映画寸評 2006年

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2006年 私的ベスト3: 紙屋悦子の青春初恋デイジー (次点) フラガールクライング・フィスト


◎=絶賛 ○=よい
2006
タイトル データ 鑑賞日 感想
太陽 (The Sun) 2005ロシア=イタリア=フランス=スイス (監)アレクサンドル・ソクーロフ (出)イッセー尾形、桃井かおり、佐野史郎、ロバート・ドーソン 2006/12/28 深谷シネマ 敗戦前後、昭和天皇ヒロヒトが自身の神格を否定する経緯を、 ストーリーとしてでなく、出来事の断片から描き出そうとする試みだが、 正直言ってどう捉えてよいのかよく分からない映画だった。 結局、昭和天皇に対して、何を考えているのか分からない (存命当時にも感じていた)印象を、この映画で再確認した感じがする。 あの戦争に対して彼は、どこまで責任を持っていたのか、 どれだけ責任を感じていたのか、どれだけ罪の意識があったのか、 などの疑問への答えは、残念ながら得られなかった。 ただ、独特の美学と映像感覚は確かに感じられ、特に魚が飛び交う爆撃シーンは うまい思い付きだと思う。 ホームページ
硫黄島からの手紙 (Letters From Iwo Jima) 2006アメリカ (監)クリスト・イーストウッド (出)渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、中村獅童 2006/12/24 熊谷シネティアラ21 ○ 硫黄島二部作の二作目。大戦末期の硫黄島での死闘を、日本軍の側の視線で描き出す。 決して悪くはない映画ではあるが、 一作目『父親たちの星条旗』(→2006/11/24 に比べると残念ながら凡庸な出来。 米国人監督としては、日本人を悪いようには描きづらかったのか、 一作目に見られたような軍や体制側への痛烈な批判の色合いが見られず、 全体として見ると一種の悲劇の美談になってしまっていた感あり。 兵士たちを猛烈に苦しめたであろう飢えや渇きも殆ど伝わって来ない。 また、表題にも関わらず、手紙は物語の主要要素ではない。 ホームページ
とかげの可愛い嘘 (トカゲ/Love Phobia) 2006韓国 (監)カン・ジウン (出)チョ・スンウ、カン・ヘジョン、カン・シニル、チョン・ソファン 2006/12/23 シネマート新宿 ○ 小学校に転校してきた、嘘ばかり言っているが可愛い女の子。 折角仲良くなったのに、ふと彼女はいなくなってしまい、 やっと高校時代に再会するものの、また彼女はいなくなってしまい、 今度は社会人になってようやく再会できたものの、 しかし彼女には悲しい秘密があった。 これはそもそも甘く切ないおとぎばなしなので、 現実にはありえない最後の別れの場面も全然問題なし。 むしろ、『星の王子さま』の最後を想起させる切なさがあった。 成人した二人も好演していたが、子役の二人がたまらなく愛らしい。 ホームページ
長い散歩 (a long walk) 2006日本 (監)奥田瑛ニ (出)緒形拳、高岡早紀、杉浦花菜、奥田瑛ニ 2006/12/23 新宿武蔵野館 ◎ 妻を失い、娘から見放され、安アパートで一人暮らす初老の男。 隣部屋の女の子が児童虐待を受けるの知り、見るに見かねた男は、 彼女を連れてあてのない旅に出るのであった。 そしてそれは彼にとって、彼の家族に対する贖罪の旅でもあった。 客観的に見れば単なる幼女誘拐事件、 しかしその背景には何と奥深い理由が詰まっているのだろうか。 誰しも行き詰っている今の時代を丁寧に描き出した、 味わい深く、じっくりと考えさせる傑作。 長い長いラストシーンも深い余韻を残す。 ホームページ
王の男 (King And The Clown) 2005韓国 (監)イ・ジェンイク (出)カム・ウソン、チョン・ジニョン、カン・ヨンソン、イ・ジュンギ 2006/12/16 熊谷シネティアラ21 ○ 旅芸人の男二人の、強い絆ゆえに引き起こされる悲喜劇。 権力者を茶化した芸が売りの旅芸人一座。 彼らは幸か不幸か王に気に入られ、宮殿に招き入れられた結果、 王宮内に渦巻く不穏な権力闘争に巻き込まれてしまう。 映像的には、往時の街の雑然とした雰囲気が鮮やかに生き生きと再現されていたし、 物語としても、旅芸人たちの微妙な友情は勿論、 暴君とされる王の内なる悲しみまでも描き出されていたのがよかった。 ただ、場末の旅芸人の話なので仕方ないながら、下品な場面が多く出てきて、 これではあまり一般受けはしそうにない。 ホームページ
めぐみ―引き裂かれた家族の30年 2006アメリカ (監)クリス・シェリダン 、 パティ・キム 2006/12/09 シネマGAGA! ○ 北朝鮮による拉致被害者の家族の横田夫妻の闘いを、丹念に追ったドキュメンタリー。 事実や経過については、殆どが一般報道によって周知のことで、 特に目新しいものはなく、そう言う意味ではこの映画を 日本で上映することに意味があるのか疑問な気もする。 とは言っても、 内容的にはうまくまとまっていて、伝えたいことは充分に伝わって来る。 横田夫妻が闘っている相手は、自身の内面の不安に対してであり、 北朝鮮に対してであり、そして日本の政治や世論に対してでもあるのだな、 と再認識した。そして、夫妻の20年以上の長きに渡っての 文字通り懸命の闘いにも関わらず、それが何ら報われていないことに、 非常な憤りと無念さを覚えた。 ホームページ
ファミリー (A Family) 2004韓国 (監)イ・ジョンチョル (出)スエ、チュ・ヒョン、パク・チビン 2006/12/09 シネマスクエアとうきゅう ◎ 刑務所を出て家に戻った娘と、厳格な父親との、衝突と和解の物語。 窃盗の罪で獄中にあり、刑期を終えて家に戻った娘と、 娘を極めて冷淡に厳しくあしらう、厳格な父親。 ずっと父親を憎み続けてきた娘だが、父親の持病を発端に、 父親の寡黙の裏にある意外な真実を知るにつれて、 長年のわだかまりを徐々に解いてゆく。 一方で父親は、娘を古巣の裏社会から引き離すために、想像を絶する行動に出る。 父親にこれだけの厳格さがあるからこそ、最後の壮絶な決意には胸を打たれ、 そしてそれを受けて真直ぐに歩き出した娘の姿に、ずっしりとした感動あり。 非常にまじめで上質で重みのある傑作。 ホームページ
雨音にきみを想う (摯愛 / Embrace your shadow) 2005香港 (監)ジョー・マ (出)ディラン・クォ、フィオナ・シッ 2006/12/01 新宿武蔵野館 ○ 病気の兄を介護し、その娘の面倒を見ながら、貧しい生活を余儀なくされる女性と、 一見金回りはよいが実は泥棒を生業とする男との、悲しい恋の物語。 互いに心を惹かれ合い、愛し合うようになった二人だが、 いくつもの不幸に見舞われた挙句、ついに男に裏社会からの魔の手が延びて来て、 彼女たちを守るために、男は捨て身の闘いに挑むのだった。 女性の一家の境遇があまりにも気の毒で、しかもハッピーエンドとは程遠い結末は あまりにも救いがなくて、泣くに泣けない気分。 何よりも、泥棒稼業と言うものにどうしても美学を感じられないことが、 物語への共感を阻害していたように思う。 ホームページ
暗いところで待ち合わせ (Waiting in the Dark) 2006日本 (監)天願大介 (出)田中麗奈、チェン・ボーリン、井川遥、宮地真緒、岸部一徳、佐藤浩市 2006/12/01 シネ・リーブル池袋 ◎ 家族を失い一人暮らししている目の不自由な女性と、 その家にこっそりと忍び込んだ男との、奇妙な共生の物語。 女性は誰かいる気配を薄々と感じ、最初は怪しみ怯えるが、 しかしそれが確信に変わった頃から、 むしろその存在を生活の一部として受け容れるようになる。 かなり変わったストーリーだが、ミステリアスで緊張感に満ちていて、 はかなさと美しさがあり、 しかも最後には何とも言えない救済感のような開放感のようなものがあって、 何故か涙が出てしまった。 「誰か」の存在を確認できない女性と、女性を一方的に観察している男と、その二人を両方とも観察している(鑑賞者である)私。何だか自分自身が物語の一部に組み込まれたような、何とも不思議な感覚を覚えた。 ホームページ
ありがとう 2006日本 (監)万田邦敏 (出)赤井英和、田中好子、尾野真千子、前田綾花、光石研、尾美としのり、柏原収史、薬師丸ひろ子 2006/11/25 熊谷シネティアラ21 ○ 阪神淡路大震災で家財一切を失った男が、やがて奮起して プロゴルファーの試験に合格するまでの物語。 これは実在の人物(古市忠夫さん)についての実話だそうで、 元となった素材がよいだけに、なかなかの感動作に仕上がっていた。 映画作品としては、いかにも文部省推薦的なもので、良心的な出来ではあるものの、 特筆すべきセンスは感じられない。しかし、震災直後の阿鼻叫喚の地獄絵に関しては 話が別で、記録映像もうまく織り交ぜて極めて実感的に作られていて、 当時の神戸の人たちがこんな思いをしたのかと思うと、 しかもこれがまだつい最近の出来事であることを思うと、大変辛かった。 ホームページ
父親たちの星条旗 (Flags Of Our Fathers) 2006アメリカ (監)クリント・イーストウッド (出)ライアン・フィリップ、ジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチ 2006/11/24 熊谷シネティアラ21 ◎ 大戦末期、悲惨を極めた硫黄島の戦闘の最中、 山の頂上に星条旗を立てようとする6人の兵士の写真。 そこに写っていた兵士3人は、本人たちの意思とは無関係に、 戦時国債のキャンペーンへと駆り出されることになる。 激戦の中で何の意味もなく互いに殺されてゆく人々の姿に、 茶番劇のために都合よく使い捨てられた「英雄」たちの姿に、 戦争のどうしようもない空しさと愚かさを感じた。 そして何よりも、兵士の視点で描写される戦闘シーンがあまりにリアル過ぎて、 ただただ怖かった。 ここまでして、戦場の彼らが戦っていたのは、何のためだったのだろうか。 ホームページ
ウィンターソング (如果・愛/PERHAPS LOVE) 2005香港 (監)ピーター・チャン (出)金城武、ジョウ・シュン、ジャッキー・チュン、チ・ジニ 2006/11/18 太田イオンシネマ ○ それぞれ映画監督と映画女優を目指して、貧しいながら愛し合っていた二人だが、 それぞれの夢のために別れを余儀なくされる。 そして10年後、共演と言う形で再会した二人だが、 互いの隔たりを埋め合わせるには、既に手遅れだった。 男の側の未練の話なので、どうも身につまされる処あり。 黙って去ってゆく男の背中に、感傷的なピアノ音楽に、 終盤は涙を抑えられなかった。 ただ、ストーリー展開や場面演出が入り組んでいて凝り過ぎの感があり、 もっとシンプルでストレートな物語だったら一層よかったと思いつつ、 しかしこの豪華さこそが香港映画らしさとも思う。 ホームページ
7月24日通りのクリスマス (Christmas on July 24th Avenue) 2006日本 (監)村上正典 (出)大沢たかお、中谷美紀、佐藤隆太、上野樹里、川原亜矢子 2006/11/18 熊谷シネティアラ21 ○ 冴えない容貌の女性がカッコイイ王子さまと結ばれる、お伽噺のようなストーリー。 自分の暮らす長崎の街を、ここはリスボンの街であると妄想する、妙齢の女性。 東京で活躍する憧れの先輩が長崎に戻って来ることを知った彼女は、 一人勝手に舞い上がるものの、いざ男性と対面すると、狂喜のあまり取り乱してしまう。一方で男は、華々しい表向きとは裏腹にうまく行かない問題を抱えていた。 中谷美紀は『嫌われ松子の一生』に続いての自虐的キャラクターが板に付いていて、 大沢たかおは『解夏』に続いての長崎のイイ男で、 今月は出番の多い上野樹里は今回もよい印象。 長崎の街がリスボンに劣らず魅力的に描かれていて、また行きたくなってしまった。 ホームページ
かもめ食堂 (ruokala lokki) 2005日本 (監)荻上直子 (出)小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ 2006/11/17 深谷シネマ ◎ ヘルシンキで日本家庭料理店を営む女性が主人公。 しかしお客さんはさっぱり訪れず、たまに来るのも日本オタクの青年一人だけ。 やがて、日本からふらりやってきた女性とたまたま知り合いになり、 彼女も店を手伝うようになるが、しかし相変わらず客は来ない。 そこにある日、荷物を失くして困った中年の日本人女性が店を訪れる。 小林聡美の、どこか謎めいていながらも凛とした佇まいの美しさ。 片桐はいり・もたいまさこの醸し出す独特の雰囲気。 この人たちの存在感なしには、こんな夢物語のようなストーリーは成り立たなかった。 おにぎりなども勿論だが、何よりも「おまじない」を効かせたコーヒーが たまらなく美味しそう。 ホームページ
幸福(しあわせ)のスイッチ 2006日本 (監)安田真奈 (出)上野樹里、本上まなみ、沢田研二、中村静香 2006/11/11 テアトル新宿 ◎ お人よし過ぎる頑固一徹な父親と、それに感化されている長女と三女、 それに反発する次女。 父が骨折入院して、やむなく家族の営む電器屋を手伝う二女は、 儲けにもならない商売に振り回されて不機嫌な毎日だが、 その仕事が地域の人々に必要とされていることを徐々に体感してゆく。 『SWING GIRLS』とも『虹の女神』とも全然違う表情を見せる上野樹里はさすがで、 姉役の本上まなみも妹役の新人女優もほんわかとよい雰囲気を醸し出していたが、 何よりも父親役の沢田研二がよい味を出していた。 物語の終わり方もたまらなく良く、劇場を出た後、足取りが軽くなるような気持ち。 表題の通り、幸せな気分になれる映画。 ホームページ
天使の卵 (Angel's Egg) 2006日本 (監)冨樫森 (出)小西真奈美、沢尻エリカ、市原隼人 2006/11/10 熊谷シネティアラ21 電車の中でふと出会った女性の美しさに見とれてしまった浪人生。 実は彼女が、入院中の父の主治医であることが判明するが、 更には恋人の姉であることも判明。二人はやがて互いに心引かれてゆき、 そのことに恋人(妹)が気付かない訳がない。 ストーリー自体は泣かせる要素に溢れているのに、脚本が悪いのか編集が悪いのか、 何となく展開の間が悪く、どうしても気持ちが入り込めず、さっぱり泣けなかった。 主演の市原隼人に、この役を演じるに値する奥行きが感じられず、 わざとらしさばかりが目に付いてしまい、せっかく小西真奈美や沢尻エリカなどの 大物の起用も勿体無いことに。 ホームページ
ただ、君を愛してる (HEAVENLY FOREST) 2006日本 (監)新城毅彦 (出)玉木宏、宮崎あおい、黒木メイサ 2006/11/04 熊谷シネティアラ21 ○ 学生時代、ふと知り合ったかなり風変わりな女の子。 男は、彼女との時間に喜びを感じつつも、別の女性に恋してしまうが、 それでも女の子は、堂々と一方的に想いを寄せ続けるのだった。 なかなかよかったのだが、ちょっと予期せぬことには、直前に観た『虹の女神』と、 物語の設定や筋が非常によく似ていて、何だか話を混同してしまいそう。 お客さんはこちらの方が多く入っていたが、個人的には『虹…』の方が好み。 『虹…』に比べると、こちらの方がよりロマンティックな代わりに、 設定にやや無理(と言うより強引さ)がある気がするが、 美しいラストにはちょっと泣かされた。 ホームページ
虹の女神 (Rainbow Song) 2006日本 (監)熊澤尚人 (出)上野樹里、市原隼人、蒼井優 2006/11/04 熊谷シネティアラ21 ◎ 大学の映画研究会に没頭していた女の子の届かない想いを巡る、切ない物語。 主人公の気持ちが痛い程に伝わって来て、かなり泣かされた。 上野樹里の(『SWING GIRLS』の暢気な表情とは対照的に)翳りのある表情が 実によかったし、蒼井優もよい味を出していたが、 この大物女優二人に見比べて市原隼人は正直見劣りがした。 映画の中で映画を撮っている(しかもその作品を映画の中で上映して見せる)と言う 二重構造が効果的。 登場人物たちの心模様には、自分にも思い当たるような所が沢山あって、 学生時代の色々な感情が脳裏を過ぎって、必要以上に勝手に感動してしまった。 ホームページ
トンマッコルへようこそ (Welcome to Dongmakgol) 2005韓国 (監)パク・クァンヒョン (出)シン・ハギュン、チョン・ジェヨン、カン・ヘジョン、イム・ハリョン、スティーブ・テュラー、ソ・ジェギョン、リュ・ドグァン 2006/11/03 シネリーブル池袋 ◎ 寓話のような設定を使って、戦争することの愚かしさを痛烈に訴えかけて来る傑作。 戦争の起こっていることすら知らない、桃源郷のような山間の村。 そこに迷い込んだのは、アメリカの墜落兵と、脱走した韓国兵と、逃亡中の北朝鮮兵。 敵対する彼らは互いに武器を向け合って対峙し、事態は緊迫するが、 村民はお構いなしと言った風情。結局、村民の農作業など手伝わされている内に、 互いの憎しみはいつの間にか消え去ってしまう。 しかしそんな間にも、連合軍の砲火はじわじわと迫って来ていた。 個人個人に憎み会う理由なんてないのに、 互いに殺し合わなければならない大義名分とは何なのか。 台詞にもあったが、何でこんなに単純でなくなってしまったのか。 韓国の人々の「統一」への願いの強さを、ひしひしと感じた。 ホームページ
明日へのチケット (TICKETS) 2005イタリア・イギリス (監)エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ 2006/11/03 シネ・アミューズ ローマへと向かう列車の中での3つのエピソードを、3人の監督がそれぞれ制作した、コラボレーション作品。 老いた大学教授と、仕事相手の若き秘書との間の、微妙な感情の揺らぎ。 身勝手で傲慢な中年女性を、兵役義務のために介助しなければならない若い男の辟易。 切符を盗まれた若者たちと、盗んだ難民たちとの、疑心暗鬼。 個々のエピソードはなかなか楽しかったが、個人的には、 それぞれの間に(ほんの少しでもよいから)繋がりがあればよかったのに、と思うた。 最後に何かしら結び付いて欲しいと心の中で願いながら観ていて、 しかし結局そのまま話がバラバラで終わってしまって、 ちょっと消化不良の感じ。 個々の才能はともかく、「共同作業」としての成果が見られなかった気がした。 ホームページ
ユア・マイ・サンシャイン (You're My Sunshine) 2005韓国 (監)パク・チンピョ (出)チョン・ドヨン、ファン・ジョンミン 2006/11/03 シャンテシネ ◎ 牧場で働く純朴な男が一目惚れした相手は、実は売春婦であった。 それでも彼は愛を貫き、ついに二人は結ばれるが、幸せな時は束の間。 彼女がAIDSに侵されていたことが発覚する。 苦悩の末に、やはり男は彼女への愛を守ろうとするが、 女は突然失踪したまま行方が分からくなってしまう。 数多ある韓国恋愛映画の中でも、確実に傑作グループに入る作品。 泣けて仕方ないと言う感じよりも、じわじわと沁みて来る感じ。 いかにもと言った物語だが、しかしこれは実話とのこと。 どうしても、もし自分が夫だったらどうだろう、もし自分が家族だったらどうだろう、 などと考えてしまう。 ホームページ
手紙 2006日本 (監)生野慈朗 (出)山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカ、吹石一恵、尾上寛之、吹越満、風間杜夫、杉浦直樹 2006/10/29 GyaOオンライン試写会 ◎ GyaOオンライン試写会で一足先に鑑賞。 兄が人を殺して服役中であるために、「人殺しの弟」と言うレッテルを貼られ、 職を追われたり、恋人から引き離されたり、さまざまな差別に苦しめられる弟の、 果て無き苦悩を描いている。 本人は犯罪者でないのに差別される現実の厳しさ、断ち切りがたい兄弟の情など、 色々なことを考えさせる物語。 何かに怯え続ける弟、悩みを隠して健気に励ます恋人など、 役者たちも非常によくやっていた。 弟が漫才師であると言う設定が、特にラストの感動を深めていて、 ちょっと韓国映画『ラスト・プレゼント』を想起させられた。 重いテーマにじっくりと向かい合った、しかも泣かせる傑作。 ホームページ
恋するトマト クマインカナバー 2005日本 (監)南部英夫 (出)大地康雄、アリス・ディクソン、富田靖子、村田雄浩、ルビー・モレノ、藤岡弘、 2006/10/22 深谷シネマ ○ 主人公は専業農業を営む独身の中年男性。 不運にもフィリピン女性による結婚詐欺に遭い、 そのままフィリピンで投げやりな生活をしてたが、 たまたま知り合った農家で作業を手伝っているうちに、 自身の農業への熱意を取り戻してゆく。 全く奇を衒うことなく、ひたすら真っ直ぐに作られた、なかなかの感動作。 農家の子息の結婚や世襲の現実問題がストレートに扱われている。 ややストーリーを詰め込み過ぎていて、性急に感じられる部分はあったが、 言いたいことを伝えようとする熱意はよく伝わって来た。 ホームページ
五月の恋 (Love of May) 2004中国・台湾 (監)シュー・シャオミン (出)チェン・ボーリン、リウ・イーフェイ、メイデイ 2006/10/21 彩の国さいたま芸術劇場 ○ 彩の国さいたま中国映画祭での上映。 人気ロックバンドのウェブサイトを管理する男が、ファンの女性からのメールに、 バンドのメンバーを装って返事を出してしまう。 なりゆきで会うことになった両者の関係は、 その場で悲しく終わってしまうと見えながら、 しかし意外な伏線によって次の展開へと続いてゆく。 台北とハルピンの気候の対比が印象的で、それに絡んで出てくる 「五月の雪」(桐の花が降りしきる情景)は、本当に綺麗。 個人的に驚いたのは、中国と台湾との間で人の往来が簡単に行われていること。 もっと事情はややこしいのかと思っていた。 ホームページ
ションヤンの酒家(みせ) (生活秀/Life Show) 2002中国 (監)フォ・ジェンチィ (出)タオ・ホン、タオ・ザール 2006/10/21 彩の国さいたま芸術劇場 ◎ 彩の国さいたま中国映画祭での上映。 監督の前作『山の郵便配達』の牧歌的イメージとは対極にある、 現代中国でのシリアルな物語。 路地裏で屋台風の店を営む、若くもない年頃の女性の生き方を描いている。 家の権利を巡る兄夫婦との諍い、麻薬更生施設にいる弟のことなど、 身の回りに厄介な問題を抱えながらも、女性はずっと自らの力で強く生きてきた。 それが、街路の立ち退き問題をきっかけに、 好意を見せる中年の常連客にふと心を委ね、あっけなくそれが破綻したことで、 自分自身の生き方を再確認する。 すべてが通り過ぎた後に取り残されたような悲しさの中に、 僅かながら力強さが重なって見えるラストは、非常に深い余韻を残すもの。 ホームページ
ジャポニカ・ウィルス (JAPONICA VIRUS) 2006日本 (監)入江悠 (出)斉藤陽一郎、鳥栖なおこ、藤井樹、杉山彦々 2006/10/15 花の街深谷映画祭'06 蔓延する謎のウィルスによる死者が続出し、国民総パニック状態に陥っている日本。 それとは無関係に冷え切った仲の男女が、一緒に旅することを余儀なくされる中で、 事態に否応なしに巻き込まれてゆく。 監督が地元出身者なので贔屓目に見たいところだが、 それでも残念ながら、お世辞にもよい映画とは思えない。 煽られ自己増殖する不安感、それに便乗して敷かれる国家統制、 台頭する自称識者の空虚な中身など、 伝えようとしていることは分かるような気もするし、 受け手自身にいろいろ考えさせようという意図は分かる。 しかし、これだけ脈絡も納得性もないストーリーに、 ついて行ける人は少ないのではないか。 制作側の思い込みだけが独走している印象。 上映前には、監督と主役3人の舞台挨拶あり。 ホームページ
Sad Movie 2005韓国 (監)クォン・ジョングァン (出)チョン・ウソン、イム・スジョン、チャ・テヒョン、ヨム・ジョンア、シン・ミナ、ソン・テヨン、イ・ギウ、ヨ・ジング 2006/10/12 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 試写会で鑑賞。駄作とまでは言わないが、率直に言って期待外れ。 泣ける映画と言う売り込みだが、涙腺の緩すぎる私でさえ全く泣けず。 4組の男女それぞれの別れの局面が少しずつ重なり合うと言う物語の設定自体は 悪くない。個々の置かれた状況の悲しみは分かる。 しかし、登場人物が多くて焦点が発散気味のせいか、 全体として切実感がさっぱり伝わって来ない。 主人公たちの気持ちにどうしても入り込めないまま、 他人事として傍観しているような気分で最後まで終わってしまった。 チョン・ウソンやイム・スジョンをはじめ出演者はなかなかよくやっていただけに、 勿体ない出来 ホームページ
地下鉄(メトロ)に乗って 2006日本 (監)篠原哲雄 (出)堤真一、岡本綾、常盤貴子、大沢たかお 2006/10/10 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 試写会で鑑賞。切ない物語に大いに泣かされた。 不思議な地下鉄の出口を通って昭和前半の世界に足を踏み入れた主人公が、 若き日の父親に出会い、長年憎み続けてきた父の本当の思いを知ることになるが、 その一方で、驚くべき宿命も明らかになってゆく。 知られざる父親の姿に涙させられ、後半に「彼女」が物語の中心になったあたりから、 私の涙腺は緩みっ放し。特に、雨の石段での悲痛な決意には、 今でも思い出し泣きしそう。途中の「あれ?」と思うような部分も、 後になってその理由に思い当たらされる。 最後に、絶妙のタイミングで入ってくる主題歌もよかった。 幸運なことに、上映前、篠原哲雄監督ご本人による舞台挨拶あり。 ホームページ
カポーティ (CAPOTE) 2005アメリカ (監)ベネット・ミラー (出)フィリップ・シーモア・ホフマン、キャサリン・キーナー、クリス・クーパー 2006/10/08 シャンテシネ ◎ アメリカの片田舎で起こった豪農一家殺人事件を主題にした、 カポーティのノンフィクション小説『冷血』の執筆過程を追った、 ずっしりと見応えのある映画。 売れっ子作家だったカポーティは、早くからこの事件に強い関心を示し、 自ら現場に足を運び、関係者をくまなく取材し、 やがて犯人たちが逮捕されると、少々汚い手をも使って彼らに接触する。 社交界への華々しいアピールなど、如才なく振舞っている作家だが、 本当には誰にも心を許すことはなく、その孤立感を犯人の境遇に重ねて見ている。 そして、犯人の処刑が近づくにつれ、作家自身の精神も徐々に追い詰められてゆく。 私はしばらく前に『冷血』(の和訳本)を読んでいたので、 なおさら気持ちを入れ込んで観ることができた。 ホームページ
涙そうそう 2006日本 (監)土井裕泰 (出)妻夫木聡、長澤まさみ 2006/10/07 熊谷シネティアラ21 ○ 沖縄を舞台にした、血の繋がりのない兄妹の微妙な関係に絡むラブストーリー。 泣かせるストーリーではあるが、いくら何でもこれは「作りもの」っぽくて クサ過ぎではないか。これでは、感情移入する前に気持ちが引いてしまった。 妻夫木聡も長澤まさみも個人的にはよい役者だと思っているが、 ここでは沖縄っぽさがまるで感じられないのが難点。 そもそも、物語自体に沖縄である必要性が殆どない。 大城美佐子さん(本業は沖縄民謡歌手だが、沖縄モノ映画に頻出)が、 今回もいい味を出していた。平良とみさんもまた然り。 ホームページ
夜のピクニック 2006日本 (監)長澤雅彦 (出)多部未華子、石田卓也 2006/10/07 熊谷シネティアラ21 ○ 全長80kmを一昼夜かけて歩く学校行事。高校最後のこの機会に、 一度も話したことのない同級生の男子に、声を掛けたい女の子。 実は彼女には、親友にも打ち明けられない秘密があった。 私の出身高校にも、距離は半分ですが「40kmハイク」なる学校行事があり、 あの足の重さや話すのも億劫な疲労感、それとは裏腹の奇妙な高揚感や連帯感などが、 懐かしく思い出され、今やすっかり忘れていた「あの頃」の気持ちを、 ふと脳裏に蘇らせてくれた。 話の運びが都合良過ぎる所もあったが、 爽やかに前方を見つめるラストですべて許せてしまう。 ホームページ
フラガール 2006日本 (監)李相日 (出)松雪泰子、豊川悦司、蒼井優、山崎静代、岸部一徳、富司純子 2006/10/01 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 昭和40年、閉山寸前の炭鉱会社が社運を賭して建設したレジャー施設 「常磐ハワイアンセンター」、その目玉として編成されたフラダンスチーム。 そのメンバーとして募られた炭坑夫の娘たちは、 東京からやって来た高慢なダンス教師に反発するが、 教師の強烈な実演を目の当たりにして、心機一転、猛練習を開始する。 最初は投げやりだった教師も、冷ややかな視線を投げ掛けていた地元の人々も、 やがて彼女たちの熱意に絆されてゆくのであった。 懸命に努力することへの、ストレートな讃歌。 もう中盤からずっと泣かされ通しで、舞台本番の場面では殆ど嗚咽状態。 女優さんたちの踊りも見事と言う他なく、本気さがひしひしと伝わってきた。 ホームページ
ストロベリーショートケイクス 2006日本 (監)矢崎仁司 (出)池脇千鶴、中越典子、中村優子、岩瀬塔子 2006/ シネアミューズ ○ 東京で暮らす4人の若い女性が、それぞれの最悪の出来事を潜り抜けて、 思い切って歩き出すまでの物語。 数年前の『tokyo.sora』と言う映画に雰囲気が似ていたが、 それに比べてこの映画は、それぞれの生活が荒んでいる分だけ、事態は切実かつ深刻で、 いかにも今の時代が抱える閉塞感や拠り所のなさを象徴しているよう。 個人的に極めて共感や同感する台詞や考え方もあちこちで出てきて、 それぞれの人物に感情移入し易かった。 結局は根本的には何も解決しないまま終わりますが、4人の道筋が交点を結ぶ所で、 再生を予感させるラストが見事。 日々の出来事による感情の起伏が刻々と描かれているタイプの物語で、好き嫌いの分かれる作品だと思うが、私には結構好きな傾向。 ホームページ
ディア・ピョンヤン (Dear Pyongyang) 2005日本 (監)ヤン・ヨンヒ 2006/09/24 渋谷シネ・ラ・セット ◎ 「北(朝鮮)」に忠誠を違う父(と母)の姿を、父母の思想に違和感を覚える娘(=監督) の視点から見つめた、一人称のドキュメンタリー。 監督は、ハンディカメラで父を執拗に写しつつ、様々な問いかけを父に投げ掛ける。 それぞれが内に抱える葛藤は相当なもので、それがストレートに描かれているが、 この父親のあっけらかんとしたキャラクターのお陰で、息苦しさは払拭されている。 家族愛の物語としては感動的ですらあり、老いた父が意外にも垣間見せた (息子たちを「帰国」させたことへの)後悔の念や、病床の父が語る妻への感謝など、 思わず目が潤んでしまった。 まずは腹を割って話すこと、そして理解できようとできまいと、 その存在を認め受け入れること。その大切さを認識させられる。 ホームページ
ユリシス (Ulysses) 2006日本 (監)丹羽貴幸 (出)奥菜恵、斎藤工、林剛史 2006/09/24 渋谷シネ・ラ・セット 46分の短い作品。 幼い息子を亡くした若い母親が、息子が好きだった青い蝶を探して、 オーストラリアへとやって来る。 ナンパ目的でガイド役を申し出た男二人は、 彼女の不可思議さに戸惑いつつも、 幻の蝶を探してのあてのない森の旅は続くのであった。 現実場面の間に挟まれた幻想的なイメージ映像によって 背景がほのめかされるだけで、物語と言うよりは詩のような雰囲気にしたかった ものと思われる。しかし、登場人物たちの行動の動機付けが薄く、 捉えどころがなく、試みはあまり成功していないように思う。 ホームページ
弓 (THE BOW) 2005韓国 (監)キム・ギドク (出)チャン・ソンファン、ハン・ヨルム、ソ・ジソク 2006/09/18 ル・シネマ ○ 海の上に停留する船の中で暮らす、老人と少女。 老人は、少女が17歳になったら娘と結婚することに決めていて、 娘もそれを当然のこととして受け止めていた。 しかし、ある日船にやってきた若い男に、少女の心は引き付けられ、 それまで成り立っていた少女と老人との危うい均衡に亀裂が入ってしまう。 閉じた世界の中でいつの間にか狂ってゆく人間の姿、という主題に、 何故か私は心を惹かれ、二人にとってのその「世界」が 沈んで消えてゆく様子を見ながら、ちょっと涙が出た。 非現実のような現実や、突き刺さるような鋭利さなど、 ある意味でキム・ギドクの色々な要素が集約されていたようにも思う。 確かに初期作に比べると攻撃性が薄いが、 前作『うつせみ』に比べれば監督の本領が発揮されていたのではないか。 ホームページ
グエムル―漢江(ハンガン)の怪物 (THE HOST) 2006韓国 (監)ポン・ジュノ (出)ソン・ガンホ、ピョン・ヒボン、パク・ヘイル、ペ・ドゥナ、コ・アソン、イ・ドンホ、イ・ジェウン、ヨン・ジェムン、キム・レハ、パク・ノシク、イム・ピルソン 2006/09/03 熊谷シネティアラ21 ○ ソウル市街の穏やかな大河に突然現れた、謎の巨大怪物。 逃げ惑う中で、運悪く愛娘を餌食にされてしまった父親とその家族が、 自らの手で娘を救出すべく、命懸けの闘いに挑む物語。 騒動の中、何故か怪物そのものよりもウィルスへの恐怖へと事態は変質し、 更に米軍が介入して来たことで混乱は一層深まってしまう。 怪物への恐怖と、混乱が混乱を呼ぶ事態への冷ややかな視線と、懸命の家族愛と、 色々な要素がうまく織り交ぜてある。 そもそもの事の発端も含めて、アメリカへの皮肉が込められているのも痛快。 怪物は、遠目にはちょっと滑稽な姿だが、間近に迫って来た時の生々しさは強烈。 ホームページ
僕の、世界の中心は、君だ。 (My Girl and I) 2005韓国 (監)チョン・ユンス (出)チャ・テヒョン、ソン・ヘギョ、イ・スンジェ、パク・ヒョンジュン、キム・ヨンジュン、ソン・チャンウィ、キム・ヘスク、キム・ジヨン 2006/08/31 熊谷シネティアラ21 ○ 『世界の中心で、愛をさけぶ』(→2004/06/08)の韓国リメイク版。 韓国版は、ストーリーがよく練られていて、日本版よりも格段によい出来と思う。 正直言って主演の二人は高校生役には年齢的に無理があり、 最初の方のコメディっぽい雰囲気には、ちょっとバカバカしいが、 しかし、祖父の悲恋の思い出が語られる辺りから、 物語はじわじわと穏やかな情感を帯びてきて、 後半は韓国映画らしい泣かせ所が続出。私はかなり泣かされた。 最後の岬の場面など夢見るように美しい。 ポケベルの伝言機能が効果的に使われていて、 しかもその時代らしさを感じさせていた。 ホームページ
シャガール:ロシアとロバとその他のものに (Chagall a la Russie, aux anes et aux autres) 2003フランス (監)フランソワ・レヴィ・クエンツ 2006/08/27 ユーロスペース ○ シャガール本人へのインタビュー映像を中心に、多くの歴史映像を交えながら、 画家の全貌とその時代を紹介する。 1時間弱の短い映画(video上映)ですが、要領よくまとめてあった。 何よりも驚かされたのは、本人の(生前の)映像がこんなにも沢山残されていること。 必要以上に肩入れし過ぎずに、 聞き手による客観的な視点で作られていたのがよかった。 描かれた絵画作品も、かなりじっくりと見せてくれる。 短いながらも充実感のある作品。 ホームページ
深海 Blue Cha-Cha 2005台湾 (監)チェン・ウェンタン (出)ターシー・スー、リー・ウェイ、ルー・イーチン、レオン・ダイ 2006/08/20 新宿武蔵野館 ◎ ただ一緒にいたい、ただ愛されたい、それだけのことなのに、 心がエスカレートして「自分で頭のスイッチを切れなくなってしまう」女性と、 彼女を愛し捨てて行った何人かの男たち、そして彼女を見捨てられない旧友、 それぞれの苦悩が描かれる。 本当は切実で深刻な物語だが、場面に随時使われるダンスミュージック (その場末っぽさが絶妙!)によって、不思議な軽妙さが醸し出されている。 心を病んだ主人公の不安定な情緒を、 主演女優が非常な共感度をもってリアルに演じていて、 見ていてあまりにも気持ちが入り込んでしまい、 最後は自分も一緒に叫びたい気分だった。 心地よい余韻を残す終わり方も、たまらなくよい。 深みと軽みを併せ持った、期待以上の傑作。 ホームページ
青春漫画〜僕らの恋愛シナリオ〜 (Almost love) 2006韓国 (監)イ・ハン (出)クォン・サンウ、キム・ハヌル、イ・サンウ、チャン・ミイネ、パク・チビン、チョン・ミナ、チョン・ギュス、イ・ヨンラン 2006/08/20 シネリーブル池袋 幼馴染みの男女の友情が、紆余曲折を経て恋に変わるまでの物語。 キム・ハヌル主演作と言う事で、心待ちにしていたが、正直言って甚だ期待外れ。 基本的にほのぼの系の話が好きな私にとっても、しかしこのストーリーは、 ほのぼのを通り越して、むしろ退屈。 しかも、その単調さを打ち破るのが、「お決まりのパターン」だなんて…。 私にとって何よりも致命的だったのは、 主人公たちの気持ちに、どうしても入り込めまなかったこと。 せっかくの豪華キャストなのに、勿体ない限りで、残念至極。 ホームページ
紙屋悦子の青春 2006日本 (監)黒木和雄 (出)原田知世、永瀬正敏、松岡俊介、本上まなみ、小林薫 2006/08/20 岩波ホール ◎ 敗戦の予感漂う昭和20年の春、鹿児島。 兄夫婦と共に慎ましく暮らす娘に舞い込んだ、お見合いの話。 その相手は、娘が密かに想いを寄せる男ではなく、その男の親友だと言う。 娘は複雑な思いでお見合いに臨むが、実は男には、 まだ打ち明けられない悲壮な決意があった。 舞台は一軒の家の中と庭先だけ、 爆音や閃光などの戦争の直接描写は一切出て来ない。 しかも、家族の会話はあまりにも平凡で、むしろ笑ってしまうような場面さえ沢山。 だからこそ、こうして戦争が一人一人に及ぼした悲劇の重さが、 他人事でない現実味を持って迫って来るのだと思う。 このシンプルな表題が、何と意味深いことか。 こんなに素晴らしい映画を最後に遺してくださった黒木監督に感謝したい。 ホームページ
砂の器 1974日本 (監)野村芳太郎 (出)丹波哲郎、森田健作、加藤剛、加藤嘉、春田和秀、 2006/08/14 深谷シネマ ◎ 約30年前の名画のリバイバル上映。 蒲田の操車場で発見された老人の惨殺死体。 犯人どころか被害者の身元すらわからないまま 捜査は難航するが、やがて意外なところから、 事件の背景となったある親子の「宿命」の悲劇が浮かび上がって来る。 劇中で作曲され演奏される交響曲(ピアノ協奏曲)がロマンティックで、 演奏会の場面に重ねられる親子の放浪の回想には、 どうしても涙を抑えられなかった。 その時代時代の様子がしっかり映し出されているのもよいところ。 松本清張の原作(→2005/07/29) とは、大筋は同じであるものの、細部も含めて雰囲気がかなり違っていて、 感動度ではむしろ映画版の方が上回っていると思う。 ホームページ
愛と死の間(はざま)で (All About Love) 2005香港 (監)ダニエル・ユー (出)アンディ・ラウ、チャーリー・ヤン、シャーリン・チョイ、アンソニー・ウォン、アンバー・シュー 2006/08/12 シャンテシネ ○ 急死した妻への悔恨の情に苛まれる緊急治療医の男。 ある日、交通事故から救出した女性に、男は何か特別なものを感じるが、 実はその女性には、亡き妻の死蔵が移植されていたのだった。 その女性の余命がわずかであることを知った男は、 女性の最期の日々に連れ添うことを決意する。 現実と回想が境界なく入り混じったり、人間関係がちょっと謎めいていたり、 幻想的でロマンティックな物語。 悲劇が幸福感へと転回するようなラストには、 さすがにちょっと涙が出た。 ホームページ
ゆれる 2006日本 (監)西川美和 (出)オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子、蟹江敬三、木村祐一、田口トモロヲ、ピエール瀧 2006/08/12 アミューズCQN ◎ 故郷で地道に家業を継いだ実直な兄と、故郷を飛び出して奔放に生きる弟。 兄弟と幼馴染の女性の3人で出かけた渓谷の吊り橋で起こった、予期せぬ悲劇。 兄は女性を突き落としたのか否か。弟はそれを目撃していたのか否か。 緊張感のある緻密なストーリーで、ラストシーンの余韻もたまらない。 監督の前作『蛇イチゴ』が強烈だったので今回も心待ちにしていたのだが、 やはり期待通りに凄かった。 前作も兄弟(正確には兄妹)の間の心理的な駆け引きが話の軸になっていたが、 今回の方がやや毒気が中和された代わりに、洗練度は増していたように思う。 ホームページ
水の花 (Water Flower) 2005日本 (監)木下雄介 (出)寺島咲、小野ひまわり、津田寛治、田中哲司、黒沢あすか 2006/08/12 ユーロスペース ◎ 父と二人で静かに暮らす女子中学生は、 自分たちを捨てて出て行った憎むべき母親が近郊の団地に戻っていることを知る。 母親を許せない彼女はついに、ある晩、 母と新しい男との間に生まれた幼い(異父)妹を言葉巧みに誘拐し、 遠い海辺の町へと連れ出すのだった。 緊張感の高まる場面もあるが、決してサスペンス調にはせず、 むしろどちらかと言えば叙情的に、姉妹それぞれの悲しみを丁寧に描き出している。 ピアノとバレエの共演の場面など涙が出る程美しく、 長い長いシーンの後に訪れるラストにはえも言われぬ味わい深さがあった。 ホームページ
胡同(フートン)のひまわり (向日葵/Sunflower) 2005中国 (監)チャン・ヤン (出)ジョアン・チェン、スン・ハイイン 2006/07/27 ル・シネマ ○ 北京にあって発展から取り残されたようなフートン街区を舞台に、 息子を画家にすべく厳しく束縛し干渉し続ける父と、 それに辟易しながらも逃れられない息子との、愛憎入り混じった関係の物語。 文化大革命が事の発端になってはいるが、中国近代史よりもむしろ、 話の軸は家族の葛藤に置かれている。 父の最後の変身ぶりも、それを許した息子の心境も、ちょっと分からない気もするが、 結果的にこの家族の絆は実在を超越した、と言う事か。 劇中で展示されるジャン・シャオガンの作品には、 何か強烈に引き付けられるものがあり、いつか実物を観てみたい。 ホームページ
やわらかい生活 (It's Only Talk) 2006日本 (監)廣木隆一 (出)寺島しのぶ、豊川悦司、松岡俊介、田口トモロヲ、妻夫木聡、柄本明、大森南朋 2006/07/07 シネアミューズ ○ 心を病んで、仕事を辞めて、「粋がない下町」蒲田のアパートに 引っ越してきた、35歳の独身女性。 学生時代の男友達、ネットで出会った男や、従兄弟など、 何人かの男たちとの関わりの中で、彼女の心は少しずつ癒されてゆく。 しかし意外にも、中盤、彼女が心のバランスを崩してしまう辺りから 物語は影を帯びてくる。そして、ようやく彼女は心の平穏を取り戻したのに、 彼女を支え彼女に支えられていた男たちは、 いつの間にか彼女を通り過ぎていた。 境遇はかなり違うにせよ、年代が近いせいか彼女の気持ちには思い当たるところ もあり、現代的な孤独感を切実に感じさせられた。 ホームページ
ゴーヤーちゃんぷるー 2005日本 (監)松島哲也 (出)多部未華子、風吹ジュン、武田航平、大城美佐子、美木良介、下條アトム、北村和夫、長内美那子、田中隆三 2006/07/07 東京都写真美術館ホール ◎ いじめに遭って不登校の女子中学生が、メール友達の言葉に誘われて、 祖父母と暮らす東京を飛び出して、遠く沖縄・西表島に向かう。 その島は、幼い日に自分を捨てた母親が住んでいる場所でもあるのだった。 心に鍵をかけていた女の子が、島の人々の好意の押し付け (しかもそれが不思議に全く嫌味でない)に囲まれて、 次第に心を開いてゆく物語。 大城美佐子さん(本業は沖縄民謡歌手)の存在感は他に代え難いものあり。 これはいかにも理想化された沖縄像であるとは知りつつも、 私も息の詰まる日常生活から逃れて沖縄(それも離島)に行ってみたい。 ホームページ
ふたつの恋と砂時計 (あしながおじさん) 2005韓国 (監)コン・ジョンシク (出)ハ・ジウォン/ヨン・ジョンフン/パク・ウネ/ヒョンビン 2006/07/07 シネリーブル池袋 幼くして孤児となり、今はラジオ局に勤める主人公が、 自分をずっと影から援助し続けてくれている謎の男に寄せる思慕。 彼女がたまたま目にしてしまった書き主不明・宛先不明の電子メールに綴られた (想像上の)悲しい恋。二つの片想いが、やがて予想外の交点を持つ。 純愛モノと言えばその通りで、物語の展開には意外性もあるが、 設定がどうも無理矢理な気がする上に、 またしてもお決まりの病魔モノだった(そうは予想していなかった)ので、 ちょっと興ざめしてしまった。残念ながら少々期待外れ。 ホームページ
タイヨウのうた (A Song to the Sun) 2006日本 (監)小泉徳宏 (出)YUI、塚本高史、麻木久仁子、岸谷五朗 2006/06/24 熊谷シネティアラ21 ○ 太陽光を浴びると死んでしまう難病を抱え、 夜の街角でギターの弾き語りをする女の子と、 彼女が窓辺からそっと見つめていたサーフィン青年との、出逢いと恋の物語。 一言で言うなら病魔モノだが、取って付けたような話でないので安っぽさはなく、 むしろ「ただ普通に生きている」ことの重みを意識していたい、と思わされた。 主演の女の子は実際に歌手だそうで、演奏場面が自然なのは勿論のこと、 自身の作詞作曲による歌には確かな力があった。 ギターをまず調弦するところからきちんと映像に収めていることにも好感。 ホームページ
ジャスミンの花開く (茉莉花開) 2004中国 (監)ホウ・ヨン (出)チャン・ツィイー、ジョアン・チェン、チアン・ウェン、リィウ・イェ、ルー・イー 2006/06/18 シネリーブル池袋 ○ 近代中国の目まぐるしい社会変動を背景に、 祖母・母・娘、3世代それぞれの激しい恋と、 それによってもたらされた悲劇が描かれる。 それそれ逆境を乗り越えて熱烈に結ばれた筈なのに、 それぞれ決まって不幸な幕切れを迎えているのだが、 それにも関わらず強靭なその意志は、 脈々と次の世代へと受け継がれてゆくのであった。 一人で三役を演じたチャン・ツィイーは、 女性の持つ根源的な「強さ」を見事に体現していて、 特に最後の豪雨の場面の壮絶さには心底圧倒された。 ホームページ
春の日のクマは好きですか? (Spring Bears Love) 2003韓国 (監)ヨン・イ (出)ペ・ドゥナ、キム・ナムジン、ユン・ジヘ、ユン・ジョンシン、オ・ヴァンノク、イ・オル 2006/06/18 シアターN渋谷 ○ 図書館で借りた美術書に落書きされた恋文を見た主人公の女の子が、 これこそが運命の人からもメッセージだと思い込んで、 書いた主を探そうと奮起する、ほのぼの系の恋愛物語。 最初の頃のテンポのよさに比べて中盤以降はやや間延びしてしまった感もあり、 そもそも図書館の本を粗末に扱うな!とか、 地下鉄の運転中に携帯メールを見るな!とか思ったりもしたが、 最後は何となく幸せな気分なので許せてしまう。 ちょっと突飛で間が抜けていて空想(と言うより夢想あるいは妄想)がちな この主人公に、ぺ・ドゥナはピッタリ合っていた。 ホームページ
ココシリ (Kekexili: MOUNTAIN PATROL) 2004中国 (監)ルー・チュ―アン (出)デュオ・ブジェ、チャン・レイ、キィ・リャン、チャオ・シュエジェン、マー・ツァンリン 2006/06/18 シャンテシネ ◎ チベットの高山地帯。乱獲されるチベットカモシカを密猟者の手から守るべく、 自主パトロールを敢行する男たちの、実話に基づく物語。 武装した密猟者グループとの命懸けの闘いに加えて、 過酷な自然環境との命懸けの闘いもあって、 それがドキュメンタリーと見紛うようなリアルさと緊張感で映し出される。 あまりにもやり切れないラストの衝撃には、どうしようもなく呆然とさせられ、 決して綺麗事では済まされない現実の厳しさや こうした多くの犠牲なしには変わってゆかない世の中の非情さを思い知らされた。 ホームページ
嫌われ松子の一生 (Memories of Matsuko) 2006日本 (監)中島哲也 (出)中谷美紀、瑛太、伊勢谷友介、香川照之、市川実日子、黒沢あすか、柄本明 2006/06/17 太田イオンシネマ ◎ 高潔なる若き中学教師だったのに、ちょっとした不運から転落人生が始まり、 中年に至ってついに荒川土手で遺体となって発見された一人の女性の、 生きてきた人生の流転を辿ってゆく物語。 面白おかしい場面も沢山あるのだが、 悲惨と言ってよいような不運と不幸の中にあって、 あまりに壮絶すぎて笑うに笑えない状況。 しかしそんな状況下でも、明日を信じて走り続ける彼女の生き方を知るに従って、 少しずつ不思議な感動が胸を満たしてゆく。 唐突で大袈裟な演出も含めて、何とも独特で比類のない映画。 あちこちで直接間接に、 太宰治を(特に『人間失格』を)想起させられるところあり。 ホームページ
初恋 2006日本 (監)塙幸成 (出)宮崎あおい、小出恵介、宮崎将、小嶺麗奈、柄本佑、青木崇高、松浦祐也、藤村俊二 2006/06/17 太田イオンシネマ ◎ 1968年の「三億円事件」を、実行犯が女子高生だったという大胆な仮説によって 物語としたもの。 しかしこの映画が描こうとしているのは、事件そのものよりはむしろ、 1970年前後という時代の空気や、 その中で闘いながらも敗れていった若者たちの無力感、 そして主人公の報われない恋の悲しみや喪失感にある。 解き放されないそれぞれの思いにじわじわと共感させられ、 最後の追憶場面ではついに涙腺が決壊してしまった。 念入りな映像も抑制された音楽も的確で、完成度は高い。 エンディングの元ちとせの歌声(と歌詞)も忘れ難いもの。 ホームページ
アダン 2005日本 (監)五十嵐匠 (出)榎木孝明、古手川祐子、木村文乃、村田雄浩 2006/06/09 東京都写真美術館ホール ◎ 奄美大島で生きて描いて死んだ孤高の天才画家・田中一村の生涯。 ずっしりと見応えのある映画。 何と言っても見るべきは、エキセントリックな画家の狂気が乗り移ったような、 榎木孝明の熱演。何かに取り憑かれたような凄みが漂っている。 誰にも従わず譲らず媚びず、自ら極貧を選んだその生き方は殆ど破滅的で、 周囲にも大いに迷惑を掛け通しだが、しかしそれだけの堅い信念は、 今の時代には見当たらないものだろう。 どのような絵が描かれたのか、もう少し作品を見せて欲しかった気もするが、 実際に本人が誰にも見せずに隠していたのだから、仕方ないことか。 ホームページ
雪に願うこと 2005日本 (監)根岸吉太郎 (出)伊勢谷友介、佐藤浩市、小泉今日子、吹石一恵 2006/06/09 テアトルタイムズスクエア ◎ 帯広で厩舎を営む頑固一徹な兄の所に、 事業に失敗し東京から逃げるようにやって来た弟。 仕方なく兄の下で働くことにした弟はやがて、 共に厩舎で働く同僚たちや、何よりも一頭の馬との触れ合いの中で、 生きる力を見出してゆく。 大画面で観るのにふさわしい、しみじみとした感動作。 画面一杯の雪景色の中で、地道に生きている一人一人が本当に大切に思えた。 いかにも北海道らしい、橇引き&障害物競争のような競馬の様子も見物。 必要以上に多くを語らない終り方も絶妙で、レースの場面では涙を抑えられず。 ホームページ
花よりもなほ 2006日本 (監)是枝裕和 (出)岡田准一、宮沢りえ、古田新太、國村隼、中村嘉葎雄、浅野忠信、原田芳雄 2006/06/04 熊谷シネティアラ21 ◎ 武術の腕はさっぱり駄目なのに、 父の遺言で仇討ちを果たさなければならない貧乏侍と、 共に貧乏長屋に住まう人々の日々の暮らしぶりが、生き生きと愉快に描写される。 何だか幸せな気分になれる映画。 シリアスな作品が多かった是枝監督としては、今回のコメディは新境地だが、 やはり何かしら間接的に「人の死」に関係しているのが共通するところかも。 決闘シーンなしでこんな風にリアルな時代劇を成立させてしまう辺りは、さすが。 ちなみに音楽は、古楽バンド 「タブラトゥーラ」 によるもの。チョイ役で出演もしているので(井戸掘りの場面)、お見逃しなく。 ホームページ
吹けよ春風 2003韓国 (監)チャン・ハンジュン (出)キム・スンウ、キム・ジョンウン 2006/06/03 太田イオンシネマ ○ どケチな小説家の家に、間借りすることになったちょっと派手な女性。 まったくそりの合わない二人だが、女性の語る空想の恋物語を、 男が小説のネタに使い始めたことをきっかけに、 犬猿だった二人の仲は次第に和解してゆくが、 男の偏屈さのせいで女性は家を出ていってしまう。 外見によらない女性の素直な人のよさが根底にあるため、 物語は全体としてほのぼのとした印象になっている。 何故か最後に日本人団体旅行客が果たす役割も面白い。 ホッと心が温まるような佳作。 「韓流シネマフェスティバル2006」作品。 ホームページ
愛しのサガジ 2004韓国 (監)シン・ドンヨプ (出)ハ・ジウォン、キム・ジェウォン 2006/06/03 太田イオンシネマ 凡庸な女子高生が、なりゆきから、金持ちボンボンの気障な大学生に対して 100日の間「奴隷」になることを強いられる羽目に。 全く最悪の偶然から始まった二人の関係だが、共に過ごす時間が長くなるにつれて、 どう言う訳かいつの間にやら恋心が芽生えてしまうのであった。 ストーリー自体がちょっと不自然だし、全体に渡っていささか品がなく (と言うより下品で)、正直これは駄作の部類と思う。 ハ・ジウォンのオーバーアクションも完全に逆効果に感じられた。 「韓流シネマフェスティバル2006」作品。 ホームページ
明日の記憶 (MEMORIES OF TOMORROW) 2006日本 (監)堤幸彦 (出)渡辺謙、樋口可南子、坂口憲二、吹石一恵 2006/06/03 熊谷シネティアラ21 ◎ 50歳の働き盛りなのに、突然若年性アルツハイマー病を宣告され狼狽する夫、 予期せぬ事態にどうしてよいか分からない妻。 それぞれの奇麗事でない苦悩が、主演二人の迫真の演技によって 自分のことのように切実に伝わってきて、大いに涙を誘われた。 会社の同僚たち、娘とその婚約者、恩師などの登場人物も、 一人一人が心温まる役割。 未来から過去へと回帰する全体構成も成功していたように思う。 ちなみに最後の方に出てくる「施設」は、本当は「安曇野ちひろ美術館」で、 前に行ったことがあるので遠目にも一目で分かった。 ホームページ
頑張れ、グムスン! 2002韓国 (監)ヒョン・ナムソプ (出)ペ・ドゥナ、キム・テウ 2006/05/28 太田イオンシネマ ○ 赤ちゃんをおぶったドジな新米ママ。 酔っ払って帰れなくなった夫を連れ戻しに歓楽街へと出掛けたものの、 路上でのちょっとしたトラブルに巻き込まれ、それが雪だるま式に膨れ上がって、 何故かヤクザから追われる身に。 彼女は街路を逃げ回りつつも、元バレーボール選手という得意技を生かして、 押し寄せる難関を痛快に突破してゆく。 当人は至って真剣なのにどこか間が抜けている主人公役に、 ペ・ドゥナはぴったり合っていて、見ていてどうしても 「頑張れ!」と応援したくなってしまう。 「韓流シネマフェスティバル2006」作品。 ホームページ
デイジー (DAISY) 2006韓国 (監)アンドリュー・ラウ (出)チョン・ジヒョン、チョン・ウソン、イ・ソンジェ 2006/05/28 太田イオンシネマ ◎ 幻の恋人を待ち続ける若き画学生と、彼女を遠くから見つめる暗殺稼業の男と、 その暗殺者集団を命懸けで追う敏腕刑事。 それぞれ打ち明けられない想いを秘めた3人の、 あまりに美しくあまりに切なくあまりに悲しい恋愛物語。 オランダの古い街並みから花咲く田園風景まで、映像は美しく洗練の極みで、 音楽も美しく格調高く、どこにも隙のない完成度。 普段なら好きでない銃撃シーンも、 今回はその全てが私にとっての催涙弾と化してしまった。 エンディングクレジットが流れてもまだ、 込み上げるように涙が出て止まらなかった大傑作。 ホームページ
君に捧げる初恋 (初恋死守決起大会) 2003韓国 (監)オ・ジョンノク (出)チャ・テヒャン、ソン・イェジン 2006/05/28 太田イオンシネマ 幼馴染みの男女の恋を巡るドタバタ系コメディ。 初恋の女性との結婚を父に許してもらうべく、落ちこぼれ学生は心機一転、 奮闘努力の甲斐あって司法試験をパスするが、 しかし女性は別の男と結婚すると言い出す始末。 行き当たりばったりに突進する恋模様は下品すれすれの所で二転三転した挙句、 何と韓国映画お決まりのパターン(?)に突入するのであった。 いかにもくだらない展開だが、最後は何故かちょっと感動的だったりもする。 「韓流シネマフェスティバル2006」作品。 ホームページ
僕らのバレエ教室 (バレエ教習所) 2004韓国 (監)ビョン・ヨンジュ (出)ユン・ゲサン、キム・ミンジョン、オン・ジュワン 2006/05/23 太田イオンシネマ 大学受験を間近に控え、家庭の事情、将来への不安、友情や愛情などの悩みを抱えた 高校生たちの群像劇。 表題の印象と違ってほのぼの系ではなく、ちょっとシリアスなところのある青春映画。 一応、参加を強いられた市民バレエ教室に集う人々との交流が 要素の一つになっていて、特に発表会でのバレエ場面は大きな見せ場にはなっている ものの、他にもいくつかの要素が絡み合っているせいか、 どうも内容が発散気味でまとまりがなく、何となくすっきりしない後味。 「韓流シネマフェスティバル2006」作品。 ホームページ
ラブリー・ライバル (女先生VS女弟子) 2004韓国 (監)チャン・ギュソン (出)キム・ジョンア、イ・ジフン、イ・セヨン 2006/05/23 太田イオンシネマ ○ 田舎の小学校で、新任のハンサムな美術教師の恋人の座(?)を巡って、 お年頃をやや過ぎた無鉄砲な女性担任教師と、 少々ませた転校生の女の子が対決するコメディ。 対決と言うより、女性教師が勝手にむきになって対抗意識を燃やしている訳で、 小学生相手に何もそこまでしなくても、と思わる所が馬鹿馬鹿しくて楽しい。 一時はどうなることかと心配させる展開だが、 最終的には丸く収まって、最後も愉快。 『僕が9歳だったころ』(→2006/02/26) で転校生役だった女の子が、ここでもまた転校生役を演じていた。 「韓流シネマフェスティバル2006」作品。 ホームページ
ラブ・インポッシブル (南男北女) 2003韓国 (監)チョン・チョシン (出)チョ・インソン、キム・サラン 2006/05/23 太田イオンシネマ ○ 南北共同プロジェクトの遺跡発掘の現場で出逢った、 韓国の男子学生と北朝鮮の女子学生との恋物語。 物語の大半は、軟派な男子学生が堅物の女子学生の気を引こうと あれこれ画策するコメディで、面白いがかなりくだらない。 ようやく恋が実ったのも束の間、二人は引き離されてしまい悲嘆に暮れるものの、 ついに最後には驚きの再会を果たすのであった。 いくら何でもこれは有り得ないと思われる結末ではあるが、 これには韓国の人の心の願いが如実に反映されているのかな、とも思う。 「韓流シネマフェスティバル2006」作品。 ホームページ
富嶽百景〜遥かなる場所〜 2006日本 (監)秋原正俊 (出)塚本高史、田丸麻紀、小林涼子、小橋めぐみ 2006/05/21 GyaOオンライン試写会 原作は言うまでもなく太宰治の中期の傑作で、非常に期待していたが、 残念ながらよい出来とは思えず。 昭和13年の作家の言動が、ほぼそのまま現代の場面設定の中で演じられると言う、 斬新と言えば斬新な試み。しかし、約70年を隔てた二つの時代の混在は、 さすがにちぐはぐで無理がある。 原作を読んでいる人には実写場面が安っぽく感じられる一方で、 読んでいない人には原作の滋味は伝わらないだろう。 スポンサーへの配慮と思しき不要な挿話が組み込まれているのも嬉しくない。 オンライン試写会で鑑賞。 ホームページ
夜よ、こんにちは (Buongiorno, Notte) 2003イタリア (監)マルコ・ベロッキオ (出)マヤ・サンサ、ルイジ・ロ・カーショ 、ロベルト・ヘルリツカ 2006/05/14 ユーロスペース ○ 1970年代のイタリア、首相を誘拐し監禁した過激派の若者グループの内面の動揺を、 特に一人の女性団員の視点で、物語と空想と歴史的事実の映像を交錯させながら 描いてゆく。 自分たちの主義主張が社会から受け入れられていないことへの焦燥。 首相の高潔な人間性に対する畏怖と同情。 当初は首尾よく事を進めていた彼らも、 緊迫した生活が長引くにつれて、 自分たちのやっていることの正当性への迷いが生じてくる。 最後の結末には、何ともやり切れない思いだ。 映画そのものはしっかりと作られた上質な作品。 ホームページ
玲玲(リンリン)の電影日記 (夢影童年/Electric Shadows) 2004中国 (監)シャオ・チアン (出)シア・ユイ、チアン・イーホン、クアン・シャオトン、リー・ハイビン、ワン・チャンジア 2006/05/14 シアターN渋谷 ◎ ほのぼの系ではなく、家族の確執を描いた結構シリアスな物語。 文革期の中国の田舎町、女優を夢見ながらもシングルマザーとなったために 断念せざるを得なかった母、その母の期待を一心に背負いながらも、 やがて結婚した母に反発し、ついに家を飛び出してしまった娘。 わだかまりを抱えた母娘は、長い年月を経て意外な形で邂逅の時を迎える。 都合よく「めでたしめでたし」の大団円とならず、 それぞれの悲しみを抱えたまま最後に互いの想いが噛み合ってゆく様が、 胸が詰まるような感動をもたらす。 子役と大人役が雰囲気的にうまく繋がっていたのもよい。 ホームページ
達磨よ、ソウルに行こう! (Hi! Daruma 2) 2004韓国 (監)ユク・サンヒョ (出)シン・ヒョンジュン、ヤン・ジヌ 2006/05/13 太田イオンシネマ ○ 巨額の借金を抱えた都心の寺院を救うべく、たまたま所用で山奥から来ていた僧侶たちが 奮闘するコメディ。厳粛であるべき僧侶たちが、借金取りと対決する成り行き上、 段々と道を踏み外してしまう様子に、ニヤリとさせられる。 なかなか面白かったが、前作 『達磨よ、遊ぼう!』(→2002/12/07) には及ばない気が。僧侶が頑固を押し通した前作に比べ、 今回はちょっと羽目を外し過ぎのような気がして、 すっきりとは笑えない処があった。 前作とはあちこちで繋がっているので、続けて観るとより楽しめると思う。 「韓流シネマフェスティバル2006」作品。 ホームページ
クライング・フィスト (CRYING FIST) 2005韓国 (監)リュ・スンワン (出)チェ・ミンシク、リュ・スンボム 2006/05/07 シネマ ◎ 落ちぶれて妻子から愛想を尽かされた中年の元ボクサーと、 殺人を犯し獄中にある血気盛んな若者、 この二人がボクシングで対決するまでの物語。 全く無関係に同時進行する二つの物語で、じわじわとエネルギーが蓄積されてゆき、 最後の交点で爆発的に炸裂する。 それぞれの人生の全てを賭けて臨んだ決勝戦の様子は、 あまりにリアルで、とても演技とは思えない程。 それまでの二人の道のりを知っているだけに、なおさら冷静に見てはいられない。 余計に引っ張ることをしない終わり方も絶妙。 ホームページ
緑茶 (緑茶) 2002中国 (監)チャン・ユアン (出)ジャン・ウェン、ヴィッキー・チャオ 2006/05/07 東京都写真美術館ホール お見合いで知り合った生真面目で堅物な大学院生の女性と、 見た目は瓜二つなのに、性格は正反対に奔放なピアニストの女性との間で、 翻弄される男の物語。 謎めいた展開と言い、オシャレな映像感覚と言い、 (香港でない)中国映画としてはかなり斬新なものと思う。 しかし最後、真相を煙に巻くように映画は終わってしまい、どうも釈然としない後味。 また、どう見ても冴えない風貌の男がもてもてタイプ役なのも、 物語上ちょっと違和感あり。 『ウォ・アイ・ニー』(→2006/03/16) に比べると、いささか期待外れ。 ホームページ
ホテル・ルワンダ (HOTEL RWANDA) 2004南アフリカ=イギリス=イタリア (監)テリー・ジョージ (出)ドン・チードル、ソフィー・オコネドー、ホアキン・フェニックス 2006/04/30 熊谷シネティアラ21 ◎ アフリカ中部・ルワンダで起こった部族間の大虐殺。 その渦中にあって、高級ホテルの支配人の男が、 千人以上の一般人を自身のホテルに匿い、 あらゆる手を尽くして彼らを救おうとした実話。 憎しみが生まれた単純ならざる背景や、 国際社会の中で軽くあしらわれる黒人社会の立場、 国連軍の役割の微妙さ加減など、 あまりにも過酷な現実をまざまざと見せ付ける。 しかも、まだ最近(1994年)の事なのに、 こんなことがあったことを私自身は何一つ知らなかったのだ。 ホームページ
ダンサーの純情 (innocent steps) 2005韓国 (監)パク・ヨンフン (出)ムン・グニョン、パク・コニョン、ユン・チャン、キム・ギス、パク・ウォンサン 2006/04/29 太田イオンシネマ ◎ 失意のダンス教師の男が、新たな踊りのパートナーとして迎えた中国人の少女。 実はダンス未経験だと白状した彼女に、男は仕方なく、 手取り足取りダンスの手解きをしてゆく。 最初は偽装結婚だった二人が、ようやく真のパートナーとなってきた頃、 男は次なる非運に見舞われる羽目に。 逆境の中にあっても真っ直ぐな娘の純情ぶりが、なかなか泣かせる物語になっていて、 最後に温かな余韻を残して終るのもよい。 ダンス場面もバッチリ格好よく決まっていて、 『Shall we ダンス?』(→1996/03/03) に匹敵する実に見事なもの。 「韓流シネマフェスティバル2006」作品。 ホームページ
デュエリスト (刑事 Duelist) 2005韓国 (監)イ・ミョンセ (出)ハ・ジウォン、カン・ドンウォン、アン・ソンギ 2006/04/29 太田イオンシネマ ○ 朝鮮王朝時代、蔓延する贋金の出どころを捜査する女性刑事と、 疑惑の先に浮かび上がる謎の「哀しい目の」男。 二人は次第に心惹かれるようになりながらも、 やがては対決せざるを得ない運命にあった。 当時の街路の風景や衣装など色彩が鮮やかで綺麗で、 剣術の立ち居振る舞いも華麗で美しく、 カン・ドンウォンの妖しい表情は見もの。 ストーリーそのものは、一応恋愛絡みの悲劇になってはいるものの、 あまり奥行きがなく、どちらかと言えば物語性よりも視覚的に楽しむべき作品。 ホームページ
タイフーン (TYPHOON) 2005韓国 (監)クァク・キョンテク (出)チャン・ドンゴン、イ・ジョンジェ、イ・ミヨン 2006/04/22 熊谷シネティアラ21 ○ 朝鮮半島全域を壊滅しようとするテロリストと、 それを阻止しようとする捜査官との、命懸けの攻防。 物語の背景には、南北間の歴史の大きな悲劇があり、 また(日本と同様に)米国の支配下にある韓国の微妙な立場の問題も織り込まれている。 同じ言葉を話す同士が、どうしてこんな風に憎み合わなければならないのか、 どうしてここまでこじれてしまったのか、深い悲しみと共に問い掛ける。 タイからロシアまで、陸・空・海にまたがるアクションシーンは凄い緊迫感だが、 場面の派手さに重心が片寄り気味で、 ストーリーそのものの印象が薄らいでしまった気も。 ホームページ
連理の枝 (連理枝) 2006韓国 (監)キム・ソンジュン (出)チェ・ジウ、チョ・ハンソン、チェ・ソングク、ソ・ヨンヒ 2006/04/16 熊谷シネティアラ21 ◎ 最初はほんの遊びのつもりだったのに、本気で恋をしてしまったプレイボーイの男。 しかし女性が実は不治の病魔に侵されていたことを知り、男は苦悩する。 一言で言ってしまえば病魔モノだが、 前半がコミカルに仕立てられている分だけ後半の悲劇が際立たされていて、 しかもちょっと予想外の展開になっていて、 更には親友との友情も絡めてあって、 それらの相乗効果で、一層泣かせる感動作に仕上がっている。 「涙の女王」チェ・ジウの本領発揮と言う感じで、 よく言えば純愛系の、悪く言えばクサい物語だが、私は大いに泣かされてしまった。 ホームページ
春が来れば (花咲く春が来れば/SPRINGTIME) 2005韓国 (監)リュ・ジャンハ (出)チェ・ミンシク、キム・ホジョン、チャン・シニョン、キム・ガンウ、ユン・ヨジョン、イ・ジェウン、チャン・ヒョンソン 2006/04/15 熊谷シネティアラ21 ◎ 何となく行き詰まり無気力に陥っていた音楽家が、 僻地の炭鉱町にある中学生ブラスバンドの指導を引き受け、 生徒たちと苦楽を共にしながら、生きる意欲を取り戻してゆく物語。 なかなか上達しなくても、演奏自体が心底楽しい生徒たちの気持は、 同じく合奏をやっていた私にはよく分かった。 雪景色や桜吹雪などの情景が綺麗で、 特に夕暮れの海辺にトランペットが響く場面にはちょっと涙が出た。 チェ・ミンシクは何となく疲れた感じをよく体現していた。 『歓びを歌にのせて』(→2006/01/26) と話が少し似ているが、個人的にはこちらの方がより好み。 ホームページ
ある子供 (L'Enfant) 2005ベルギー=フランス (監)J.P.ダルデンヌ&L.ダルデンヌ (出)ジェレミー・レニエ、デボラ・フランソワ、ジェレミー・スガール、ファブリツィオ・ロンジョーネ 2006/04/09 高崎映画祭 ○ 窃盗を生業とする若い男は、恋人との間に出来た赤ん坊を、 まるで盗品を売りさばくかのような安易さで、闇業者に売り渡してしまう。 激怒する恋人を見て、男は初めて自分のしたことに気付き、 どうにか赤ん坊を買い戻したものの、以後何もかもが駄目になってゆく。 正直言ってこの男の行動は理解できず、一連の悲劇には同情を覚えなかったが、 逆に言えば、彼を覚醒させるためには、あれだけ追い詰める必要があったと言う事か。 『息子のまなざし』2004/04/11 と同様にBGMが一切なく、リアルな緊張感を醸し出していた。 この表題は誰を指すのか、意味深長。 ホームページ
好きだ、 2005日本 (監)石川寛 (出)宮崎あおい、西島秀俊、永作博美、瑛太、小山田サユリ 2006/04/09 高崎映画祭 ○ 高校2年生の時、互いの気持ちを伝えられなかった二人。 それから17年、ふとした偶然から再会した二人だが、 やはり気持ちをうまく伝えられないままなのだった。 もどかしい位にじっくりと付き合わされる長い長い「間」の中で、 二人それぞれの心の内で巡らされている想いがじわり感じられて、 観ていてドキドキさせられた。 物語と密着し、決して出過ぎない静かな音楽も実によかった。 前作『tokyo.sora』同様、個人的にはこの監督の独特の空虚感を、好きだ。 ホームページ
二人日和 (Turn over) 2005日本 (監)野村惠一 (出)藤村志保、栗塚旭、賀集利樹、山内明日、池坊美佳 2006/04/09 高崎映画祭 ○ 高崎映画祭、今年の私の3本目。 京都に暮らす、ある老夫婦の物語。 妻が難病を患ったことで、職人気質の夫は初めて妻と過ごしてきた歳月を振り返り、 妻を慰めようと、たまたま知り合ったマジック好きの青年を家に連れてくるが、 そのことが二人の最後の日々に温かさと明るさをもたらす。 独身者の私には必ずしも実感は伴わないものの、 この老夫婦が積み重ねて来た歳月の重みはしっかりと感じられた。 どうしても暗く沈んでゆきがちな展開だが、 若い二人のこれからの歳月への予感が救いになっていた。 ホームページ
ある朝、スウプは 2004日本 (監)高橋泉 (出)廣末哲万、並木愛枝、高橋泉、木村利絵、垣原和成 2006/04/01 高崎映画祭 ○ 男がパニック障害を患い、女が生活を支えながら、 狭いアパートで仲睦まじく暮らしていた二人。 しかし男が就職セミナーを装った新興宗教に染まってしまい、 そんな彼を女はどうすることもできず、次第に二人は噛み合わなくなってゆく。 互いに分かり合っているという思い込みの幻想を打ち砕く、残酷な物語。 特に、その宗教を否定する理由を男から問われた女が返答に窮する場面では、 確かに自分で考えても明快な理由なんてないだけに、頭をガツンとやられた気分。 自主制作映画のような趣だが、鋭い所を突いていた。 ホームページ
「A」 1998日本 (監)森達也 2006/04/01 高崎映画祭 ◎ オウム真理教の広報部長・荒木浩氏に密着取材したドキュメンタリー。 1996年から1年以上に渡り、オウムの内部に出入りして撮影した映像は、 信者たちの動静は勿論、教団の内部から見た外側の世界の姿をもストレートに伝える。 信者たちの盲目的な狂信ぶりはしっかりと見せ付ける一方で、 一人の人間として見れば生真面目で善良な青年の、自身の良心の呵責や苦悩も伺える。 それ以上に、身勝手極まりないマスコミの対応ぶりや、 警察によるでっちあげ逮捕の一部始終など、外側の人間の恥ずべき実情が、 痛烈に告発されている。 上映後に森達也監督の舞台挨拶あり。率直で示唆深いお話を拝聴。 ホームページ
ナミイと唄えば 2006日本 (監)本橋成一 (出)新城浪(ナミイ)、姜信子、大田静男、玉川美穂子 2006/03/27 ポレポレ東中野 ◎ 石垣島で唄と三線と共に生きてきたナミイおばあ、 85歳の生涯を追ったドキュメンタリー。 と言っても、彼女の舞台での独演会の合間に、案内人が楽しく話を進める形式で、 しかも「家来」や「カレシ」を交えた現在の彼女の日常に重きを置いているため、 堅苦しいものではない。 しかし、9歳で沖縄本島の旅館に売られ、沖縄本島、サイパン、与那国島、台湾へと 流れてゆく彼女の生涯は、時代を反映して波乱そのもの。 にも関わらず、この歳になっても、 将来だけを見て突き進む彼女の姿勢は、本当に凄いと思う。 唄や三線もたっぷり聴かせてもらえて、大満足。 ホームページ
送還日記 (送還) 2003韓国 (監)キム・ドンウォン 2006/03/27 渋谷シネ・ラ・セット ◎ 北(朝鮮)からの潜入中に逮捕され数十年間に渡り投獄された「北のスパイ」の、 出獄から北への送還までの年月に密着したドキュメンタリー。 監督自身が十年以上に渡って、捨て身の覚悟で当人たちを取材した映像は、 非常なリアリティと説得力に満ちている。 彼らはあくまでも善良な老人たちであり、 彼らの人間的な喜びと悲しみには共鳴と共感を覚える一方で、 彼らが主義主張を頑なに守り続ける姿には、畏敬の念を覚えつつも、 この問題の容易ならざる根深さを思い知らされ、 本当の春の遠さには絶望的な気分にもなる。 ホームページ
うつせみ (空き家/3-IRON) 2004韓国 (監)キム・ギドク (出)イ・スンヨン、ジェヒ 2006/03/16 恵比寿ガーデンシネマ ◎ 留守宅に忍び込んではそこで暮らすことを繰り返す、謎めいた若い男。 ある日、留守だと思って侵入した豪邸の中には、不幸な顔をした女がいた。 女が監禁状態にあることを知った男は、女を連れ出して次なる空き家探しの旅に出る。 この監督にしては痛みの描写が控えめになっていて、 しかも主人公たちが全く言葉を交わさないこともあって、 その分だけ深遠で寓話的な物語になっている。 状況設定はかなり特異で、最後の方など、現実のような非現実のような、 まるでこの世のことでないような超越した世界へと誘い込まれる。 ホームページ
ウォ・アイ・ニー (我愛[イ尓]/I LOVE YOU) 2003中国 (監)チャン・ユアン (出)シュー・ジンレイ、トン・ダウェイ 2006/03/16 東京都写真美術館ホール ◎ 不幸な事故をきっかけに急速に近づき、急ぐように結婚した男女。 最初は睦まじかった二人だが、 妻が求め続ける過剰の愛情表現を、夫は次第に煩わしく思うようになり、 やがて二人は連日連夜の喧嘩を繰り返すように。 そんな中で妻の愛情要求は更に脅迫的にエスカレートしてゆく。 言い争いの様子はリアルで、いかにもどこにでも有り得る状況で、 だからこそ意外な結末は強烈に衝撃的で、しばし頭が呆然としてしまった程。 しかしこれも、究極の純愛の形の一つなのかも知れない。 ホームページ
愛してよ 2005日本 (監)福岡芳穂 (出)西田尚美、塩顕治、松岡俊介、野村祐人、伊山伸洋、荘司アレク、泉綾香、牧野有沙 2006/03/05 シネマテークたかさき ○ 小学生の息子を子供モデルとして売り込んでいるシングルマザー。 母子の奮闘記のような話かと思いきや、意外にも、 社会の歪みや対人関係の苦悩を巡る、結構シリアスな物語だった。 必死で頑張っているのに、更なる頑張りを強いられて、押し潰されてゆく子供たち。 彼らを追い詰めながら、実は自分自身も何かに追い詰められ、消耗してゆく大人たち。 何だか悪循環に陥っている現代社会の世相そのものの姿に見えた。 西田尚美さんが母親らしく見えないところが、かえってこの役によく合っている。 最後に絶望を突き抜ける予感で終わるのもよい。 ホームページ
天空の草原のナンサ (The Cave of the Yellow Dog) 2005ドイツ (監)ビャンバスレン・ダバー (出)バットチュルーン一家 2006/03/05 シネマテークたかさき ○ モンゴルの遊牧民一家(夫婦と幼児3人)の生活風景。 ストーリーらしきものはあまりなく、淡々と日々の出来事が写されるのだが、 かと言ってドキュメンタリーでもなく、 映画としてはもう少し物語性が欲しい気も少々。 期間的には、娘が洞穴から一匹の犬を拾って連れて来てから、 一家がゲル(天幕の家)を畳んで移動を始めるまで、数週間程度の出来事か。 大きなゲルが解体され荷車に積み込まれるまでの工程はなかなか見もので、 うまく出来ているものだと思った。 ホームページ
ゲルマニウムの夜 (The Whispering of the Gods) 2005日本 (監)大森立嗣 (出)新井浩文、広田レオナ、早良めぐみ、木村啓太、大森南朋、津和孝行、大楽源太、山本政志、三浦哲郁、麿赤兒、石橋蓮司、佐藤慶 2006/02/26 一角座 雪景色の中に孤立した修道院、 神を挑発するかのように悪を重ねる主人公の青年。 しかし彼の行為がどこか超越したものに思えてしまうほど、 教会の中には邪悪と狂気が蔓延してた。 強烈な映像はまさにエログロの世界で、残虐さも腐臭も露骨に直截に映し出され、 生理的な不快感を強いられるが、じわじわと後を引く作品であることは確か。 解釈の難しい映画だが、私は、彼も最後には邪悪に飲み込まれてしまったと思った。 この映画のためだけに東京国立博物館の敷地内に作られた特設劇場での上映。 ホームページ
僕が9歳だったころ (When I Turned Nine) 2004韓国 (監)ユン・イノ (出)キム・ソク、イ・セヨン、チョン・シギョン、チ・デハン、キム・ミョンジェ、ナ・アヒョン、パク・ペンリ 2006/02/26 シャンテ・シネ ◎ 皆が貧しかった時代の、韓国の田舎の小学校。 ソウルから転校して来た「お嬢さま」の高慢な言動に かき回されるクラスメイトたちだが、 事もあろうに彼女の隣の席のクラスのガキ大将格の少年は、 彼女を少しずつ好きになってしまう。 主演の子たちは勿論よいが、大将の取り巻き(?)の子たちの行動が たまらなくよくて、笑いと涙と懐かしさを誘われた。 国も時代も境遇も違ってはいても、普遍的な共感を呼ぶ物語。 ホームページ
春の居場所 2005日本 (監)秋原正俊 (出)堀北真希、細山田隆人、柳沢なな、井上訓子、戸田幸延、城咲仁、佐藤藍子 2006/02/22 ワーナーマイカルシネマズ板橋 ◎高校2年の春休み。とある女子高生の、淡い恋の始まりと、その終わり、 そして10年後の再会の物語。 1時間しかない短い映画で、再会の場面は予感程度であっさり終わってまい、 その先の展開も見せて欲しかった気もするが、 それを敢えてしないことで絶妙の余韻が残ったのも確か。 私自身はこの話とは程遠い高校生活だったが(そもそも男子校…)、 それでもどこか普遍的な「切なさ」の感情を呼び覚まされるものがあった。 館内では出演者の衣装やサイン入りポスターなどを展示中。 ホームページ
白バラの祈り―ゾフィー・ショル、最期の日々 (Sophie Scholl - Die letzten Tage) 2005ドイツ (監)マルク・ローテムント (出)ユリア・イェンチ、ファビアン・ヒンヌリフス、アレクサンダー・ヘルト 2006/02/22 シャンテ・シネ ◎ 戦時下のドイツで、ナチス批判の地下運動に命を捧げた女学生とその兄。 大学に配置した反体制ビラが発覚し逮捕された兄妹は、最初は否認するものの、 ついに意を決して、恐れることなく正義を高らかに主張し始めた。 あのような四面楚歌の状況下で、ついに毅然と信念を貫き通す兄妹の姿に (そしてそれを是とする両親の姿にも)、こみあげるように涙が噴出。 普段はエラそうなことを言っていながら、いざとなると(大した事でもないのに) すぐ尻込みしてしまう自分を省みて、 この兄妹の行為の凄さがひしひしと身に染みて感じられた。 ホームページ
美しき野獣 (野獣/Running Wild) 2005韓国 (監)キム・ソンス (出)クォン・サンウ、ユ・ジテ、オム・ジウォン、ソン・ビョンホ 2006/02/11 熊谷シネティアラ21 ◎ 激昂型の刑事と、沈着型の検事。まるでそりの合わない二人が協同して、 宿敵であるヤクザのボスと立ち向かう。 物語は悲しみに満ちていて、しかも最初から最後までかなり激しい展開。 クォン・サンウの役への入れ込みようは半端でなく、ちょっと見直してしまった程。 しかし本当の主役はむしろユ・ジテの方で、 腸の煮えるような憤怒がジリジリと伝わってきて、 ついに冷静さを失ってゆく様子には凄みが籠もっていた。 やや大袈裟過ぎる場面もあったが、全体として大いに満足。 ブルブルと震えながら、ボロボロと涙が出てきた。 ホームページ
忘れえぬ想い (忘不了) 2003香港 (監)イー・トンシン (出)セシリア・チャン、ラウ・チンワン、ルイス・クー、原島大地 2006/02/04 シアターN渋谷 ○ 急逝した婚約者の連れ子を引き取って育てることにした女性と、 見るに見かねて彼女を手助けする同僚男性。 二人は互いを強く意識するようになりながらも、 忘れえぬ過去への未練との間で気持ちが揺れ動く。 かの傑作『つきせぬ想い』 (→1994/12/23、 私の映画人生?を変えてしまった一本)の監督と俳優で、 しかもセシリア・チャンということで、 あまりに期待過剰だったせいか、意外に泣けなかったが、 最後にはホッと温かい気持ちになり、心地よい余韻が残った。 ホームページ
B型の彼氏 (MY BOYFRIEND IS TYPE-B) 2006韓国 (監)チェ・ソグォン (出)イ・ドンゴン、ハン・ジヘ、シン・イ 2006/02/04 シネクイント 運命の出会いをしてしまった(と思い込んでいる)A型の女性。 しかしその相手は典型的なB型男だった。 最初は舞い上がっていた女性だが、男の身勝手なペースに振り回されて、 次第に消耗してゆく。 それなりに面白かったが、数ある韓国ラヴコメの中に置いて考えると、 決して上出来の部類に入るとは思えない。 コメディ部分は思い切ったバカバカしさが楽しいのに対して、 ロマンス部分の展開は無理があって(オチも含めて)不出来と思う。 内容はともかく、人気は物凄く、まだ開場前と言うのに入口前には長蛇の列が。 ホームページ
単騎、千里を走る (千里走単騎 / Riding Alone For Thousands Of Miles) 2005中国=日本 (監)チャン・イーモウ (出)高倉健、寺島しのぶ、中井貴一 2006/01/29 熊谷シネティアラ21 ○ 確執を抱え疎遠になっている息子の病気を知った老父は、 息子の悲願であった仮面劇を撮影すべく、単身中国へと渡る。 しかし演じる筈だった役者は些細なことで刑務所に入れられており、 無理を押して刑務所を訪ねれば、役者は幼い子供を思い出しては号泣する始末。 老父は意を決して更に遠い寒村へと赴き、その子供との対面を果たす。 人付き合いの苦手な男が、言葉の壁に苦しまされつつも、 人々の無償の親切に支えられて、少しずつ前に足を延ばしてゆく様子には、 しみじみとした感動あり。 ホームページ
この胸いっぱいの愛を 2005日本 (監)塩田明彦 (出)伊藤英明、ミムラ、勝地涼、宮藤官九郎、吉行和子 2006/01/28 深谷シネマ ○ 飛行機を降りてふと気付けば、不可思議な事に、 そこは20年を遡った1986年の門司だった。 そこで彼は、少年だった頃の自分自身や、 その頃憧れていた近所のお姉さんにも出会ってしまう。 彼女が間もなく亡くなってしまうことを知っている彼は、 その運命の流れを変えるべく、彼女への働きかけを始める。 最後の展開はやや意外で大変悲しいものだが、 思い残すことのなくなった結末には満たされた気持ちになり、大いに泣かされた。 ホームページ
歓びを歌にのせて (Sa som i himmelen / As it is in Heaven) 2004スウェーデン (監)ケイ・ポラック (出)出演:ミカエル・ニュクビスト、フリーダ・ハルグレン、ヘレン・ヒョホルム、レナート・ヤーケル 2006/01/26 ル・シネマ ○ 若くして病気で引退を余儀なくされ、郷里の寒村に戻って来たカリスマ指揮者。 打ちひしがれて内に籠もっていた彼は、地元の聖歌隊の指導を嫌々ながら 引き受けるが、様々な事情を抱えたメンバーの熱意に触れて、 彼自身の生きる喜びをも見出してゆく。 しかし一方で、地元の保守的な人々との軋轢も深まってゆく。 音楽を通じて人々に心の拠り所を提供したことは、 音楽家としての彼が成し遂げた最上の仕事に違いない。 北欧の生活風景がよく感じられる。 ホームページ
ビッグ・スウィンドル! (犯罪の再構成) 2004韓国 (監)チェ・ドンフン (出)出演:パク・シニャン、ヨム・ジョンア、ペク・ユンシク、イ・ムンシク、パク・ウォンサン、キム・サンホ、チョン・ホジン 2006/01/26 シネ・アミューズ ○ 結託して銀行強盗を企てた寄せ集めの5人。 周到な計画通りに事が進むかと思いきや、最後の土壇場で犯行は失敗、 5人はバラバラになってしまうが、その後の展開は一転二転。 実は、裏で互いに騙したり騙されたり、 元々かなりややこしい企みだったことが明らかになってくる。 先の読めないスリリングな物語で、最後はちょっとすっきりしない感じではあるが、 これはこれでハッピーエンドと言ってよいのか。 ホームページ
博士の愛した数式 2005日本 (監)小泉堯史 (出)寺尾聰、深津絵里、齋藤隆成、吉岡秀隆、浅丘ルリ子 2006/01/22 熊谷シネティアラ21 ○ 交通事故の脳損傷で記憶が80分しかもたなくなってしまった数学者と、 そこに派遣されたシングルマザーの家政婦と、その息子との、 心の交流を叙情的に描いた物語。 博士が愛する数式の「調和の美」と言うのは、(一応理系の私には)よく分かり、 それに絡めて語られる幸せの在り方(『星の王子さま』を彷彿とさせる)は、 少々クサい話とは思いつつも、しみじみとジーンと来た。 特に、eとiとπの組合せをあんな風に美しく意味付けていたことは、 新鮮に感じられた。 ホームページ
空中庭園 2005日本 (監)豊田利晃 (出)小泉今日子、板尾創路、鈴木杏、広田雅裕 2006/01/08 シネマテークたかさき ○ 郊外のニュータウンに住む一家4人のルールは、 何事も包み隠さず、秘密を持たないこと。 赤裸々な際どい会話さえも平然と交わされる、傍から見れば異常な、 しかし当人たちは円満と思い込む生活は、やがて当然のように破綻してゆく。 そして壮絶な崩壊の時を経てこそ、ようやく見えて来た新しい家族像の兆し。 この狂気のような物語が、強烈な不安定感を持った映像で描き出されている。 意味深長な表題の通り、思い込みの上に構築された虚構の均衡という イメージは、思えば色々な場に当てはまるものかも知れない。 ホームページ

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(紺野裕幸)

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