年生たちの、夏秋冬そして春の物語。 クラスのアイドル的な優等生の女の子、一方で 級友と交わらず音楽だけに心を開く女の子。 野球部のエースで人気の快活な男の子、一方で 野球部のキャプテンなのに内向的な男の子。 彼ら彼女らのゆったりとした実らない恋の行方が、 甘酸っぱくて切なくて、じわじわと泣かされた。 ちょっとしたことで舞い上がったり落ち込んだり悲しんだり盛り上がったり、 一人一人の一喜一憂が伝わってきて、えも言われぬ懐かしさを覚えた。 特に谷村美月演じる女の子の気持ちは、私にはよく分かる気がした。 タイトルや主題歌が物語と密接に結び付いているのが、感動を増幅していた。 ホームページ
豚と軍艦 1961日本 (監)今村昌平 (出)長門裕之、吉村実子、三島雅夫、丹波哲郎、大坂志郎 2007/04/01 第21回高崎映画祭 戦後の米軍統治下の港町で、要領の悪いヤクザの下っ端の男とその恋人の 奮闘ぶりによる悲喜劇。 今村昌平監督の初期作で、五十年近く前のモノクロ映画。 映像は意外に良好だが、音声トラックがかなり劣化しているようで、 台詞が非常に聞き取りづらかったのが残念。 あの時代の濃密で雑多な空気感はよく表されていて、 クライマックスの豚の大群の場面は豪快かつ滑稽。 しかし、その後に訪れた悲劇の印象が強いため、 私には「爆笑喜劇」とは全然思えなかった。 高崎映画祭
蟻の兵隊 2005日本 (監)池谷薫 (出)奥村和一 2007/04/01 第21回高崎映画祭 ◎ 敗戦後に何年もの間、中国に残留させられ、国民党軍と共に共産党軍と戦った、 数千人もの日本軍の部隊。その生き残った元兵士の終わらない闘いを追った ドキュメンタリー。 彼らは、残留が(自発的な志願ではなく)軍の命令だったことを認めさせるべく 国を訴えていて、その証拠を掴むために中国の現地を訪れた旅の中で、 元兵士は当時の出来事を少しずつ明らかにしてゆく。 そのような出来事があったこと自体が殆ど知られておらず、 当事者が存命の内にこのような記録を残せたことの意味は大きい。 戦争は人殺しであると言う当たり前のことや、 善良なる人々を「殺人マシン」化してしまう時代の恐ろしさや、 いつでも犠牲になるのは下っ端であると言うこと、 そして裁判の判決を鵜呑みにしてはならないと言うことも、つくづく痛感させられた。 ホームページ
アルゼンチンババア 2007日本 (監)長尾直樹 (出)役所広司、堀北真希、鈴木京香、森下愛子、手塚理美、岸部一徳 2007/03/31 ワーナーマイカルシネマズ熊谷 妻が亡くなった後、失踪してしまった夫。やがて娘は、父が 郊外の屋敷に住まう謎の女性・アルゼンチンババアの元に入り浸っていることを 噂に聞き、父を奪還すべく屋敷に踏み込むが、 娘もいつしかこの女性の不思議な魅力に引き込まれてしまう。 よしもとばななの原作は、この作者らしく、普通でない事態であっても 実にあっさりと寓話的に描いているが、それが実写で映像化されたことにより、 物語が何だか深刻な感じになってしまった。 また、原作は(短篇と言ってよいような)短い小説なので、 映画化にあたってかなり増補改変がなされていて、 その部分も重苦しさ増す要因になっていたと思う。 更に、鈴木京香はよくやってはいたが、年齢的にも風貌的にも、 この役には少々無理があったと思う。 ホームページ
絶対の愛 (Time) 2006韓国=日本 (監)キム・ギドク (出)ソン・ヒョナ、パク・チヨン、ハ・ジョンウ、杉野希妃 2007/03/10 ユーロスペース ◎ 最愛の恋人に飽きて捨てられる事を恐れる女性が、男の前から姿をくらまし、 こっそりと整形して半年後、別人の振りをして再び男の前に現れる。 そして女性は再びこの男の愛を得ることに成功するが、 しかし男が今も以前の恋人(すなわち以前の姿の自分)を愛し続けていることを知り、 苦悩の余り、自暴自棄な賭けに出のであった。 整形前・整形後をそれぞれ演じた女優はどちらも凄い熱演で、 特に後者のソン・ヒョナの放つ狂気は強烈過ぎて、 何だか観ている自分まで頭が変になりそう。 そして巡り来る、意味深長なラストシーンに、私は暫し茫然自失だった。 グロテスクな場面もある一方で、海辺の公園の場面など夢見るように美しく、 そのコントラストが、この物語の狂気と悲しみを際立たせている。 これは間違いなく天才の仕事で、私にとっては、『サマリア』を上回って、 一番好きなギドク作品になりそう。 ホームページ
リアル・フィクション (Real Fiction) 2000韓国 (監)キム・ギドク (出)チョ・ジンモ、キム・ジナ、イ・ジェラク、ソン・ミンシク、キム・ギヨン、ミョン・スンミ、ソン・ジョンファン 2007/03/10 ユーロスペース ○ 「スーパー・ギドク・マンダラ」でのキム・ギドク監督の旧作(2000年)上映で、 非常に謎めいた、風変わりな映画だった。 公園で似顔絵書きをしている若い男が、自分をビデオカメラで撮影し続ける 謎の少女に誘われて、不思議な幻覚を体験するが、それを境に男は、 過去に恨んでいた人々に、次々と衝動的な復讐を果たしてゆくことになる。 しかし話はそう単純ではなく、現実と思ったことが実は虚構で、 それを認識しているこの現実がまた虚構で…、と現実と虚構が多重に交錯し、 最後の最後に訪れる意表を衝く展開には、呆気にとられてしまった。 (ここは、イラン映画『桜桃の味』を想起させられた。) 傑作とまでは思わないが、この監督らしさはあちこちに現れていて、 キム・ギドクが気になる人には必見の一本と思う。 ホームページ
酒井家のしあわせ (THE SAKAIS' HAPPINESS) 2006日本 (監)呉美保 (出)森田直幸、友近、ユースケ・サンタマリア、鍋本凪々美 2007/03/04 シネマテークたかさき ○ 郊外の住宅街で暮らす家族の、どちらかと言えばほのぼの系の物語。 バツイチの妻の尻に敷かれながらも、二人の子供と共に それなりに楽しそうな日々を送っていた夫が、 突然「好きな人(しかも男)が出来た」と家を出て行ってしまう。 どうしても納得の行かない息子は、たまたま縁日の街で父親の姿を見かけ、 後を追った結果、父が家を出た本当の理由を知ることになるのだった。 話の展開はすぐに読めてしまったのだが、 中学生の息子の視点で物語を描くことで、話に捻りが加えてあった。 最後の場面は、ちょっと悲しいながらも、 ようやく手に入れたこの家族なりのしあわせが滲み出ていた。 ホームページ
世界最速のインディアン (The World's Fastest Indian) 2005ニュージーランド=アメリカ (監)ロジャー・ドナルドソン (出)アンソニー・ホプキンス、ダイアン・ラッド、ポール・ロドリゲス、アーロン・マーフィー、アニー・ホイットル 2007/03/02 太田イオンシネマ ○ ニュージーランドの片田舎で、徹底的にスピードを追求すべく バイクに手作りの改良を重ねる老人が、 アメリカで開かれるスピード世界大会に念願の出場を果たす物語。 あのような職人的な世界には内心憧れるものがあり、 それが仮に失敗に終わったとしても充分に感動したと思われるのに、 意外にも驚くべき結果を生み出してしまったことで、一層の感動が押し寄せた。 しかし、それ以上に感動的だったのは、レースの結果云々よりも、 彼が道中や現地で出会った沢山の人々が、次々に彼の熱意に巻き込まれて行く様子。 更に、エンディングの字幕でこれが実在の人物の話だと言うことを知って、 非常に驚かされた。物凄い「年寄り」がいたものだ。 ホームページ
善き人のためのソナタ (Das Leben Der Anderen) 2006ドイツ (監)フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク (出)ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ 2007/02/25 シネマライズ ◎ 末期の旧東ドイツ。 反体制思想の証拠を掴むべく、ある劇作家の部屋を盗聴する国家職員が、 劇作家(と恋人である女優)の言動を逐次聞いているうちに、 徐々に心が揺らいでゆく。そして彼の採った行動は、 彼自身にとっては何の益もなく、しかも(情勢を考えれば)間違いなく命懸けのことで、 その事だけでも既に十二分に感動的だが、 その先に訪れるあのラストシーンの「邂逅」には、圧倒的な感動に襲われた。 この出来事の時代は決して大昔ではなく、 しかも今も世界のあちこちで恐らく同じような事が行われていることを思うと、 ひとまず言いたいことを言える(と思える)環境に今の自分があることの有り難さを、 大切に認識しておきたいと思う。 ホームページ
孔雀 我が家の風景 2005中国 (監)クー・チャンウェイ (出)チャン・チンチュー、ファン・リー、ルゥ・ユウライ、フォアン・メイイン、チャオ・イーウェイ 2007/02/25 渋谷Q-AXシネマ ◎ 文化大革命後の中国の田舎で、知的障害のある兄と、 兄ばかり贔屓する(と妹弟からは見える)父母と、それを妬む妹と弟、 5人家族の家族風景。 表向きには静かな物語だが、妹と弟の抱える不満と鬱憤は積もる一方で、 二人はついにそれぞれ捨て鉢な方法で家族から離れ去って行ってしまう。 しかし、その後の紆余曲折を経て、十余年の歳月が過ぎた今、 家族は曲りなりにも平穏な時期を迎えているのであった。 そんな彼らの現在の姿を遠目に見ながら、 何とも言えない感慨が胸の内に溢れて来た。 あまりにも淡々と描かれる物語ではあるが、 だからこそ私の心のツボにはぴったり当たってしまった模様。 映像的にも非常に綺麗。 ホームページ
あなたになら言える秘密のこと (The Secret Life of Words) 2005スペイン (監)イサベル・コイシェ (出)サラ・ポーリー、ティム・ロビンス、ハビエル・カマラ、ダニエル・メイズ 2007/02/24 シネティアラ21 ○ 海上に孤立した油田採掘所で起こった火災事件。 重症の火傷を負った中年男性の看護に当たる若い看護士の女性。 彼女には人には言えない辛く悲しい過去があった。 この二人が、そんなに短期間で信頼関係を築けるものか少々疑問にも思ったが、 あのような閉塞した環境だからこそ起こり得たことなのだろう。 陸地から遠く離れ閉ざされた中で、一方で都会の無機質な工場の中で、 人々の抱える絶望的な孤独感が際立って伝わって来る。 忘れてしまうこと、忘れてしまいたいこと、忘れてはならないこと、 それらを巡るカウンセラーと男との対話が印象深い。 ただ、この邦題は、前作『死ぬまでにしたいしたい10のこと』 (→2004/12/28) の語感に合わたかったのは分かるものの、ちょっと無理がある。 ホームページ
キャッチボール屋 2005日本 (監)大崎章 (出)大森南朋、キタキマユ、寺島進、松重豊、光石研、水橋研二 2007/02/18 シネマテークたかさき ○ 都会の公園で「10分百円」でキャッチボールの相手をする仕事を、 なりゆきで引き受ける羽目になった男と、 そこに集まるちょっと訳アリの人々の交流の物語。 人相の悪い速球男、思わせ振りなOL、転職活動中の借金取り、 公園の売店のオバサン、ベンチから見ているだけの男、キャッチボール初心者の男、 等々、色々な人が登場するが、大した事件が起こる訳でもなく、 せいぜい彼ら彼女らの境遇が何となく分かってくる程度。 しかし、この場所を通じて、のんびりと、 一人一人がちょっとだけ前に進んで行くのが、ちょっとしあわせな気分。 私自身は、恥ずかしながらキャッチボールが全然できないのだが、 私にもこんな心のオアシスのような場所が本当にあったらいいのに。 ホームページ
リトル・ミス・サンシャイン (Little Miss Sunshine) 2006アメリカ (監)ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス (出)グレッグ・ギニア、スティーヴ・カレル、トニ・コレット、ポール・ダノ、アビゲイル・ブレスリン、アラン・アーキン 2007/02/18 シネマテークたかさき ◎ 子供のミス・コンテストに繰り上げ入選してしまった、6歳の女の子。 彼女のコンテスト出場の悲願を叶えるために、 会場であるカリフォルニアのホテルまでの遠路を、 黄色いポンコツ自家用バスで長距離ドライブに繰り出すことになった、一家6人。 それぞれ「負け犬」ばかりのバラバラの家族は、 最初から全く気乗りがしていなかったし、 道中でもろくなことが起こらず、むしろ境遇は悪化するばかり。 それなのに、何でこんなにゴキゲンな気持ちにさせられてしまうのか不思議で、 コンテスト本番の場面などブラヴォーと叫び出したいウキウキ気分。 登場人物一人一人が、愛すべき存在に思えて仕方ない。 この日は幸運にも、劇場前にあの黄色いバスが登場、 車内でコーヒーなどの販売をしていた。 ホームページ
墨攻 (A BATTLE OF WITS) 2006中国=日本=香港=韓国 (監)ジェイコブ・チャン (出)]アンディ・ラウ、アン・ソンギ、ワン・チーウェン、ファン・ビンビン、ウー・チーロン 2007/02/17 熊谷シネティアラ21 ◎ 大国・趙の大軍による侵攻を目前にした小国・梁に、 救援に招かれた墨家の男。彼は巧みな指揮で城を防御し、形勢を有利に運ぶが、 彼が家臣や民から信頼を集めるに従って、王は彼に対して猜疑心を抱くようになる。 その一方で彼自身、敵味方の大量の犠牲者を目の当たりにして、 自身の採った戦略について思い悩む。 序盤早々から緊迫感のあるストーリー展開は、 物理的な戦闘と心理的な戦闘が絡み合って、最後まで勢いが止まらない。 大軍の描写はスケールが大きく、戦闘場面は迫力充分。 中国楽器や独唱を効果的に使った重厚な音楽もよく合っていた。 無常や流転を感じさせる哀切なラストには、目頭が熱くなった。 まさに東アジア各国の総力結集の賜物と言うべき傑作。 ホームページ
となり町戦争 2006日本 (監)渡辺謙作 (出)江口洋介、原田知世、瑛太、余貴美子、岩松了 2007/02/12 新宿ガーデンシネマ ○ 隣接する町との間で戦争を始めた、と言うシュールな設定の下、 役場で戦争推進業務を生真面目に遂行する女性と、 偵察業務と言う名目で彼女と偽装結婚させられ 隣町に潜入移住させられた会社員の男との間で、微妙な感情の駆け引きが展開される。 誰も戦争に賛成した覚えはないのに、損益計算の結果に従って戦争が始められ、 何となく実感のないままいつの間にか犠牲者が出ていたり、 他人事のつもりが結局は直接間接に自分が関わっていたり、 等々なかなか鋭い所を突いた物語には、後になって色々と考えさせられてしまった。 ただ映画としては、真面目な割に現実感に乏しく、少々中途半端な感じあり。 ホームページ
キムチを売る女 (芒種) 2005韓国 (監)チャン・リュル (出)リュ・ヒョンヒ、キム・パク、ジュ・グァンヒョン、ワン・トンフィ 2007/02/12 シアター・イメージフォーラム 主人公は、中国の田舎の村で、非合法でキムチを行商しながら、 幼い息子と共に慎ましく暮らす「朝鮮族」の若い女性。 彼女は、ふとしたきっかけで何人かの男たちに弄ばれた上に、 いくつかの不幸に見舞われた挙句、 ついに思い切った破滅へと自らを至らしめる。 中国における朝鮮族なる少数民族の存在を初めて知ったし、 最後の展開は予想外かつ衝撃的ではあった。 しかし、ストーリー性よりも映像感覚が重視されていて、 良く言えば淡々と、悪く言えばだらだらと事が展開するため、 正直言って途中から退屈してしまった。 これは紛れもなくアート系フィルムで、残念ながら私の好みではなかった。 ホームページ
魂萌え! 2006日本 (監)阪本順治 (出)風吹ジュン、三田佳子、加藤治子、豊川悦司、常磐貴子、田中哲司、寺尾聰 2007/02/10 ワーナーマイカルシネマズ熊谷 ○ 定年間もなく急逝した夫。 哀しみに浸る間もなく、妻は、夫に愛人がいたことを知ってしまう。 その一方で、地に足の付かない生活を送る息子や娘は、 相続の問題を早々と切り出そうとする。 妻は、混乱と動揺のあまり、勢い余って家出しするが、 投宿したカプセルホテルで出会った人々に触発されて、 徐々に強くたくましく自立してゆく。 最初はおどおどするばかりだった平凡な主婦が、 やがてしぶといオバサンへと成長してゆく様子を、風吹ジュンが好演。 何のかんの言いつつも彼女を支えている旧友たちも、それぞれいい味を出していた。 ちゃっかり者の息子と娘が、結果的にそれぞれ自立させられるのも後味よい。 ホームページ
あなたを忘れない (26 years Diary) 2006日本=韓国 (監)花堂純次 (出)イ・テソン、マーキー、竹中直人、金子貴俊、浜口順子、原日出子 2007/01/28 熊谷シネティアラ21 新大久保駅で線路に転落した酔っ払いを助けようとして亡くなった二人の内の一人、 韓国人留学生についての物語。 こんなにも日本のことを好きになろうと努めてくれていた若者が、 あんな風に亡くなってしまったのは、何と悲しく何と残念なことだろう。 恋人である女性歌手のライヴ活動と物語を同期させて、感動的に盛り上げる。 反日感情や在日問題、日本人の気質、家族の絆など、色々な要素も絡めてある。 ただ、どこまでが事実なのか分からないものの、やや「物語」を作り過ぎの感あり。 あまりにも話が出来過ぎなので、 実在の人物としてのリアリティが損なわれてしまっている。 ホームページ
幸福な食卓 2006日本 (監)小松隆志 (出)北乃きい、勝地涼、平岡祐太、羽場裕一、石田ゆり子 2007/01/27 熊谷シネティアラ21 ○ 家を出てアパートで一人暮らしする母、 「父さんを辞める」と宣言する父、 大学進学を急にやめて農業を志す兄、 そして、そんな普通でない事態を受け容れざるを得ず、頭が変になりそうな妹。 仲良くなった転校生の男の子を心の支えに、 ようやく立ち直ろうとする矢先に、悲しい事件が起こる。 一見ほのぼの系のようでいて、実は崩壊した家族の苦しい再生の物語。 生真面目で、きちんとしていたくて、それ故に自分自身に追い詰められて、 じわじわと疲れ切ってしまう、そんな家族それぞれの気持ちはよく分かり、 そこに風穴を開けてくれる何人もの人々の存在に、じわじわと涙が出た。 重い話であるにも関わらず、淡々と静かに丁寧に作られていることにも好感。 ホームページ
夏物語 (Once in a Summer / その年の夏) 2006韓国 (監)チョ・グンシク (出)イ・ビョンホン、スエ、オ・ダルス 2007/01/27 熊谷シネティアラ21 ◎ 労働ボランティアとして訪れた小さな農村で出会った男女。 互いに想いを寄せ合い、駆け落ちしてソウルにやって来た二人だが、 折からの学生闘争の波に巻き込まれ、二人の絆は引きちぎられてしまう。 以来数十年、今も彼女を想い続ける男に、 初恋の人の行方を探すというTV企画の話が舞い込んで来る。 回想系&断念系の悲恋物語で、中盤から泣かせ所の連続。 イ・ビョンホンは、『甘い人生』などの気取った役柄よりも、 この映画のような純朴な役の方がずっと似合っているし、 共演のスエの醸し出す切なさには、大いに涙を誘われた。 最近の韓国映画の中では確実に上位グループに属すると思う。 ホームページ
それでもボクはやってない 2007日本 (監)周防正行 (出)加瀬亮、瀬戸朝香、山本耕史、もたいまさこ、役所広司、田中哲司、光石研 2007/01/21 熊谷シネティアラ21 ◎ 満員電車で痴漢したとして誤認逮捕された若い男の、 取り調べから裁判までの過程を逐次追った物語。 彼は一貫して無実を主張し続けるが、理不尽極まりない取り調べの挙句、 決定的な証拠は何もないままに起訴され、ついに運命の判決の日がやって来る。 この映画では、彼が本当に無実であることを、見ている我々は知っている。 一方で、被害者の女子高生も、自分の確信を言っているだけで、嘘はついていない。 真実を明らかにすることなど誰にもできないにも関わらず、 我々は下された判決を真実と受け止めてしまう、何と恐ろしいことだろう。 法廷内の様子を始め、場面場面がリアリティに富んでいて、 裁判の傍聴者たちのこと、弁護士の苦悩、裁判官の都合から、 拘留中の扱われ方に至るまで、興味が尽きない。 難しい状況を、素人である我々にも分かるように進めてゆくストーリー展開も見事。 ホームページ
ダーウィンの悪夢 (Darwin's Nightmare) 2004フランス (監)フーベルト・ザウパー 2007/01/20 シネマテークたかさき ◎ ヴィクトリア湖に放流された食用の巨大魚・ナイルパーチを巡る、 重厚で衝撃的なドキュメンタリー この魚が、湖の生態系に、そして湖畔の人々の生活にもたらした、 善悪を単純に割り切れない影響について、 さまざまな立場の人々へのインタビューを通じて映し出してゆく、 そしてそれが、遠く日本を含む世界中と直接・間接につながっていることを示唆する。 既に世界はこんな風に複雑かつ重層的に絡み合っていて、 問題を認識したところで、どうしてよいのか誰にも分からない。 しかしそれでも、まずは問題を認識しなければ始まらない。 何というジレンマだろうか。 もはや、他人事なんて事は何もないのかも知れない。 ホームページ
海でのはなし。 2006日本 (監)大宮エリー (出)宮崎あおい、西島秀俊、天光眞弓、穂積ぺぺ、菊地凛子、川村早織梨 2007/01/20 シネマテークたかさき ○ 人間関係をうまく気付けない男女の、小さな恋愛物語。 西島秀俊の演じる人間関係をうまく築けない男の気持ちは非常によく分かり、 宮崎あおいもいつもながら切なさをうまく体現していて、 じわじわと泣かされてしまった。 ただ、BGMとして多用されるスピッツの歌が、ここではちょっと耳障り。 これは、歌が悪いのではなく使い方の問題で、歌詞がはっきりと聞き取れるので、 どうしても耳が音楽に向いてしまい、 映像上の物語への集中を妨げる事になっていて、少々残念。 ホームページ
みえない雲 (DIE WOLKE) 2006ドイツ (監)グレゴール・シュニッツラー (出)ウラ・カレンベルク、フランツ・ディンダ 2007/01/19 シネカノン有楽町 ○ 突然の原発事故によるパニックに陥った人々の中での、 高校生の男女の、文字通り命懸けの恋愛物語。 何よりも、「見えない恐怖」に怯え、冷静さを失った群衆の狂気に、 恐ろしさを感じた。 後遺症や二次被曝の問題を恋愛物語に絡めてあるのも、 それが絶望的な結末で終わっていないのもよいところ。 しかし、日本にも(ドイツの何倍もの)原発がある以上、 これは決して他人事ではないのであった。 原発の是非については簡単には論じられるものではないが、 考えるべき一つの視点を提示してくれたのは確か。 ホームページ
子宮の記憶―ここにあなたがいる 2006日本 (監)若松節朗 (出)松雪泰子、柄本佑、野村佑香、寺島進、中村映里子、余貴美子 2007/01/19 シネスイッチ銀座 ○ 母親の愛情を受けずに育った青年が、 乳幼児の頃に自分を誘拐した犯人の女を訪ねて、沖縄に向かう。 彼は素性を隠したまま、女が営む食堂に住み込みアルバイトとして入り込み、 女を間近で観察する中で、不思議な帰着感を覚えてゆく。 最後の「数年後」はちょっと蛇足かと思いきや、更に物語に深みをもたらしていて、 突き放したような救済感に涙が出た。 家族の断絶を巡る物語の重苦しさを、沖縄の明るい海の印象が中和してくれる。 『フラガール』で好印象だった松雪泰子が、心を開かない疲れた女性を好演。 ホームページ
シコふんじゃった。 1992日本 (監)周防正行 (出)本木雅弘、清水美砂、柄本明、竹中直人、田口浩正 2007/01/16 太田イオンシネマ ◎ 卒業単位を貰うための条件として、廃部寸前の大学相撲部に入さられ、 学生相撲大会に出ることを余儀なくされた軟弱学生。 何とか必要人数だけは集めて大会に出たものの、当然ながら惨敗。 しかし、打ち上げの場でうっかり口を滑らせたために、 次の大会にも出ることになってしまった彼だが、 監督の巧みな誘導に乗せられて、いつの間にか本気にさせられてしまう。 11年振りの新作公開前に、周防監督の旧作特集。 フィルム(のサウンドトラック)が劣化しているようで、 音声が少々聞き取りづらかったのが残念だが、 これを機会に観ることができただけでも有り難い。 楽しくて感動的な傑作。
愛されるために、ここにいる (Je ne suis pas la pour etre aime) 2005フランス (監)ステファン・ブリゼ (出)パトリック・シェネ、アン・コンシニュイ 2007/01/06 ユーロスペース ○ 生きることに疲れた中年男性がふとダンス教室に入り、 そこで知り合ったそう若くもない女性と、微妙な関係に。 男性の家族(父の職業である執行官を継ごうとしている息子や、 老人施設にいるワンマンな父親)との関係や、 女性の婚約者との関係などが絡み合って来て、すれ違いの後に絶妙のラストが訪れる。 思わず笑わされる所もあれば、ちょっと泣かされる所もあり、 タンゴのダンスの見せ場も多くあり、充実感のある映画。 何よりも、全篇を覆う物憂いタンゴの調べが、たまらなくよろしい。 ホームページ
合唱ができるまで (Le Metamorphoses du Choeur) 2004フランス (監)マリー=クロード・トレユ (出)クレール・マルシャン、モーリス・ラヴェル音楽院合唱団 2007/01/06 ユーロスペース ◎ パリのアマチュア合唱団(と管弦楽)の練習風景だけを、 ひたすら追いかけたドキュメンタリー。 最初はいかにも素人集団だった合唱が、的確で細やかな指導の下、 徐々に「変容」してゆく様子は、共感的かつ感動的。 いつしか自分もメンバーの一員になって参加しているような気分になっていた。 演奏される曲が、個人的に大好きな分野(18世紀の宗教音楽)なので一層楽しめた。 練習での対話や曲の歌詞に、丁寧に字幕が付されていたのも有難い。 映画全体が、音楽することの喜びに満ちていた。 ホームページ
恋人たちの失われた革命 (Les Amants Reguliers) 2005フランス (監)フィリップ・ガレル (出)イ・ガレル、クロティルド・エスム、モーリス・ガレル 2007/01/06 東京都写真美術館ホール 1968年の反体制運動に揺れるパリでの、若者たちの群像劇。 しかしここに登場する若者たちは、本気で闘争に身を入れる気もなければ、 そもそも思想性もなく、芸術家を気取りながら、ただ怠惰な生活を送っているだけ。 しかも麻薬に逃避しているとあっては、彼らの苦悩にどうしても共感できず、 そんな中で芽生える恋愛物語も、美しいものには見えず、 彼らの破綻と破滅は、当然の帰結と思う。 3時間を越えるモノクロ映像で、多用される長回し映像や、唐突な音楽の使い方には、 確かに格調高さが感じられるものの、内容的にはひたすら退屈。 ホームページ

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(紺野裕幸)

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