映画寸評 2008年

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2008年 私的ベスト3: しあわせのかおり歩いても 歩いても実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 (次点) 腑抜けども、悲しみの愛を見せろラスト、コーション


◎=絶賛 ○=よい
2008
タイトル データ 鑑賞日 感想
そして、私たちは愛に帰る (The Edge of Heaven) 2007ドイツ=トルコ (監)ファティ・アキン (出)バーキ・ダヴラク、ハンナ・シグラ、ヌルセル・キョセ、トゥンジェル・クルティズ、ヌルギュル・イェシルチャイ、パトリシア・ジオクロースカ 2008/12/30 シネスイッチ銀座 ◎ ドイツで大学講師を務める男性と、娼婦との老後を暮らす父。 トルコでの学生運動で追われる身となったトルコ人女性と、彼女が捜す行方知れずの母。 友人を救うために危険に身をさらすドイツ人女性と、それを突き放す厳格な母。 3組の親子を巡る悲劇が、少しずつ重なってゆく。 ドイツのトルコ移民問題や、トルコの政情問題が、物語に深く関わっていて、 それによって直接間接に引き起こされる出来事が、親子のすれ違いを引き起こしてゆく。 3つの親子の物語が、部分的にしっかり接点を持っていながら、 結ばれて欲しい点と点については結ばれないなのが、何とももどかしく、 しかしそれが映画としては非常によいところ。 悲劇は悲劇として、問題は解決を見ないまま、心の再生への兆しが見える終わり方が、 じわじわと味わい深い。長い静かなラストシーンは、長く心に残る場面。 ホームページ
青い鳥 2008日本 (監)中西健二 (出)阿部寛、本郷奏多、太賀、鈴木達也、河神将平、伊藤大翔、篠原愛実、遠藤義明 2008/12/30 新宿武蔵野館 ◎ いじめによる自殺未遂を出した中学校のクラスを、 代用教員として担任することになった吃音を持つ男性教師と、 事件のことを本当には解決できていない生徒たちとが、真摯に向かい合う物語。 本気で言ったことには本気で答えなくては駄目だ、 自分がやったことに罪はなくても責任はある、等々、 この教師の語る静かな言葉の重みには、ぐっと来るものがあった。 それを真っ向から受け止める生徒の真剣な苦悩もまた然り。 一方で、もう事件を解決したことにして片付けてしまいたい 一部の教師陣の言動の軽薄さが、痛烈に対比されている。 本気で向かい合わない限り、真の解決は有り得ない、 そのことを改めて認識させられた。 いかにもと言う感じの物語ではあるが、丁寧に作られた傑作と思う。 ホームページ
ハピネス (Happiness) 2007韓国 (監)ホ・ジノ (出)ファン・ジョンミン、イム・スジョン 2008/12/30 シネマート六本木 ○ 病に侵された男女の、幸福の在り方を描いた悲劇。 自堕落な生活で肝硬変を患った男は、山奥の療養施設で、肺病の女性と出会い、 二人はやがて好き合うようになり、施設を出て二人で静かに暮らし始める。 健全な生活と彼女の献身のお蔭で、やがて彼は体調を取り戻すのが、 次第に彼は昔の放蕩生活への誘惑に負けてしまうのであった。 男の心変わりがあまりにも急で、身勝手過ぎて、どうにも許し難い気分で、 しかしそれだからこそ、女の一途さと健気さが際立って見えるのかも知れない。 この残酷過ぎる結末に対して、「ハピネス」と言う表題が、何とも意味深長に思えた。 ただ私は、彼女の心境にも、彼の心境にも、どうも入り込めず、 大いに泣けると言う売り込み文句の割には、それ程でもなかったか。 ホームページ
40歳問題 2008日本 (監)中江裕司 (出)浜崎貴司、大沢伸一、桜井秀俊、スネオヘアー 2008/12/20 シアターN渋谷 40歳前後と言う微妙な年代の姿を浮き彫りにしようとする、ドキュメンタリー映画。 特に接点の無かった3人の約40歳のミュージシャンに集まってもらい、 一つの楽曲を共作してもらう過程を刻々と追って行く。 試みとしては面白かったが、成果としてはあまり成功していなかった気がする。 ぶつかり合いながら、新しい曲が生み出される現場に立ち会える面白さは、 確かにあった。しかしそこに、40歳ならではの意識と言うのがあまり浮上せず、 どちらかと言えば彼らがそれぞれ20〜30代でやって来たことを引っ張っている だけのように思えたのが残念。 これは、この場当たり的な試みの限界なのかも知れない。 随所に、40歳前後の著名人へのインタビューが挿入されていて、 特に私が最近凝っている作家・角田光代さん(私より半年ほど年上)の談話は興味深い。 曰く、騙したり、嘘をついたり、女にだらしなかったり、 そんなのは大して「悪い男」ではない。 本当に「悪い男」なのは、自分が「良い男」になろうとしている男だ、と。 角田さんの諸作品の登場人物を思い浮かべて、妙に納得させられた。 ホームページ
うん、何? (うんなん) 2008日本 (監)錦織良成 (出)橋爪遼、柳沢なな、宮崎美子、松澤傑、平田薫 2008/12/20 シアター・イメージフォーラム ◎ 島根の静かな町を舞台にした、将来や恋の悩みに揺れる高校生たちの青春物語。 牛乳工場の息子と、造り酒屋の娘、幼馴染の二人は、互いに好いているのに、 どちらも意地を張ってしまい、本当の気持ちを伝えられない。 高校3年になって、進路をどうするか、都会に出るか地元に残るか、 このまま好きな気持ちを伝えられなくてよいのか、悩みと迷いは尽きないところ。 そんな中で、病床にあった少年の母親の容態が悪化してしまうの。 人生を変えるような一大事も、ささやかな日々の出来事も、全てを包み込むような、 家族や友人や恩師や風景の優しさが、映画の中に満ちている。 やまたのおろち伝説や和太鼓や祭りや葬列など、この郷土の文化や風習が 無理なく編み込まれているのもよい。 その年頃の自分の色々な気持ちが、つい脳裏を横切って、 甘酸っぱい気分にさせられたり、しみじみと泣かされたり、 爽やかな気分になったり、まさに私の好きなタイプの、地味で良心的な映画。 ホームページ
おいしいコーヒーの真実 (Black Gold) 2006イギリス=アメリカ (監)マーク・フランシス、ニック・フランシス 2008/12/14 シネマテークたかさき ○ コーヒーの流通の仕組みから、世界の流通の仕組を教えてくれるドキュメンタリー映画。 エチオピアのコーヒーの適正価格取引を目指す職員の活動を中心に、 貧困に喘ぐコーヒー農家、集配業者、流通企業、NY取引市場、 街のコーヒーショップやスーパーマーケットなど、様々な立場の人々が登場。 この中で明らかに浮いているのは、市場価格を支配するNY取引市場だろう。 そしてこの流通の仕組みのせいで、最終的なしわ寄せが末端のコーヒー農家に 行ってしまうとは、何と理不尽なことか。 ただ、このような現状に疑問を持ち、適正価格取引に取り組もうとする 動きがあることや、それによって僅かでも農村に見返りが生まれていることは、 事態を打破するきっかけとなりそうな予感があった。 勿論そう簡単な問題ではないことは分かっていても、 この種の映画では絶望的な気分になることが多いだけに、 この映画では解決への道筋の一つが提示されているので救いがあって良かった。 ホームページ
ハッピーフライト 2008日本 (監)矢口史靖 (出)田辺誠一、時任三郎、綾瀬はるか、吹石一恵、田畑智子、寺島しのぶ、岸部一徳 2008/12/03 熊谷シネティアラ21 ◎ 羽田発・ホノルル行き1980便が、搭乗手続きを経て離陸してから着陸するまで、 乗客、パイロットや客室乗務員、管制官、整備士、空港職員、 その他飛行機に携わる様々な人々のひと時を描いた群像劇。 まず、飛行機を飛ばすためにはこんなにも多くの人々の仕事が関わっているのか、 と改めて思った。物語上の主人公は一応、今回の飛行が機長昇格試験を兼ねている 副操縦士の男性と、初の国際線乗務となったCAの女性だが、 他の搭乗人物にもそれぞれの物語があり、 一人一人が愛すべき存在に思えて仕方なかった。 いろいろなトラブルに直面して右往左往する人々の姿が、可笑しかったり 滑稽だったりしても、それぞれ皆真剣に取り組んでいることが分かっているだけに、 見ている我々も問題の解決を真剣に願ってしまう。 元々飛行機に乗るのが大好きな私だが、次に乗る時には、一層楽しめると共に、 もしかすると感動させられてしまいそう。 ホームページ
私は貝になりたい 2008日本 (監)福澤克雄 (出)中居正広、仲間由紀恵、笑福亭鶴瓶、草なぎ剛、上川隆也、石坂浩二 2008/11/28 熊谷シネティアラ21 ○ 戦時中、ただの下っ端の兵士でありながら、 終戦後の不当裁判で絞首刑を下された男の悲劇。 主人公は、上官から強いられた捕虜の「適切な処理」に否応なく加担させられ、 それが元で戦犯としての罪を問われてしまうが、 あの状況に置かれたら私だって同じ運命に遭っただろう。 せっかく戦争から生還しても、後からこんな不幸に見舞われた人々がきっと 沢山いた筈で、戦争(に負ける)とはこう言うものなのだと改めて思った。 映像も音楽も往年の巨編映画のような重厚な印象で、 最後には表題に込められた深い深い絶望がひしひしと伝わって来た。 但し、最後の主題歌は明らかにミスマッチで興醒め。 ホームページ
天国はまだ遠く 2008日本 (監)長澤雅彦 (出)加藤ローサ、徳井義実 2008/11/27 シネセゾン渋谷 ◎ 人との係わり合いに疲れた若者の、心の休息の場所を描いた物語。 死ぬつもりで人知れず遠い町にやって来た若い娘は、山奥の民宿に辿り着くが、 その宿を営む若い男自身も何だか人間関係から逃げているような気配。 二人は、あくまでも宿主と客とのあっさりした関係でありながらも、 互いに心の支えとなり、それぞれが立ち直ってゆく。 二人が、決して深入りせず、ある程度の距離感を保ちながら、 しかし互いに穏やかに見守り見守られている、その関係が私にはよかった。 静かな田舎の風景は落ち着きがあり、慎み深い音楽もぴったり合っている。 あえて余韻を残した終わり方も実によい。 ホームページ
その日のまえに 2008日本 (監)大林宣彦 (出)南原清隆、永作博美、大谷燿司、小杉彩人 2008/11/27 角川シネマ新宿 ○ 妻が余命わずかと診断された夫婦が、共に過ごした最後の日々の物語。 ちょっと泣かされはしたが、映画としての水準は高いとは思えず。 話の筋自体はよいとしても、脚本としては、あれこれ盛り込み過ぎで、 しかも説明過剰で、少々安っぽい。音楽も大袈裟で仰々し過ぎで、 大林監督が多用する目まぐるしいカットの切り替えも今回の話には向いていなかった。 しかし、場面場面で言えば、自分が主人公と同世代と言うこともあり、 しみじみと心に染み入る箇所がいくつもあった。とりわけ 「自分が死んだ時に連絡して欲しい人リスト」は、私も作って置こうかと思う。 この夫婦が最後に到達した確固たる心の結び付きが、独身者の私には凄く羨ましかった。 ホームページ
さくらんぼ 母と来た道 (CHERRIES/桜桃) 2007中国 (監)チャン・ジャーペイ (出)ミャオ・プゥ、トゥオ・グゥオチュアン、ロン・リー、マ・リーウェン 2008/11/16 銀座テアトルシネマ ○ 中国の貧しい寒村で、子宝に恵まれない身体障害の夫と知的障害の妻との夫婦は、 林に捨てられた女の赤ちゃんを拾い、紆余曲折の末、 自分たちの娘として育てることに。幼い頃は母にべったりの娘でしたが、 物心付くに従って母の幼稚さを恥ずかしく思うようになってしまう。 そして、この母の真の有り難さが分かる迄には、もうしばらくの歳月が必要だった。 物語はかなりストレートで、特に知的障害の母の描写はリアルで容赦ない。 演じる俳優・女優は迫真で、彼らの虚飾ない本心がよく伝わって来る。 夫の真剣さも妻の一途さもよく分かる一方で、 母を疎ましく思う娘の気持ちもよく分かってしまうのが切ない。 それだけに、物語のこの結末は、ちょっと肩透かしの気も。 ホームページ
まぼろしの邪馬台国 2008日本 (監)堤幸彦 (出)吉永小百合、竹中直人 2008/11/14 熊谷シネティアラ21 島原鉄道の元社長で後半生を邪馬台国の研究に打ち込んだ盲目の文学者・宮崎康平と、 彼を支え続けた妻(後妻)の物語。 ワンマンで破天荒な宮崎と、否応なしに彼の人生に巻き込まれてしまった妻と、 二人が手を携えて、古文書から邪馬台国の所在を突き止めようとする、 長い歳月が描かれる。 物語の主人公は宮崎本人よりもむしろ妻の方で、そのこと自体はよかったと思う。 ただ、いろいろなエピソードを詰め込もうとした結果、展開が慌しくなってしまい、 彼女の心境の変化に全然ついて行けなかった。 また、美しい風景も沢山出て来るのに、それが目まぐるしく切り替わってしまうので、 落ち着きのない印象。 招待券で観たからよかったものの、正直ちょっと期待外れ。 ホームページ
イエスタデイズ 2008日本 (監)窪田崇 (出)塚本高史、國村準、和田聰宏、原田夏希、カンニング竹山、蟹江一平、中別府葵、高橋恵子、風吹ジュン 2008/11/12 太田コロナシネマ ○ 病床にある父から、父が結婚前に愛していた女性を探すよう頼まれた息子は、 嫌々ながら手掛かりを探すことに。 当時の父が描いたスケッチブックの風景画の現場に立った時に、 彼の脳裏に不思議な映像が浮かび上がるが、それは、 若き日の父と恋人との仲睦まじい姿なのであった。 少しずつ過去の出来事を知る中で彼は、父や恋人の表向きの行動の裏に秘められた 本当の想いを理解すると共に、自分自身の歩く道を見出してゆく。 見ている我々にも真実が少しずつ明らかにされてゆくのでスリリングで、 しかも切ない気分にさせられ、 想いを封じ込て生きてゆく二人の過去と現代の姿に何度も泣かされてしまった。 ホームページ
宮廷画家ゴヤは見た (GOYA'S GHOSTS) 2006アメリカ=スペイン (監)ミロス・フォアマン (出)ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、ステラン・スカルスガルド、ランディ・クエイド、ホセ・ルイス・ゴメス、ミシェル・ロンズデール、マベル・リベラ 2008/11/08 熊谷シネティアラ21 ○ 18世紀末の動乱期のスペインで、革命に翻弄され潰されてゆく哀れな人々の姿を、 画家ゴヤの視点から描き出した、ドロドロと言ってよい程の壮絶な人間ドラマ。 画家が懇意にする豪商の娘が、あらぬ咎で異端審問の挙句に投獄され、 画家は異端審問を強固に主導する神父に掛け合おうとするが、 そうする間にもフランス革命の余波がスペインにも到達しようとしていた。 彼らの運命は二転三転し、悲劇は悲劇を生み、ゴヤは画家として それら全てから目を逸らすことなく、目の前の悲惨さを絵にしてゆく。 ゴヤが、あのようなグロテスクな絵を描いた理由を、そして絵に込めた想いを、 初めて知り(恥ずかしながら今まで、怪奇趣味の作風なのかと勘違いしていた)、 改めてきちんと絵の実物をじっくり見てみたい衝動に駆られている。 ただ、この邦題は安っぽくてイマイチと思う。 ホームページ
オリンダのリストランテ (Herencia) 2001アルゼンチン (監)パウラ・エルナンデス (出)リタ・コルテセ、アドリアン・ウィツケ、マルティン・アジェミアン、エクトオール、アングラーダ、フリエタ・ディアス 2008/11/03 シネマ・アンジェリカ ○ ブエノスアイレスで小さなレストラン(と言うより食堂と言う雰囲気)を営む 中年女性と、恋人を探してドイツからやって来たものの なりゆきでレストランに居候することになった青年との、心の交流を描いた、 じわじわと心が温まる物語。 主人公の女性は、決して薄情ではないものの、店員を怒鳴り散らしたり、 客を冷たくあしらったり、結構キツくて強情な性格。 そんな彼女が、若さ故に無鉄砲で懸命な青年と衝突する中で、 徐々に自分自身のことも見つめ直して、素直になってゆく様子が、 何とも味わい深くてよかった。 しかも、移民が多いアルゼンチンと言う国のこともよく分かる。 言語の違いによる齟齬も面白いものがあった。 ホームページ
タンゴ・イン・ブエノスアイレス―抱擁― (ABROZAS TANGO EN BUENOS AIRES) 2003アルゼンチン (監)ダニエル・リヴァス (出)ホセ・リベルテーラ、ルイス・ボルダ、アドリアナ・バレーラ、ルベン・ファレス、マリア・グラーニャ、フアンホ・ドミンゲス 2008/11/03 シネマ・アンジェリカ ◎ 2003年にブエノスアイレスで行われたアルゼンチン・タンゴの世界選手権の 様子を中心に、音楽とダンスとインタビューから、 タンゴの本質に迫ろうとするドキュメンタリー。 大御所から若手まで多様なバンドによる演奏や、様々な踊り手たちによるダンスが 満載で、この種の音楽が好きな人にはたまらない内容。 国内のみならず日本を含み外国からの参加者も含めて、 タンゴに魅力に取り憑かれた人々の熱い語りには、そしてそれぞれが演じる 熱いパフォーマンスには、見ている我々の胸も熱くなってしまう。 音楽もダンスも場面がやや断片的で、切り替えが目まぐるしいが、 それがかえって勢いと熱気を伝えているようだ。 意外だったのは、当時は革命児と言われていた筈のアストル・ピアソラの楽曲が、 現在のタンゴの楽団によって、 まるで古典曲であるかのように当たり前に演奏されていたこと。 タンゴの世界も確実に前進あるいは革新し続けているのであった。 ホームページ
その土曜日、7時58分 (Before The Devil Knows You're Dead) 2007アメリカ (監)シドニー・ルメット (出)フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、アルバート・フィニー、ローズマリー・ハリス 2008/10/28 恵比寿ガーデンシネマ ◎ 経済的に行き詰まり大金を必要としている兄は、やはり日銭にさえ苦しんでいる弟に、 実家である宝石店の強盗の話を持ち掛けた。 思惑では簡単に事が運ぶ筈だったが、予期せぬ誤算が重なり、 強盗は失敗に終わったばかりか、絶望的な犠牲を招いてしまう。 更に、思わぬ筋から足元をすくわれ、兄弟はいよいよ窮地に追い込まれてゆく。 最初は兄弟の関係が主題のようで、話の軸は徐々に親子 すなわち父と息子(たち)の関係へと移ってゆく。 この兄の父に対する屈折した感情は、私にも非常によく分かるため、 観ていて息苦しい程。 そして最後に父が採った選択を、どう捉えてよいのだろうか。 時系列が進んだり戻ったりする構成は、ちょっと大袈裟で いかにもアメリカ映画的ではあったが、 しかし物語を劇的に盛り上げていたのは確か。 緊迫感が途絶える間のない、重厚な悲劇。 ホームページ
ノン子36歳(家事手伝い) 2008日本 (監)熊切和嘉 (出)坂井真紀、星野源、鶴見辰吾、津田寛治、佐藤仁美、宇都宮雅代、新田恵利、斉木しげる 2008/10/24 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ○ 元タレントでバツイチで今は実家の神社に出戻って日々ぶらぶら過ごしている女性と、 神社のお祭りに出店したい世間知らずな青年との、 ちょっと不釣合いな関係の顛末が描かれる。 どうも私は、主人公(や青年)の心の動きに入り込めず、ちょっと期待外れ気味。 更に、何度かの「R-15」シーンは過剰と思われ、 これらがなければずっと好印象だったかも知れない。 しかしそうは言いつつも、もやもやを突き抜けたようなラストシーンでは、 何ともすっきりと愉快な気分にはなった。 この映画は埼玉県内の寄居町や秩父市で撮影されたそうで、 この劇場で「ロケ撮影協力御礼」として先行上映。 主人公が乗り回していたポンコツ自転車(の現物)も展示されていた。 ホームページ
トウキョウソナタ 2008日本 (監)黒沢清 (出)香川照之、小泉今日子、小柳友、井之脇海、井川遥、津田寛治、役所広司 2008/10/19 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 一見どこにでもありそうな平凡な家庭が、じりじりと崩壊してゆく物語。 リストラで失職したことを言えない夫、 給食費を月謝にしてこっそりピアノを習う次男、 突然に米軍への志願を言い出す長男、 そんな中でも母親役を演じ続けなければならない妻。 家族それぞれが、本当の考えを隠したまま、互いに見て見ぬ振りをしながら、 家庭の枠組みを維持していた筈だったが、そんな状態が長続きする訳もなく、 一度始まってしまった綻びは一気に拡がってしまう。 どうなることかと思わせつつ、やや唐突にも思えるラストのドビュッシーは あまりにも美しくて、訳もなく涙が出てきてしまった。 これがこの家族の転機を予感させて、ちょっとだけ救われた気分になる。 極めて現代的な、かなり悲惨な話で、気が重くなるばかりなのに、 何故か感動的でもある。 ホームページ
しあわせのかおり 2008日本 (監)三原光尋 (出)中谷美紀、藤竜也、田中圭、八千草薫 2008/10/18 シネスイッチ銀座 ◎ 小さな中国料理店を営む無骨な初老の男性と、 彼の下に弟子入りすることにした生真面目な若い女性とが、 料理することを通じて心の絆を確かにしてゆく。 じわじわと幸福感が心に注ぎ込まれて、そのまま涙腺から溢れ出てしまった感じで、 私には最高度によかった。 何よりも、鮮やかな手さばきで次々と作られる中国料理が実に美味しそうで、 それを食べている人々の幸せそうな表情がたまらなくよくて、 観ている自分までえもいわれぬ幸せな気分になってしまった。 料理すること、食事すること、それはこうして想いを伝搬させる作業なのだな、 と思った。 男性にも女性にもちょっとした事件があって、それを機に両者の絆は強まるのだが、 こうして形成された二人の師弟関係を越えた固い信頼関係が、 何とも羨ましくて仕方なかった。 ホームページ
火垂るの墓 2008日本 (監)日向寺太郎 (出)吉武怜朗、畠山彩奈、松坂慶子、松田聖子、江藤潤、高橋克明、山中聡、池脇千鶴 2008/10/17 ワーナー・マイカル・シネマズ羽生 ○ 1945年、神戸。空襲で家を焼け出され、親を失い、頼りにしていた親類から冷遇され、 心の支えの校長も亡くなり、もはや寄る辺もなく、食べるものもなく、 やがて戦争が終わっても何も変わらず、ひもじいまま身を寄せ合って生きている、 中学生の兄と幼い妹の悲し過ぎる末路。 その時その時の運命を受け入れてゆく兄妹の姿が、大袈裟に悲劇性を煽ることなく、 淡々と描き出されている。 華々しくあるいは悲劇的に亡くなった人も沢山いる一方で、 無数の人々がこうして誰にも知られることなく静かに死を余儀なくされた、 そのことに思いを致したい。 変な言い方かも知れないが、あなたたちはもう充分に頑張った、 だからもう休んでいいよ、と天国から呼ばれた、そう思いたい気分。 ホームページ
東南角部屋二階の女 2008日本 (監)池田千尋 (出)西島秀俊、加瀬亮、竹花梓、塩見三省、高橋昌也、香川京子 2008/10/13 シネマテークたかさき 亡き父の借金を肩代わりさせられている元サラリーマンの男、 彼とお見合いした相手のやや無鉄砲な女性、 彼と一緒に会社を辞職した元同僚、 なりゆきで二階建ての老朽アパートに一緒に住むことになった3人の若者が、 それぞれの居場所を確認してゆく物語。 穏やかに日が差す古い木造アパートの情景も、劇的なこともなく淡々と進む物語も、 更には主人公たちが(自分と同じく)冴えないサラリーマンであることも、 私好みの傾向。 ただ、あまりにも展開が緩すぎて、ちょっと退屈してしまったのも正直なところ。 また、映像がビデオカメラで撮ったかのように非常に粗くチラついていて、 これは意図的なものなのかも知れないが、個人的には少々見づらく感じた。 ホームページ
いま ここにある風景 (Edward Burtynsky: Manufactured Landscapes) 2006カナダ (監)ジェニファー・バイチウォル (出)エドワード・バーティンスキー 2008/10/13 シネマテークたかさき ◎ 人間が作り変えてしまった風景をテーマに撮り続けるカナダ人写真家の、 中国での撮影旅行の模様を追いかけたドキュメンタリー。 冒頭の、限りなく続く製造ラインの横断シーンから、相当に度肝を抜かれる。 「世界の工場」として、とてつもない人数を動員して、 とてつもないスケールで大量生産される工業製品たち。 一方で、無尽蔵に堆積する産業廃棄物の、終りのない分別作業に細々と勤しむ人々。 あるいは世界最大の規模を誇る三峡ダムの建造が進む一方で、 ダムの底に沈めるために住人自らの手で破壊される古い街並み。 桁違いのスケールで展開される生産と破壊の両面が、延々と映し出される。 この歴史上類を見ない規模で進んでいる風景の変化が、 将来的に世界をどのように変えてしまうのか。それは誰にも分からないことだが、 少なくとも希望的な未来でないのは確かだろう。 何かしなければならないことを認識させられつつも、何もできない 「居心地の悪さ」を、じわじわと痛感させられた。 真剣勝負で、示唆的な、驚くべき映画。 ホームページ
6年目も恋愛中 (6年目恋愛中/Love of 6 years) 2008韓国 (監)パク・ヒョンジン (出)キム・ハヌル、ユン・ゲサン 2008/10/11 シネマート六本木 ○ 付き合い始めて6年目になり、馴れ合いを通り越して当たり前の存在になってしまった 男女が、互いの気持ちを確信出来ずに、些細な事で喧嘩したり、 浮気しそうになったりしなから、でも本当は互いのことが大切であることを ようやく再認識する迄。 一見ほのぼの系のようでいながら、意外にシリアスな展開もあり、 しかも結構深い所を突いている。 ズバズバと本音むき出しの会話の中には、 (そんな状況を私は経験したことなどないにも関わらず) 実によく分かる所も多々あり、どうしてよいか分からず迷い悩むそれぞれの姿には、 目頭が熱くなってしまったりもした。 最後のばったりの展開は、ちょっと都合良すぎる気もするものの、爽やかで後味よい。 キム・ハヌルの喜怒哀楽の表情は相変わらずよろしい。 ホームページ
初恋の想い出 (情人結/A Time to Love) 2005中国 (監)フォ・ジェンチイ (出)ヴィッキー・チャオ、ルー・イー、ソン・シャオイン、チャン・チアン 2008/10/05 渋谷シアターTSUTAYA 同じ官舎に住む2つの家族、それぞれの息子と娘の恋と、それを妨げる両家の間の 過去の不幸を巡る物語。 幼馴染の二人は、高校生になった頃には相思相愛の関係になるが、 それを知った双方の親は激怒。しかし、その理由の真相が分からない二人は苦悩し、 一旦は距離を置くことになるものの、やがて互いの想いは再燃。 そしてやがて、時機を逸した和解の時が訪れる。 映像の雰囲気は好きな傾向で、物語も途中まではよい感じだっただけに、 最後の数分間の急展開は、どうもしっくり来なくて残念。 考えようによっては美しい結末かも知れないが、 私には完全な蛇足、と言うより余計なものに思えた。 もし、ショーウィンドウ越しの場面で映画が終わっていたならば、 大絶賛モードだったかも。 ホームページ
ファン・ジニ 映画版 (黄眞伊) 2007韓国 (監)チャン・ユニョン (出)ソン・ヘギョ、ユ・ジテ 2008/10/04 シネマスクエアとうきゅう ○ 16世紀に実在した伝説的な妓生の半生を描いた、重厚な物語。 貴族の家に育ち箱入り娘として高い品位と教養を身に付けた娘は、 実は主人が下女に産ませた子であると言う秘密が知られてしまったために、 家を追い出され、妓生(技芸に秀でた職業的な娼婦)として生きて行くことを決意。 一方でこの家の下男の息子は、正義感から民衆のために闘いながら、 内心で彼女を慕い、表で影でに彼女を支え続ける。 しかし両者の運命は、冷酷な地方長官の強欲によって引き裂かれてしまう。 実在の人物に関する僅かな記録から、映画とTVドラマがそれぞれ独自に 想像を膨らませて物語を作り上げた模様。 TVドラマ版では中心をなしていた舞や演奏の華やかな見せ場が殆どなく、 劇的な物語だけが(しかもBGMなしに)刻々と展開するので、やや重苦しい印象。 ホームページ
わが教え子、ヒトラー (Mein Fuhrer) 2007ドイツ (監)ダニー・レヴィ (出)ウルリッヒ・ミューエ、ヘルゲ・シュナイダー、シルヴェスター・グロート、アドリアーナ・アルタラス、シュテファン・クルト 2008/09/23 Bunkamuraル・シネマ ◎ 大戦末期、敗色の気配と疑心暗鬼から神経衰弱に陥っているヒトラー。 腹心たちは、昔のような堂々たる大演説で国民の意気を鼓舞すべく、 ヒトラーを指導できる「教師」を探し出すが、こともあろうにそれは、 収容所から連れて来たユダヤ人ベテラン俳優だった。 彼の「演技指導」の甲斐あってヒトラーは自信を取り戻すが、 同時にヒトラーの「教師」に対する個人的信頼は、殆ど崇拝の域に入ってゆく。 その立場を駆使して、彼は虎視眈々と反撃の機会を狙う。 史実を枠組みに、大胆に脚色したフィクションとのこと。 ここで描かれるヒトラーは、何とも情けない限りの腑抜け男で、 それを意のままに操ろうとする老俳優の姿は痛快そのもの。 また、お役所化した中枢部のやり取りや、思考が硬直化した軍人たちの様子が、 大真面目に、皮肉たっぷりに茶化されている。 その一方で、危険な橋を渡り続ける老俳優と、危惧する腹心たちとの攻防は、 かなりの緊張感に満ちていた。 最後は、表面的には悲しい結末とも言えるが、 しかしこの老俳優がなし遂げた小さな快挙に、大いに快哉を叫びたい気分。 痛烈な反戦映画の傑作。 ホームページ
遠い道のり (最遙遠的距離 / The Most Distant Course) 2007台湾 (監)リン・チンチェ (出)グイ・ルンメイ、モー・ズーイー、ジア・シャオグオ 2008/09/21 シネマート六本木 ○ 妻に見限られた中年の精神科医、失恋から立ち直れない録音技師の若い男、 不倫を断ち切ろうとする若い女性、この三人がそれぞれ、 満たされることのない「何か」を求めて、台湾を北から南へと縦断する物語。 三人を直接あるいは間接に結び付ける接点となっているのは、 録音技師が録る自然や街の「音」。この「音」の観点から捉えた台湾の風景は、 たとえ騒々しい場面であっても、感傷的に美しい。 それらの「音」が、男にとっては過去への未練であり、 女にとっては未知なる未来であることが、いかにも対照的。 最後、先行きの見えないままの三人の行方に、 痛々しさと寂寥感の後味で、私にはこれがよい予感とは捉えられなかった。 難解な、と言うより解のない、どちらかと言えばアート系映画の部類。 ホームページ
おくりびと 2008日本 (監)滝田洋二郎 (出)本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、吉行和子、笹野高史 2008/09/13 熊谷シネティアラ21 ◎ せっかく入団したオーケストラが解散して、職を失ってしまったチェロ奏者。 失意のまま妻と共に郷里の山形に戻った彼は、 求人広告で条件のよい会社を見付けたが、しかしそれは、 「納棺」すなわち遺体を清めて棺桶に納める仕事であった。 妻には本当のことは言えず、慣れない仕事に困惑しながらも、 上司の仕事ぶりに畏敬の念を覚えつつ、彼はこの仕事に誇りを見出してゆく。 そして、さまざまな遺族との係わり合いの中で、 彼は自分自身の心の中にある蟠りにも向かい合うようになる。 「人の死」と言う重い主題を、何と真面目に、何と可笑しく、 そして何と温かく扱っていることか。 納棺の真剣な所作の美しさに、遺族たちの表す哀切さと感謝の念に、 どうしようもなく涙がボロボロ出てしまった。 そして心地良い余韻が、長く心に響き続けている。 ホームページ
グーグーだって猫である 2008日本 (監)犬童一心 (出)小泉今日子、上野樹里、加瀬亮、森三中、林直次郎、マーティ・フリードマン、大後寿々花 2008/09/06 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 天才漫画家(四十代、女性、独身)の悲しみと再生を、 飼い猫や助手たちとの生活の中で、あっさりと描き出した物語。 大いに期待していたのだが、どことなく散漫な、中途半端な印象で、 残念ながら甚だ期待外れ。 部分部分はそれぞれ悪くない気もするのが、どれも取って付けたような感じ。 主人公たちの悩み苦しみ悲しみは結構深い筈で、 しかしそれらにあまり深入りすることはせず、どこまでもあっさり過ぎてしまう。 しかも、話の流れが唐突あるいは不自然で、どうも気分が入り込めない。 確かに猫たちは凄く可愛いので、それだけを何となく 雰囲気として楽しむべきだったのかも知れない。 ホームページ
ラストゲーム 最後の早慶戦 2008日本 (監)神山征二郎 (出)渡辺大、柄本明、石坂浩二、藤田まこと、富司純子、柄本佑、原田佳奈 2008/09/05 ワーナー・マイカル・シネマズ羽生 ◎ 戦況悪化の一途にあって、学生野球が白眼視される中、 監督の強い意志によって練習を続けている早稲田大学の野球部。 ついに学徒徴兵の令が下り、部員たちの出征の日も間近に迫って来て、 最後に何か部員たちにしてやりたいと思案する監督の許に、 慶應義塾の野球部から、対抗試合の申し出が届く。狂喜する部員たち。 しかし大学当局は時局柄の問題を恐れて許可を出そうとせず、 押し問答に費やす時間はもう残されてはいなかった。 仲間たちとの練習も、共同生活も、想いを寄せる人と会うことも、 そして念願の対抗試合も、皆これが最後になると分かってしまっている、 彼らの心中を思うと、どうしようもなく辛かった。 そして、全てを断念させられて、もはや勝ち目のないと薄々感じている戦争に 送り込まれるとは、何と空しいことだったか。 一般人の視点から戦争の悲劇を捉えた、真っ直ぐな反戦映画。 ホームページ
闇の子供たち 2008日本 (監)阪本順治 (出)江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡、佐藤浩市、鈴木砂羽 2008/08/29 シネマライズ ○ タイで行われている児童売買。 僅かなお金で売り飛ばされ、性的虐待のために弄ばれて、病んで棄てられる。 それどころか、日本の子供への臓器移植のためのドナーとして生を奪われる。 新聞記者はその闇に閉ざされた実態に踏み込んで事実を伝えようと、 ボランティアの女性は一人でも子供の命を救おうと、それぞれ奮闘するが、 しかし結局、多くの犠牲を払った挙げ句に、大きな無力感に苛まれることになる。 需要と供給の市場原理、それが行き着いた先にある、この極端な事例。 臓器移植の美談の裏に、こんなことが行われているとは、かなり衝撃的。 しかし、かと言って移植を受ける子供の家族の切実さも勿論よく分かる。 多少の希望を持たせる結末があっても、それが氷山の一角でしかないことは、 誰もが分かっていることだろう。 本当の解がどこにあるのか分からず、どうしようもなく悩み苦しむ主人公たちの姿が、 見ていて辛かった。 ホームページ
言えない秘密 (不能説的・秘密/Secret) 2007台湾 (監)ジェイ・チョウ (出)グイ・ルンメイ、アンソニー・ウォン 2008/08/29 新宿武蔵野館 ◎ 音楽科のある高校の、古いピアノのある練習室で、主人公の男子生徒は、 どこか謎めいたところのある女子生徒と出会う。 二人は互いに想いを重ね合わせるようになるが、やがて持病を悪化させた彼女は 登校できなくなってしまう。そして卒業式の日、 彼女への想いを込めてピアノを弾く彼の前に現れた、やつれた姿の彼女を追いかけて、 彼はついに思いもよらなかった彼女の秘密を知ることになる。 甘酸っぱい恋愛物語を、美しいピアノの音楽が縁取って、じわじわと切なさ満載。 予想外の展開を通り過ぎての、甚だ大袈裟なクライマックスに煽られて、 恥ずかしながら私は嗚咽状態に陥ってしまった。 主演女優(翳りのある表情が実によかった)も主演俳優も、 どうも本人がきちんとピアノを弾いていたように見えた。 ホームページ
落語娘 2008日本 (監)中原俊 (出)ミムラ、津川雅彦、益岡徹、伊藤かずえ、森本亮治 2008/08/27 太田コロナシネマ ◎ 子供の頃から落語一筋だった女性が入門したのは、 斯界からすっかり見放された、だらしない師匠。 それでも孤立奮闘する彼女だが、前座でしかも女性である彼女への風当たりは 冷たいばかり。そんな中で師匠は、TV局の甘言に乗せられて、演じた歴代の落語家が みな変死したと言う「禁断の噺」に挑むことになってしまうのであった。 喜劇あり、人情話あり、怪奇談あり。落語家の身の回りの様子がリアルに テンポよく描かれると共に、語られる落語が劇中劇で再現されたりして、 とにかく面白い。どうなることかと思わせておいて、 しっかりとオチが用意されているのが、またよろしい。 最後は予想以上に感動的で、ちょっと泣かされてしまった。 主演のミムラは、凄い早口で淀みない落語を披露したり、 堂々たる口上をぶちまけたり、でも可憐なところもあったり、まさに快演。 対する津川雅彦も、ふしだらなようで意外に芯のある好々爺になり切っている。 ホームページ
接吻 2006日本 (監)万田邦敏 (出)小池栄子、豊川悦司、仲村トオル、篠田三郎 2008/08/24 シネマテークたかさき ◎ 見ず知らずの一家を惨殺した男。 そのニュース映像を目にした女は、男に自分と同質なものを感じ、 男に異様なまでの興味を持つように。 やがて女は、男の弁護人に接触し、男との接見を果たしたばかりか、 ついには男との獄中結婚を願い出る始末。 しかしエスカレートする一方である女の情念は、 ついに予想もしなかった惨事をもたらすのであった。 最初から最後まで、凄まじい緊張感が持続。 交わされる対話は、内面をえぐり出すようなものが多く、 いかにも現代的で、非常によく分かるところもあり。 特に、自分(自分たち)を疎外し続ける世の中に敵意をむき出しにする女の 棘のある言葉は、立場の違いを越えて、ストレートに自分に突き刺さって来る。 そして最後のシーンは、衝撃的であると同時に、深い謎を我々に突き付けて来る。 ホームページ
純喫茶磯辺 2008日本 (監)吉田恵輔 (出)宮迫博之、仲里依紗、濱田マリ、近藤春菜、ダンカン、和田聰宏、ミッキー・カーチス、斎藤洋介、麻生久美子 2008/08/24 シネマテークたかさき ◎ 親の遺産が入った途端に、仕事を放り出してだらだらと過ごす父と、 そんな父に気を揉む高校生の娘。しかし父は急に思い立って、 喫茶店を開業すると言い出し、実行に移してしまう。 娘の危惧通り最初は閑古鳥が鳴く状況だったが、 アルバイトの美人ウェイトレスの効果もあって、意外にも店は繁盛し始める。 しかし父がそのウェイトレスにうつつを抜かすようになったり、 娘自身も客の一人に想いを寄せるようになったりして、 やがて店内で一騒動が起こってしまうのであった。 イイカゲン極まりない中年オヤジである父と、 それに呆れながらも否応なしに巻き込まれてしまう娘の会話のやりとりが面白くて、 それに何とも捉えどころのないウェイトレス嬢が絡んで来て、話は面白くなる一方、 しかも最後は不思議に感動的だったりもする。 傍から見ればよろしくない結果なのに、当人たちの内面が変わっていて、 ちょっと幸せ気分になれるのがよろしい。 ホームページ
同窓会 2008日本 (監)サタケミキオ (出)宅間孝行、永作博美、鈴木砂羽、石川えり、二階堂智、阿南敦子、飯島ぼぼぼ、尾高杏奈、兼子舜、渡辺大 2008/08/17 シネマート新宿 ○ 高校時代からの同級生との初恋を実らせて結婚したものの、 男の浮気が元でついに離婚することになってしまった男女。 晴れて堂々と愛人と暮らす男の許に、友人からの連絡が。曰く、 女が緊急入院して、しかも「あと3ヶ月」とのこと。 男は激しく動転し、後悔と逡巡の挙句、緊急の「同窓会」を企画することにする。 かなり馬鹿馬鹿しいコメディでありながら、しみじみと泣かせるような場面もあり、 くだらないギャグあり、甘酸っぱい回想シーンあり、劇中劇あり(?)で盛り沢山、 更にまさかの大ドンデン返し(複数)が待ち受けていて、予想外の面白さ。 何と言っても、永作博美の存在感がよろしく、 『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(→2008/04/05)や 『人のセックスを笑うな』(→2008/03/15)と同様、 この人独特の不思議な魅力なしには成立しないだろう。 ホームページ
地球でいちばん幸せな場所 (Owl and the Sparrow) 2007アメリカ=ベトナム (監)ステファン・ゴーガー (出)ファム・ティ・ハン、カット・リー、レー・テー・ルー 2008/08/17 シネマート六本木 ◎ ベトナム郊外で、両親が他界し叔父の営む工場で日々酷使される10歳の女の子。 耐えかねた彼女はついに、家出して都会に飛び出して来てしまう。 知り合いもいない中、ポストカードや花を売って細々と生きている彼女は、 客室乗務員の女性や、動物園の飼育係の男性と、たまたま知り合いに。 この二人それぞれから親切にされた彼女は、何とか二人を結び付けようと画策するが、 しかしそんな折、叔父が彼女を連れ帰すべく捜索にやって来るのであった。 さまざまな苦境にもめげない女の子の健気な奮闘ぶりに、 いかにも善良なる男女のもどかしい恋模様が絡めてあって、 それらが幸せな結末に帰着するので、ホッと安堵しつつ、 観ている自分もしみじみと幸せな気分になった。 ホームページ
ひめゆり 2006日本 (監)柴田昌平 (出)ひめゆり学徒の生存者22名 2008/08/02 シネマテークたかさき ◎ 沖縄戦の前線に駆り出されてその大半が犠牲となったひめゆり学徒隊の、 生き残った人々の語りを真摯に記録したドキュメンタリー映画。 私は去年、東中野でのロードショウを鑑賞し (→2007/06/02)、 自分があまりにも何も知らなかったことに愕然とさせられ、 後に沖縄本島に旅してひめゆり平和祈念資料館や荒崎海岸を訪れたことがあり、 それ以来の2度目の鑑賞。 今回は上映後に、柴田昌平監督と(映画にも出演している)元学徒の与那覇百子さんの 講演会(約1時間)あり。与那覇さんは、ご高齢を感じさせない明快な語り口で、 戦火に見舞われる前の楽しかった女学生時代の話、 戦争が始まったと認識した日のこと、 音楽の先生との奇跡的と言う他ない再会のエピソード、 疎開先から戻った母との会話のこと(これは今まで他で語ったことがなかったそう) など自身の経験の苦しかったであろう胸の内を、 しかし(監督の仰る通り)太陽のような笑顔で話してくださった。 柴田監督は、東中野での上映時の舞台挨拶でもそうだったが、今回も誠実に丁寧に、 そして朗らかに、与那覇さんからお話を引き出していた。 ホームページ
ビルと動物園 2007日本 (監)齊藤孝 (出)坂井真紀、小林且弥、山口祥行、三浦誠己、渡辺哲 2008/07/30 ユーロスペース ○ 21歳の音大生と、29歳のOL、奇妙なきっかけで知り合ったちぐはぐな二人は、 互いに何となく惹かれ合うものの、年齢差と立場の違いから大きな進展は見ず、 付かず離れずの関係のまま。しかし、彼女には、不安定な不倫関係や、 父親からの見合いの圧力などの悩みがあり、一方の彼は、 交友関係や将来の職業への迷いなどを抱えていた。 そしてやがて、彼女も彼も、それぞれの決断をする時期がやって来る。 物語は、二人の結論を出さずに、予感程度で終わる、それがよかった。 ちなみに撮影は愛知県内で行われたそうで、名古屋市街は私が学生時代を過ごした 場所で(映画に出てくるイタリアン・レストランは私の大学のすぐ側)、 日間賀島にはつい先月学生時代の仲間たちとたまたま旅行したばかりだったので、 嬉しい偶然。 ホームページ
天安門、恋人たち (頤和園/Summer Palace) 2006中国=フランス (監)ロウ・イエ (出)ハオ・レイ、グオ・シャオドン、フー・リン、チャン・シャンミン、ツゥイ・リン 2008/07/30 シアター・イメージフォーラム ◎ 民主化を求める学生運動が激しく盛り上がっている北京の大学。 衝動的で奔放な女子学生は、級友たちとの学生生活を楽しみながら、 男子学生との恋愛に没頭しているが、二人はその激しさ故に喧嘩別れしてしまう。 やがて、天安門事件を境に学生運動が下火になると同期するように、 学生たちはそれぞれ散り散りになってしまうが、 彼女と彼は互いの想いを消すことができずにいたのだった。 あの頃のあの情熱は、あの時代と言う触媒あってこそ燃え上がっていた、 それをようやく自覚した二人の、無情と言える物語の結末が、じわじわとよかった。 一方で、事件そのものについては、この映画では殆ど何も知ることができなかった。 もしかすると大半の学生たちにとって、事件への関わりは このようなものだったのかも知れない。 ホームページ
靖国 YASUKUNI 2007日本=中国 (監)リー・イン 2008/07/27 シネマテークたかさき 2005年8月15日に靖国神社で行われた様々な行事や行動を見たままに追い掛けて 捉えると共に、神社に奉納する日本刀を作る刀鍛冶の仕事を密着取材し、 更に記録映像を組み入れて構成されドキュメンタリー。 その日の靖国神社の様子は、特殊な場、特別な日と言うこともあり、 登場する様々な立場の人々はそれぞれ冷静さを欠いていて、殆ど総ヒステリー状態。 一方で、刀鍛冶の老人は、あくまでも地道に仕事する善良なる一職人に過ぎない。 この両者を組み合わせた監督の発想は巧いと思った。 しかし、全体に未整理で荒削りな印象があり、決して上出来とは言い難い。 全体として見れば、特に偏った立場で描かれているとも思えず、これを偏っていると 感じるならば、感じた本人の視点が偏っていることの証左ではないか。 何れにせよ、この映画を巡る先の大騒ぎは、この程度の内容に目くじらを立てた 連中の、狭量さと懐の狭さが露呈されたに過ぎない気がする。 ホームページ
ジャージの二人 2008日本 (監)中村義洋 (出)堺雅人、鮎川誠、水野美紀、大楠道代、田中あさみ 2008/07/26 恵比寿ガーデンシネマ ◎ 猛暑の都心から逃れるように、避暑地の別荘にやって来た、 失業中の息子と、カメラマンの父。 人里離れた静かな環境下で、お古のジャージを身に纏い、 だらだらとした時間を過ごす親子。しかしそんな中でも、 それぞれの家族や世俗とのしがらみからは逃れられないことを、 むしろしっかり縛られてしまっていることを、彼らは自覚せざるを得ない。 当初は隠遁生活のようでいながら、徐々に、ファミコンや携帯電話やパソコンや インターネットやレンタルビデオなどの文明の利器に戻ってしまうのが、 いかにも現実的で面白い。 微笑ましい場面も満載で、何だか楽しい気分にさせてくれる。 のんびりした時間感覚の中で、しかし主人公たちは確かに一つの転機を迎えていて、 それぞれささやかな決断を下すことになる。 そのことが、すっきりした結末に繋がっていて、私には良かった。 ホームページ
たみおのしあわせ 2007日本 (監)岩松了 (出)オダギリジョー、原田芳雄、麻生久美子、小林薫、大竹しのぶ 2008/07/26 シネスイッチ銀座 早くに母を亡くし父と二人で暮らす青年が、何度ものお見合いの後で、 綺麗な娘さんとの結婚に漕ぎ着ける。 本人も父も狂喜するももの、彼女にはどこか謎めいた不可解な一面がある模様。 更に、米国に渡っていた筈の風来坊の叔父が突然帰国したりして、 話をややこしくしてしまうのであった。 ニヤリと笑わせる場面も沢山あって、話はテンポもよく進んでゆく。 しかし私には、麻生久美子演じる娘さんが何を考えているのかさっぱり分からず (元々そう言う人物設定な訳だが)、そのせいで結末がすっきりしない感じ。 ほのぼの系かと思いきや、どちらかと言えばブラック・ユーモア系で、 正直期待した程でもなかったが、期待とは違った傾向だったと言うべきか。 ホームページ
百万円と苦虫女 2008日本 (監)タナダユキ (出)蒼井優、森山未來、ピエール瀧、竹財輝之助、齋藤隆成 2008/07/20 イオンシネマ太田 ◎ 表題もポスターデザインもぶっ飛んでいるが、内容的には至って真面目な映画。 人付き合いが苦手な上に、些細な事件によって人前に出られない立場になってしまった 女性が、せっせと仕事をして、お金がたまったら誰も知らない場所に引っ越して、 また仕事をして、お金がたまったらまた引っ越して…、を繰り返そうと決める。 海の家でのかき氷作り、山深い農家での桃の収穫、郊外のホームセンターの園芸店員、 一見行き当たりばったりの仕事に、 投げやりなようで実は熱心で、自堕落なようで実は堅実で、 しかし褒められたり好意を示されたりすると逆に困惑してしまう、 そんな愛すべき主人公の人間像を、蒼井優が天才的に醸し出していた。 カーテンと貯金通帳、好対照をなす小道具の使われ方も印象的。 ホームページ
歩いても 歩いても 2007日本 (監)是枝裕和 (出)阿部寛、夏川結衣、田中祥平、高橋和也、YOU、原田芳雄、樹木希林 2008/07/13 新宿武蔵野館 ◎ 老いた父母の家に久し振りに帰省した、息子一家の一日の物語。 一見ほのぼの系かと思いきや、予想を(よい方向に)裏切ってくれる、凄い映画。 表向きには叙情的でさえあるのに、交わされるさり気ない会話の間に見え隠れする それぞれの本心には、自分にも怖いほど思い当たる所があって、 何だか自分の内面を暴露されたような気さえして、ヒヤヒヤした。 そして、「人生は、いつもちょっとだけ間に合わない」、そしてそれを後になって 気付かされて後悔する、これもまさに自分のこと。 是枝監督作品は、デビュー作『幻の光』から全作品をリアルタイムで観ていて、 どれも非常に好きなのだが、人間の内面の抉り出し方において、 この映画は更に一歩抜きん出ている気がする。 決して場面を邪魔しない音楽も素晴らしくよかった。 ホームページ
ハブと拳骨 2006日本 (監)中井庸友 (出)尚玄、虎牙光輝、宮崎あおい、石田えり 2008/07/13 新宿K's cinema ○ 米軍統治下の雑然とした沖縄で、表社会と裏社会との間で翻弄される、 血のつながりのない家族の物語。 親しい米兵から闇取引した食品で小遣い稼ぎをしていた間はよかったものの、 米兵の酔っ払い運転に母が巻き込まれ、泣き寝入りを強いられたことから、 武器の取り引きに手を出してしまい、 それから本土系ヤクザに脅される羽目になってしまう。 暴力や流血のシーンがかなり多く、これは私には苦手だったが、 しかしこの映画には絶対に必要な要素。 日本とアメリカ、沖縄と本土、友情と憎悪、いろいろな相対する要素が 息苦しい程に入り混ざって、これこそがあの時代の沖縄だったと思わせる。 閉塞感とけだるさが入り混じった濃密な空気感を持った、高水準の映画。 ホームページ
クライマーズ・ハイ (CLIMBER'S HIGH) 2008日本 (監)原田眞人 (出)堤真一、堺雅人、尾野真千子、高嶋政宏、山崎努 2008/07/12 熊谷シネティアラ21 ◎ 1985年の群馬県の山中への日航機墜落事故に、 地元の地方紙としてのプライドを懸けて闘う地方新聞社の記者たちの物語。 事故そのものの重大さは勿論だが、それよりも新聞記者の観点から (しかも大手でなく弱小紙の立場から)事件を捉えているのが、 この映画のユニークなところ。 外的にも内的にも思うように事を進めることができない主人公のもどかしさが、 それでも押し寄せる差し迫った事態の連続が、目まぐるしい場面の切り替えによって 緊迫感を持って伝わって来る。 あまりの緊張感に、観ながら私の心拍数は確実に上がってしまった。 そして最後の有名な「手記」には、どうしても涙が出てしまった。 堤真一や堺雅人をはじめ豪華な出演者たちも、おしなべてよろしく、 拡大公開系の映画としてはかなり高水準の部類だと思う。 ホームページ
幻影師アイゼンハイム (THE ILLUSIONIST) 2006アメリカ=チェコ (監)ニール・バーガー (出)エドワード・ノートン、ポール・ジアマッティ、ジェシカ・ビール、ルーファス・シーウェル 2008/07/06 イオンシネマ太田 ◎ 19世紀のウィーンで、かつて身分の違い故に仲を引き裂かれ、十数年を経て再会した、 天才奇術師と公爵令嬢の運命。 まず、いかにも世紀末的な時代の雰囲気が、豪華絢爛に再現されていた。 その中で幻影師が披露する驚くべき謎の数々は、まさに映画でしか味わえない楽しみ。 そしてに何よりも、何度も予想を覆すスリリングなストーリー展開が実によろしい。 しかも最後のまさに意表を突く展開に、そして警部の心から湧き出る笑みに、 観ている私も嬉しくなってしまった。 当初は、例によって細かいことながら、会話が独語でなく英語(米語?)なのを 不満に思っていたが、ストーリーと映像に完全にすっかり引き込まれて、 そんな不満はすぐに吹き飛んでしまった。 ホームページ
ねこのひげ 2005日本 (監)矢城潤一 (出)大城英司、渡辺真起子、仁科貴、螢雪次朗、川上麻衣子 2008/07/05 シネマテークたかさき ○ 四十歳前後の互いにバツイチの男女が、いろいろに思い悩んだりしながら、 ようやく思い切って一緒になろうとするまでの物語。 登場人物たちの存在が、あまりにも普通で、何だか親しい知人の生活を そのまま覗いているかのような感覚。 状況は結構深刻だったり煮詰まったりしているのに、 全体としての印象は軽やかで爽やか。 ただ、全体にBGMのように音楽が被さっていたのは、少々邪魔に思えた。 上映終了後、監督の矢城潤一さんと脚本兼主演の大城英司さんによる舞台挨拶あり。 脚本には大城さんご本人の体験が如実に反映されていること、 極めて低予算なのに俳優さんたちが好意で出演を快諾してくれたこと、 などを気さくに話してくださって、二人共とても好印象。 ホームページ
愛おしき隣人 (YOU, THE LIVING) 2007スウェーデン他 (監)ロイ・アンダーソン (出)エリザベート・ヘランダー、ヤン・ヴィクブラダー、ヨルゲン・ノーホール、ジェシカ・ランバーグ、ビョルン・イングランド 2008/07/05 シネマテークたかさき 薄曇りの北欧の街で、何となく人生うまく行っていない、 かと言って絶望するほど悪いわけでもない人々が、次々と登場。 時々、夢あるいは妄想の場面が現れるものの、全体として全く起伏のないまま 過ぎてゆく。 この種の映画に起承転結を期待していた訳では決してないが、 ここまで緩すぎるまま抑揚なく終始してしまうと、どうも物足りなさが拭えず、 残念ながら私にはこの映画を楽しむべきポイントが分からなかった。 ただ、場面場面にすっかり溶け込んだ歌やブラスやロックなどの音楽は良かった。 また、前に他の北欧映画でも同じことを思ったが、北欧の人々は皆、 ニコリともせず無愛想なのが、奇妙に印象的。 ホームページ
1978年、冬。 (西干道/The Western Trunk Line) 2007中国 (監)リー・チーシアン (出)チャン・トンファン、リー・チエ、シェン・チアニー、チャオ・ハイイエン、ヤン・シンピン 2008/06/29 ユーロスペース ○ 文革後の中国の、片田舎の小さな工業都市を舞台に、 ある家族を見舞う数年間の出来事が、どこまでも淡々と描かれる。 埃っぽく曇った風景の印象が、映画全体の印象を支配しています。 あらゆる幸も不幸も、劇的な出来事さえも、一切がこのどんよりとした空気の中に 飲み込まれてしまうよう。 表向きにはどうであれ、それなりに懸命に生きている筈の人々に、 小さな幸せと大きな不幸が訪れて、それらがやがて過ぎ去って、 それでも何もなかったように、相変わらずどんよりと濁ったままの街の空気感に、 どうしようもない空虚さが漂っていた。 ホームページ
シークレット・サンシャイン (Secret Sunshine) 2007韓国 (監)イ・チャンドン (出)チョン・ドヨン、ソン・ガンホ、ソン・ジョンヨプ、チョ・ヨンジン、キム・ヨンジェ 2008/06/29 シネマート六本木 ◎ 重い命題を突き付ける、深い深い映画。 テーマは、自分を見棄てた神への挑発、即ち冒涜。 亡き夫の故郷に子供と共に移り住んで間もなく、子供が誘拐され遺体で発見され、 しかも捕らえられた犯人は旧知の人。 絶望の中で彼女は、やがて信仰に救いを見出すが、 意を決して臨んだ犯人との面会で、予想もしなかった事態に出くわすことになる。 刑務所での面会の場面での、表向きの平安とは裏腹の、背筋が寒くなるような 腸が煮えくり返るような不快感は、思い出しただけでも鳥肌が立ってしまうほど。 そして、何ら解決を見ないまま、突き放すように映画は終わってしまう。 心の拠り所となる筈の信仰が、形骸化し、あるいは独善に陥ってしまう。 永遠に繰り返すであろうこの問題を、ここまで辛辣に描き出してしまう、 この監督のセンスには完全に脱帽。 ホームページ
山桜 2008日本 (監)篠原哲雄 (出)東山紀之、田中麗奈、檀ふみ、富司純子 2008/06/22 熊谷シネティアラ21 ◎ 夫と死に別れ、再び嫁いだ婚家での冷遇に耐え忍ぶ武士の娘。 彼女にかつて見合いを申し込んだが断られた、剣術の達人である若い武士。 彼は、折からの凶作の中でも悪政を強行する重臣を、自身の信念に従って斬殺し、 そのまま投獄されてしまう。 それを知った彼女はついに意を決して、新たな一歩を踏み出すのであった。 何と言っても、役者たちの佇まいが、凛として、気品に溢れていた。 主演の東山は然り、壇や富司も然り。 それにつられて、時代劇が似合わない気がしていた田中さえも、 キリリとした趣を醸し出している。 キーワードとなっている山桜を始め、山や野の情景も、物語に相応しく美しい。 結末を見せない終わり方も絶妙。但し、主題歌がちょっと耳障りなのが惜しい。 ホームページ
JUNO/ジュノ 2007アメリカ (監)ジェイソン・ライトマン (出)エレン・ペイジ、マイケル・セラ、ジェニファー・ガーナー、ジェイソン・ベイトマン、オリヴィア・サルビー、J.K.シモンズ 2008/06/20 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 高校生の妊娠と言う、一見シリアスな題材のようでいながら、 軽快で爽やかで心温まる傑作。 同級生との軽はずみな一時で妊娠してしまった、16歳の高校生。 逡巡の挙句に彼女は、子供を産んで、子供を欲しがっている夫婦に進呈することを 決める。ようやく見つけた理想的な夫婦は、最初は手放しで喜んでいたが、 彼女の存在によって夫婦の絆が綻び始める。 一方で彼女は、妊娠させた彼との関係がぎくしゃくしてしまう。 彼女を始め、父や義母や友人たちの、会話のテンポのよさが実に軽快。 ほとんど下品すれすれの口の悪さだが、それも互いの信頼関係の証と言える。 こうして内心で見守っている人たちがあるからこそ、 彼女はこの難関をくぐり抜けることができるのだろう。 ホッとするような穏やかなラストシーンは、何ともよい気分。 ホームページ
築地魚河岸三代目 2008日本 (監)松原信吾 (出)大沢たかお、田中麗奈、伊原剛志、森口瑤子、柄本明、伊東四朗 2008/06/15 熊谷シネティアラ21 大企業に勤めるエリート・サラリーマンは、課長にはなったものの、 リストラによる謝意の首切りの役目を負わされ、憔悴する毎日。 そんな中、恋人の家業である築地の魚問屋の仕事に触れた彼は、 彼女の同意も得ないまま会社をやめて、魚河岸の仕事に飛び込もうとする。 しかし、そこは素人がそう簡単に入り込めるような世界でなく、 しかも彼の言動によって同僚や家族の間に一騒動が起こってしまう。 ストーリー自体は悪くなく、人物設定がいかにも紋切り型なのは 娯楽映画なのでまあ仕方ないと思う。 ただ、演出(と言うより撮り方か)が安っぽく、しかも大袈裟に過ぎ、 音楽もやはり安っぽく、不必要に場面を煽り過ぎ。 誰でも楽しめる娯楽映画と言う位置付けは分かる気もするのが、 私としてはもう少し「品」が欲しかった。 ホームページ
休暇 2007日本 (監)門井肇 (出)小林薫、西島秀俊、大塚寧々、大杉漣 2008/06/11 有楽町スバル座 ◎ 刑務所職員と死刑囚の、それぞれの一瞬一瞬の時間の重みが描かれる、 非常に重い物語。 刑務所の看守を務める中年の男は、死刑囚と向かい合い精神的に消耗する一方で、 子連れの美しい女性との結婚が決まる。しかし彼は、新婚旅行どころか 一緒に過ごす時間さえままならない状況。 そんな中、模範囚である男の刑の執行が2日後であること、 その時に「支え役」を務めれば休暇が与えられることが伝えられる。 死刑囚に残されたわずかな時間の重み、死刑執行に立ち会うことで得た休暇の重み。 時間の流れの非情さと貴重さを、ここまで強く感じさせる映画は久し振り。 最後に、新しい家族と過ごす穏やかなひと時の重みに、涙が滲み出てしまった。 小林薫は、実年齢的にはやや不釣り合いな夫だったが (数年前の『紙屋悦子の青春』(→2006/08/20)を思い出した)、不思議に違和感はない。 また、西島秀俊の死刑囚役が迫真。 ホームページ
ぐるりのこと。 2008日本 (監)橋口亮輔 (出)木村多江、リリー・フランキー、倍賞美津子、寺島進、安藤玉恵、八嶋智人、寺田農、柄本明 2008/06/11 シネスイッチ銀座 ◎ バブル崩壊後の殺伐とした世相の中で、互いを好きな筈なのに、 いつしか心が通じ合わなくなってしまった(と感じている)夫婦の苦悩の歳月が、 淡々と描かれる。 法廷画家の仕事をしながらどこか浮ついている夫と、出版社の仕事に邁進する妻。 ついに授かった子供を喪ったことから、妻は精神的に不安定になってしまうが、 夫はそんな妻にどう対処してよいのか分からず、双方がいよいよ追い詰められてゆく。 表向きには穏やかな時間を共有している夫婦の、その裏にある 夥しい苦難や曲折のことを見せ付けられて、非常に苦しかった。 世の夫婦の皆さんは、凄い大仕事を成し遂げているのだな、と 独身者の私はしみじみと感じ入った次第。 監督の前作『ハッシュ!』(→2002/05/17) は今なお忘れ難い大傑作だったが、 それとは対極にありながら、同じ位の濃密さが漂っていた。 ホームページ
マンデラの名もなき看守 (GOODBYE BAFANA) 2007フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・南アフリカ (監)ビレ・アウグスト (出)ジョセフ・ファインズ、デニス・ヘイスバート、ダイアン・クルーガー 2008/05/30 シネマGAGA! ◎ アパルトヘイト下の南アフリカで、獄中にある黒人指導者・マンデラ氏の 監視役を担った白人看守の、内面の変遷が描いた、重みのある感動作。 マンデラ氏は勿論のこと、この看守も実在の人とのこと。 マンデラ氏の静かな威厳と揺らがない信念は、 頑な看守の心にさえ自問の念を生じさせ、 彼は自身の立場との間で苦悶することになる。そして結果的にこの看守は、 マンデラ氏と共に、歴史の変曲点に蔭ながら携わることになったのであった。 これらが、権力側である一看守の視点から描かれていることが、 しかも彼が表舞台に出る立場の人でないことが、この映画のよいところ。 この種の映画を観るといつも思うが、これはまだつい最近の話であって、 それにも関わらず私は、何となく程度しか知らなかったし、 そもそも大して関心さえ持っていなかったことが、今更ながら恥ずかしい。 ホームページ
サルサとチャンプルー (Cuba/Okinawa) 2007日本 (監)波多野哲朗 (出) 2008/05/30 アップリンクX ○ 昭和初期に、沖縄からキューバに移民した日本人たちの姿を追って、 キューバの離島に住む彼らやその末裔を訪ねたドキュメンタリー。 彼らは最初から移民しようとしていたのではなく、 当初はあくまでも出稼ぎのつもりだったのに、しかし結局、 帰るための渡航費用さえ残せず、ついに帰国出来ないままになってしまい、 挙句の果てに戦時中には、敵国人として収容所に送られていたりもした。 そんな彼らの祖国に対する思いは、人によって千差万別ながら様々に屈折していて、 そのことが彼らが過ごして来た長い歳月の苦しさを物語っているようであった。 移民たちの混合から構成されるキューバという国、その象徴である サルサ(キューバとアフリカとアメリカの音楽的融合)、 それから沖縄のチャンプルー文化へと話を繋げようとしていのだが、 この展開はやや結び付きが弱い気がした。 ホームページ
山のあなた〜徳市の恋〜 2008日本 (監)石井克人 (出)草なぎ剛、加瀬亮、マイコ、広田亮平、三浦友和、堤真一 2008/05/25 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 山奥の温泉街に巡業してきた盲目の按摩師と、 東京からやって来た謎めいた若い女性との、初夏の日々の物語。 期待を遥かに上回って、私は非常に好きな映画だった。 何よりもよいのが、昔の映画をなぞった故の、会話のテンポ感と、端正な言葉遣い。 ゆったりした時間感覚が、ひなびた風景と相俟って、 何とも言えない心地よい情感を醸し出していた。 かと言って、話が退屈な訳では決してなく、微笑ましい出来事や、 ちょっと緊迫した事件、微妙な三角関係などが絡み合い、最後は凄く切ないもの。 じわじわと涙が滲み出てしまった。 「心の入浴料」と称して、誰でも1,000円で観られるのも嬉しいが、しかし、 きちんと1,800円払っても構わないとさえ思った映画。 ホームページ
アフタースクール 2008日本 (監)内田けんじ (出)大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人、田畑智子、常盤貴子 2008/05/25 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ○ 母校に勤める中学教師と、同級生である仲のよいサラリーマン、 そしてやはり同級生を名乗る探偵の男、彼らが織り成す、 先の読めないサスペンス風で、しかもコメディ風でもある物語。 話は凝りに凝っていて、現実には到底有り得ないものですが、 これは徹底して娯楽映画なので、私としてはOK。 登場人物も多く、話は一見かなりややこしそうで、しかも予想外の場面の連続で、 これではドロドロの展開になりそうかと思いきや、 意外にもシンプルな結末に帰着するのが良かった。 大傑作だった前作『運命じゃない人』 (→2005/08/14) に比べると、ちょっと話が大袈裟すぎるのは確かだが、 何れにせよ最後は非常に愉快な気分になれたのでよしとしたい。 ホームページ
光州5・18 (MAY 18) 2007韓国 (監)キム・ジフン (出)キム・サンギョン、イ・ヨウォン、イ・ジュンギ、アン・ソンギ 2008/05/19 シネカノン有楽町2丁目 ○ 1980年に韓国で起こった、軍による学生や市民の大虐殺を明らかにする映画。 基本的に事実に基いた話の由。 一般人に対して、こうして無差別かつ執拗に殺戮が行われたことは、非常に衝撃的。 更に、それが偽りの報道によって隠匿されようとしていたことは、空恐ろしいこと。 しかもこれは、まだ最近の隣国での実際の出来事なのである。 事件を、兄弟や親子や恋人たちを見舞う悲劇として描くことで、 その悲劇性が非常に強調されていた。何と苦しく悲しい結末なのだろうか。 ただ残念なのは、事態に至る背景や、その後どうなったのかについて、 劇中で殆ど説明がなされなかったこと。 韓国の当時の社会情勢を熟知していない私には、 事件の本質がよく分からないまま終わってしまった。 ホームページ
丘を越えて 2008日本 (監)高橋伴明 (出)西田敏行、池脇千鶴、西島秀俊、余貴美子、嶋田久作 2008/05/19 シネスイッチ銀座 ◎ 文藝春秋の社長・菊池寛とその秘書を中心に、 昭和初期の東京の時代風景が映し出される。 江戸の気風と「モダン」の風潮が入り混じったあの時代の雰囲気が、 経験したことがある訳でもないのに何とも懐かしく、心地よいものに思えた。 しかし、戦争の足音はもう目前まで迫って来ていたのであった。 俄か仕立てのハイカラなお嬢さんに池脇千鶴がいかにも似合っていたし、 余貴美子の磊落で豪快な感じもよかった。そして何よりも、菊池寛役の西田敏行が、 寛大で人情に脆い人間像(ちょっと釣りバカ系?)を魅力的に演じていた。 『光の雨』(→2002/02/09) や『火火』(→2005/01/25) の高橋伴明監督としては拍子抜けな位に、 力みのない映画だったが、こう言うのも私はかなり好き。 ホームページ
パレスチナ1948 NAKBA 2008日本 (監)広河隆一 2008/05/17 シネマテークたかさき ◎ 1948年、イスラエル国の成立の裏で行われた、パレスチナ人の大虐殺の実像と、 それに起因して現在に至る諸問題を明らかにする、ドキュメンタリー。 本当に観ておいてよかったと思う映画。 何よりも、自分がいかに本質を理解していなかったか、 いかに強者側の一方的な視点に惑わされていたか、改めて思い知らされた。 広河隆一さんは、若い頃から現在に至るまでずっと、継続的に関わりを持って来て、 その積み重ねがあってこそ、そしてこの仕事に命を賭けているからこそ、 このような映像を撮ることができ、このような声を聞き出すことが出来たのだろう。 怒りが怒りを生み、複雑さが複雑さを招き、もうどうしてよいのか分からないような 状態に陥っているが、それを考えるための冷静な材料を与えてくれる 広河さんの仕事に、限りない敬意を表したい。 ホームページ
君のためなら千回でも (THE KITE RUNNER) 2007アメリカ (監)マーク・フォースター (出)ハリド・アブダビ、ゼキリア・エブラヒミ、ホマユーン・エルシャディ、 アフマド・ハーン・マフムードザダ、ショーン・トーブ、 アリ・ダネシュ・バクティアリ、サイード・タグマウイ 2008/05/17 シネマテークたかさき ◎ 平和だった頃のアフガニスタンで、主従関係を越えた友情で結ばれていた筈だった 二人の少年を見舞う、非情な運命の物語。 新興住宅地に住む裕福な家庭の息子アミールと、その使用人の息子ハッサンは、 主従関係を越えた絆で結ばれていたが、ある出来事をきっかけに 二人の心の間には深い溝が出来てしまう。 それから二十余年を経て、アメリカに亡命していたアミールは、 祖国に残ったハッサンの運命を思いがけず知ることになり、 彼は大きな決断を迫られるのだった。 原作本は、上下2巻からなる長大かつ壮大な物語だが、 そのエッセンスが的確に抽出されて映画化されていたと思う。 私は本を先に読んでしまっていたが、それでも映画には満足した。 疑うことも、見返りを求めることもない、真っ直ぐで純粋な信頼感。 そこから涌き出るさり気ない言葉の、何と重みのあることだろう。 ラストシーンの言葉には、さすがに泣かされてしまった。 ホームページ
ブレス (BREATH) 2007韓国 (監)キム・ギドク (出)チャン・チェン、チア、ハ・ジョンウ、カン・イニョン 2008/05/04 シネマート六本木 ○ 夫の浮気に気付いて家を飛び出した女性は、 たまたまTVニュースで見た死刑囚への面会に向かう。 最初は衝動的行動だったにも関わらず、絶望状況にある女性と 極限状況にある死刑囚とは、短かい期間に深い心の絆で結ばれてゆくが、 それによって彼も彼女も、ますます精神的に追い詰められた状況へと陥ってゆく。 現実には有り得ない状況設定へと、ごく自然に導かれてしまうのは、 他のギドク作品と同様。非現実的な状況下で展開される超現実的な場面は、 常識的にはまず思いもよらないもので、さすがはギドク監督。 ただ、死刑囚はともかく、女性の(特に二度目の面会以降の)心の動きが、 私にはどうも理解できない。しかし、そもそも常識的な理解を超えている所にこそ、 この作品の価値があるのだとも思う。 ホームページ
パークアンドラブホテル 2007日本 (監)熊坂出 (出)リリィ、梶原ひかり、ちはる、神農幸 2008/05/04 ユーロスペース ○ 都心の老朽ラブホテルの屋上に作られた公園を舞台に、 ホテルのオーナーである初老の女性と、 そこを訪れる訳アリの女性たちとの、淡々とした物語。 大荷物を背負いカメラ片手に町を彷徨う少女、 急かされるように黙々とウォーキングに勤しむ女、 毎回違う男を連れて来る常連の女。 それぞれ人には言えない孤独を抱えている彼女たちに、 オーナーは遠回しで手を差し伸べるが、一方でオーナー自身も 人には言えない孤独を抱えていた。 無愛想で一見冷淡なオーナーが、事情を抱える彼女たちに、 再生への転機だけを与えているのがよいところ。 ただ、それぞれの問題の解決まで見せてくれなくても、 好転の兆しの予感を見せるくらいで留めてくれれば、より余韻が深かったのにと思う。 何れにせよ、こんな公園のような拠り所が、自分にもあったならどんなに良いだろう。 ホームページ
つぐない (Atonement) 2007イギリス (監)ジョー・ライト (出) キーラ・ナイトレイ、ジェイムズ・マカヴォイ、シーアシャ・ローナン、ロモーラ・ガライ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ 2008/04/27 有楽町スバル座 ◎ 戦争の気配が漂う1930年代のイギリスの上流階級の家庭を舞台に、 ある事件に関しての偽りの証言が元で、 姉とその恋人のその後の人生を壊滅させてしまった女性の、 果たされることのない贖罪の物語。 同じ場面を視点を変えて繰り返す方法が、非常に奏功。 最初は些細な勘違いだった、本当の事なんて何も分かってはいなかった、 まさかこんなことになってしまうとは思っていなかった、 本当に取り返しの付かないことをしてしまった、 でももうどうすることもできない、 主人公の苦しい心情が、ラストシーンから切実に伝わって来た。 悲しく、切なく、そして意味深い、紛れもない傑作。 ホームページ
譜めくりの女 (LA TOURNEUSE DE PAGES) 2006フランス (監)ドゥニ・デルクール (出)カトリーヌ・フロ、デボラ・フランソワ、パスカル・グレゴリー、アントワーヌ・マルティンシウ 2008/04/27 シネスイッチ銀座 ○ コンテストで失敗してピアニストになる夢を断念した少女が、十数年を経た後年、 あるピアニストの譜めくり役を務めることに。 彼女の絶妙の譜めくりに、ピアニストは絶大の信頼を寄せるようになるが、 しかしその関係は徐々に不自然さを増してゆく。 ショスタコーヴィチのピアノトリオなどの音楽は軽妙で格調高く、 優雅で穏やかな時間が過ぎてゆくが、しかし表向きの美しさとは裏腹に、 何と言うことのない違和感がじわじわと増殖してゆく様子に、 ゾクゾクと緊張感せられた。主人公が見せる微笑が、何と冷や冷やと怖いことか。 ホームページ
砂時計 2008日本 (監)佐藤信介 (出)松下奈緒、夏帆、井坂俊哉、池松壮亮 2008/04/26 シネマ 予告編では大いに泣かせてくれそうだったのだが、残念ながら完全に期待外れ。 島根の田舎町に引っ越してきた少女と、地元の少年。 絶望的な不幸に見舞われた少女に、ずっと一緒にいる、と約束した少年だったが、 それから十余年の歳月は二人の間の距離を拡げてしまっていた。 泣かせる要素が満載の筈なのに、特に大人時代の物語の進め方がどうも上手くなく、 話のわざとらしさばかりが目に付いてしまう。 しかも、不幸な場面の繰り返しが必要以上に多いので、後味が爽やかでない。 泣く心積もりで臨んだのに、殆ど泣けなかった。 ホームページ
ぜんぶ、フィデルのせい (La faute a Fidel) 2006フランス (監)ジュリー・ガヴラス (出)ニナ・ケルヴェル、ジュリー・ドパルデュー、ステファノ・アコルシ、バンジャマン・フイエ 2008/04/26 シネマテークたかさき ◎ 1970年代のフランスの知的階級の一家。 しかし両親が共産主義にかぶれてしまって以来、 急に狭いアパートに引っ越すことになり、 しかもアパートには大勢の大人が入り浸っており、 何故か食事が貧相になり、更には授業科目に出られなくなり、等々、 小学生の娘にとって納得の行かないことばかり。 それは皆、フィデル・カストロなるヒゲのおじさんのせいらしいのだが…。 あの時代の社会の動きを、子供の視点から見る、と言う発想自体がユニークなもの。 先入観や固定観念のない子供の視点だからこそ、ふらふらと浮ついた大人たちよりも、 むしろ本質を掴んでいるのが面白い。 娘の不満爆発寸前のふくれっ面が何ともよろしく、 更には訳が分からぬままただ振り回されている弟も可愛かった。 ちょっと微笑ましくもありながら、結構深い所を突いている傑作。 ホームページ
あの空をおぼえてる 2008日本 (監) (出)竹野内豊、水野美紀、広田亮平、吉田里琴 2008/04/15 イオンシネマ太田 ◎ 特別試写会で一足先に鑑賞。 家族の喪失と言う重い重いテーマに、真面目に丁寧に取り組んだ傑作。 幼い兄妹とその父母、当たり前のように過ごした幸せな時間は、 兄妹の交通事故によって一挙に暗転。 娘を失った現実にきちんと向かい合うことさえ出来ない父と母。 しかしそれ以上に、奇跡的に命を取り戻した兄は、 何と深い悲しみを心に負ってしまったのだろうか。 そう、幼い子供だからと言って、決して単純でも天真爛漫でもなく、 その純粋さ故に、むしろ大人以上に繊細に傷ついている。 現在の場面と記憶の場面を境目なしに交錯させる手法が、 現実を受け容れられない家族の心の内をリアルに表していた。 絶望の底をさまよう竹野内豊と水野美紀の姿が迫真だったが、 それ以上に事実上の主人公と言ってよい兄役の子役が素晴らしく、 グッと胸に迫った。 ホームページ
長江哀歌(ちょうこうエレジー) (三峡好人) 2006中国 (監)ジャ・ジャンクー (出)チャオ・タオ、ハン・サンミン 2008/04/13 第22回高崎映画祭 三峡ダムによる水没が迫り、町全体が取り壊される前提にある中で、 断絶した家族の消息を求めてさまよう二人の男女の物語。 町も人も人間関係も記憶も全てが崩壊を待つばかりの暗澹たる雰囲気と、 埃っぽくどんよりと濁った空気感は、確かに独特の格調を持っていた。 一方で、物語の焦点はぼんやりしていて、ストーリーとしては何を言いたかったのか、 よく分からかなかった。この空虚感こそが、この映画の魅力なのかも知れないが。 前作『世界』(→2005/11/05)と同様に、 この監督の感覚は、私にはあまり馴染めないもののようだった。 ホームページ
稟愛(ビンアイ) [長江にいきる 秉愛の物語] 2007中国 (監)フォン・イェン (出)ビンアイ 2008/04/13 第22回高崎映画祭 ○ 三峡ダムに沈む予定地のために立ち退きを強いられる、貧しい一家の歳月を追った ドキュメンタリー。表題は主人公の女性の名前(張稟愛さん)。 彼女は、病弱な夫の分まで農業を担うと共に、子供や夫を守るため、 退出を迫る役人たちに臆することなく立ち向かってゆく。 中国のやや性急な近代化によって裏面に生じた歪みが、 容赦なくさらけ出されている感じ。 ただ、双方の全く噛み合わない議論(というより自己主張の応酬)が延々と写し出される ために、しかもそれが何度となく繰り返されるために、 正直ちょっと辟易してしまったのも事実。 7年の長きに渡って取材しているのに、肝心の最後が字幕による状況報告だけに なってしまったのも惜しい。ちょっとでも今の映像を見せて欲しかった気がする。
パンズ・ラビリンス (Pan's Labyrinth / El laberinto del fauno) 2006スペイン=メキシコ (監)ギレルモ・デル・トロ (出)イヴァナ・バケロ、アリアドナ・ヒル、セルジ・ロペス、マリベル・ベルドゥ、ダグ・ジョーンズ 2008/04/13 第22回高崎映画祭 ◎ 外見の印象とはかなり違う、非常に個性的な反戦映画。 舞台は、大戦末期の独裁政権下のスペイン。 圧制側の軍隊と、自由を求める民衆ゲリラとが、一触即発の攻防を繰り広げる一方で、 それに否応なしに巻き込まれてゆくお伽話好きな少女は、 妖精に導かれて地底王国の幻想の世界に引き込まれて行く。 この二つの世界が絡み合いながら、物語は緊迫の度合いを高めてゆく。 ファンタジーと言う形式を半分だけ借りることによって、 戦争の悲劇を個人個人の具体的な出来事として感じさせるようになっていた。 残虐な場面やグロテスクな描写が非常に多いが、これこそが生身の戦争なのだろう。 非情なラストシーンは、これが定められた運命だとしても、 あまりにも悲劇的に思えた。 ホームページ
腑抜けども、悲しみの愛を見せろ 2007日本 (監)吉田大八 (出)佐藤江梨子、佐津川愛美、永瀬正敏、永作博美 2008/04/05 第22回高崎映画祭 ◎ かなり強烈な癖のある映画だが、好きか嫌いかと問われれば、私はかなり好き。 片田舎の実家を継いだ気難しい長兄、 天然ボケ系の善良なる嫁、 女優志望だが事務所からも見捨てられた姉、 自身の家族をネタに自虐漫画を書く衝動を抑えられない妹、 この4人の一応は「家族」と言う枠組みの中で、 狂気じみたドロドロの人間関係が展開される。 この家族、表向きにもかなり様子が変なのだが、 水面下では更に凄まじいことになっていて、 笑うに笑えないヒヤヒヤ状況の連続で、 しかも狂気は最後までひたすら単調増加。 そして、ふいに打ち切られるラストの、奇妙な安堵感は何なのだろうか。 私は何故か、身震いがしばらく止まらなかった。 3人の主演女優の怪演には、惜しみない拍手を送りたい。 ホームページ
うた魂♪ 2007日本 (監)田中誠 (出)夏帆、ゴリ、石黒英雄、徳永えり、亜希子、岩田さゆり、森下能幸、田中要次 2008/04/05 109シネマズ高崎 ○ 北海道の高校の女声合唱部。 自分の歌う姿が何よりも好きなナルシスト気味の女の子が、 思いを寄せるカッコイイ男子生徒から「鮭の産卵」みたいとからかわれて、 すっかり恥ずかしさを覚えてしまう。 しかし失意の中で出場した合唱大会の会場で、 ライバル高であるチンピラ系熱血男声合唱部員の熱烈さに鼓舞されて、 歌うことの本当の楽しさを取り戻してゆく。 コメディっぽい雰囲気に仕立ててあって、かなりバカバカしい場面もありますが、 共に音楽することの喜びと嬉しさがストレートに伝わって来て、 私は完全に気持ちが入り込んでしまい、 皆の想いが一つになったラストシーンではどうしようもなく 泣けて泣けて仕方なかった。 合奏・合唱ものが好きな方ならば、まず楽しめる一本。 ホームページ
実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 2007日本 (監)若松孝二 (出)坂井真紀、ARATA、並木愛枝、地曵豪、大西信満、菟田高城、タモト清嵐、伴杏里、坂口拓、奥貫薫、佐野史郎 2008/03/23 テアトル新宿 ◎ ずっしりと見応えのある映画。3時間半の長丁場でも、退屈する隙など一瞬もない。 1960年代後半の社会情勢から始まって、連合赤軍の結成から同志リンチ殺人を経て、 あさま山荘での銃撃戦に至るまでの経過が、当事者の視点で克明に再現される。 連合赤軍事件について、知識としてそれなりに知ってはいても、 実際にそれをリアルな映像として見せ付けられるのは、やはり強烈な体験。 しかも、長い時間を掛けて事の経緯をじっくりと見せるため、 まるでそこに居合わせたような感覚を味わされた。 仮に自分自身がこの状況下に居たとしたら、同じことをしなかったと言えるだろうか。 リンチ殺人の状況については、これに焦点を絞った 『光の雨』(→2002/02/09)の方が 心理状況も残虐性も生々しく描き出されてたが、 今回はその後のあさま山荘内での状況もしっかりと描いていることに加え、 一連の事件の全体を俯瞰できるように構成されているのが強みだろう。 何れにせよ、この種の問題は、事の本質に真摯に向かい合わない限り、 単に叩き潰したところで何も解決しないのだ。 ホームページ
アメリカを売った男 (BREACH) 2007アメリカ (監)ビリー・レイ (出)クリス・クーパー、ライアン・フィリップ、ローラ・リニー、デニス・ヘイスバート、カロリン・ダバーナ、キャスリーン・クインラン 2008/03/23 シャンテシネ ◎ FBIの要職にありながら実はロシアに機密情報を流していた男と、 密偵のため彼の補佐官として遣わされた若者との、逮捕までの2ヶ月の心理的な攻防。 脚色はあるものの実話だそうで、まだそう遠くない時代にこんなことが 実際にあったことだけでも驚き。 何が本当で何が嘘か、騙し騙され、それぞれが互いに何も信じられず、 しかもすべてが秘密裏にある状況下で、双方が精神的に追い詰められてゆく。 ギリギリの精神戦が続く上に、一触即発の場面が何度もあるので、 見ていて息苦しく緊張し通し。 何故このようなスパイ活動を長年続けていたのかよく分からないところがあるが、 そのことも含めて大いに謎に満ちたこの男が、 決して憎むべき存在としては描かれていないのが良いところ。 目的が達成されたにも関わらず、どこかやるせなさの残る結末も印象的。 ホームページ
ポストマン 2008日本 (監)今井和久 (出)長嶋一茂、北乃きい、原沙知絵、田山涼成、菊池隆則、遠藤久美子 2008/03/22 イオンシネマ太田 ○ 千葉の海辺の田舎町を舞台に、妻を亡くし男手一つで娘と息子を育てる、 昔気質の郵便配達夫による人情物語。 頑固一徹、自転車での配達にこだわる主人公は、職場でもちょっと浮いた存在。 こんな父に対して娘は、家を出て全寮制の高校に行きたいと言い出し、 父は断固拒否。一方そんな最中に、配達地域でちょっとした事件が起こる。 率直に言って、これは郵便局のイメージ向上のためのキャンペーン映画のようなもの。 しかも、一見美談のようでいて、もし現実にこんなことがあったとしたら 業務上大いに問題だ。更に、演出はいかにも平板で、映像的なセンスも感じられず、 正直ちょっと安っぽい。 しかし、手紙だからこそ伝えられない想いの深さというのはよく分かるものがあり、 それが物語に何重にも組み込まれているので、それなりの感動作にはなっていた。 ホームページ
人のセックスを笑うな (Don't laugh at my romance.) 2007日本 (監)井口奈己 (出)永作博美、松山ケンイチ、蒼井優、忍成修吾 2008/03/15 シネマテークたかさき ○ 大雑把にいえば、ずっと年上の女性に振り回される若い男の話。 美術学校のリトグラフの臨時講師の女性と、ふとしたきっかけで知り合った男子学生。 彼女の誘いに乗せられて、彼は彼女の妖しい魅力に取り付かれてしまうが、 実は彼女は既婚者なのであった。 更に、彼を好きな女子学生と、この女子学生を好きな別の男子学生の物語が 重なってゆく。 登場人物それぞれ皆、思い通りには行かない、もどかしい気持ちを抱えていて、 それが時に切なく時に滑稽に、繊細に描写される。 何と言っても、永作博美が謎めいた小悪魔的な女性像を、 松山ケンイチが彼女の妖しい魅力に翻弄される男の哀楽を、 更に蒼井優が彼を好きなのにどうにもならない切なさを、 それぞれこれ以上は考えられないほど見事に体現していた。 もっと先の物語を見せて欲しいと思わせながらも、 あっけなく終わってしまうのがまたよろしい。 独特の間合いが、苦手な人も多そうだが、私には結構好きな傾向。 ホームページ
犬と私の10の約束 2008日本 (監)本木克英 (出)田中麗奈、高島礼子、豊川悦司、加瀬亮、福田麻由子、池脇千鶴、布施明 2008/03/15 熊谷シネティアラ21 ○ 函館を舞台に、女の子が子供の頃から大人になるまで、 いろいろな出来事を共に過ごし心の支えとなった、犬との10年の歳月の物語。 動物モノの話に、音楽を絡めてあって、泣かせる要素は満載。 それを、良く言えば素直に、悪くいえばあまり工夫なく、そのまま映画にしてある。 いかにも作り物っぽい話だし、安っぽいと言えばその通りなのだが、 私はしっかりと泣かされてしまった。 と言うより、犬を飼ったことのある人なら、これで泣かずにいるのは無理だろう。 客席には親子連れの人たちが多く、こう言う客層の映画は私には久し振り。 ホームページ
明日への遺言 2007日本 (監)小泉堯史 (出)藤田まこと、富司純子、ロバート・レッサー、フレッド・マックイーン、リチャード・ニール、蒼井優、田中好子 2008/03/12 熊谷シネティアラ21 ◎ 戦争末期に捕らえた米兵を処刑した罪で、戦後の軍事裁判に掛けられた司令官の、 法廷での毅然とした答弁の様子が描かれる。 何と高潔で、しかも滋味に溢れた人物なのだろうか。 彼は、主張すべきことは臆することなく主張しながら、 しかし上官としてすべての責任を自分で負う(ことで部下を守る)覚悟を固めている。 (こんな上司は自分の周りにはいないし、自分もこうは決してなれないだろう。) 冒頭に、歴史映像を使ってこの事件の背景を説明してくれるのが有り難く、 これがあるからこそ、裁判での議論の核心をきちんと把握できた。 藤田まことをはじめとした俳優陣も、森山良子の主題歌を含めた音楽も、 文句なしの出来映え。 私は小泉監督の旧作すべてと相性が良かったが、今回も期待を裏切られなかった。 大いに満足。 ホームページ
花影 2007日本 (監)河合勇人 (出)山本未來、キム・レウォン、戸田恵子、パク・ジョンス 2008/03/08 新宿K's cinema 在日3世の女性と韓国人の男性との、電撃的な恋愛の物語。 高慢さが災いして釜山出店計画を取り消された宝飾デザイナーの女性は、 気晴らしに訪れた祖先の墓地で、純朴な小学校教師の男と出会う。 通訳を引き受けた小学生の機転(あるいは悪戯)のお蔭で、 二人は1年後に再会を果たすが、二人の運命には大きな秘密が用意されていた。 しかし、いくらファンタジーと言っても、この脚本はあまりにも不出来。 ストーリー展開が強引と言うより無茶で、 ここまで超現実な展開は私の許容範囲を越えている。 迷作・珍作と呼ばれても仕方ないのではないか。 脚本の水準の低さが大いに悔やまれる。 ホームページ
窯焚―KAMATAKI― 2005カナダ=日本 (監)クロード・ガニオン (出)マット・スマイリー、藤竜也、吉行和子、渡辺奈穂、リーソル・ウィルカーソン 2008/03/01 新宿バルト9 ○ 失意の底にあるカナダ人の若者が、 疎遠だった叔父が営む陶芸の窯元で住み込みで働くために日本にやって来る。 叔父の奔放な生き方と衝突しながらも、彼は徐々に陶芸の奥深さを知ると共に、 仕事の中に喜びを見出し、生きる意欲を獲得してゆく。 余計な音楽など加えずに、根気の要る窯焚の作業を丹念に写し出しているのが よかった。彼が成し遂げた仕事の喜びが、 観ている自分にもストレートに伝わってきた。 一部の奔放なシーンの必要性には疑問もなくはないが、 人それぞれの生々しい生き様を綺麗事でなく赤裸々に見せ付けられたからこそ、 彼が生きる力を得て行ったのだな、とも思う。 ホームページ
トゥヤーの結婚 (Tuya's Marriage) 2006中国 (監)ワン・チュアンアン (出)ユー・ナン、バータル、センゲー 2008/03/01 ル・シネマ ○ モンゴル地方の乾燥地帯。夫が井戸掘りの事故で下半身付随になってしまい、 遊牧も家事も育児も全てを担う女性。 最寄の井戸さえ数十キロも離れているような状況では、 最低限の生活さえもままならず、彼女は苦渋の決断で再婚を決意する。 しかし、彼女の示すあまりにも常識外の条件を呑む男は、 そう簡単には現れる筈がなかった。 相当な苦境にありながらも、主人公の女性は非常にたくましく、女は強し、母は強し、 と思った。それに対して男たちは、弱かったり、頼りなかったり、浮ついていたり、 情けない限り(勿論、これはまさに自分のことでもある)。 どっしりと地に足が着いた感じの映画。 ホームページ
胡同(フートン)の理髪師 (剃頭匠 / The Old Barber) 2006中国 (監)ハスチョロー (出)チン・クイ、チャン・ヤオシン、ワン・ホンタオ 2008/02/29 岩波ホール ○ 北京の中心にあって発展から取り残された胡同(フートン)街区の老人たちの悲哀を、 昔の友人たちを相手に散髪する一人の老人の視点から描き出している、 ドキュメンタリー風にも見える劇映画。 取り壊しを迫られながらも、実際にはいつ取り壊されるとも分からない、 古ぼけた街並み。昔からそこに住まう老人たちは、頑固さを貫こうと思いながらも、 時代の波と、自身の老いに、否応なしに向かい合うことを余儀なくされている。 おかしさ、悲しさ、滑稽さ、哀れさ、それらが独特の「軽み」の中に同居していて、 絶妙なセンスで、しかも現代社会の歪みへの皮肉もしっかり効かせてある。 主演の老人は、役柄通りの理髪師だそうだが、素人とはとても思えない深みを 醸し出していた。そして最後の展開には、誰もが「あっ」と思わされるだろう。 ホームページ
めがね 2007日本 (監)荻上直子 (出)小林聡美、市川実日子、加瀬亮、光石研、もたいまさこ 2008/02/27 イオンシネマ太田 ◎ アンコール上映を機に、二度目の鑑賞。 映画の内容は前回(→2007/09/22) の通りだが、一度目以上にじわじわと心に沁みてきた。 小林聡美演じる主人公の、誰とも交わりたくはない、静かな場所に身を置きたい、 周囲から切り離された環境が欲しい、そんな心境は、 まるで私自身に重なって感じられるよう。 私自身、ここ数年の間に何度もオキナワに行っているのだが、 誰に会いたい訳でもなく、海に入りたい訳でもなく、 ただゆったりと穏やかな時間が欲しい、それだけなので。 映画の中の場面に行ってみたい、映画の中の人たちと会ってみたい、 と思うことはよくあるが、この映画ほど 自分がそこに居たいと強く思わせるものはなかった気がする。 架空の世界とは知りつつも、物語の舞台となった与論島に行って、 自分も「たそがれて」みたい。 ホームページ
肩ごしの恋人 (LOVERS BEHIND) 2007韓国 (監)イ・オンヒ (出)イ・ミヨン、イ・テラン、キム・ジュンソン 2008/02/24 シネマテークたかさき ○ 金持ちの夫を持って優雅に暮らす「結婚至上主義」の女性と、 独身で仕事に邁進しつつ気に入った男との恋愛を楽しむ「恋愛至上主義」の女性。 生きる指向が異なる三十代の二人の恋愛と友情を巡る物語。 各自のライフスタイルを満喫していた筈なのに、思い上がりが災いしてか、 それぞれの男性関係は破綻の危機に。 しかも、二人の間に直接の利害関係はなかった筈が、 「不倫」の立場の違いから、ついに二人の間に亀裂が入ってしまう。 最初の方の少々ふしだらで下品な場面は我慢するとして、 途中から彼女たちのストレートな言い分が(賛同するかどうかは別にして) 本音としてよく分かる気がして来て、 そして最後に晴れやかな表情で堂々と歩き出した二人の姿を見ながら、 爽やかな感動が沸き起こって来た。 ホームページ
≒草間彌生 〜わたし大好き〜 2008日本 (監)松本貴子 (出)草間彌生 2008/02/18 ライズX ◎ 前衛芸術家・草間彌生さんの制作現場に密着したドキュメンタリー。 唯一無二の芸術世界を展開するこの天才の、現在の姿がリアルに映し出されている。 もう80歳近いのに、制作意欲は衰えるどころか、むしろ執念のように増すばかり。 劇中で草間さんは、全50点にも及ぶ巨大なモノクロの連作絵画を完成させてゆく。 一般的な基準から見れば、彼女は変人や奇人を通り越して、 殆ど狂人の域に達しているが、これだけ自身のやって来たことに自信があるからこそ、 こうして世界に轟く確固たる地位を築き上げたのだと思う。 連日全席完売の大人気だが、それも納得の面白さ。 ホームページ
全然大丈夫 2007日本 (監)藤田容介 (出)荒川良々、木村佳乃、岡田義徳、田中直樹 2008/02/18 シネクイント ◎ どうも世渡りが上手くない人々が織り成す、「憩い系」の映画。 怪奇マニアで植木屋でアルバイトする古書店の息子と、 優柔不断ゆえに上司受けが悪いサラリーマンと、 絵の才能はあるし器量はよいが仕事は何をやらせても駄目な女、 この3人の淡い恋愛未満の関係を中心に、ゆるゆると緩い物語が展開される。 主要人物は勿論のこと、父親や同僚や友人たちなど他の登場人物も含めて、 皆ちょっとピントがずれていて、ついつい笑わされてしまう。 色々あったにせよ、最後は落ち着くべき所に落ち着いて、 円満っぽく終わるのがよいところ。 何だかみんな楽しそうで、こう言う映画は、私はかなり好き。 ホームページ
奈緒子 2008日本 (監)古厩智之 (出)上野樹里、三浦春馬、笑福亭鶴瓶、光石研、山下容莉枝 2008/02/17 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ○ 陸上部に属する高校生たちが、駅伝に挑む練習の中で、 それぞれの心の足枷を解き放ってゆく物語。 ある過去の事件のために、ぎこちない関係のまま再会した男子生徒と女子生徒。 両者のわだかまりを解くべく、顧問の教師は、 少々粗っぽい強引さで二人を引き合わせるが、 その一方で、陸上部の部員の中でも、嫉妬と反発が渦巻いていた。 クライマックスの大会の長い長いシーンでは、もう冷静に見てはいられず、 自分まで息が荒くなってしまった程。 上野樹里のいつになく陰りを帯びた表情と、 最後に見せる満面の笑みが実によかったが、 何よりも笑福亭鶴瓶が素晴らしい存在感を放っていた。 ホームページ
潜水服は蝶の夢を見る (Le Scaphandre et le papillon) 2007フランス=アメリカ (監)ジュリアン・シュナーベル (出)マチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエ、マリ=ジョゼ・クローズ 2008/02/17 イオンシネマ太田 ○ 人生の絶頂期にあるファッション雑誌編集長の男が、ある日突然、 脳の障害によって全身不随となってしまう。 唯一動くのは、片目の目蓋だけ。 周囲の力添えを得て、彼は「まばたき」だけで自伝の執筆を試みる。 題材としてはアメリカ映画にもなりそうですが、内容的には紛れもないフランス映画。 単純に話を運ばず、出来事の時系列を入れ替えてあるのが、奏功していた。 途中でちょっと間延びした感じも受けたが、 これだけじっくりと丁寧に描いているからこそ、 この気の遠くなるような仕事が実感をもって伝わって来たのだと、 後になって気付かされた。 最後に、これが実在の人物とのことに驚かされた。 彼を支え続けた人々の誠意にも頭が下がる。 ホームページ
アドリブ・ナイト (Ad Lib Night / とても特別なお客さん) 2006韓国 (監)イ・ユンギ (出)ハン・ヒョジュ、キム・ヨンミン、キム・ジュンギ、キ・ジュボン 2008/02/11 アミューズCQN ○ 家出したまま行方知れずの娘の「代役」として、見ず知らずの男の臨終に立ち会う 羽目になった女性と、そのことを発端に場も弁えず一騒動起こす親族たちと、 場に加わりながらもちょっと距離を置く近所の連中、 この面々が共に過ごした濃厚な一夜の物語。 何と言っても、主人公の女性の底知れない孤独感が寒々と伝わって来て、 一方で、ほんの一晩だけ身を置いた「偽りの家族」の奇妙な熱さと濃さが、 鮮やかな対照をなしている。 彼女の先行きが見えないまま終わってしまうのが、やや物足りないところでもあり、 しかい奥ゆかしいところでもあるかも知れない。 何れにせよ、どちらかと言えばアート系に近い内容なので、好き嫌いが分かれそう。 ホームページ
転々―てんてん― 2007日本 (監)三木聡 (出)オダギリジョー、三浦友和、小泉今日子、吉高由里子、岩松了、ふせえり、松重豊 2008/02/11 シネアミューズ ◎ 借金を抱えながら自堕落に生きている大学8年生の若い男。 目を付けられてしまった借金取りの中年男に強いられて、 借金を帳消しにする代わりに、この男と東京を「散歩」する羽目に。 しかも奇妙ななりゆきで、挙げ句に偽物の家族まで演じることになってしまう。 本物の家族を知らないが故に、あるいは本物の家族でないからこそ、 醸し出される緩やかな幸福感。それは仮初めのものでしかないにせよ、 彼にとってずっと心の拠り所となるに値するものだったのだろう。 最後はあっけなく終わってしまうが、何とも爽やかな温かな気持ちになった。 勿論、同監督の『図鑑に載ってない虫』(→) や『亀は意外と速く泳ぐ』と同じく、脱力系ギャグも健在。 これで大いに笑わせながらも、物語の叙情性や切なさが強められているから不思議。 ホームページ
ラスト、コーション (LUST, CAUTION / 色|戒) 2007アメリカ=中国=台湾=香港 (監)アン・リー (出)トニー・レオン、タン・ウェイ、ワン・リーホン、ジョアン・チェン、トゥオ・ツォンホァ 2008/02/02 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 1940年代、日本の占領下にある上海で、抗日運動に身を投じる学生たち。 傀儡組織のトップの男を暗殺を企てて、一人の女学生が、 裕福な婦人を装って男に接近する。誰にも心を許さない筈だった男が。 徐々に女に魅了されのめり込んで行く一方で、 刻々と任務を果たしていた筈だった女の心にも迷いが生じてしまう。 二人の関係は、何と悲しい運命に定められていたことか。 この複雑な状況下での男の冷徹さと陰りを、トニー・レオンは見事に体現していたが、 それ以上に、 タン・ウェイの一途な女学生から妖艶なマダムへの変貌ぶりには驚かされた。 映像的には、当時の上海や香港の街路が壮大かつ見事に再現される一方で、 細部にも一切の手抜かりはない。特に終盤、カップに付いた口紅、人力車夫の笑み、 茶色い薬、シーツのしわ、揺れ続ける指輪、弔いの鐘のような時報、 など一つ一つの場面が強烈に印象に残って頭から離れない。 決して出過ぎない音楽も好適。 とかく世間では過激な描写のことばかりが話題にされているが、 それは物語の断片に過ぎず、本質的にはあまりにも壮絶な愛情の物語。 ホームページ
逃亡くそたわけ 21才の夏 2007日本 (監)本橋圭太 (出)美波、吉沢悠 2008/02/02 シネマテークたかさき ○ 入院中の精神病院から脱走した男女が、年代物の車で九州縦断する逃避の旅。 女は幻覚と幻聴の発作に悩まされ続けていて、それを気遣う男の方も鬱病を患っている。 一見気楽なドライヴのようでいて、実際には全く先行きの見えない旅なので、 なかなか楽しい気分にはなれない。特に、女を時折襲う発作の状況は、 見ていてつらいものがあった。それでもこの二人、恋人同士でも何でもないからこそ、 互いの存在に支えられながら、ほんのわずかながら希望の兆しが現れるのがよい。 道中の九州各地の風景の中には、自分が行ったことのある場所も多く、 懐かしく嬉しかった。また、名古屋人である男の妙な東京コンプレックスは、 よく分かる気がした。ちなみに原作者の絲山秋子さんは、地元・高崎に在住。 ホームページ
歓喜の歌 2007日本 (監)松岡錠司 (出)小林薫、安田成美、伊藤淳史、由紀さおり、浅田美代子 2008/02/02 熊谷シネティアラ21 ◎ 役所の勘違いのせいで、明日の大晦日に同じ会場でコンサートすることになっていた 二つの女声コーラスグループ。オロオロする役人をよそ目に、 彼女たちは押さず引かず、八方塞がりの様相だったが、 合同演奏会にしようと言う妙案が浮上し、急遽その方向で全員が動き始めるのだった。 沢山の登場人物それぞれの思いが一点に焦点を結び、その感極まったところに、 ただでさえ感動的な「歓喜の歌」がやって来る訳で、 これで歓喜するなと言うのが無理。何でいつの間にオケ伴奏になったんだ、 とか細かい事はもうどうでもよくなってしまう。 いかにも公務員的(失礼)な事なかれ主義かつ責任転嫁気質の「主任」が、 いつの間にか本気になっていて、でもやはり最後までちょっと間が抜けているのが、 またよろしい。 ホームページ
子猫の涙 2007日本 (監)森岡利行 (出)武田真治、藤本七海、広末涼子 2008/01/30 熊谷シネティアラ21 ◎ メキシコ・オリンピックで銅メダルを取った伝説のボクシング選手でありながら、 今はろくな仕事もせず自堕落な生活を送る父親と、 それに愛想を尽かしながらも父を見捨てられない娘との、長い歳月の物語。 彼の生き方はもう散々でボロボロで、同情の余地もない。 そして、それに振り回される人々は、まさに災難そのもの。 にも関わらず、この家族は勿論、周囲の子供から年寄りまで、 登場人物一人一人が大切に思えて仕方ない。 武田真治は本物のボクサーのように鍛え上げられた格好よさを持っていて、 だからこそ対照的にメロメロのダメ親父ぶりが際立って感じられた。 そして何よりも、登場人物たちの大阪弁の響きが実によく活かされていた。 これがもし東京言葉だったら、この雰囲気は成立していないだろう。 ホームページ
陰日向に咲く 2008日本 (監)平川雄一朗 (出)岡田准一、宮崎あおい、伊藤淳史、平山あや、塚本高史 2008/01/27 熊谷シネティアラ21 不遇な生き方を余儀なくされている何人もの登場人物の人生が、 不思議な運命の接点を持って交わって来る、と言うストーリー。 結構期待していたのだが、正直言って少々期待外れ。 個々のエピソードは悪くないものの、登場人物が多い分だけ物語の数も多過ぎて、 どれもこれも印象が薄くなってしまった。 しかも場面の時代まで多重化されているので、一層散漫になってしまっている。 もう少し取捨選択して題材を絞り込んで掘り下げていれば、 ずっと感動的だったかも知れないのに、勿体無い気がした。 役者さんたちはそれぞれよくやっているだけに、ちょっと残念な出来。 ホームページ
母べえ 2007日本 (監)山田洋次 (出)吉永小百合、浅野忠信、檀れい、志田未来、佐藤未来、戸田恵子、大滝秀治、笑福亭鶴瓶、坂東三津五郎 2008/01/27 熊谷シネティアラ21 ◎ 戦時中に治安維持法で捕らえられた夫の留守を守って、 二人の娘と共に気丈に生きる母の物語。 淡々とした描写の中で、こんなに大切な人たちをことごとく奪い去ってしまう 戦争の残酷さと愚かしさがずっしりと伝わって来て、何度となく目頭が熱くなった。 見終わった後になっても、じわじわと深い余韻が残っている。 吉永さんは、年齢的な無理がないとは言えないものの、 やはり余人に代え難い存在感があった。 しかもそれ以上に、子役の二人が極めてよかった。 他にも、もう一人の主役である「山ちゃん」は勿論のこと、 美しい叔母や、招かれざる客だった伯父まで含めて、 登場人物一人一人のことが、心に残っている。 ホームページ
Mr.ビーン カンヌで大迷惑?! (Mr.Bean's Holiday) 2007イギリス (監)スティーヴ・ベンデラック (出)ローワン・アトキンソン、エマ・ドゥ・コーヌ、マックス・ボルドリー、ウィレム・デフォー、カレル・ローデン 2008/01/23 熊谷シネティアラ21 ○ 福引で南仏旅行に当選して浮かれまくるビーン氏が、 周囲の人を巻き添えにして災難や珍事を引き起こしつつ、カンヌへと向かう珍道中。 やっていることの頓珍漢さ加減は相変わらずで、馬鹿馬鹿しさは徹底していて、 更に今回は、ロードムービーとして成立していることに加え、 言葉の通じないことによる面白さや、映画撮影隊やカンヌ映画祭に うまく絡めてあることなど、計算し尽くされた面白さが追求されていた。 しかも最後が、すっきりと「めでたしめでたし」で幸せに終わるところがよろしい。 少なくとも、十年前の第1弾(→1998/03/28) よりも格段に上出来と思う。 ただ何れにせよ、TVシリーズ(昔NHKでやっていた)に比べると、 映画版は勢いに乏しいのは確か。ビーン氏も歳と共に丸くなったと言うことか。 ホームページ
シルク (SILK) 2007カナダ=イタリア=日本 (監)フランソワ・ジラール (出)マイケル・ピット、キーラ・ナイトレイ、役所広司、アルフレッド・モリーナ、中谷美紀、國村隼、芦名星、本郷奏多 2008/01/20 熊谷シネティアラ21 19世紀、フランスから蚕卵を買い付けるために、鎖国下の日本に潜入した若者と、 その愛妻、それに日本で出会った謎めいた人々との物語。 ストーリー自体はともかく、最大の難点は言葉のこと。 フランス人なのに、何で英語(米語)で日常会話しているのか (最初はイギリスが舞台かと勘違いしてしまった)。 それはまあ我慢するにしても、あの時代の日本の寒村で、 何で彼らが英語ペラペラなのか。 このことは、ストーリー自体にも密接に関わってくることだけに、全く納得が行かず、 私は全然気乗りできないまま終わってしまった。 当時のフランスの街並みや日本の風景など、情景は非常に美しく撮れているだけに、 甚だ残念。 ホームページ
ヒトラーの贋札 (DIE FAELSCHER / THE COUNTERFEITERS) 2006ドイツ=オーストリア (監)ステファン・ルツォヴィッキー (出)カール・マルコヴィクス、アウグスト・ディール、デーヴィト・シュトリーゾフ 2008/01/19 シャンテ・シネ ◎ 戦時中にナチスが、収容したユダヤ人の印刷工や美術家に強いて、 収容所の中の工場で組織的に、英米の紙幣を大量に偽造した事実が元になった物語。 いつ殺されても当たり前と言う極限状況の中、生き延びたい一心で 持てる技量の全てを駆使して精巧極まりない偽札を仕上げる主人公。 それに対して、自身の仕事への誇りと良心から、わざと手を抜く同僚。 ナチス親衛隊との関係ばかりでなく、収容所内の人間関係も一触即発の様相。 どちらが善でどちらが悪かなんて誰に決められよう。 もし自分だったらどうすることだろう。 最初から最後まで緊迫した状況が続くので、緊張感で胃が痛くなりそうだった。 ラストシーンには何とも言えない虚しさが漂うが、これが彼の良心であり、 相応しい幕切れなのかも知れない。 ホームページ
ジプシー・キャラバン (When the Road Bends: tales of a Gypsy Caravan) 2006アメリカ (監)ジャスミン・デラル (出)タラフ・ドゥ・ハイドゥークス、エスマ、アントニオ・エル・ビバ・フラメンコ・アンサンブル、ファンファーラ・チョクルリーア、マハラジャ 2008/01/19 シネアミューズ ○ 世界各地のジプシー(ロマ)が集まって敢行された米国横断の、 演奏旅行の道中に密着したドキュメンタリー。感動的で、期待通りよかった。 そもそも私は、ロマの人々が差別され抑圧されて来たことも、 世界中に散らばって行ったことも、恥ずかしながら全然知らなかった。 そんな中で熟成された音楽は、それぞれの国によって様々に 異なるスタイルへと発展しながら、何れも情熱的で力強いものになったのだろう。 特に、太い声の女性歌手の歌声は圧巻。 更に、それぞれの国での彼らの生活風景が織り込まれているため、 人間ドラマとしても味わい深いものがあった。こうして背景が分かる分だけ、 音楽による感動も増大する。 肝心の演奏場面を、比較的じっくりと聴かせてくれるのもよいところ。 ホームページ
ハーフェズ ペルシャの詩 (Hafez) 2007イラン=日本 (監)アボルファズル・ジャリリ (出)メヒディ・モラディ、麻生久美子 2008/01/19 東京都写真美術館ホール ○ イランの高名な聖職者の娘と、若き詩人との、許されざる恋の物語、と言うより寓話。 詩的で、深遠で、やや難解な、紛れもない純愛物語。 何と言っても、この二人は一度も直接顔を見たことすらなく、 それでも強い心の絆が出来上がっている訳で、そこが清らかで奥ゆかしいところ。 また、信仰が全ての根底にある生活の様子が、よく伝わって来た。 ただ、宗教的な行為(願掛け)の意味を知らなかったので、 (見ているうちに徐々に分かって来るものの)一度見ただけでは話を把握しづらかった。 後で頭の中で振り返ってみて、ようやく良さが分かって来た感じ。 なお、この日は初日舞台挨拶で麻生久美子さんが登場。小柄で凄く綺麗で、気さくで好感度大。麻生さんご自身も、出来上がったこの作品を難しいとお思いになった由。 ホームページ
迷子の警察音楽隊 (Bikur Hatizmoret / The Band's Visit) 2007イスラエル=フランス (監)エラン・コリリン (出)サッソン・ガーベイ、ロニ・エルカベッツ、サーレフ・バクリ 2008/01/16 シネ・リーブル池袋 ◎ イスラエルへの演奏旅行でバスを間違えて路頭に迷ってしまった エジプトの誇り高き警察音楽隊の一行と、 見かねて彼らを家に泊めてあげることにした場末の食堂のマダムや常連客たちとの、 一晩の交流の物語。 互いに母国語でないたどたどしい英語で、会話の弾むような話題もない彼らが、 じわじわと、ほんの僅かながらも心を通わせてゆく、 そのことが嬉しくて仕方なかった。 特に、堅物の指揮者の頑固さが少しだけほどけてゆく様子や、 ウブな若者に手ほどきする場面など、たまらなくよかった。 名残惜しそうに去ってゆく彼らの姿を見ながら、何とも言えない、 ほんわかと幸せな気分になった。 ホームページ
北辰斜にさすところ 2007日本 (監)神山征二郎 (出)三國連太郎、緒形直人、林隆三 2008/01/16 シネマスクエアとうきゅう ◎ 戦時色強まる時代に、旧制高校の学生寮と野球部で過ごした若者たちの青春の物語。 当時ついに決着が着かないままだった熊本大学と鹿児島大学の野球部は、 彼らから約2世代を経た現在、親善試合の名目でついに対戦を果たすことになるが、 当時のエースだった男は、何故か出席を拒み続けていた。 私も学生時代に相部屋の古い学生寮に入っていて、 そこには丁度同じようなバンカラな気風が少し残っていた (前口上付きの寮歌なんて、我々のとそっくり)。 在寮当時は封建的で時代錯誤に思えて決して気に入ってはいなかったのだが、 その寮が老朽化で取り壊されてしまった今ではひどく懐かしく思い出され、 私の歳でさえこうなのだら、激動の歳月を経た彼らの思いの深さは如何ばかりか。 試合の最後の場面では、彼らと一緒に私も大いに泣いてしまった。 ホームページ
アフター・ウェディング (Efter Brylluppet / After the Wedding) 2006デンマーク (監)スサンネ・ビア (出)マッツ・ミケルセン、ロルフ・ラッセゴード、シセ・バベット・クヌッセン、スティーネ・フィッシャー、クリステンセン 2008/01/12 シネマテークたかさき ○ インドの孤児院で慈善活動に勤しむ男に、祖国であるデンマークの実業家から 大口の支援の話が舞い込む。その交渉のために久し振りに帰郷した男は、 実業家の娘の結婚式に招待されるが、実業家の妻は、 驚いたことにかつての自分の恋人だった女性であった。 これは偶然か策略か、ドロドロの三角関係の話かと思いきや、そう単純ではない、 なかなか壮絶な人間ドラマが展開されてゆく。 私はどうも娘の立場に気分を入れ込んでしまい、 予期せぬ事態の連続で揺れ動く彼女の心模様に、自分もかなり揺さぶられた。 一方で、本来の主役たる二人の男それぞれの選んだ道は、 ちょっと格好よく出来過ぎな気がしないでもない。 ホームページ
いのちの食べかた (OUR DAILY BREAD) 2005ドイツ (監)ニコラウス・ゲイハルター 2008/01/12 シネマテークたかさき ◎ 徹底した管理下で効率的かつ大量に工業生産される食糧の製造プロセスを、 一切の解説なしに淡々と写し出しているドキュメンタリー映画。 食糧生産が、今や第一次産業ではなく第二次産業と言ってよいような事実を、 残酷なまでに冷静に教えてくれる。 場面はすべて外国のことだが、食糧の大半を輸入で賄っている我が国にとっては、 すべて我々の日々の生活に密接に直結している訳で、 その意味では『ダーウィンの悪夢』(→2007/01/20) 以上のインパクトかも知れない。 もう、こうしなければ生きて行けない世界に、我々は組み込まれてしまった、 と言う事なのだろう。 ホームページ

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(紺野裕幸)

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