映画寸評 2009年

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2009年 私的ベスト3: 母なる証明ディア・ドクター扉をたたく人 (次点) 女の子ものがたりインスタント沼


◎=絶賛 ○=よい
2009
タイトル データ 鑑賞日 感想
カティンの森 (KATYN) 2007ポーランド (監)# アンジェイ・ワイダ (出)マヤ・オスタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ、マヤ・コモロフスカ 2009/12/23 岩波ホール ◎ 大戦中、ナチスドイツ軍とソ連軍の両者によって占領されたポーランド。 捕虜となったポーランド人将校が大量虐殺されていた事実が、 戦後になって明るみに出る、 責任をドイツ側に押し付けようと目論むソ連側に同調して、 ポーランド国内は思想統制の不穏な空気に覆われるのであった。 こう言う事件があったことも、ポーランドがこのような立場に置かれていたことも、 私は全然知らなかった。こうした歴史を世に知らしめる意味でも、 この映画は重要な役割を担っている。 登場人物が多く、しかも途中から更に入り組んで来るので、 人物の関係がよく分からなくなってしまったが、 それでも大局的に言いたいことは十分に伝わって来た。 ただ、あまりにもむごい場面を延々と見せ付けられて終わるので、 その必要性は理解しつつも、気分的にはかなりきついものがあった。 ホームページ
牛の鈴音 (Old Partner) 2008韓国 (監)イ・チュンニョル (出)チェ・ウォンギュン、イ・サムスン 2009/12/23 シネマライズ ◎ 韓国の農村で、四十歳にもなる超高齢の牛に頼って細々と農業を営む老夫婦の歳月が、 淡々と映し出される。これがドキュメンタリーであるとは信じ難い程。 配合飼料も農薬も農業機械も拒否して、老牛のためと言って労苦を厭わない夫と、 そんな夫を嘆き悪態をつきなからも諦めて受け入れている妻。 時代のスピードから完全に取り残された、ゆっくりとゆっくりとした生活が、 ここに実在しているのあった。 ヨボヨボの老牛は勿論、老夫婦も劣らずガタガタで、それでも頑固を押し通す様子は、 見ていて痛々しい程。時代に乗ることを善しとして安泰に生きている自分が、 恥ずかしい気さえした。最後の方の場面では、感涙しきり。 ホームページ
バグダッド・カフェ (Out of Rosenheim) 1987西ドイツ (監)パーシー・アドロン (出)マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH.パウンダー、ジャック・パランス、クリスティーネ・カウフマン 2009/12/23 ユーロスペース ◎ アメリカの砂漠地帯のハイウェイ沿いにある寂れたカフェ兼モーテルを舞台に、 不機嫌な女主人と、成り行きでここに滞在することになったドイツ人女性との、 奇妙な友情の話。 主人公たちは勿論、女主人の家族や、他にも居着いてしまっている人々、 それぞれが個性的(と言うより変わり者)で面白い。 気だるさを帯びた主題歌や、たどたどしいバッハの前奏曲など、音楽も忘れ難い。 15年振りに見たが、やっぱりこれは大傑作だと再確認。 今回は「ディレクターズ・カット版」での上映だったが、 何れにせよ私は細部をかなり忘れていたので、新鮮な気分で見られた。 ホームページ
精神 2008日本 (監)想田和弘 2009/12/20 深谷シネマ ○ 岡山にある小さな精神科医院を訪れる患者たち(や医師やスタッフ)の ありのままの様子を、美も醜も含めて淡々と映した、ドキュメンタリー映画。 宣伝文句に「モザイクなし」云々とあったが、つくづく思うのは、 本来はモザイク処理を善とする方が変だと言うこと。 患者たちは、確かに程度の差はあるものの、自分と同じ延長線上にいて、 特別に区別される存在ではない。ただ、その微妙な扱いづらさの故に、 困難に直面するスタッフの苦慮を目の当たりにして、 やはり簡単な問題ではないことも思い知られた。 明快な答えがないからこそ、げっそりと重い疲労感が残った。 ホームページ
のだめカンタービレ 最終楽章 前編 2009日本 (監)武内英樹 (出)上野樹里、玉木宏、山田優、ウエンツ瑛士、ベッキー、福士誠治、谷原章介、なだぎ武 2009/12/19 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ パリの音楽院のピアノ科に留学中の女(のだめ=野田恵)と、同じくパリのオーケストラの指揮者に新任した男との、音楽と恋との奮闘物語。 何よりも見ものはオーケストラの演奏場面。 特にリハーサル場面での音楽を作り出してゆく過程には気分が完全に入り込み、 苦しい運営や練習をくぐり抜けて、ついにやって来た演奏会本番の高揚感には、 否応無しに涙が噴出した。 バロック専門の私には、出て来る音楽や演奏様式は馴染みのないものばかりで、 曲もハイライト場面のつなぎ合わせばかりだが、 それでも大画面に鳴り響くオーケストラの響きの調和には、 圧倒的な感動が沸き起こった。 一方、コメディ場面は徹底的にくだらないもので、 CGやアニメもフルに援用して主人公の妄想世界を具現化していて、 真剣な音楽場面との極端な落差がたまらない。 ホームページ
曲がれ!スプーン 2009日本 (監)本広克行 (出)長澤まさみ、三宅弘城、諏訪雅、中川晴樹、辻修、川島潤哉、岩井秀人、志賀廣太郎 2009/12/13 熊谷シネティアラ21 ○ 超能力を持ちながら好奇の目を恐れてひた隠しにする人々と、 超常現象への夢が潰れそうになっているTV番組フタッフの女性との、 心の触れ合いの物語。 基本的にはコメディで、馬鹿馬鹿しい場面も多く、しかも有り得ない出来事ばかり。 しかし、超能力の有無云々よりも、夢を信じたい純粋な気持ちと、 それに応えてあげたい純粋な気持ちとの、言葉にならない善意の交流に、 じわじわと心が温かくなった。 最後の握手の場面なんて、うっかり泣きそうになってしまいった程。 あのままあっさり終わってしまうのが、実によい。 何だかホッとする映画。 ホームページ
なくもんか 2009日本 (監)宮藤官九郎 (出)阿部サダヲ、瑛太、竹内結子、塚本高史、皆川猿時、片桐はいり、鈴木砂羽、カンニング竹山、高橋ジョージ、陣内孝則 2009/12/05 熊谷シネティアラ21 ○ 両親の離婚によって引き離されたまま、下町の惣菜屋の二代目店主になった兄と、 人気お笑い芸人になった弟とが繰り広げる、ドタバタ喜劇のような悲劇。 宮藤官九郎らしい、ひねりや皮肉の効いた話。 かなりバカバカしい物語だが、特に兄の満面の笑顔の裏に 必死で封じ込められた悲しみには、深く感じ入るような所もあった。 ただ、過剰な「エコ」ブームを茶化す終盤の展開は、 言いたい事はよく分かるものの、ちょっと無理矢理な話の運びだった気が少々。 ホームページ
つむじ風食堂の夜 2009日本 (監)篠原哲雄 (出)八嶋智人、月船さらら、下條アトム、スネオヘアー、田中要次、芹澤興人、生瀬勝久 2009/11/30 ユーロスペース 場末の街の一風変わった食堂に集う、それぞれ事情ありの人々が、 対話や意見をしながら相互作用してゆく物語。 自国でも異国でもない、どこでもない場所のような設定で、 交わされる対話は抽象的あるいは観念的で、 どこかお伽話のような雰囲気が醸し出されていて、 その中でそれぞれの登場人物の物語がゆっくりと重なり合ってゆく。 こう言うタイプの話を、私は決して嫌いではないのだが、 何故か今回は、気分が入り込めないまま。 何だかひどく退屈な話で、恥ずかしながら途中でちょっと意識が飛んでしまい、 従って正当な評価は出来ていないかも。 ホームページ
きみに微笑む雨 (好雨時節) 2009韓国 (監)ホ・ジノ (出)チョン・ウソン、カオ・ユアンユアン 2009/11/30 シネマスクエアとうきゅう ○ 大学時代に恋仲であった、韓国人男性と中国人女性が、偶然に再会。 男は想いを再燃させる一方で、何故か女は戸惑いを見せるのであった。 久し振りのホ・ジノ監督作品。 韓国映画だが、舞台を四川省に、会話を(二人の共通語である)英語にして、 ちょっと雰囲気を変えようとしている。 この監督らしく、場面描写は繊細で美しく、物語も最後まで控えめで叙情的。 ただ、ややマンネリと言うか、新鮮味に乏しかった気もした。 突然の雨とか交通事故とかのお決まりのシーンも健在(?)。 これ単独で見ればそう悪くない映画だが、 数ある韓国メロドラマの中に置いて見ると凡庸な出来に思えた。 ホームページ
千年の祈り (A Thousand Years of Good Prayers) 2008アメリカ (監)ウェイン・ワン (出)ヘンリー・オー、フェイ・ユー、ヴィダ・ガレマニ、パシャ・リチニコフ 2009/11/23 恵比寿ガーデンシネマ ○ アメリカで長らく暮らす一人娘を訪ねて、はるばる北京から老父がやって来る。 表向きには穏やかさを装っていた両人だが、見るからにぎこちない関係の裏には、 互いの心の内にある不信感があった。 あまりにも気まずい時間を経て、二人はついに激突してしまう。 互いにこんなによそよそしいのは何故なのか、それが物語の核なのですが、 この辺りの事情がようやく明らかにされても、 自分にはちょっと肩透かしの感あり。 大袈裟にして欲しい訳ではないが、あまりにもあっけない気がして、 今ひとつ重みが感じられず。 結構期待していたからこそ、ちょっと物足りない感じ。 ホームページ
不灯港 2009日本 (監)内藤隆嗣 (出)小手伸也、宮本裕子、広岡和樹、ダイアモンド☆ユカイ、麿赤兒 2009/11/22 シネマテークたかさき ○ 寂れた港町で細々と漁を営む冴えない四十代の男が、 奇妙な縁で出会った子連れの女に翻弄される話。 歯の浮くようなクサい台詞とか、場違い甚だしい気張った衣装とか、 意気込み過ぎて完全に空回りしている振る舞いとか、 彼の涙ぐましい程の懸命さが滑稽で、劇場内でも大いに笑い声が聞こえていた。 しかし、彼と同じく冴えないアラフォー男である私には、 何だか他人事とは思えない所があり、笑うに笑えない気分でもあった。 しかも結末は、それが新たなる歩む道とは分かっても、 どうも物悲しく思えて仕方ない。よい意味で素人っぽさがある映画。 ホームページ
のんちゃんのり弁 2009日本 (監)緒方明 (出)小西真奈美、岡田義徳、村上淳、佐々木りお、山口紗弥加、岸部一徳、倍賞美津子 2009/11/22 シネマテークたかさき ○ ダメな夫を見捨てて、幼い娘を連れて実家に出戻った三十代の女性が、 自分の進むべき道を見出して自立しようと奮闘する話。 執拗に付きまとう元夫、好意を見せる元同級生、料理の師と仰ぐ飲み屋の大将、 突き放すふりをして気を揉む母や友人たちに囲まれて、勢い任せだった彼女は、 ようやく本当にやるべきことに邁進する覚悟を固める。 大雑把に言えばドタバタコメディ系で、軽快なテンポで話が進むが、 やや紋切り型の展開で、あまり深みのある物語でもなかった。 しかし、どこか甘えを捨て切れていない主人公の姿を客観的に見ながら、 我が身を振り返らざるを得ない気分。 のり弁を始め、登場する家庭料理が凄く美味しそう。 ホームページ
ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 2009日本 (監)佐藤祐市 (出)小池徹平、マイコ、池田鉄洋、田辺誠一、品川祐、田中圭、中村靖日、千葉雅子、森本レオ 2009/11/21 熊谷シネティアラ21 ◎ NEET脱出を図るべく、ようやく入社した零細ソフトウェア開発会社が、 実は人を人と思わないとんでもない職場で、しかしこの一種の極限状況の中で、 主人公が徐々にたくましくなってゆく物語。 大袈裟で馬鹿馬鹿しい話だが、かなり面白かったです。 私と同じプログラマの業界が舞台で、正直なところ 自分の周囲にも思い当たる事が多々あったので、共感をもって主人公の姿を見ていた。 極端に誇張され脚色されてはいるものの、この業界の実情の片鱗が 言い当てられていたのは確かで、どうも他人事とは思えない。 非現実的な量の仕事をついに成し遂げた彼らの、達成感に満ちた表情には、 ちょっと感動させられてしまった。 ホームページ
ゼロの焦点 2009日本 (監)犬童一心 (出)広末涼子、中谷美紀、木村多江、西島秀俊、鹿賀丈史、杉本哲太、崎本大海、野間口徹、黒田福美、本田博太郎 2009/11/14 熊谷シネティアラ21 ◎ 昭和30年代、能登に出張したまま行方不明になった夫の手掛かりを探す新妻の周囲で、 不可解な事件が続発。 原作を未読の私には、話の展開はかなり意外でスリリング。 松本清張らしく、単なるサスペンスではなく、 当時の社会背景が物語の核心に密に絡んでいるのがよい。 戦後ようやく、女性が社会進出を勝ち取ってゆく新しい時代の兆しがあってこそ、 この一連の事件の裏に横たわる深い悲しみが強く印象付けられていた。 謎解きがあまりにもあっけなくなされてしまうのがやや不満ながら、全体としての 物語は、TVドラマにありがちな安易な推理モノと、明らかに一線を画している。 凍てつく能登の海の風景が極めて印象的。そして、感慨深いラストシーンも。 ホームページ
僕らのワンダフルデイズ 2009日本 (監)星田良子 (出)竹中直人、宅麻伸、斉藤暁、稲垣潤一、段田安則、浅田美代子、紺野美沙子、貫地谷しほり 2009/11/08 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 余命半年と思い込んだ男が、人生最後の思い出のつもりで、 高校時代のバンド仲間を集めて中年バンドのコンテストを目指す物語。 男の勘違いの動揺ぶりが最初から面白く、一方で世知辛い現実を忘れるように バンドに熱中してゆく彼らの姿には、見ながら自分まで熱くなってしまった。 演奏場面は、どう見ても俳優さんたち自身が(吹き替えでなく)演奏していたようで、 そのせいで音楽に不自然さがなく、一層の感動に結び付いていた気がする。 世知辛い現実を忘れるように再結成バンドに熱中してゆく皆さんの姿を見ながら、 自分も一員に加わっているかのような高揚感に包まれて、 どうしようもなく涙が出てしまった。 ホームページ
サイドウェイズ 2009日本 (監)チェリン・グラック (出)小日向文世、生瀬勝久、鈴木京香、菊地凛子 2009/11/08 熊谷シネティアラ21 アメリカ西海岸で過ごす日本人の男女。 中年に差し掛かった彼らが、久し振りに再会したのをきっかけに、 自身の居場所や生き方や行き先について迷う話。 格好つけても決まらない、堂々と振舞っても様にならない、 いい歳をして大人にも成り切れない。そんな中途半端さを自覚する彼らとは、 年齢的にも立場的にも、私は重なる所がある筈なのだが、 何故かあまり共感あるいは感情移入できなかった。 何となく気取った場面が、自分には気障に感じられてしまったせいかも知れない。 ワインの名所への旅物語にもなっているので、 ワイン好きな人なら別の意味で楽しめるかも知れないが、 下戸の私は残念ながら雰囲気に浸れず。 ホームページ
沈まぬ太陽 2009日本 (監)若松節朗 (出)渡辺謙、三浦友和、松雪泰子、鈴木京香、石坂浩二 2009/11/07 熊谷シネティアラ21 ◎ 航空会社に奉職する一人の男の激動の半生を描いた、壮大な物語。 巨大労組を率いて会社側に要求を飲ませた彼は、 そのために職場復帰後には露骨に冷遇され続ける。 それでも彼は、自身の信念を曲げることなく、全てを受け容れ、 運命に立ち向かおうとするが、そんな中で、 航空機の墜落事件と言う未曾有の大惨事が起こってしまう。 いかにも超大作と呼ぶに相応しい映画。 いろいろ粗はあるにせよ、劇的な展開と映像にぐいぐい押し切られて、 満足させられてしまった。 途中休憩なんて一頃のインド映画を彷彿とさせるが、 もし休憩がなかったとしても全く退屈する間などなかった。 ホームページ
パンドラの匣 2009日本 (監)冨永昌敬 (出)染谷将太、川上未映子、仲里依紗、窪塚洋介、ふかわりょう 2009/11/05 テアトル新宿 ◎ 敗戦直後、健康道場と称した結核療養所での、患者たち(何故か全員男)と 職員たち(何故かほぼ女)との微妙な思慕の関係が描かれる。 閉じた社会の中で独特に展開する人間模様の話は、私の好きなジャンル。 この道場でも、傍から見れば奇妙な挨拶などの生活習慣は、 ちょっと新興宗教じみていて、面白いものである。 生死も、去就も、恋愛も、決して大袈裟に感情を揺るがすことはなく、 諦めにも似た「軽み」の中に飲み込まれているのが、 太宰治作品らしいところだと思う。 私には結構良かったが、あまりにも淡々とした話なので、好き嫌いが分かれる作品か。 ホームページ
わたし出すわ 2009日本 (監)森田芳光 (出)小雪、黒谷友香、井坂俊哉、山中崇、小澤征悦、小池栄子、仲村トオル 2009/11/05 新宿バルト9 ○ 郷里の函館へと久し振りに帰って来た女性が、 高校時代の友人たちがお金を必要としていると見るや、 次々と気前よく巨額を進呈する。 その大金は、友人たちそれぞれの人生に何かしらの変化をもたらすのであった。 彼女が何でそんなに金持ちなのか、その謎はすぐに明らかにされてしまう。 むしろ物語の主眼は、主人公自身のことよりも、 大金によって変化を余儀なくされる友人たちの運命にある。 お金は、あってもなくても、人を幸福にも不幸にもする、と言うことか。 説教臭い展開でないのはよいが、かと言ってさほど深みのある物語でもなかった。 ホームページ
悪夢のエレベーター 2009日本 (監)堀部圭亮 (出)内野聖陽、佐津川愛美、モト冬樹、斎藤工、大堀こういち、芦名星、本上まなみ 2009/11/05 シネリーブル池袋 ◎ 故障したエレベーターに閉じ込められた、どこか胡散臭い男3人女1人。 困惑の果てに、それぞれの疚しい事情が互いに分かって来た頃、 意表を突く企みが明らかになったと思いきや、 更に当事者たちも予期せぬ事態に直面し、しかもその裏には…、 と全く先が読めない展開。 予想外のどんでん返しの連続連続で、かなり面白いストーリー。 コメディの割に残虐系なので、後味は必ずしも良くないが、 とにかくインパクトは絶大。 『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(→2008/04/05) や『鈍獣』(→2009/08/09) をも上回るような怪演ぶりを見せた佐津川愛美は、 一見アイドル系のような顔をして、実に只者でない。 ホームページ
母なる証明 (MOTHER) 2009韓国 (監)ポン・ジュノ (出)キム・ヘジャ、ウォンビン、チン・グ、ユン・ジェムン、チョン・ミソン 2009/11/01 ワーナー・マイカル・シネマズ羽生 ◎ 韓国の田舎の静かな村で起こった、女子高生の殺人事件。 その犯人に仕立てられ、捕らえられた一人息子の容疑を晴らすべく、 単身で事件の真相を追う母。 そして被害者の交友関係を追跡する中から、思いもよらなかった真相が 次第に明らかになって来る。 全く予想外の展開を見せる奥深いストーリーは勿論のこと、 天才的な映像センスや、軽妙な音楽も含めて、 久し振りに凄みのある韓国映画に出会った感あり。 恐るべき完成度の大傑作。 ホームページ
白夜 2009日本 (監)小林政広 (出)眞木大輔、吉瀬美智子 2009/10/25 シネマテークたかさき フランスの橋の上で偶然出会った日本人男女が、恋愛のように過ごした数時間の物語。 まずストーリーが安っぽく、私には(男にも女にも)さっぱり共感を覚えない、 と言うより心境が理解不能。 また、絶え間なく繰り返す音楽、と言うより場面と無関係な単なるBGMのリピートが、 実に耳障り。 更に、カメラの手ぶれがあまりにもひどくて、見ながら悪酔いしそう。 総じて悪い意味で素人っぽい映画で、甚だ期待外れ。 ホームページ
縞模様のパジャマの少年 (THE BOY IN THE STRIPED PYJAMAS) 2008イギリス (監)マーク・ハーマン (出)エイサ・バターフィールド、ジャック・スキャンロン、アンバー・ビーティー、デビッド・シューリス、ヴェラ・ファーミガ、デビッド・ヘイマン、ルパート・フレンド 2009/10/25 シネマテークたかさき ◎ 第二次大戦中のドイツ、ナチス軍人の父の仕事のために 山奥の一軒家に引っ越した家族。こっそりと家を抜け出した8歳の息子は、 森の奥の奇妙な「農場」で、「縞模様のパジャマ」を着た同い年の少年と、 鉄条網越しに出会う。 実は、ここはユダヤ人の強制収容所で、父親はその所長だったのである。 やがて少年たちは互いに親しくなるが、それ故に、両親は勿論、 少年たちも自身も予想しなかった悲劇が襲うことになるのであった。 絶望的に辛く、重く悲しい物語だが、これは必見の映画。 本当に、戦争は誰も幸せにしない、改めてそう思った。 言葉がドイツ語でなく英語なのが、唯一惜しいところ。 ホームページ
引き出しの中のラブレター 2009日本 (監)三城真一 (出)常盤貴子、林遣都、中島知子、岩尾望、竹財輝之助、本上まなみ、吹越満、水沢奈子、六平直政、伊東四朗、片岡鶴太郎、西郷輝彦、萩原聖人、豊原功補、八千草薫、仲代達矢 2009/10/17 熊谷シネティアラ21 ◎ FM放送のDJを務める女性と、彼女の番組に手紙を出した聴取者たち、それぞれの物語。 伝えられない想いを抱えた個々のエピソードは切なくて、 しかも一見バラバラのようでいて意外なところで 少しずつ接点や交点を持つようになっている。 終盤の美しい場面の後にまだ続きがあって、ちょっと蛇足かなと思ったのだが、 これがしっとりと余韻を残す美しい終わり方になっていて、更に良かった。 いかにも出来過ぎのクサい話ではあるが、私自身も学生時代はラジオ好きだった こともあり、何だかしみじみと胸に沁み入った。 ホームページ
ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜 2009日本 (監)根岸吉太郎 (出)松たか子、浅野忠信、室井滋、伊武雅刀、光石研、山本未來、鈴木卓爾、小林麻子、信太昌之、新井浩文、広末涼子、妻夫木聡、堤真一 2009/10/12 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 太宰治の戦後の傑作短篇を核に、他のいくつかの作品の要素もうまく織り込んで、 太宰文学の本質を的確に表現していた。 夫がどこまでも情けない駄目な男であって、それでも彼を運命的に受け容れている 妻の、気丈と言うより諦念のような姿には、胸に迫るものがあったた。 最後の「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。」 と言う台詞(原作とほぼ同じ)に込められた彼女の心境には、 ついに涙が噴出してしまった。 私にとってはかなり良い作品だったのだが、太宰作品の特徴である このような人間関係の陰影に入り込めるかどうか次第で、 好き嫌いがはっきり分かれる映画かも知れない。 ホームページ
クヒオ大佐 2009日本 (監)吉田大八 (出)堺雅人、松雪泰子、満島ひかり、中村優子、新井浩文、児嶋一哉、安藤サクラ、内野聖陽 2009/10/11 イオンシネマ太田 ○ 米軍パイロットを自称する結婚詐欺師と、彼の餌食となりそうな女性たちとの、 騙し騙されの攻防が展開。 弁当屋の女主人、博物館の学芸員、そして銀座のホステス。彼が狙う女性たちは、 ちょっと不幸の香りがする、決して裕福ではない人ばかり。 しかし、いかにも胡散臭いこの男に、皆がそう易々と騙されている筈がなく、 表の顔と裏の顔との駆け引きが入り混じるのが、スリリングで面白い。 更には「世界平和」を巡る日米の関係にも、チクリと批判を投げ掛けている。 同監督の傑作『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』 (→2008/04/05) ほどの勢いはないが、充分に面白かった。 ホームページ
妻が結婚した (My Wife Got Married) 2008韓国 (監)チョン・ユンス (出)キム・ジュヒョク、ソン・イェジン 2009/10/06 新宿バルト9 憧れの女性と、念願叶って結婚してアツアツな筈なのに、 妻が別の男と「も」結婚してしまう、と言う話。 状況設定が荒唐無稽なのは承知の上で、それでもコメディとして面白ければ 大いに歓迎なのだが、これは全然面白くないどころか、不快感さえ覚えた。 更に、台詞が下品、と言うより下劣で、早々からウンザリ気分に陥った。 しかも、そのまま一妻多夫(?)のまま落ち着いてしまう結末なんて、 誰が納得するのだろうか。 正直言って低級な映画で、私にとって今年のワースト1の最有力候補かも。 ホームページ
孫文 100年先を見た男 (ROAD TO DAWN) 2006中国 (監)デレク・チウ (出)ウィンストン・チャオ、アンジェリカ・リー、ウー・ユエ、チャオ・チョン、ワン・ジェンチョン 2009/10/06 シネマート新宿 ○ 革命を目指す孫文が、10回目の蜂起を目指してマレーシアに潜伏していた時期の物語。 孫文本人のことは勿論だが、彼を献身的に支える女性や、 彼らによって運命を激変させる若い男女の物語としても、なかなか感動的。 ただ、表題の印象に反して、実際には時期も場所も限られた狭い範囲での話なので、 期待したようには壮大な展開はなかった。 孫文を聖人化せず、激昂しがちな悩める一人の人間として描いているのはよかった。 孫文が医師だったことに、(時代も場所も違うが)同じく革命を目指した チェ・ゲバラも医師だったことを思い出した。 ホームページ
空気人形 2009日本 (監)是枝裕和 (出)ぺ・ドゥナ、ARATA、板尾創路、オダギリジョー、高橋昌也 2009/10/03 シネマライズ 中年男が愛玩する、若い女性の形をした空気人形が、 何故か「心」を持ってしまったことによって訪れる、 ささやかな幸せと、大きな悲しみの物語。 何とも不思議な物悲しさのある、ちょっと哲学的な話だが、 どうも今ひとつ気持ちは入り込めなかった。 中味が空っぽで、しかも何かの代替品に過ぎない存在、 それが現代社会に生きる人々の空虚感に重なって来る。 ただ、現実にはどうにも有り得ない話なので、彼女にも、彼女の真相を知る人々にも、 どうも感情移入し辛かった。 ぺ・ドゥナの独特の風貌(と日本語のぎこちなさ)は、人形役にぴったり。 ホームページ
色即ぜねれいしょん 2009日本 (監)田口トモロヲ (出)渡辺大知、峯田和伸、岸田繁、堀ちえみ、リリー・フランキー、臼田あさ美、石橋杏奈、森岡龍、森田直幸、大杉漣、宮藤官九郎、木村祐一、塩見三省 2009/09/25 シネマックス鴻巣 ◎ '70年代。女の子にもてたい、それだけの不純な目的で、 夏休みに隠岐の島のユースホステルに旅することにした、血気盛んな高校生3人の物語。 私の大好きな類の青春映画で、その時代っぽさも満載。 台詞には下品なところがあっても、映画自体は誠実に丁寧に作られている。 やっていることは(傍から見れば)馬鹿馬鹿しく、しかし当人たちは真剣そのもので、 私自身はあんな風な高校時代を過ごした訳ではないものの、 見ていて胸が熱くなってしまった。 ホームページ
エンプティ・ブルー (EMPTY×BLUE) 2009日本 (監)帆根川廣 (出)秦秀明、長谷川葉生 2009/09/23 シネマテークたかさき ○ 町工場で働く寡黙な男が、毎夜の夢に出て来る女に引き込まれてゆく。 女との語らい中で、彼は安らぎを感じ、次第に夢の中の世界にのめり込むが、 しかし彼女は自分が何者であるか明かそうとせず、 彼はそのことばかり気になるようになってしまう。 現実の世界と夢の中の世界が絡み合う、謎めいたストーリーは、 真相が明らかにされたラストに至ってもなお不思議な謎を残している。 薄汚れた現実場面と、幻想的な夢の場面の対照が見事な、 神秘的な美しさを持った映画。全編群馬県内ロケとのこと。 ホームページ
人生に乾杯! (KONYEC) 2007ハンガリー (監)ガーボル・ロホニ (出)エミル・ケレシュ、テリ・フェルディ、ユディト・シェル、ゾルターン・シュミエド 2009/09/23 シネマテークたかさき ◎ 年金生活に行き詰まった年寄り夫婦が、銀行強盗など犯した挙げ句、 首尾よく逃走を続ける物語。 最初は夫が単独でのビクビクしながらの銀行強盗だったのに、 次第に妻も同行するようになり、しかもちょっと大胆な行動に出たりして、 犯罪の話なのにすっかり応援気分にさせられてしまった。 高齢化社会の問題を直接の背景としながら、重苦しさを吹き飛ばして、 滑稽で、痛快で、ドキドキ、ウルウル、しかも大逆転のラストには実にすっきり気分。 何れにせよ、高齢者にとって世知辛い世の中なのは、ハンガリーでも同じのよう。 ホームページ
プール 2009日本 (監)大森美香 (出)小林聡美、加瀬亮、伽奈、シッティチャイ・コンピラ、もたいまさこ 2009/09/20 シネスイッチ銀座 タイの郊外のコテージを舞台に、自分の思うがままに生きている母と、 それを理解できない娘との、微妙な距離感の物語が展開される。 明らかに『めがね』(→2008/02/27) を意識した映画と思われ、どうしても比較してしまうが、私には期待外れ。 どこか日常生活から切り離された環境のなかで、それぞれの「自由」のあり方を ゆっくりと見出してゆく、その感じは『めがね』と似ていた。 ただ、『めがね』に比べると現実生活の具体が中途半端に割り込んで来るので、 ゆったりと身を委ねることができない。 また、母にとっての「自由」が、どうも単なる身勝手に感じられてしまい、 何だかすっきりしない結末。 ホームページ
キラーヴァージンロード 2009日本 (監)岸谷五朗 (出)上野樹里、木村佳乃、寺脇康文、眞木大輔、小出恵介、田中圭、中尾明慶、高島礼子、北村一輝、北村総一朗 2009/09/13 熊谷シネティアラ21 ○ 結婚式の前日に、故意でなく家主の男を殺してしまった女性が、 遺体を入れたトランクを持ってさまよう内に、自殺願望の女に付きまとわれ、 共にあちこち逃避する、一昼夜の物語。 ストーリーは超現実で滅茶苦茶ながら、幸せの意味や、自分の存在理由について、 主人公たちが見つめ直してゆく物語になっているので、最後の方はちょっと感動的。 と思わせつつ、最後の最後に予期せぬ展開が待ち受けていたとは…。 馬鹿馬鹿しく荒唐無稽だが、かなり面白かった。 上野樹里も木村佳乃も、かなりぶっ飛んだ役柄にすっかり成り切っていて、好感度アップ。 ホームページ
グッド・バッド・ウィアード (The Good, the Bad, the Weird) 2008韓国 (監)キム・ジウン (出)ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ウソン、リュ・スンス 2009/09/06 熊谷シネティアラ21 ○ 日本軍による満州統治時代、宝の埋蔵場所が書かれた(と思しき) 一枚の古地図を巡って、3人の盗賊が、その一味や日本軍までも巻き込んで ド派手な銃撃戦や追跡劇を繰り広げる、 大雑把に言ってしまえばアクション系おバカ映画。 場面はかなり大袈裟で、ちょっと都合良過ぎる展開も多々あったが、 娯楽作と割り切って楽しめるのでよいだろう。 特に砂漠を爆走する大群像など、一頃のインド映画を彷彿とさせるものがあった。 主演の3人の内、特にチョン・ウソンは凄くカッコよく、 ソン・ガンホもいかにも合っていましたが、イ・ビョンホンはちょっと気障すぎか。 ホームページ
クリーン (Clean) 2004フランス=イギリス=カナダ (監)オリヴィエ・アサイヤス (出)マギー・チャン、ニック・ノルティ、ベアトリス・ダル、ジャンヌ・バリバール 2009/09/05 シアター・イメージフォーラム ○ 夫婦してドラッグ漬け(最近どこかで聞いた話のような…)で、夫が中毒死し、 自身も刑務所に入っていた妻が、出獄後、一人息子を引き取るべく、 再起を図ろうとする物語。 自分自身どうしてよいのか分からない四面楚歌の状況下で、 何とか再起のきっかけを掴もうと奮闘する彼女の姿は、痛々しくさえあった。 ただ、何故彼女がドラッグに染まってしまったのか、物語の発端が分からないため、 彼女の気持ちにどうも入り込めない感じ。 しかしそれでも、すべてを受け止めた子供の健気な姿は、なかなか感動的ではあった。 ホームページ
南極料理人 2009日本 (監)沖田修一 (出)堺雅人、生瀬勝久、きたろう、高良健吾、豊原功補、古舘寛治、黒田大輔、小浜正寛 2009/08/30 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ◎ 南極にある観測基地の中で一年以上の歳月を過ごす8人の人間模様を、 料理人の視点から描き出した物語。 閉塞空間で長期間過ごす彼らにとって、日々の食事と言うのが、 どれだけ大きな楽しみであって、大きな心の支えになっているのか、 切実に伝わって来た。 時折振舞われる豪華料理は勿論のこと、シンプルな醤油ラーメンでさえも、 物凄く美味しそうに見えてしまう。 そもそも、昭和基地よりずっと内陸の高地にこんな基地があること自体、 全く知りませんでした。 大袈裟な出来事などなく、ただ淡々と人々の営みが描き出されているのがよいところ。 ホームページ
女の子ものがたり 2009日本 (監)森岡利行 (出)深津絵里、大後寿々花、福士誠治、風吹ジュン、波瑠、高山侑子、森迫永依、板尾創路、奥貫薫 2009/08/29 シネクイント ◎ 三十代後半で漫画家としてスランプに陥っている女性が、 自分が「女の子」だった頃に、友達2人と過ごした海辺の町での日々を回想する。 そこには、楽しかった日々の記憶と共に、 決して甘美でも感傷的でもない、壮絶な衝突と別れの記憶があった。 そして今、もう一度あの町を訪れた彼女は、 自分が本当の友達を持っていたことを、改めて確認するのであった。 深津絵里さんは勿論だが、少女時代を演じた女優さんたちも感情表現が素晴らしく、 もう感涙しきり。 本当に相手を大切に思うが故の、優しさ以上の厳しさが、心に突き刺さるよう。 ホームページ
ぼくとママの黄色い自転車 2009日本 (監)河野圭太 (出)武井証、阿部サダヲ、鈴木京香、西田尚美、甲本雅裕、柄本明、鈴木砂羽、市毛良枝 2009/08/29 新宿バルト9 ○ パリに留学中の母から届く手紙を心待ちにしている小学生の少年。 しかし、母が実はパリではなく小豆島にいるらしいと知った少年は、父には内緒で、 愛犬を連れて、お気に入りの黄色い自転車で横浜から旅に出るのであった。 子供、忠犬、母の手紙、そしてロードムービーと、泣かせる材料は揃っている。 彼に親切にしてくれる人々との出会いも、やや都合良すぎると思いつつ 許せてしまう。瀬戸内海の情景に、さだまさしさんの主題歌が重なるラストシーンは、 実に美しい。 ホームページ
いけちゃんとぼく 2009日本 (監)大岡俊彦 (出)深澤嵐、ともさかりえ、荻原聖人、蓮佛美沙子、吉行和子 2009/08/22 プレビ劇場 ○ 少年の傍にいつもふわふわ漂っていて、しかし少年にしか見えていない、 お化けのような姿をした「いけちゃん」。彼(彼女)に励まされ慰められながら、 弱虫だった少年が大人への一歩を踏み出してゆく物語。 「いけちゃん」は、いかにも漫画的な姿をしていて、言うまでもなく 現実には有り得ない存在である。 しかし、その存在の秘密が明らかになる終盤の展開は、何とも切なくて切なくて、 そして美しくて、大いに泣かされてしまった。 これは、気の遠くなるような長い歳月を見守り続けた、純愛の物語なのであった。 ホームページ
インスタント沼 2009日本 (監)三木聡 (出)麻生久美子、風間杜夫、加瀬亮、松坂慶子 2009/08/22 プレビ劇場 2009/05/31に続いて2度目の劇場鑑賞。 出版社を辞めてしまったジリ貧OLが、実の父親らしき男の妄言に踊らされて、 訳の分からない出来事に巻き込まれてゆく話。 場面場面の隅々まで隙間なく、くだらないギャグで埋め尽くされている。 出来事はかなり馬鹿馬鹿しく荒唐無稽で、 しかし何故か共感させられてしまうのが不思議。 そして最後には、物凄く幸せな気分で心が満たされてしまうのであった。 摩訶不思議なストーリーは勿論、麻生久美子はじめ役者さんたちも、たまらなく好き。 ホームページ
鈍獣 2009日本 (監)細野ひで晃 (出)浅野忠信、北村一輝、ユースケ・サンタマリア、真木よう子、佐津川愛美、南野陽子 2009/08/09 シネマテークたかさき ◎ 子供時代の悪事が暴露されるのを恐れて、その秘密を知る級友を、 あの手この手で殺そうとするものの、 どんな手を尽くしても彼は死なずに戻って来てしまう、と言う超現実な話。 とんでもなく奇抜で、かなり面白かった。 くだらない場面は勿論のこと、笑うに笑えないような場面でさえ笑わせてしまうのが 凄い。しかも、人を殺そうとする話の筈なのに、何だか楽しい気分になってしまう。 ひどい災難に遭わされても、ヘラヘラと笑いながら戻って来てしまう主人公の表情と、 それを見て唖然とする悪友たちの表情の対比は、つい思い出し笑いしてしまいそう。 周到に計算ずくで、徹底的に馬鹿馬鹿しさを追求した物語が、もう最高。 ホームページ
扉をたたく人 (the Visitor) 2007アメリカ (監)トム・マッカーシー (出)リチャード・ジェンキンス/ヒアム・アッバス/ハーズ・スレイマン/ダナイ・グリラ/マリアン・セルデス/リチャード・カインド/マイケル・カンプスティ 2009/08/09 シネマテークたかさき ◎ 偏屈で傲慢な老教授が、留守中の自身のアパートに住み着いていた若い男女を、 つい助けてしまう。ふとしたきっかけで 男からジャンベ(アフリカの太鼓)を習いながら、 彼は次第にこの男女と親しくなってゆくが、しかしある日突然、 男が不法移民として逮捕されてしまった。 彼の必死の働き掛けにも関わらず、事態は悪い方向に進んで行ってしまう。 ストーリーの良さは勿論だが、合奏モノに弱い私には、二人の最初のセッションや、 公園デビューの日や、面会室のカウンターで刻むリズムなどが、感涙モノであった。 彼らに突然降りかかる不幸な運命は、客観的に見れば正当な処遇ながら、 何と冷酷で理不尽な仕打ちなのだろう。 地下鉄ホームでのラストシーンは、歴史に残る名場面とさえ思う。 ホームページ
山形スクリーム 2009日本 (監)竹中直人 (出)成海璃子、紗綾、波瑠、桐谷美玲、AKIRA、マイコ、生瀬勝久、由紀さおり、沢村一樹、竹中直人、温水洋一 2009/08/06 イオンシネマ太田 観光開発を企む村長が、村で代々守られて来た祠を壊したために、 平家の落武者たちが数百年の眠りから覚まして、続々と蘇って出現。 たまたま村を訪れていた女子高生と引率教師の御一行様は、 この珍騒動に巻き込まれ、迫り来る落武者から逃げ回る羽目に陥ってしまう。 基本的にはおバカ映画で、それに奇怪なホラー(馬鹿馬鹿しくも結構怖い)や 叶わなかった悲恋(馬鹿馬鹿しくもちょっと涙)が織り込まれていて、 始終ハイテンションかつ盛り沢山。 ただ、どうせここまで荒唐無稽な話なのだから、 くだらなさをひたすら突き詰めて、もっともっと弾けて欲しかった気もした。 ホームページ
バーダー・マインホフ 理想の果てに (DER BAADER MEINHOF COMPLEX) 2008ドイツ=フランス=チェコ (監)ウリ・エデル (出)ルティナ・ゲデック、モーリッツ・ブライプトロイ、ヨハンナ・ヴォカレク、ブルーノ・ガンツ、アレクサンドラ・マリア・ララ 2009/08/01 シネマライズ ○ 1970年前後のドイツで、社会の変革を求めて立ち上がった若者たち。 彼らを先導するリーダーたちと、それに同調したジャーナリストは、 赤軍グループを結成し、次第に活動を過激化させて行くが、 ついに彼らは収監されてしまう。 しかし、もはや一人歩きと言うよりも集団暴走に至り、 今やテロ集団と化してゆくグループに対して、獄中の彼らはなす術もなく、 じわじわと精神的に追い詰められて行く。 当初は理想を求めて闘っていた筈の彼らの、憔悴し切った痛々しい姿は、 見ていて非常につらいものがある。日本でもそうだが、結果的に見れば、 彼らは自分たち自身を破滅へと追い込んで行ってしまい、 そして彼らの理想とは程遠い方向に、その後の社会は進んで来たように思う。 結末は絶望的で、ひどく疲れた。 ホームページ
サンシャイン・クリーニング (SUNSHINE cleaning) 2008アメリカ (監)クリスティン・ジェフズ (出)エイミー・アダムス、エミリー・ブラント、アラン・アーキン、ジェイソン・スペヴァック 2009/08/01 シネクイント ◎ 富裕家庭の掃除人として生計を立てるシングルマザーの姉と、 教師から問題児扱いされる息子、癇癪持ちで失職した妹、 そして一攫千金を夢見てばかりの老父。 ふとしたきっかけで姉は、犯罪現場の清掃業と言う仕事の存在を知り、 普通の掃除に比べて格段に稼げるとあって、妹を巻き込んで事業に邁進し始める。 これで人生一発逆転かと思いきや、やはり世間はそう甘くはなかったのであった。 何をやってもうまく行かない家族のそれぞれが、逆境にも災難にもめげず、 逞しく生きようとする姿に、ちょっと元気付けられた。 ラストシーンの主人公たちが、何だか格好良く見えて来る。 ホームページ
真夏の夜の夢 (さんかく山のマジルー) 2009日本 (監)中江裕司 (出)柴本幸、蔵下穂波、平良とみ、平良進 2009/07/26 シネマート新宿 沖縄映画。 都会で恋に破れて故郷の島に帰って来た若い女性と、島の精霊・キジムンとが 心を合わせて、押し寄せるリゾート開発の波から自分たちの島を守ろうと奮闘する。 現実には有り得ない、まさに夢物語が続くが、その土台には沖縄に根付いた 素朴かつ確固たる信仰心があり、何だか羨ましいような、 そうあって欲しいと願うような気持ちになってしまう。 現実世界の場面として強力に押し通すにはやや無理がある物語のように思いつつも、 何故かちょっと感動的だったりもした。 ただ残念ながら、同監督による沖縄映画の傑作、 『ナビィの恋』や『ホテルハイビスカス』の水準には遠く及ばない気がした。 ホームページ
セントアンナの奇跡 (MIRACLE AT ST. ANNA) 2008アメリカ (監)スパイク・リー (出)デレク・ルーク、マイケル・イーリー、ラズ・アロンソ、オマー・ベンソン・ミラー、マッテオ・スキアボルディ、ヴェレンティナ・チェルヴィ、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、セルジオ・アルベッリ、ロメオ・アントヌッティ、ルイジ・ロ・カーショ 2009/07/26 TOHOシネマズシャンテ ◎ 現代のアメリカで初老の黒人男性が起こした射殺事件、その背景には、 大戦末期のイタリアで彼が見舞われた悲劇があった。 彼が属していた黒人部隊は、本隊から冷遇され、ナチス軍に取り囲まれ、 ゲリラ兵に翻弄され、住民を巻き込んだ激戦に突入する。 そんな中で彼らは、爆撃下にたまたま救出したイタリア人の少年を、 何とか守り抜こうと努めるのであった。 米軍内での黒人兵の処遇、ゲリラ内の裏切り、ドイツ兵の最後の意外な行動など、 善悪が簡単に片付けられていないのがよい。 英語・イタリア語・ドイツ語がきちんと使い分けられていたのにも好感。 勿論、戦闘場面の迫力と緊張感も十二分。 ただ、いかにも出来過ぎの話ではあり、その感動を大袈裟に押し付け気味な気も少々。 ホームページ
湖のほとりで (LA RAGAZZA DEL LAGO) 2007イタリア (監)アンドレア・モライヨーリ (出)トニ・セルヴィッロ、アンナ・ボナイウート、ヴァレリア・ゴリーノ、オメロ・アントヌッティ 2009/07/25 銀座テアトルシネマ イタリアの山あいの村の湖畔で、若い女性の遺体が発見される。 刑事が村の人々の聞き込みを進めるに従って、 それぞれの家族や交友関係の中にある愛憎の交錯が垣間見えてくる物語。 殺人事件の話なのに、何ともやさしく穏やかな雰囲気。 最終的に犯人が判明するのも、ちょっと拍子抜けなくらい淡々としていて、 しかも悲劇性が希薄。結局、事件の話と言うよりも、 小さな村の中の人間模様の話に帰着してゆく。 ストーリーとしては正直言って期待した程でもなかったが、 映像は確かに詩的で美しかった。 ホームページ
セブンデイズ (SEVENDAYS) 2007韓国 (監)ウォン・シニョン (出)キム・ユンジン、パク・ヒスン、キム・ミスク、ハン・ハンソン、チェ・ミョンス、チョン・ドンファン 2009/07/19 シネマート六本木 ◎ シングルマザーで、有能な若手弁護士。その幼い娘が、 自身も間近にいた学校行事の最中に誘拐されてしまう。 犯人の要求は、死刑判決がほぼ確定している殺人容疑者の弁護を引き受け、 裁判で無実に持ち込むこと。 最終裁判までもう数日しかない中、しかし彼女の孤立無援の奮闘の結果、 事件は思わぬ方向へと転がってゆく。 とにかく凄い緊張感で、状況は二転三転し、先が全く読めず、 まさにドロドロの様相。 それを煽るような映像も音楽も、かなり大袈裟だが、ここではむしろ効果的。 しかも、最後の最後になって、更に新たな劇的な展開を予告して終わってしまう、 何とも巧妙なストーリー。 ホームページ
小三治 2009日本 (監)康宇政 (出)柳家小三治、他 2009/07/17 深谷シネマ ◎ 落語家・柳家小三治の舞台上と舞台裏を取材したドキュメンタリー。 舞台上での軽妙な話芸とは打って変わって、 舞台裏では自身の芸について自問し続ける謙虚な人なのであった。 一つのことを心底から突き詰めようとし続ける一途な姿勢、 人間として進歩しようと新たなことに挑み続ける姿勢には、心から敬意を抱いた。 そして、弟子たちに「何も教えない、ただ背中を見ていればよい」 と言い切れるだけの、圧倒的な信頼感。こう言う人を、人生の先輩と慕いたい。 カメラと向かい合うことから生まれる緊張感に満ちていながらも、 必要以上に主観を交え過ぎない良識ある節度によって、 ドキュメンタリー映画として上質なものに仕上がっている。 ホームページ
ディア・ドクター 2009日本 (監)西川美和 (出)笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、井川遥、香川照之、八千草薫 2009/07/15 ユナイテッド・シネマ浦和 ◎ 田舎の村にとって救世主であった中年医師が、突然失踪してしまう。 驚く同僚の研修医や看護士、慌てる村民たち。 しかし刑事たちの捜査によって、医師の意外な素性が明らかになってゆく。 地域医療や高齢者医療、親子の齟齬、医者と製薬業者、患者の医師への信頼など、 いろいろな問題を絶妙に織り込みながら、 真や偽や善や悪と単純に割り切れない世界を、静かに描き出して行く。 そして、まさかのラストシーンの、何と痛快なことか。 さすが西川監督。何と言うか、天才の仕事と言う感じ。 過去の2作、 「蛇イチゴ」(→2003/09/19)や 「ゆれる」(→2006/08/12)も 大傑作だったが、それらをも上回っている程。 含蓄のあるストーリーは勿論、役者さんたちの演技も、映像的なセンスも、 まさに極め付けで、もう心底満ち足りた気分。 ホームページ
劔岳 点の記 2009日本 (監)木村大作 (出)浅野忠信、香川照之、宮崎あおい、小澤征悦、井川比佐志、國村隼、夏八木勲、松田龍平、仲村トオル、役所広司 2009/07/01 熊谷シネティアラ21 ○ 明治末期、測量のための三角点を設置するために、 前人未到の難関・劔岳への登頂に挑んだ人々の姿が描かれる。 全体に、大時代的な、大仰な映画で、壮大な風景の映像は確かに見もの。 しかし、個々の場面が慌ただしく切り替わってしまい、 じっくり見ている間がないのが、何だか勿体ない。 また、重厚過ぎる音楽(バロック音楽の大袈裟な編曲)は、 バロック音楽狂の私にさえ、いささか耳障りだった。 しかし、陽の目を浴びない所で地道に仕事する人々の崇高な姿と、 その一方ですぐ精神論を振りかざす軍人たちの浅ましい姿など、い かにも新田次郎らしい誠実な着眼が良かった。 終盤の、登頂間近の場面や、最後の測量の場面には、しっかり泣かされてしまった。 もっともこれは、映画の力と言うよりは、原作の力のような気がする。 ホームページ
群青 愛が沈んだ海の色 2009日本 (監)中川陽介 (出)長澤まさみ、福士誠治、良知真次、田中美里、佐々木蔵之介 2009/06/28 熊谷シネティアラ21 ○ 若くして病死した母と、海で急逝した恋人。二つの死を抱えて心を病んだ娘と、 それを見守る父と、幼なじみの青年の、決して解かれることのない自責の念の物語。 悲しきメロドラマかと思いきや、かなり重くシリアスな話で、 取って付けたような「癒し系」沖縄ドラマとは、明らかに一線を画していた。 誰にも悪気はないのに、むしろやさし過ぎる程なのに、 あまりにも残酷な試練に見舞われる彼らの苦悩は、見ていて痛々しいが、 最後に仰ぎ見た空の青に、救いの兆しがあると思いたい。 美しい筈の海の青も、見る人の心模様を映して、様々に違って感じられる。 この表題は言い得て妙。もっとも、私にとって、 沖縄の海として思い浮かべるのはエメラルド・グリーンであって、 群青と聞けばむしろ日本海の印象だが。 ホームページ
愛を読むひと (The Reader) 2008アメリカ=ドイツ (監)スティーヴン・ダルドリー (出)ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ、デヴィッド・クロス、レナ・オリン、ブルーノ・ガンツ 2009/06/28 熊谷シネティアラ21 ○ 市電の車掌を務める女性と、15歳も年下の少年は、偶然に知り合い、 間もなく深い関係に陥るが、しかし突然彼女は姿を消してしまう。 それから十余年を経て、法科学生となった彼は、 意外な状況下で彼女と再会するのであった。 物語の中核をなす、女性の過去とそれを知った青年との長い歳月については、 深く悲しく、まあ感動的。 彼女の結末は、残念ながら他に有り得ない必然の展開のように思う。 ただ、出会ってすぐにベタベタとくっついてしまうのが、どうも私は好きでない (特に今回は、二人の年齢が親子程も離れているので)。 また、紛れもなくドイツが場面のドイツ人の話なのに、会話も手紙も英語なのが、 かなり違和感あり(特に今回は、書かれた文字の問題が物語に密に絡んでいるので)。 ホームページ
スラムドッグ$ミリオネア (Slumdog Millionaire) 2008イギリス (監)ダニー・ボイル (出)デーヴ・パテル、アニル・カプール、イルファン・カーン、マドゥル・ミッタル、フリーダ・ピント 2009/06/19 熊谷シネティアラ21 ○ インドの貧民層の青年がTVのクイズ番組で全問正解して巨額賞金を獲得する話に、 青年の悲しい来歴や、兄弟の愛憎、初恋の女性などの記憶が巡り巡って重なって来る。 ちょっと出来過ぎの話ではあるものの、面白かった。 舞台も登場人物もインドだが、内容的にはまさしくアメリカ映画的。 特にインドが舞台である必要はない気がするが、 かと言って現代日本ではあれほど劇的に(特に貧しさを)演出できないであろう。 エンドロールで突如、インド映画らしい集団ダンス場面が出てくるのが面白い。 ホームページ
ガマの油 2009日本 (監)役所広司 (出)役所広司、瑛太、小林聡美、澤屋敷純一、二階堂ふみ、益岡徹、八千草薫 2009/06/12 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 少年院から出所する友人を迎えに行く途中で交通事故に遭い、 意識不明の重体になった息子。彼の携帯に掛かって来た恋人からの電話に、 父はうっかり息子のふりをして出てしまった。 やがて、ついに息子が死んでしまった後、そのことを父は彼女に伝えられないまま、 息子のふりを続けてしまう。この現在の物語に、 父が子供時代に出会った「ガマの油売り」夫妻の忘れ難い記憶が交錯する。 かなり風変わりな映画で、意外にシリアスで重い物語なのに、 個々の場面はかなり滑稽で、特に決闘場面(?)など馬鹿馬鹿しいほど。 だからこそ、生と死が入り混じった苦しい世界を和らげてくれている。 古楽バンド・タブラトゥーラによる音楽も、よい雰囲気を醸し出していた。 ホームページ
ウルトラミラクルラブストーリー 2009日本 (監)横浜聡子 (出)松山ケンイチ、麻生久美子、ノゾエ征爾、ARATA、藤田弓子、原田芳雄、渡辺美佐子 2009/06/10 シネカノン有楽町2丁目 青森の田舎町。やることなすことどこか外れている純朴な青年が、 東京からやってきた幼稚園の先生の女性に一目惚れ。 ある日、彼はたまたま畑で農薬を浴びてしまったところ、 何故か生まれ変わったような好青年と化してしまう。 自分を「進化」させようと、自ら何度も農薬を浴びる内に、 彼の体には不可思議な変化が訪れるのであった。 彼の純粋なる好意や、それに躊躇する彼女の気持ちは分かり、 つまり紛れもない純愛物語ではある。 しかし、後半の残酷かつシュールな展開はさっぱり不可解で、ついて行けない感じで、 最後の場面など、生理的な不快感さえ覚えた程。 残念ながら私には、この映画の魅力がさっぱり分からない。 この監督の感覚とは相性が合わないのかも知れない。 ホームページ
ハゲタカ 2009日本 (監)大友啓史 (出)大森南朋、玉山鉄二、栗山千明、高良健吾、遠藤憲一、松田龍平、中尾彬、柴田恭兵 2009/06/06 熊谷シネティアラ21 ◎ 投資ファンドによって展開される企業買収の攻防戦に、 金融恐慌や派遣社員などホットな情勢が絡み合って来る、まさに現代の物語。 「金がすべて」の世界の中で、相手の出方を虎視眈々と探りながら、 水面下の駆け引きが繰り返され、巨額のマネーゲームが展開され、 しかしその一方で、登場する人物それぞれには、それぞれの思いや物語がある。 この種の話に疎い私は、細かい出来事の繋がり関係は必ずしもよく分からなかったが、 それでもスリリングな急展開に一気に引き込まれてしまった。 結末には、悲しさと虚しさが漂いながらも、再生への光が見える気もした。 私はTV版を見ていないので比較は出来ないが、映画として充分によく出来ていたと思う。ホームページ
斜陽 2009日本 (監)秋原正俊 (出)佐藤江梨子、伊藤陽佑、温水洋一、高橋ひとみ 2009/06/06 熊谷シネティアラ21 ○ 太宰の原作の場面を現代に移して、原作の引用とイメージ映像を交えながら、 主人公の心の変化を辿ってゆく。 風変わりな映画だが、良く言えば個性的な作品と言える。 大切なものが徐々に失われてゆく心細さが、じわじわと醸し出されていた。 ただ、短い映画で、エピソードが断片的なので、もし小説を全く知らなかったら 筋書きが伝わらない気もした。 上映前に、秋原監督と音楽担当の黒色すみれ (ヴァイオリンとアコーディオンによる女性デュオ)による舞台挨拶があり、 音楽制作時にはまだ映像は全く出来ていなかったこと、 暗い音楽にならないよう意識したこと、 音楽との出会いの結果「音楽劇」として仕上げたこと、 撮影時のエピソードなど、10分ほどの対談だった。 ホームページ
インスタント沼 2009日本 (監)三木聡 (出)麻生久美子、風間杜夫、加瀬亮、松坂慶子 2009/05/31 渋谷HUMAXシネマ ◎ 失職した「ジリ貧OL」が、自分の本当の父親らしき胡散臭い男を探し当てたり、 カッパ探索中の母親が病院に担ぎ込まれたりした辺りから、 何やら奇特な人々に取り囲まれるようになり、 次々と珍妙な出来事に巻き込まれてゆく、脱力感コメディ。 バカバカしい小ネタのギャグで散々笑わせながら、 訳の分からないストーリー展開で見る者を煙に巻き、 まさに晴天に霹靂と言うべき驚愕のクライマックス(?)を経て、 最後には何故かすっきりと感動させられてしまうのであった。 麻生久美子演じる主人公の、底抜けの楽観気質に、元気付けられてしまう。 何より、ここまでくだらないことを、皆がひたすら真剣にやっているのが、 大変よろしい。 ホームページ
おと・な・り 2009日本 (監)熊澤尚人 (出)岡田准一、麻生久美子、谷村美月、岡田義徳、池内博之 2009/05/31 恵比寿ガーデンシネマ ◎ 郊外の古い木造アパートで、隣合わせに住みながら全く面識がない、 写真家の男と、フラワーアレンジメント職の女が、それぞれの人生の紆余曲折を経て、 意外な接点からようやく巡り会うまでの日々が、淡々と描かる、 ほんわか系の恋の予感の物語。 互いに姿は見えなくても、「音」から生活の気配を感じる、その距離感がよろしい。 時に慰められたり、時に苛立たせられたりしながら、いつの間にか互いの存在が 生活の一部となっているのであった。 ストーリー的にはやや都合良すぎる所はあるものの、 会いそうでいて、なかなか会わない、すれ違いのもどかしさが、 私にはたまらなく良かった。情景の美しさも文字通り花を添えている。 ホームページ
重力ピエロ 2009日本 (監)森淳一 (出)加瀬亮、岡田将生、小日向文世、吉高由里子、岡田義徳、渡部篤郎、鈴木京香 2009/05/27 熊谷シネティアラ21 ○ 連続放火事件の現場と、壁の落書き、その相関関係に気付いた兄弟と、 彼ら家族の抱えた重い過去からの解放の物語。 当初は一見サスペンスもののようで、徐々に謎を深めながらも、 予想外の急転回によって、家族の絆の話へと推移して行く。 この壮絶と言うべき家族の姿と、それを包み込む父親の無限の包容力には、感動あり。 家族と言うのは、意志を以て作り上げてゆくものなのだな、 世の中の幾多の家族は多かれ少なかれ見えない所でそれを遂行しているのだな、 と(それが出来ない私には改めて)凄いことに思えた。 ただ、謎解きの役割がある登場人物に都合よく委ねられているのが少々安易で、 遺伝子云々のエピソードも複雑さを衒っているだけのようで、 期待した程には話の奥行きはなかった。 ホームページ
ニセ札 2009日本 (監)木村祐一 (出)倍賞美津子、木村祐一、段田安則、村上淳、板倉俊之、青木崇高、三浦誠己、西方凌 2009/05/24 シネマテークたかさき ○ 戦後の混乱期の田舎町で、集団でニセ札作りに奮闘した人々の顛末を描いたコメディ。 ニセ札作りを思い付いた小賢しい商売人の男が、 村で名高い名士に話を持ち掛けたところ、 意外なことに村の有力者たちを巻き込んで話がまとまってしまう。 それぞれの得意分野で協業し、刻々と準備を進める内に、 いつの間にか貧しい村の人々の夢と希望をも巻き込んで、 事が大きくなってしまうのであった。 ストーリー自体はかなり面白く、しかも予想外の展開も待っている。 「お金」と言うものについての議論の応酬は、痛快でさえあった。 ただ、やや物語が駆け足で過ぎ去ってしまい、 各自の気持ちの変化や、偽造のプロセスについて、もう少しじっくりと 踏み込んで欲しかった気がする。 ホームページ
遭難フリーター 2007日本 (監)岩淵弘樹 (出)岩淵弘樹 2009/05/24 シネマテークたかさき 大卒23歳、平日は契約社員で工場勤務、休日は日雇いアルバイト、と言う 監督ご本人が、自身の1年間の苦境と苦悩を一人称で映し出したドキュメンタリー。 正直言って、共感できる部分と共感できない部分とがあった。 彼自身の社会的に苦しい立場に追い込まれた状況や、 その背景にある社会構造の歪みについては、当人の実感として切実に伝わって来た。 何かがおかしい、それは確かだろう。 しかし、やりたい仕事とか、楽しい仕事とか、昇給の希望とか、 そんなことは正社員だって思い通りに行く筈がなく、 どうも今の現実が見据えられていない気がして、ちょっと自分自身に甘いとも思った。 もっともそのことは、監督ご自身も重々承知とは思う。 ホームページ
フロスト×ニクソン (FROST/NIXON) 2008アメリカ (監)ロン・ハワード (出)フランク・ランジェラ、マイケル・シーン、ケビン・ベーコン、レベッカ・ホール 2009/05/24 シネマテークたかさき ◎ 失脚後も政界復帰を狙うニクソン元大統領に、彼の罪を追及すべく テレビ司会者フロストが果敢にインタビューに挑む。 自身の命運を賭して挑むフロストだが、自信満々に堂々と弁舌を揮うニクソンに、 タジタジの様相。残されたインタビュー時間が少なくなる中で、 フロストは劣勢を払拭すべく、最後の賭けに出る。 対話の駆け引きが知的でスリリングで、 ジャーナリストの仕事の大きさと重要性を感じた。 フロストがこうして重要な発言を公衆の面前で引き出したことによって、 もしかしたら歴史の流れの一部が変わったのかも知れない。 対決する両人とも、かなりの切れ者であり、巧妙な策士でもあって、 しかもどちらの陣営にも優秀なブレインが控えていて、表向きには1対1でも、 その実は集団対集団の頭脳勝負なのだと知った。 フロストは勿論、ニクソンについても、内なる苦悩がじっくりと描き出されていて、 単純に善悪を断定していないのがよい。 ホームページ
子供の情景 (Buddha Collapsed Out of Shame) 2007イラン=フランス (監)ハナ・マフマルバフ (出)ニクバクト・ノルーズ、アッバス・アリジョメ 2009/05/15 岩波ホール ◎ 爆破された石仏も目の前にあるアフガニスタンで、 学校に行きたい一心の女の子が見舞われる災難な一日の出来事。 貧しい家の子が、更には女の子が、学校に行くと言うことは、絶望的に困難である。 そのことを、主人公自身も、観ている我々も、残酷なまでに思い知らされる。 それ以上に恐ろしいのは、子供たちの「タリバンごっこ」や「処刑ごっこ」 のことだろう。単なる男の子たちの遊びと片付けられない、 事態の根の深さを認識させられ、気が重くなった。 主演の女の子は、天才的な演技で、本人そのものの存在としか思えない程。 やや短い(80分)ながら、言いたいことがしっかりと伝わって来る、内容の濃い映画。 ホームページ
アライブ 生還者 (STRANDED - I'VE COME FROM A PLANE THAT CRASHED ON THE MOUNTAINS) 2007フランス (監)ゴンサロ・アリホン (出)ナンド・パラード、ロベルト・カネッサ、エドゥアルド・ストラウチ、アドルフォ・ストラウチ、ダニエル・フェルナンデス、グスタボ・セルビーノ、カルリトス・パエス、アントニオ・ビシンティン 2009/05/15 ヒューマントラストシネマ渋谷 ◎ 1972年10月に、アンデスの雪深い山中にウルグアイ空軍機が墜落し、 捜索も打ち切られ、しかし72日後に一部の乗客が生還した 奇跡的な事件についてのドキュメンタリー。 生還者たち本人へのインタビュー、現地の今の映像、当時のニュース映像、 加えて一部は再現イメージで構成されている。 この事件のことは何かの本で読んで知ってはいたのだが、 そもそもこんなに最近の出来事だったとは認識していなかった。 本人たちの語る極限状況の壮絶さは、物凄い重みがあり、 生き抜くために彼らが採った苦渋の行為と、その勇気には、感動さえ覚えた。 事実を語れる証人が生き残ってくれて本当に良かったと、改めて思う。 ホームページ
チェイサー (THE CHASER / 追撃者) 2008韓国 (監)ナ・ホンジン (出)キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ソ・ヨンヒ、キム・ユジョン、チョン・インギ、チェ・ジョンウ 2009/05/06 109シネマズ高崎 ◎ 売春婦の惨殺事件をめぐって、女性を遣わした元締めの男による執念の犯人追跡の物語。 無理を強いて働かせた女性が音信不通になり、異変を察知した男は、 偶然が幸いして犯人を捕らえたのに、証拠不十分として警察は犯人を釈放してしまう。 それでも男が執拗に犯人を追跡している間に、新たな悲劇が引き起こされる。 あまりにも強烈過ぎて、ひたすら身がすくむ思い。 絶体絶命の緊迫感が持続し、もう息苦しい程。 頻出する残虐な場面は、正視に耐えない感じ。 にも関わらず、何ともやり切れない結末には、深い余韻が残った。 ホームページ
愛のむきだし 2008日本 (監)園子温 (出)西島隆弘、満島ひかり、安藤サクラ、渡部篤郎、渡辺真起子 2009/05/06 シネマテークたかさき 神父である父親への懺悔のネタのために敢えて罪を冒そうとする男子生徒と、 彼が自分にとって唯一無二の聖母だと思い込んだところの女子学生、 そして彼の一家をカルト教団へと誘い込もうと急接近する女性、 この3人の愛憎が交錯する。 約4時間の超大作だが、少なくとも全く退屈はしなかった。 但し、かなりヘンタイ系の映画で、盗撮テクニックや欲情の場面など、 かなり馬鹿馬鹿しく下品。 また、宗教や信仰心に対する扱い方はやや不謹慎。 そもそも、何でこんなに長尺にする必要があったのか、よく分からない。 ただ、こんな大袈裟な話が実話に基づいていると言うのがかなり意外で、 どの部分が実話でどの部分が創作なのか気になるところ。 何れにせよ、最終的にこれが一種の純愛物語になってるのが不思議。 ホームページ
風の馬 (WINDHORSE) 1998アメリカ (監)ポール・ワーグナー (出)ダドゥン、ジャンパ・ケルサン、リチャード・チャン、テイジェ・シルバーマン 2009/05/04 アップリンクX ◎ 中国政府による思想監視下にあるチベット。 街路で自由解放を叫んだ従妹の尼僧が投獄され、やがて瀕死の体で返された。 それまで政治的行動から距離を置いていた無職の兄と歌手志望の妹であったが、 この暴虐の実態を世に知らしめるべく、信頼する友人の助けを借りて、 危険な賭けに出ようとする。 実話に基づく物語で、しかもチベットの現地で監視の目を掻い潜って 撮影が決行されたもので、そのせいた映像には緊張感が漲っている。 チベットの人々が、日々このような統制(と言うより迫害)の下に置かれていて、 時には虐殺されたり亡命を余儀なくされたりしている、 その実態を生々しく伝えてくれる映画。 ホームページ
アンティーク 西洋骨董洋菓子店 (ANTIQUE) 2008韓国 (監)ミン・ギュドン (出)チュ・ジフン、キム・ジェウク、ユ・アイン、チェ・ジホ、ジャン=バティスト・エヴァン、アンディー・ジレ、キム・チャンワン、イ・フィヒャン、ナム・ミョンリョル 2009/05/04 シネカノン有楽町1丁目 ケーキ嫌いなのに何故か洋菓子店を始めた主人公と、 そこで働く旧友の天才パティシエと、 一癖ある従業員たちが織り成す一騒動に、 主人公が子供時代に見舞われた誘拐事件の暗い影が忍び寄って来る。 コメディとしては今ひとつ笑えず、ミステリーとしては大した展開がなく、 かと言ってホラーと言う訳でもなく、何だか中途半端な印象。 演出も大袈裟で安っぽいところがあり、正直言って私には期待外れの作品。 ただ、次々と登場する高級ケーキの数々は、極めて美味しそうで、 甘党の私には、ひたすら羨ましい限りの光景であった。 ホームページ
グラン・トリノ (GRAN TORINO) 2008アメリカ (監)クリント・イーストウッド (出)クリント・イーストウッド、ビー・バン、アーニー・ハー、クリストファー・カーリー、コリー・ハードリクト、ブライアン・ヘーリー 2009/04/25 熊谷シネティアラ21 ◎ 偏屈で口が悪く、しかも人種的偏見まで持っている独居老人。 隣に引っ越して来たアジア系移民の一家についても、当初は毛嫌いし、 悪態ばかりついている有様。 しかし、隣家を巡るいくつかの事件をきっかけに、 一家に対して徐々に親しみを感じるようになるばかりか、 その家の気弱な息子を自立させるべく手を貸すようになる。 そのことが、やがて自身の運命に大きな変化をもたらすことになってゆく。 人種差別や、身内への嫌みや、教会への侮蔑など、不愉快極まりなく思える 発言の数々が、結局はすべて物語の深みへと繋がっている。 物語の展開には何度も予想を裏切られ、 すべてが繋がったラストシーンでは圧倒的な感動に満たされた。 全く隙のない完成度の傑作。 ホームページ
buy a suit スーツを買う 2008日本 (監)市川準 (出)砂原由起子 2009/04/12 第23回高崎映画祭 ○ 市川準監督の遺作となってしまった、47分の短い映画。 監督らしい叙情性と残酷さが同居する、難解な映画であった。 行方不明だった兄からの手紙の住所を頼りに、大阪から東京にやって来た妹。 兄には運良く再会できたものの、その凋落ぶりを見かねた妹は、 兄が元の妻とよりを戻すよう差し向ける。 予想もしなかった唐突な結末には、呆然とさせられた。 一度失ったものは、もう本当には取り戻すことができない、 そしてそれに気付くのはいつも後になってから。 一瞬先さえどうなっているか分からない、運命の残酷さを感じた。 なお、これが今年の高崎映画祭の最終上映作品。 ホームページ
永遠のこどもたち (El Orfanato) 2007スペイン=メキシコ (監)J・A・バヨナ (出)ベレン・ルエダ 2009/04/12 第23回高崎映画祭 ○ 自分が育った孤児院の古い屋敷を買い取って、自らも孤児院を始めようとする女性。 しかし家族で入居した直後から、屋敷には不可解な気配が漂い、 奇妙な言動を繰り返していた息子はついに行方不明になってしまう。 半狂乱で手掛かりを探す女性に、謎めいた出来事が続々と降りかかるのであった。 とにかく不気味で、殆どホラー映画のよう。 古い洋館の暗闇で次々と起こる訳の分からない出来事は、もう怖くて怖くて、 この種の映画が苦手な臆病な私には少々きつ過ぎた。 最後は行き着くべき所に行き着いて終わるのだが、 これを定められた運命と言ってしまってよいのだろうか。 そうだとすれば、何と言う悲劇であろうか。 ホームページ
BOY A 2007イギリス (監)ジョン・クローリー (出)アンドリュー・ガーフィールド 2009/04/12 第23回高崎映画祭 ◎ 少年時代に犯した殺人の刑期を終え、今や心を入れ替え、 名前も変えて社会に出た青年が、ようやく仕事にも慣れ恋人も出来た頃から、 自分の「過去」の重みに押し潰されてゆく。 非常に重く深く、我々に問い掛けるような傑作。 主人公の立場で物語が描かれている以上、非情な運命に見舞われる彼には 同情を禁じ得ない。しかし、実際に自分がこの様な場に置かれたとしたら、 この周囲の人々と同じような反応を取ることはないと、誰が言えようか。 ホームページ
映画は映画だ (ROUGH CUT) 2008韓国 (監)チャン・フン (出)ソ・ジソブ、カン・ジファン、ホン・スヒョン、コ・チャンソク、ソン・ヨンテ、チャン・ヒジン 2009/04/10 シネマスクエアとうきゅう ◎ 粗暴さ故に共演者に逃げられた映画俳優が、たまたま知り合った本物のヤクザ男を、 共演相手として映画撮影に誘う。両人は互いのプライドを賭けて挑発し合う内に、 演技と本気の境界線を越えた闘いへと踏み込んでしまうのであった。 劇中劇と現実が交錯する濃密なストーリー展開には、ハラハラと緊張させられっ放しで、 しかも思わず泣かされてしまう場面もあり、更に最後には呆然とさせられてしまった。 主演のカン・ジファンとソ・ジソブの二人の入り込み様は凄まじく、 しかも格好良すぎ。 韓国映画らしい大袈裟なアクションも、ここでは全て魅力的に思えてしまう。 キム・ギドクが制作に関わっているが、なるほど確かにこれは 氏の初期作品の雰囲気にどこか似ている。 ホームページ
六ヶ所村ラプソディー 2006日本 (監)]鎌仲ひとみ 2009/04/10 シネマート六本木 ○ 核燃料再処理工場が建設され、間もなく稼動し始めようとする、 青森県・六ヶ所村の人々を取材したドキュメンタリー。 『大丈夫であるように』(→2009/03/20)の中で、 Coccoが六ヶ所村を訪れた衝撃を語っているのを聞き、 自分の無関心さが恥ずかしく思えて来て、遅まきながらこの映画を観る機会を得た。 反対派、賛成派(容認派)、双方の意見を丁寧に採り上げながら、 これが我々自身に密着した問題であることを痛烈に突き付けてくる。 稼動すれば汚染物質は確実に拡散する、しかし稼動しなければ地域に仕事はない。 究極的にはエネルギー消費を劇的に減らすしかない、 しかし昔のような生活水準に戻せる訳もない。 本当に、究極の答えなど見出しようがない状況に置かれた我々は、 もはやどうしたらよいのだろうか。 「中立」は賛成と同じ、と言う指摘が、私には痛い。「無関心」も同じかも知れない。 ホームページ
ラッシュライフ 2008日本 (監)西野真伊、真利子哲也、遠山智子、野原位 (出)柄本佑、堺雅人、寺島しのぶ、板尾創路 2009/04/04 第23回高崎映画祭 ◎ 高崎映画祭の若手監督特集の4本目。 東京芸大院生4人の監督による、4つの物語からなるオムニバスで、 今回が初上映とのこと。 カルト教団にはまってバラバラ殺人に加担する青年『河原崎』、 プロとしての誇りを持つ気高い泥棒『黒澤』、 不倫相手の妻を殺そうと決意する女『京子』、 リストラされ家族を失い自暴自棄に陥った男『豊田』。 この4人の物語が、少しずつ重なり合い、少しずつすれ違いながら、 濃密な一日が過ぎてゆく。 かなりグロテスクな場面もあるが、一つ一つの物語が際立っていて印象的で、 かなり面白い映画に仕上がっていた。主演の堺・寺島・板尾を始めとした 役者陣の存在感に助けられているのは確かだが、 学生監督なのによくぞこれだけのものを作り上げたもので、大いに拍手を送りたい気分。 ホームページ
PASSION 2008日本 (監)濱口竜介 (出)河井青葉 2009/04/04 第23回高崎映画祭 ○ 高崎映画祭の若手監督特集の3本目。 20代終わりに差し掛かった学生時代の友人たちの、入り乱れる恋愛模様を描いた群像劇。 結婚を間近に控えた男女や、もうすぐ子供が産まれる夫婦や、その友人たちが、 過去の浮気関係を巡って激突した挙げ句、予想もしなかった崩壊へと導かれてゆく。 頭では善悪を分かってはいても、どうにも制御できない恋愛感情。 突き進みたい衝動と、それに抗う理性。 あまりにも身勝手に思える彼ら彼女らの振る舞いにはついて行けない気がしたが、 しかし気持ちは分からないでもなかった。 交わされる観念的な対話には、キリキリとした緊張感が漂っていた。 ホームページ
夕映え少女 2007日本 (監)山田咲、瀬田なつき、吉田雄一郎、船曳真珠 (出)吉高由里子、山田麻衣子、波瑠、田口トモロヲ 2009/04/04 第23回高崎映画祭 高崎映画祭の若手監督特集の2本目。 東京芸大の院生4人が監督した4本の短篇映画からなるオムニバス。 原作は川端康成の短編で、完全に独立した4つの短編映画(の連続上映)。 想いを寄せた男の悲惨な死を踏まえて歩き出す女性の『イタリアの歌』、 自分の親友へと心を移してゆく恋人の心模様を受け入れる『むすめごころ』、 賑わう浅草の町で粋な三姉妹が支え合う『浅草の姉妹』、 絵画に描かれた美しい少女の悲しい運命『夕映え少女』。 詩情ある悲劇から人情活劇まで、一つ一つの変化に富んだ作品からは、 若い監督の実験的な意欲が感じられた。 ただ、4作の傾向があまりにもバラバラで、何の統一感もないので、 これら全体で一つの映画と言うのは無理がある。 せめて何か一つでも、全体を貫く要素があればよかったのに、と思う。 ホームページ
国道20号線 2007日本 (監)富田克也 (出)伊藤仁 2009/04/04 第23回高崎映画祭 ○ 高崎映画祭の若手監督特集の1本目。 急激に変化しつつある地方都市の歪みと、 それに飲み込まれてゆく底辺の若者たちの姿を描いた、 決して万人向けではない強烈な映画。 パチンコ屋通いでダラダラと暮らす若い男女。 こんな生活でよい筈がないと内心では感じつつも、 男も女ももはや脱却の手掛かりさえない。 そんな中で男に、昔の友人から何やら胡散臭そうな商売の話が舞い込む。 くどい程に映し出される、国道沿いに林立する 消費者金融とパチンコ屋とラブホテルの看板が、 この街に押し寄せた「発展」の不自然さを象徴しているよう。 あまりにも堕落した主人公たちに決して共感は覚えないが、 しかしこれが自分にとってそう遠い世界ではない、 と言うよりもすぐ隣にある現実なのは確か。 ホームページ
昴―スバル― 2009日本 (監)リー・チーガイ (出)黒木メイサ、Ara、平岡祐太、佐野光来、前田健、映美くらら、愛華みれ、周潔、筧利夫、桃井かおり 2009/04/02 熊谷シネティアラ21 幼少時に母や弟を喪った不幸を乗り越え、場末のダンス小屋で叩き上げられ、 時に思い上がり、時に自信を喪失し、 苦しみながらもついにプロとして大成してゆくバレエ・ダンサーと、 彼女を支える家族や師やライバルたちの物語。 ストーリー自体はいかにもと言う感じで、 台詞はやや棒読み調で(監督の母語でないせいかも)、 演出は大袈裟でやや安っぽい所があった。 しかし、バレエ(古典や現代)のステージ場面は、美しく、躍動的で、情念が漲っていて、 なかなか見事で、主演の黒木メイサはよくやったものと思う。 ホームページ
ホノカアボーイ (Honolaa boy) 2009日本 (監)真田敦 (出)岡田将生、倍賞千恵子、長谷川潤、喜味こいし、正司照枝、松坂慶子、蒼井優、深津絵里 2009/03/28 池袋テアトルダイヤ ハワイの日系人が多い田舎町で、ふらり訪れてそこで働くことにした青年と、 長年この街に住まう老婆との、「微妙な」関係の物語。 静かな田舎町の映画館で助手としての仕事を得た日本人青年は、 たまたま一人暮らしの日系人の老婆と知り合い、彼女の善意に甘えて、 彼は彼女の手製の夕食を毎日頂くことになる。 しかし、彼に若い恋人が出来た時、老婆の心にゆらぎが生じてしまう。 歳は老いても心は老いない、そんな人々へのささやかな讃歌なのだと思う。 しかし正直言って私には、この老婆の心境がどうも理解出来ず、 今ひとつ気持ちが入り込めないで終わってしまった。 寓話めかした結末も、何だか気が抜けた感じ。 もしかしたら、自分ももう少し老いれば、良さが分かるのだろうか。 やや寂れた街の雰囲気や、綺麗な海の情景など、映像的には良かった。 ホームページ
大丈夫であるように ―Cocco 終らない旅― 2008日本 (監)是枝裕和 (出)Cocco、長田進、木村達身、高桑圭、椎野恭一、堀江博久 2009/03/20 シネマテークたかさき ○ 沖縄出身のミュージシャンCoccoの歌う旅に密着したドキュメンタリー。 自身のルーツである沖縄の置かれた苦しみを踏まえて、彼女は あえて青森の六ヶ所村や、広島の原爆ドーム、神戸の被災地などの悲しみの地を訪れ、 その悲しみを自分自身のこととして受け止めようとする。 そんな中で、まるで想いが湧き出すように歌が生み出されてゆく、 その過程に立ち会わせてもらえることを有り難く思う。 あらゆる想像力を駆使して相手の悲しみ苦しみと向かい合い、 自身をどこまでも追い詰めていくような彼女の生き方は、もう痛々しい限り。しかも、 看過できない悲しみがある限り、彼女がこの生き方を変えることはないだろう。 繊細過ぎる彼女がこの先これで耐え抜いて行けるのか、心配な気がした。 是枝監督がこの人を撮ろうとしたのが、よく分かる気がした。 ホームページ
大阪ハムレット 2008日本 (監)光石富士朗 (出)松坂慶子、岸部一徳、森田直幸、久野雅弘、大塚智哉、加藤夏希、白川和子、本上まなみ、間寛平 2009/03/20 シネマテークたかさき ◎ 高校生・中学生・小学生の3人の息子と、肝っ玉系の母親と、 父の急逝後なぜか同居している叔父さん、このちょっと変わった家族の人情物語。 長男は年上のファザコン女性に恋焦がれ、次男はチョイ悪で学校でも喧嘩ばかり、 三男は「女の子になりたい」本音を表明し、叔父さんは定職を得られず、 男連中は皆揃って問題あり。それでも母は、たくましく水商売で一家を支えてゆく。 それぞれが悩みを抱え、時には衝突しながらも、心の芯では信頼し合い、 強く支え合っている。この関西的とも思える濃密な家族関係を、 心底羨ましく思った。もっとも、これとは程遠い環境で生きてきた私には、 実際には耐え難い関係なのかも知れない。 ラスト(と思われた)の場面で体育館に揃った家族の姿には、 どうしようもなく泣かされてしまい、しかも(予想外にもまだ続いた)後日談が、 すかっとした気分にさせてくれた。 ホームページ
花の生涯 梅蘭芳 (梅蘭芳 / Forever Enthralled) 2008中国 (監)チェン・カイコー (出)レオン・ライ、チャン・ツィイー、スン・ホンレイ、チェン・ホン、安藤政信 2009/03/14 新宿ピカデリー ○ 不世出の京劇(女形)俳優・梅蘭芳(メイランファン)の実話。 京劇の厳しさを教えた伯父、伝統を重んじる恩師、京劇の革新を是とする義兄弟、 拘束を強める妻、想いを寄せた京劇(男形)女優、そして侵攻して来る日本軍。 様々な苦難に翻弄されながらも、京劇俳優として強く生き抜く姿が、 敬意を持って描き出されている。 起伏の多い生涯のエピソードを沢山盛り込もうとしたために、 やや詰め込み過ぎで慌ただしい印象。特に映画の後半の成年以降は、 ひたすら波乱の展開に終始するので、何となく息苦しさを感じた。 一方で、前半の青年時代には、京劇の見せ場が沢山あり、 華やかさの裏にある悲しみが伝わって来て、実に良かった。 ホームページ
ラースと、その彼女 (LARS AND THE REAL GIRL) 2007アメリカ (監)クレイグ・ギレスビー (出)ライアン・ゴズリング、エミリー・モーティマー、パトリシア・クラークソン、ケリ・ガーナー 2009/03/07 シネマテークたかさき ◎ 人付き合いが苦手な内気な青年が、ある日「彼女」として紹介したのは、 ネットで出会ったと言う「等身大のリアル・ドール」。 兄夫婦を始め町の人々は、どう接してよいのか戸惑うばかりだったが、 やがて「二人」を受け入れようとする中で、彼自身も、周囲の人々も、 少しずつ変わってゆく。何と温かな物語なのだろう。 一見すると現実には有り得ないような状況設定なのだが、 この事態に真剣に向かい合おうとする人々の姿に、 この青年への深い深い愛が感じられて、 それが奇跡のような内面の変化をもたらしてゆくす様子に、 大いに泣かされてしまった。 ホームページ
バンク・ジョブ (THE BANK JOB) 2008イギリス (監)ロジャー・ドナルドソン (出)ジェイソン・ステイサム、サフロン・バロウズ、リチャード・リンターン 2009/03/07 シネマテークたかさき ◎ 寄せ集めの強盗団が、銀行の地下金庫の強盗に成功。しかし、 盗み出したモノの中には、幸か不幸か、王室や大臣たちのスキャンダル写真や、 警察の裏取引の記録など、とんでもない代物が含まれていた。 政府も警察もそれぞれ、これらが表沙汰になることを恐れ、 犯人グループへの接触を試みようとする。 とにかく息をつく暇もない程のスリリングな展開。偶然の幸運と不運によって、 事態は予測不能の展開を見せ、利害を異にする立場の人々が まさに命懸けの駆け引きに追われ、ドロドロの様相を呈して来る。 犯人たちがやっていることは紛れもない悪事だが、警察も、政府も、慈善家も、 それぞれ相当に汚いやり方をしているので、見ている我々はどうしても 犯人たちの肩を持ちたくなってしまう。 これが実際にあった事件で、エピソード自体は実話通りと言うのが驚き。 ホームページ
カフーを待ちわびて 2009日本 (監)中井庸友 (出)玉山鉄二、マイコ、勝地涼、尚玄、白石美帆、高岡早紀、沢村一樹 2009/03/01 熊谷シネティアラ21 ○ リゾート開発の誘致の是非を巡って住民たちが揺れている、沖縄の離島。 そんな中、島で小さな商店を営む青年が、訪れた内地の神社で絵馬に「嫁に来ないか」 と何気なく書いておいたところ、信じ難いことに、 本当に一人の女性が彼を訪ねて島にやって来た。 嬉しく思いつつも戸惑う彼だが、実は彼女はまだ言えない秘密を抱えていた。 てっきり夢物語みたいなものかと想像していたが、実際には 「家族」や「幸せ」を巡っての切ない物語であった。 話は確かに偶然性に頼っているものの、あながち絵空事とも言えない展開を見せ、 しかも話の土台には沖縄の置かれている厳しい現実がはっきりと敷かれている。 映し出される海の風景は、さすがに美しく、自分が訪れた時の記憶が脳裏に蘇った。 ホームページ
シリアの花嫁 (The Syrian Bride) 2004イスラエル=フランス=ドイツ (監)エラン・リクリス (出)ヒアム・アッバス、アクラム・J・フーリ、クララ・フーリ、アシュラフ・バルホウム、エヤド・シェティ 2009/02/26 岩波ホール ◎ イスラエル占領地からシリアへと嫁ぐ女性とその家族の、長い長い一日の物語。 一度「境界線」を越えたらもう二度と戻ることはできない、悲壮な決意を以て 結婚当日を迎えた花嫁だが、久し振りに集まった家族はギクシャクしたままで、 しかも事務手続きに難癖を付けられて境界ゲートの前で足止めを食らってしまう。 このような問題が生じる国の事情はよく分からなかったが、 この訳の分からない「複雑さ」の存在を知ることだけでも映画としては充分だろう。 事態に翻弄される家族の悲哀がジワジワと胸に迫り、 ラストシーンの一歩一歩の重みにはグッと感動が込み上げて来た。 ホームページ
チェンジリング (CHANGELING) 2009アメリカ (監)クリント・イーストウッド (出)アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ、ジェフリー・ドノヴァン、コルム・フィオール、ジェイソン・バトラー・ハーナー 2009/02/22 イオンシネマ太田 ◎ 仕事で家を空けている間に、いなくなってしまった幼い息子。 母親の必死の捜索も空しく、息子の行方は分からないまま、数ヵ月後、 息子が発見されたの連絡が。しかしそこに居たのは、明らかに息子とは別の子供で、 しかし警察は勿論、本人さえ自分が「息子」であると言い張っている。 半狂乱の母親は、これが息子でないことを主張するものの、 警察はそれを受け入れようとしないばかりか、 ついに彼女を捕らえて収監してしまう。 その後の話も決して単純ではなく、予期せぬ劇的な展開が待ち受けていて、 これが実話だと言うのは本当に驚くべきこと。 警察が味方するのは、自分たち即ち権力側であって、市民ではない。 これは古今東西何処も同じことのようで、そんな中で 自らの力で徐々に事態を打破しようと進んでゆく、孤立無援の母親の姿には、 強く胸を揺さぶられた。 ホームページ
ハルフウェイ 2009日本 (監)北川悦吏子 (出)北乃きい、岡田将生、溝端淳平、仲里依紗、成宮寛貴、白石美帆、大沢たかお 2009/02/21 熊谷シネティアラ21 ○ 北海道の高校を舞台にした、爽やかな恋の物語。 念願叶って憧れの男の子と付き合い始めた女の子。 しかし、彼が実は東京の大学を目指していることを (しかも本人からでなく友人を通して)聞いた彼女は、 激怒して、今後の自分との関係をどう考えているのかと、彼を追い詰めてしまう。 まあ言ってしまえば他愛もない話なのだが、彼女の切実な気持ちは凄く分かり、 更に彼の心境もよく分かってしまうので、自分でもどうしてよいのやら分からず、 切ない気分にさせられた。 また、大沢たかお演じる書道教師の、さり気なくしかし鋭い言葉が印象深い。 なお、主人公の名前が「紺野ヒロ」で、私の名前と重なっているので、 ちょっとだけポイントアップ。 ホームページ
少年メリケンサック 2009日本 (監)宮藤官九郎 (出)宮崎あおい、佐藤浩市、木村祐一、田口トモロヲ、三宅弘城、ユースケ・サンタマリア 2009/02/21 熊谷シネティアラ21 ○ 過激なパンク・バンドのネット映像に目を付けた音楽事務所の契約社員が、 このバンドを発掘して売り込むこと。しかし実は、これは25年前の映像で、 今やメンバーは冴えない中年オヤジと化していて、バンドどころのではない状態。 しかし話は勝手に進んでしまい、既に全国ツアーさえ決まってしまっている始末。 どうなることかとハラハラさせながらも、笑いのツボは万全に押さえられている。 こんな騒々しい音楽は大嫌いな私なのに、いつの間にか気持ちは彼らに入れ込んで しまい、ライブ場面では不思議に感動してしまった。 ひたすらハイテンションなドタバタ系コメディ。 ホームページ
懺悔 (Repentance) 1984ソヴィエト(グルジア) (監)テンギズ・アブラゼ (出)アフタンディル・マハラゼ、イア・ニニゼ、メラブ・ニニゼ、ケテヴァン・アブラゼ 2009/02/11 岩波ホール ○ 独裁者による大粛正の悲劇と、それがあっと言う間に忘れられてゆくことの怖さ。 「偉大な男」と称される旧市長の葬儀が済んで間もなく、彼の遺体が盗掘されて 目立つところに放置されると言うグロテスクな事件が連続。 やがて犯人は逮捕されるが、彼女の証言から、数十年前、 彼が市長だった頃に行ってきた無差別な投獄や虐殺の実態が露にされてゆく。 そのことは、市長の家族、特に何も知らなかった孫に致命的な衝撃を与えるのであった。 迫害された人々は勿論、加担した市長自身や、直接の関係はないその子孫までもが、 深い苦しみに見舞われていて、 決して単純な善悪で物事を片付けようとしていないのが実によい。 やや古い(25年前の)映画だが、わざわざ今になって岩波ホールが採り上げたのも 分かる気がする名作。 ホームページ
悲夢 (非夢) 2008韓国 (監)キム・ギドク (出)オダギリジョー、イ・ナヨン、パク・チア、キム・テヒョン、チャン・ミヒ 2009/02/11 新宿武蔵野館 ◎ ある夜、奇妙に現実感のある夢を見た男は、実際にその見た通りの内容が、 ある女性に現実の出来事として起こってしまっていることを知る。 自分が恐ろしい夢を見てしまうことを恐れた男は、 そして自分がとんでもないことを起こしてしまうことを恐れた女は、 何とかして互いに同時に眠らないように必死になる、 うっかりした隙に事態は更にエスカレートしてしまい、 いよいよ両人は精神的にも肉体的にも限界まで追い詰められてゆく。 何でこんな奇想天外なストーリーを思い付いてしまうのか、 この監督の発想につくづく敬服。これだけ超現実な世界に身を置いてしまうと、 オダギリだけが日本語を話しているのも、すぐに違和感を感じなくなってしまい、 むしろそれが意図的に面白い気さえして来る。 久し振りに「尖った」キム・ギドクが帰って来た、と言う感じの、かなり強烈な映画。 ホームページ
12人の怒れる男 (12) 2007ロシア (監)ニキータ・ミハルコフ (出)セルゲイ・マコヴェツキイ、ニキータ・ミハルコフ、セルゲイ・ガルマッシュ、ヴァレンティン・ガフト、アレクセイ・ペトレンコ、ユーリ・ストヤノフ、セルゲイ・ガザロフ 2009/02/08 深谷シネマ ◎ 義父を殺した容疑の若者を、裁く役割を担った12人の陪審員たちが、 事件について議論する内に、徐々に真相(らしき事)に近付いてゆく物語。 最初は全くやる気のなかった彼ら(何故か全員男)が、徐々に、 各自の人生の一部であるかのように事件にのめり込み、議論が白熱して行く。 本来の議題は若者の審判だった筈が、いつの間にか事件の真相究明へと 変わっているのが面白い。 審議会場として間に合わせの学校の体育館が使われている場面設定が絶妙で、 深刻な物語を茶化すように、この場所ならではの滑稽な事態が割り込む。 今回は特別企画として、終映後に弁護士の方による裁判員制度のお話があった。 弁護士の立場から、この制度を導入しようとした背景と意図が明快に説明され、 本質を理解していなかった私にはまさに目から鱗でした。 ホームページ
余命 2008日本 (監)生野慈朗 (出)松雪泰子、椎名桔平 2009/02/08 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 結婚10年でようやく子供を授かった幸せも束の間、自身の癌の再発に気付いてしまった 女医と、遅蒔きながら人生の選択を迫られた写真家の、夫婦の結び付きの物語。 起伏の多い物語を、ストレートに実写化していて、映像的な演出よりも、 ストーリーそのものを味わう映画だと思う。ただ、話がちょっと綺麗事すぎるせいか、 私は今ひとつ気持ちが入り込めず、言う売り文句の割に私は全く泣けなかった。 特に、男の中途半端にフラフラとした言動は、私には理解できない。 (あるいは、独身の私には実感が湧かないせいか。) 舞台の一つに奄美諸島が使われていて、私は去年行ったばかりなのだが、 あの静かな楽園にまた行きたくなってしまった。 ホームページ
戦場のレクイエム (集結號) 2007中国 (監)フォン・シャオガン (出)チャン・ハンユー、フー・ジュン、ドン・チャオ、ユエン・ウエンカン、タン・ヤン 2009/02/01 ヒューマントラストシネマ文化村通り ◎ 第二次大戦直後の中国の内戦がもたらした悲劇を、一人の隊長の立場から描いた、 重厚な悲劇。内戦そのものの社会的状況ではなく、あくまでも兵士たちの立場から見た 戦争の実相に焦点を当てることで、戦争の生の悲惨さと悲しさ苦しさを 伝えようとしていた。 前半は、激戦地の最前線に置かれた共産党軍の一隊の、圧倒的規模の国民党軍に 対する、文字通りの苦戦の状況で、ほぼ全部が兵士の視点で描かれているので、 凄まじい緊迫感。 打って変わって後半は、戦後に生き残った隊長の精神的な苦しみに焦点が移され、 自身の隊の部下たちが単なる失踪者として扱われていることに激怒した彼は、 何とかして戦友たちの名誉を回復すべく死闘する。 どこの世界でも変わらない、役人たちと当事者たちとの齟齬は、 何とも歯痒いような腹立たしいような気分。 更に、彼ら自身も悲惨な運命に違いないが、敵方の兵士たちも、 同じ民族なのに全く報われる可能性がない訳で、これも何と残酷な運命だろう。 ホームページ
チェ・ゲバラ 人々のために (Che, Un hombre de este mundo) 1999アルゼンチン (監)マルセロ・シャプセス (出) 2009/02/01 シネマ・アンジェリカ ○ ゲバラと共にあった人々へのインタビューと、歴史的な資料映像から構成された ドキュメンタリー映画。 インタビューは、何と言っても本人と直接に接していた人々の言葉なので、 リアリティと重みがある。 ゲバラの人間像が誇張なしに活き活きと語られ、その魅力的な人柄は勿論のこと、 キューバでの歴史的な成功や、コンゴやボリビアでの失敗についても、 当事者の視点で語られるのがよい。 有名なあの肖像を撮った写真家のエピソードも興味深いもの。 関係者が存命の内にこのような記録が遺されたことは実に貴重で、 ドキュメンタリー映画としての出来はそれ程でもない気はするが、 素材の良さだけでも見るに値する作品。 ホームページ
ロルナの祈り (Le silence de Lorna) 2008ベルギー=フランス=イタリア (監)ジャン=ピエール・ダルデンヌ&リュック・ダルデンヌ (出)アルタ・ドブロシ、ジェレミー・レニエ、ファブリツィオ・ロンジョーネ、アルバン・ウカジ、モルガン・マリンヌ、オリヴィエ・グルメ 2009/02/01 恵比寿ガーデンシネマ ○ ベルギー国籍を取るために麻薬中毒の男と偽装結婚した女。 何とかして男と早く縁を切りたい女の目論見とは裏腹に、 男は自らの更正のために必死で女に頼ろうとする。 やがて念願叶って男を捨てることが出来た女は、 ようやく自分の望む生活に一歩ずつ近付いた気がしていたものの、 やがて次第に失ったものの大きさに気付かされることになる。 物語の展開が凡そ説明的でないので、唐突な状況の推移には いささか戸惑うところがあったが、 後で思えばそれが奥ゆかしさを醸し出していたような気もする。 先行きの見えない結末はかなり絶望的だが、 何故か不思議な安堵感と幸福感に満たされてしまう。 崇高さと醜悪さが入り混じった、格調高さのある悲劇。 ホームページ
チェ 39歳 別れの手紙 (Che Part Two: Guerilla) 2008スペイン=フランス=アメリカ (監)スティーヴン・ソダーバーグ (出)ベニチオ・デル・トロ、カルロス・バルデム、デミアン・ビチル、ヨアキム・デ・アルメイダ、エルビラ・ミンゲス 2009/01/31 熊谷シネティアラ21 ○ チェ・ゲバラの二部作、第一部(→2009/01/11)では、 幾多の困難はあっても最終的には勝利への道程が描かれていたのに対し、 この第二部はすっかりその逆で、ひたすら敗北への道程が描かれる。 キューバ革命から約十年後、ボリビアに潜入したゲバラは、 キューバと同様のゲリラ部隊による武装蜂起に挑むが、 権力側による宣撫のせいもあって民衆の支持は得られず、 医薬品どころか食物さえも事欠く有様で、兵士の士気は下がる一方。 しかも戦略がことごとく裏目に出て、 見る見る内に政府軍によって追い詰められてゆく。 第一部と同様に、ゲバラを英雄化・神格化することなく、 温情はあっても時には冷酷でさえある人間像を、誇張せず淡々を描いていた。 それこそがこの映画の魅力である一方で、 その分だけ説明的ではないので、多少は話の概略を知った上で見ないと 話が分かりづらいかも知れない。 ホームページ
誰も守ってくれない (Nobody to watch over me) 2009日本 (監)君塚良一 (出)佐藤浩市、志田未来、柳葉敏郎、石田ゆり子、佐々木蔵之助、佐野史郎、木村佳乃 2009/01/24 熊谷シネティアラ21 ○ 殺人事件の犯人が18歳の少年と判明するや否や、彼の家はマスコミに取り囲まれ、 父と母と妹は野次馬から罵声を浴びさせられることに。 警察によって家族はそれぞれ隔離され保護下に置かれるが、 マスコミや執拗な追跡やネット上での心ない中傷はエスカレートする一方。 犯人の妹を保護しつつ証言を引き出す役を任った刑事は、 心を閉ざした妹への対応と、崩壊寸前の自身の家族と、八方塞の状況のまま、 人里離れた海辺のペンションに逃避するが、彼は実はペンションのオーナーに対して 過去の事件による心の負い目を抱えていた。 加害者の家族が負う苦しみについて、こんなに切実に向かい合わされたのは初めて。 どちらの側にせよ、マスコミは何のために彼らをここまで追い詰めているのだろう。 そして、もはやマスコミも追いつけない速さで展開するネット上の中傷には、 どうしようもなく悲しい思いがした。 現実の醜さの対極にあるような、教会音楽のアリアを思わせる美し過ぎる音楽には 泣かされる。 ホームページ
ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢 (EVERY LITTLE STEP - THE JOURNEY OF A PHENOMENON) 2008アメリカ (監)ジェイムズ・D・スターン&アダム・デル・デオ (出)「コーラスライン」オリジナルキャスト&スタッフ 2009/01/18 シネマテークたかさき ○ ブロードウェイ・ミュージカル「コーラス・ライン」の再演のために行われた オーディション、その応募者たちの人間模様を丹念に追ったドキュメンタリー。 数千人の応募者の中から、選ばれるのは十数人と言う超難関で、 踊り、歌、語り、求められる表現力は極めて高水準。 オーディションは数ヶ月間に及び、特に後半の様子は、 選考会と言うよりも熾烈なレッスンの場と化している。 様々な国、様々な人種、様々な思いを抱えた応募者に密着して、 インタビューや選考会での演技の様子を映し出している。 一人一人が皆、魅力的な存在であり、並々ならぬ熱意を持って、 それこそ人生を掛けて取り組んでいることが判って来て、だからこそ、 やがてこの中で当落が分かれることを知っていながらも、 どうしても各々を応援したくなってしまう。 こう言う舞台裏を知ってしまうと、 実際の舞台の本番をきちんと生で見てみたい気がし始めた。 ホームページ
この自由な世界で (It's A Free World...) 2007イギリス=イタリア=ドイツ=スペイン (監)ケン・ローチ (出)キルストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス、レズワフ・ジュリック、ジョー・シフリート、コリン・コーリン 2009/01/18 シネマテークたかさき ○ シングルマザーの主人公は、不当に仕事を解雇された後、 友人と共に移民相手の職業紹介業を開く。仕事は徐々に軌道に乗り始めるが、 ふとしたきっかけで不法移民への仕事の斡旋に手を付けてしまう。 それは、今までよりも大きな稼ぎを得られる一方で、違法かつ危険な賭けだった。 友人の忠告にも関わらず邁進する彼女だったが、 やがて起こった事件によって思わぬ苦境が訪れる。 彼女が求めていたものは、息子と一緒に暮らしたい、そのささやかな幸せだった筈で、 しかしそのために彼女は、わずかながらの悪に手を染め、 徐々に自身を見失った挙句に、本当は守りたかった人々さえも絶望的な不幸へと 陥れることになる。 「It's A Free World」と言う表題が、逆説的な意味合いを持って響いて来た。 ホームページ
劇場版 カンナさん大成功です! 2008日本 (監)井上晃一 (出)山田優、山崎静代、中別府葵、浅野ゆう子 2009/01/18 109シネマズ高崎 器量の悪さから子供の頃から社会人になっても虐げられてきた女性が、 全身整形で美女に生まれ変わり、恋も仕事も絶好調だったのに、 整形だったことが知られてしまう。 韓国版(→2007/12/15)と 枠組みは似ているが、設定が全く異なり、 主人公が韓国版ではスター歌手だったのに対し、 今回はアパレル業界のファッション・プロデューサー。 但し、彼女の整形前の容姿を、韓国版では特殊メイクで再現したのに対し 日本版ではアニメーションで寓話的に過去を辿るだけで、 つまり本人は映画の最初から美女として登場してしまうので、 話の前提としての彼女の切実な悲しみがあまり伝わって来ず、 おバカ系コメディ色が強過ぎるのが惜しい。 その一方で、彼女と同じく容姿に悩んで来た同僚や、 天然美女の同僚が話に絡んで来て、女の友情の物語としての展開するところは、 結構感動的でもあった。 ホームページ
ブタがいた教室 2008日本 (監)前田哲 (出)妻夫木聡、原田美枝子、大杉漣、田畑智子 2009/01/16 イオンシネマ太田 ○ 小学校6年のクラスで、1年間育てて食べることを前提に、1匹の子豚を飼うことにした。 子供たちは子豚を可愛がり、子豚も子供たちに懐き、やがて愛着が湧いてしまう。 いよいよ豚も大きく成長した1年後、豚の今後の処遇を巡って、 卒業ギリギリまでクラス内で議論が白熱するのであった。 食べる派も、食べない派も、互いに苦しい選択であり、 全てを解決する答がないことも皆分かっている。 本気の激論を交わす子供たち(これこそがこの映画のクライマックスだろう)と一緒に、 私も大いに考えては泣かされてしまった。 子役たちは皆、とても演技とは思えない素晴らしい出来だったが、 妻夫木の抑えた演技も実に良かった。 難しい問題に、正面から真面目に真剣に取り組んだ映画。 ホームページ
2008日本 (監)たかひろや (出)佐藤勇真、寉岡瑞希 2009/01/14 熊谷シネティアラ21 ○ 地元出身の若手監督による、全篇埼玉県北ロケ(深谷・熊谷・本庄)の映画で、 謂わばご当地映画なのだが、意外や意外、結構よかった。 勿論いかにも低予算っぽい所はあったが、しかし暖かな手作り感があり、 何よりも地元への愛着が溢れていて、私はかなり感動してしまった。 「深谷第二高校」に通う幼馴染の男女の、もどかしい恋の物語。 彼女のことを眩しく思うのに、素直になれなくて、照れ臭くて、 そっけない素振りをしたりして、でも何のかんの言いつつ優しかったり、 いかにも不器用な感じの二人の様子に、すっかり気持ちが入り込んでしまった。 地元の風景がよい感じで映し出されていて、 しかもそれが物語によい感じで絡んでいて、嬉しくなってしまう。 また、やや誇張された地元言葉(方言)が、地元民には何とも楽しい。 さり気ない、しかし重要なラストシーンには、もう目が潤んでしまった。 渡辺いっけいさんは、おいしい役どころ。 ホームページ
チェ 28歳の革命 (Che Part One: The Argentine) 2008スペイン=フランス=アメリカ (監)スティーヴン・ソダーバーグ (出)ベニチオ・デル・トロ、デミアン・ビチル、カタリーナ・サンディノ・モレノ 2009/01/11 ワーナー・マイカル・シネマズ熊谷 ○ チェ・ゲバラの生と死を描く連作映画の第1部で、 キューバ革命でのゲリラ戦の状況が描き出される。 映画の主眼は、ゲバラ本人の人となりよりも、革命闘争の経緯の描写に置かれている。 いつ銃殺されてもおかしくない未知の山野を駆け巡る、まさに決死の戦いであった ゲリラ戦の状況を、凄まじい緊迫感の中に再現。 ゲバラもカストロも、決して英雄でも聖人でもない生身の人間として、 冷静に表現されていた。 但し、映画の中では歴史的背景の説明がなされず、 細部のエピソードについて力が入っている一方で、大きな流れが捉えづらく、 もし予備知識なしで見たとしたら、全体として意味が分かりづらかっただろう。 また、ゲバラ本人の内面にあまり踏み込まず、あくまでも外的状況の描写に 終始してしまった気がしたのは、やや残念。 ホームページ
秋深き 2008日本 (監)池田敏春 (出)八嶋智人、佐藤江梨子、赤井秀和、渋谷天外、山田スミ子 2009/01/10 シネマテークたかさき ○ 生真面目だけが取り柄の中学校教師が、 たまたま連れて行かれたナイトクラブのホステスに一目惚れ。 男の一途さの甲斐あって、二人はついに結婚し、男は女の過去が気になりながらも 幸せな日々を送るが、しかしそんな中、女の病が発見され、男は半狂乱の態で、 治癒方法を求めて奔走する。 神社で手を合わせる場面、結婚写真の場面、そして病室の二人の場面など、 いくつかの美しく悲しい場面では、どうしても涙が出てしまったが、 しかし最後には、暖かな気分になります。 いつも、本当の事に気付くのがちょっと遅くて、ようやく気付いた頃には もう間に合わない。そう言うものだな、と改めて思う。 ホームページ
容疑者xの献身 2008日本 (監)西谷弘 (出)福山雅治、柴咲コウ、堤真一、松雪泰子、金澤美穂 2009/01/07 イオンシネマ太田 ○ 暴行に耐えかねて元夫を殺してしまった女性(とその娘)。 彼女の隣室の住人で、殺害の隠蔽工作に手を尽くす冴えない風貌の高校教師。 この教師の学生時代の友人で、事件の真相を追う大学教授。 この3人の愛情と友情が交錯する物語。 犯人は最初から明らかにされていて、それを隠す側と調べる側との知能の駆け引きが 展開され、しかし最後に意外な逆転劇が待っている。 気障な程に合理的なものの見方をする大学教授と、 疲れ切った表情で冷静に事を遂行する高校教師の、互いに心苦しい攻防には、 胸を突かれる思い。 愛情の在り方として、友情の在り方として、あの選択でそれぞれ本当に良かったのか、 いろいろ考えさせられてしまう。 ただ、ストーリーにはやや無理がある気がする (あの状況が発覚しない筈がないように思われる)のと、 柴咲コウ演じる刑事の役割が全く不要(なのに主演)なのが、やや難点か。 ホームページ

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(紺野裕幸)

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